4 / 16
第4章 フシギな紋章とアヤシイ客人
しおりを挟む
朝日が差し込み、小鳥のさえずりが聞こえる。
寝ぼけた顔でリビングに来た皇兄妹。
あまりにも昨夜の出来事に衝撃的すぎて元気が出ない。
それぞれソファーに座り近況報告を始める。
「ねえ。私、昨夜……不思議な人に出会ったの。その人はとても困っていて悲しんでいた。だからうまく交渉できたことまではよかったの……」
「わたくしも。夜中に乱暴な人が現れて驚かしてきたの。追い払おうとしたのだけれど。諦めるそぶりがないですわ……」
「同感。僕も目が覚めて強い奴と戦った。だけどボロ負けでさ。ひどい有様だったぜ……」
「俺もだ。部屋に楽観的なヤツがきてよ。最初は戸惑ったが抵抗したら消えたぞ……」
気を使ってそれぞれ、嘘をつくがそれを阻止する者が現れた。
四人は物音でビクッと驚き目が覚めそれぞれ叫ぶ。
「きゃあっ!? コール? なぜここに?」
「おい!? ジン? マジかよ……夢じゃなかったのか」
「イヴァン、おはよう」
「暁明か……」
深夜で見たあの恐ろしい姿の面影はそのままに、人間にとけこもうとしている姿で現れた。
しかし兄妹はお互い顔を見合わせる。
何か隠し事をしているのではないかと。
『やあ、あやね。ようやく会うことができたな。みんなも、おはよう』
『よお、エミリー。他に人間がいるなら言ってくれよ。楽しみが増えたぜ』
『おい、憂炎。これはいったいどういうことか説明してもらおうか』
『ねえ、大我兄ちゃん。この子たちが妹ちゃん? 可愛いね!』
もう逃げられない、四人はそれぞれ言い訳を言い始めた。
自分が体験したことも含めて。
「ああっ! ごめんね。私、ヴァンパイアに出会ったの。それからまったく記憶がなくて。他にもいたの?ねえ、ウソついた……?」
「しかたがないでしょう!? ゴーストじゃなくてウェアウルフだったなんて……怪物は彼だけかと思っていましたわ。それに他にもいるなんて……いったい、どういうことですの!?」
「こっちが聞きたいぜ! まさかフランケンシュタインの怪物と戦うなんて。しかも心理戦だったさ。そうだよ! マジで危なかったんだ……信じていたのに」
「そうだったのか……? だからソワソワしていたんだな。俺はキョンシーのガキに出会ったんだよ。お前たちもグルだったのか……おのれ」
彼女たちが限界になり息切れしているのを怪物の男たちは笑っていた。
この四人の人間は仲良しで可愛らしい。
言い争いをしているところが面白くてどこか憎めないのだ。
(俺たちにとってはかけがえのない存在で怖がらず話し相手になってくれた)
初めて会ったのにどこか特別。
(運命でも、なにものでもない奇跡が起こったのだ!)
『ほら、ミルクティーだ。少しはこれを飲んで落ち着いてほしい』
「え? あ、ありがとう」
イヴァンは、あやねにカップを渡す。
それを見ていたエミリーと憂炎と大我は、逃げようと立ち上がろうとしたとき。
コールとジンと暁明がそれぞれ愛する方に近づく。
『パンとミルクだ。朝食まだだろ? さっさとすませようぜ』
『大丈夫か? 昨夜は寝られなかっただろう。肩をもんでやる』
『朝からケンカしないで。僕はそんな空気イヤだからね!』
「まあ……そんなことまで」
「僕らはなめられているのか? それとも寝ぼけて状況を理解していないのか?」
「マジかよ・・・・・・つまり逃れられないわけか」
リビングにこんな貴族のような紳士、ガサツな好青年、強面の力持ち、どこか憎めないピュアな少年。
彼女たちが想像していた怪物とは程遠いイメージ。
しかし牙や爪、縫い目など面影は残っている。
兄妹たちはそれぞれキッチンへ向かい、朝食を彼らと共に済ませた。
四人は小声で心の中の声を漏らす。
『とても落ち着かない朝になりそう……』
◇
数分後、私服に着替えた兄妹たちはリビングのソファーに座る。
そう、目的は遊びに来たのではない。
父から頼まれたこの古城の謎を解くこと。
しかしまずは怪物たちの事を知るために互いに話し合うことにしたのだ。
「えっと……イヴァンの友達なの? この三人は」
『ああ。彼らはこの城に住み込んだ迷える者。俺が最初に独占していたところに入ってきたのだ。だが可哀想だったから理由を聞いて仲良くなったのだよ』
「ええ? コール、その理由とはいったいなんですの?」
『野蛮な一族から逃げてきたんだ。オレはただ、人間と仲良くなりたいだけなのに他はそうは思わなかった。だからそいつらとは絶好したんだ』
「なるほどな。で、ジンはなぜここにいたんだよ?」
『俺は気がついたらここにいた。鎖でつながれ動けないところを二人が助けたんだ。寂しくてな。だからお前たちのような人間を見てチャンスだと思った』
「それは災難だったな。で、暁明はどういった経緯でここに?」
『僕がここに迷い込んだ時に三人が現れて話を聞いてくれたんだ。唯一の友達だよ』
怪物の正体は本物の吸血鬼、人狼、フランケンシュタインの怪物、キョンシー。
兄妹たちは彼らの寂しそうな瞳を見て悲しくなってしまう。
こんな理由を聞かれたら、もう怖いとは思えなくなった。
しかし、彼らは兄妹たちになぜ興味を持ったのだろうか。
それぞれ思っていることを語り出す。
「そうだったんだ。私はてっきりただ血を吸うだけの恐ろしいイメージしかなかったけど、優しいところがあるんだね。仲良くなれそう!」
『ああ! なんてあやねは、優しい娘なのだろうか。我が花嫁にふさわしい』
「ちょっと待ってください! 事情は分かりましたが仲良くなるというのは。その……イヴァンさんがおっしゃった花嫁になるってことですの?」
『勿論。オレはエミリーのことが好きになってしまったんだ。人間を襲うより君といたほうが幸せだ。もちろんなんだって聞くよ』
「はっ! 残念だったなあ、妹たちよ。ジンはそんなことは思っていないだろ。僕はそういうのはごめんだね」
『いいや。二人と同じだ。憂炎と出会ってしまった以上俺からは逃れられない』
「随分とモノ好きな怪物たちだ。暁明は違うだろう? 俺らは男だし」
『性別なんて関係ないよ。僕は大我を好きになったし』
エミリーと憂炎と大我は、別の意味の恐怖で震えているがあやねはキョトンとしている。
彼らは兄妹たちのうなじを見つめてなぜ我がモノにするのかを教えた。
『あやねには《《バラの紋章が見えるぞ。うなじに刻まれた霊力が俺と共鳴している》》』
『エミリーはロザリオの紋章だな。他の人間にはない模様だな』
『そのようだ。憂炎は《《五芒星の紋章だ。好きになった理由はこいつが引き寄せたんだ》》』
『うん。大我兄ちゃんにはドラゴンの紋章が見えるよ。カッコいいな』
四人は隣にある大きな鏡を見てうなじを確認する。
赤いバラ、水色のロザリオ、緑色の五芒星、黒い龍が刻まれている。
「これはいったいなんだろう? なにかのお守りかな」
「そういえばシスターが言っていました……うなじにあるのは守護天使が眠ると教わりました」
「ただのガセネタだろ。こんなタトゥーみたいなのをはった覚えはないぞ」
「いつの間にこんなのが……、生まれつきの何かか?」
その時、ドンドン!とドアをノックする音が鳴り響く。
いったい誰だろうと考えている暇もなく、あやねが急ぎ足で向かう。
三人が止めようとするが怪物たちが抑える。
ドアを開けると、その人物は前に皇兄妹たちに警告した少女だった。
「あっ! あの時の。おはようございます。なんのご用ですか?」
「……怪物は出たの?」
少女は身体がビクビク震えてあやねを見る。
様子がおかしい、いったい何があったんだろうか。
「なぜ……まだここにいるの? ……まさか、怪物はいないってこと?」
「いいえ。怪物は、いましたよ。でも心優しい人たちです」
あやねが爆弾発言を投下し背後で慌てる三人。
それを聞いた少女は突然、静かに泣き出した。
「……そう。心配したんだから」
「え?」
「この前はヒドいことを言ってごめんなさい。……あなたたちは本気でこの古城の謎を解くつもりなのね」
彼女の姿をよく見てみると腕が傷だらけ。
我慢ができない三人はあやねの方にかけつけた。
振りほどかれた怪物たちは少し残念そうな顔をしている。
「あなたは……あの時の。え……なぜ泣いているの?」
「おい……。傷だらけじゃないか。何があった?」
「何か訳がありそうだ。……穏やかじゃないな」
その瞬間、少女はふらりと体制を崩してぐったりとした顔になりながら倒れそうになる。
それを止めたあやねは、彼らに向かって言った。
「ねえ。この人を助けよう! お願い手伝って!」
『客か、手遅れにならないようにしないとな』
とりあえず全員が少女を中に入れ手当てなどの準備をはじめた。
気を失っているのに気がつかないまま……。
◇
どうしてだろう、あの城に入ったときの感覚が忘れられない。
本当はただ雨宿りをするはずだったのに。
テーブルには温かい食卓と優しくほのかに光るロウソクが。
いったい誰がおもてなしをしたんだろう。
でも、血の匂い……獣の唸り声……迫りくる足音。
叫んで泣いて、走って。
ここで足を止めたら、捕まってしまう。
息が切れそう……。
ああっ、もうだめ。
身体が……動かない。
「きゃああああああ」
目を覚ますと少女はベッドの横にいた。
「今のは……夢?」
ぼんやりだったけれど、はっきりとまでは覚えていない。
あの子たちが助けてくれたのだろうか。
「あ、起きたみたい。大丈夫?」
「汗がびっしょりですよ……下手に動いてはいけません」
「ほら、少しはこれでも飲んで落ち着けよ。ただの水だ」
「冷えたタオルで頭を冷やせ。ずいぶんとうなされたな」
こんなにも優しく接してくれるなんて。
今はただそれに従い自分を落ち着かせるところからにしないと。
少女は憂炎が持ってきたコップに入っている水を受け取る。
「……おいしい。あ、私はどうしてここに?」
兄妹たちが説明してくれたが、彼女にとってはその内容がたまに信じられない部分もあり驚いていた。
なぜ怒っていたのだろう、自分には目的があってここに来た。
深く深呼吸する。
すると失っていた記憶がよみがえり次々と思いだす。
「……そうだ。私は怪物を倒すためにあなたたちをここから出ていくようにと伝えたかっただけなのに」
兄妹たちの顔色が変わる。
「私は、小夜。信じてもらえないかもだけど自分は一度ここに来た事があるの。だからキツく言ってしまって悪かったわね」
「そうだったんだ! えーっと……小夜さんはどうして怪物を倒そうと思うの?」
「こらっ! お姉ちゃん。失礼なこと言わないでください!」
あやねはしょんぼりしたが小夜は笑って返した。
憂炎と大我のあきれ顔にエミリーは怒って心配している。
「いいのよ。けれど何かそっちにもゆずれない理由があるみたいね。話してくれる? 全て受け止めるわ」
さっきまでのヒステリックな彼女とは大違いだ。
兄妹たちはお互い顔を見合わせたが、どうせ逃げられないだろうと考えていることは一緒。
こうなったら話せるだけ話してみようと覚悟を決めた。
「じゃあ、私はヴァンパイアのイヴァンについて話すね」
「わたくしはウェアウルフの、コールとの出会いについてですわ」
「僕はフランケンシュタインの、ジンについて話そう」
「俺はキョンシーの、暁明について語ろう」
嘘偽りなく話し始めた四人はまるで怪談師のよう。
小夜はだまって四人の体験を聞いた……。
寝ぼけた顔でリビングに来た皇兄妹。
あまりにも昨夜の出来事に衝撃的すぎて元気が出ない。
それぞれソファーに座り近況報告を始める。
「ねえ。私、昨夜……不思議な人に出会ったの。その人はとても困っていて悲しんでいた。だからうまく交渉できたことまではよかったの……」
「わたくしも。夜中に乱暴な人が現れて驚かしてきたの。追い払おうとしたのだけれど。諦めるそぶりがないですわ……」
「同感。僕も目が覚めて強い奴と戦った。だけどボロ負けでさ。ひどい有様だったぜ……」
「俺もだ。部屋に楽観的なヤツがきてよ。最初は戸惑ったが抵抗したら消えたぞ……」
気を使ってそれぞれ、嘘をつくがそれを阻止する者が現れた。
四人は物音でビクッと驚き目が覚めそれぞれ叫ぶ。
「きゃあっ!? コール? なぜここに?」
「おい!? ジン? マジかよ……夢じゃなかったのか」
「イヴァン、おはよう」
「暁明か……」
深夜で見たあの恐ろしい姿の面影はそのままに、人間にとけこもうとしている姿で現れた。
しかし兄妹はお互い顔を見合わせる。
何か隠し事をしているのではないかと。
『やあ、あやね。ようやく会うことができたな。みんなも、おはよう』
『よお、エミリー。他に人間がいるなら言ってくれよ。楽しみが増えたぜ』
『おい、憂炎。これはいったいどういうことか説明してもらおうか』
『ねえ、大我兄ちゃん。この子たちが妹ちゃん? 可愛いね!』
もう逃げられない、四人はそれぞれ言い訳を言い始めた。
自分が体験したことも含めて。
「ああっ! ごめんね。私、ヴァンパイアに出会ったの。それからまったく記憶がなくて。他にもいたの?ねえ、ウソついた……?」
「しかたがないでしょう!? ゴーストじゃなくてウェアウルフだったなんて……怪物は彼だけかと思っていましたわ。それに他にもいるなんて……いったい、どういうことですの!?」
「こっちが聞きたいぜ! まさかフランケンシュタインの怪物と戦うなんて。しかも心理戦だったさ。そうだよ! マジで危なかったんだ……信じていたのに」
「そうだったのか……? だからソワソワしていたんだな。俺はキョンシーのガキに出会ったんだよ。お前たちもグルだったのか……おのれ」
彼女たちが限界になり息切れしているのを怪物の男たちは笑っていた。
この四人の人間は仲良しで可愛らしい。
言い争いをしているところが面白くてどこか憎めないのだ。
(俺たちにとってはかけがえのない存在で怖がらず話し相手になってくれた)
初めて会ったのにどこか特別。
(運命でも、なにものでもない奇跡が起こったのだ!)
『ほら、ミルクティーだ。少しはこれを飲んで落ち着いてほしい』
「え? あ、ありがとう」
イヴァンは、あやねにカップを渡す。
それを見ていたエミリーと憂炎と大我は、逃げようと立ち上がろうとしたとき。
コールとジンと暁明がそれぞれ愛する方に近づく。
『パンとミルクだ。朝食まだだろ? さっさとすませようぜ』
『大丈夫か? 昨夜は寝られなかっただろう。肩をもんでやる』
『朝からケンカしないで。僕はそんな空気イヤだからね!』
「まあ……そんなことまで」
「僕らはなめられているのか? それとも寝ぼけて状況を理解していないのか?」
「マジかよ・・・・・・つまり逃れられないわけか」
リビングにこんな貴族のような紳士、ガサツな好青年、強面の力持ち、どこか憎めないピュアな少年。
彼女たちが想像していた怪物とは程遠いイメージ。
しかし牙や爪、縫い目など面影は残っている。
兄妹たちはそれぞれキッチンへ向かい、朝食を彼らと共に済ませた。
四人は小声で心の中の声を漏らす。
『とても落ち着かない朝になりそう……』
◇
数分後、私服に着替えた兄妹たちはリビングのソファーに座る。
そう、目的は遊びに来たのではない。
父から頼まれたこの古城の謎を解くこと。
しかしまずは怪物たちの事を知るために互いに話し合うことにしたのだ。
「えっと……イヴァンの友達なの? この三人は」
『ああ。彼らはこの城に住み込んだ迷える者。俺が最初に独占していたところに入ってきたのだ。だが可哀想だったから理由を聞いて仲良くなったのだよ』
「ええ? コール、その理由とはいったいなんですの?」
『野蛮な一族から逃げてきたんだ。オレはただ、人間と仲良くなりたいだけなのに他はそうは思わなかった。だからそいつらとは絶好したんだ』
「なるほどな。で、ジンはなぜここにいたんだよ?」
『俺は気がついたらここにいた。鎖でつながれ動けないところを二人が助けたんだ。寂しくてな。だからお前たちのような人間を見てチャンスだと思った』
「それは災難だったな。で、暁明はどういった経緯でここに?」
『僕がここに迷い込んだ時に三人が現れて話を聞いてくれたんだ。唯一の友達だよ』
怪物の正体は本物の吸血鬼、人狼、フランケンシュタインの怪物、キョンシー。
兄妹たちは彼らの寂しそうな瞳を見て悲しくなってしまう。
こんな理由を聞かれたら、もう怖いとは思えなくなった。
しかし、彼らは兄妹たちになぜ興味を持ったのだろうか。
それぞれ思っていることを語り出す。
「そうだったんだ。私はてっきりただ血を吸うだけの恐ろしいイメージしかなかったけど、優しいところがあるんだね。仲良くなれそう!」
『ああ! なんてあやねは、優しい娘なのだろうか。我が花嫁にふさわしい』
「ちょっと待ってください! 事情は分かりましたが仲良くなるというのは。その……イヴァンさんがおっしゃった花嫁になるってことですの?」
『勿論。オレはエミリーのことが好きになってしまったんだ。人間を襲うより君といたほうが幸せだ。もちろんなんだって聞くよ』
「はっ! 残念だったなあ、妹たちよ。ジンはそんなことは思っていないだろ。僕はそういうのはごめんだね」
『いいや。二人と同じだ。憂炎と出会ってしまった以上俺からは逃れられない』
「随分とモノ好きな怪物たちだ。暁明は違うだろう? 俺らは男だし」
『性別なんて関係ないよ。僕は大我を好きになったし』
エミリーと憂炎と大我は、別の意味の恐怖で震えているがあやねはキョトンとしている。
彼らは兄妹たちのうなじを見つめてなぜ我がモノにするのかを教えた。
『あやねには《《バラの紋章が見えるぞ。うなじに刻まれた霊力が俺と共鳴している》》』
『エミリーはロザリオの紋章だな。他の人間にはない模様だな』
『そのようだ。憂炎は《《五芒星の紋章だ。好きになった理由はこいつが引き寄せたんだ》》』
『うん。大我兄ちゃんにはドラゴンの紋章が見えるよ。カッコいいな』
四人は隣にある大きな鏡を見てうなじを確認する。
赤いバラ、水色のロザリオ、緑色の五芒星、黒い龍が刻まれている。
「これはいったいなんだろう? なにかのお守りかな」
「そういえばシスターが言っていました……うなじにあるのは守護天使が眠ると教わりました」
「ただのガセネタだろ。こんなタトゥーみたいなのをはった覚えはないぞ」
「いつの間にこんなのが……、生まれつきの何かか?」
その時、ドンドン!とドアをノックする音が鳴り響く。
いったい誰だろうと考えている暇もなく、あやねが急ぎ足で向かう。
三人が止めようとするが怪物たちが抑える。
ドアを開けると、その人物は前に皇兄妹たちに警告した少女だった。
「あっ! あの時の。おはようございます。なんのご用ですか?」
「……怪物は出たの?」
少女は身体がビクビク震えてあやねを見る。
様子がおかしい、いったい何があったんだろうか。
「なぜ……まだここにいるの? ……まさか、怪物はいないってこと?」
「いいえ。怪物は、いましたよ。でも心優しい人たちです」
あやねが爆弾発言を投下し背後で慌てる三人。
それを聞いた少女は突然、静かに泣き出した。
「……そう。心配したんだから」
「え?」
「この前はヒドいことを言ってごめんなさい。……あなたたちは本気でこの古城の謎を解くつもりなのね」
彼女の姿をよく見てみると腕が傷だらけ。
我慢ができない三人はあやねの方にかけつけた。
振りほどかれた怪物たちは少し残念そうな顔をしている。
「あなたは……あの時の。え……なぜ泣いているの?」
「おい……。傷だらけじゃないか。何があった?」
「何か訳がありそうだ。……穏やかじゃないな」
その瞬間、少女はふらりと体制を崩してぐったりとした顔になりながら倒れそうになる。
それを止めたあやねは、彼らに向かって言った。
「ねえ。この人を助けよう! お願い手伝って!」
『客か、手遅れにならないようにしないとな』
とりあえず全員が少女を中に入れ手当てなどの準備をはじめた。
気を失っているのに気がつかないまま……。
◇
どうしてだろう、あの城に入ったときの感覚が忘れられない。
本当はただ雨宿りをするはずだったのに。
テーブルには温かい食卓と優しくほのかに光るロウソクが。
いったい誰がおもてなしをしたんだろう。
でも、血の匂い……獣の唸り声……迫りくる足音。
叫んで泣いて、走って。
ここで足を止めたら、捕まってしまう。
息が切れそう……。
ああっ、もうだめ。
身体が……動かない。
「きゃああああああ」
目を覚ますと少女はベッドの横にいた。
「今のは……夢?」
ぼんやりだったけれど、はっきりとまでは覚えていない。
あの子たちが助けてくれたのだろうか。
「あ、起きたみたい。大丈夫?」
「汗がびっしょりですよ……下手に動いてはいけません」
「ほら、少しはこれでも飲んで落ち着けよ。ただの水だ」
「冷えたタオルで頭を冷やせ。ずいぶんとうなされたな」
こんなにも優しく接してくれるなんて。
今はただそれに従い自分を落ち着かせるところからにしないと。
少女は憂炎が持ってきたコップに入っている水を受け取る。
「……おいしい。あ、私はどうしてここに?」
兄妹たちが説明してくれたが、彼女にとってはその内容がたまに信じられない部分もあり驚いていた。
なぜ怒っていたのだろう、自分には目的があってここに来た。
深く深呼吸する。
すると失っていた記憶がよみがえり次々と思いだす。
「……そうだ。私は怪物を倒すためにあなたたちをここから出ていくようにと伝えたかっただけなのに」
兄妹たちの顔色が変わる。
「私は、小夜。信じてもらえないかもだけど自分は一度ここに来た事があるの。だからキツく言ってしまって悪かったわね」
「そうだったんだ! えーっと……小夜さんはどうして怪物を倒そうと思うの?」
「こらっ! お姉ちゃん。失礼なこと言わないでください!」
あやねはしょんぼりしたが小夜は笑って返した。
憂炎と大我のあきれ顔にエミリーは怒って心配している。
「いいのよ。けれど何かそっちにもゆずれない理由があるみたいね。話してくれる? 全て受け止めるわ」
さっきまでのヒステリックな彼女とは大違いだ。
兄妹たちはお互い顔を見合わせたが、どうせ逃げられないだろうと考えていることは一緒。
こうなったら話せるだけ話してみようと覚悟を決めた。
「じゃあ、私はヴァンパイアのイヴァンについて話すね」
「わたくしはウェアウルフの、コールとの出会いについてですわ」
「僕はフランケンシュタインの、ジンについて話そう」
「俺はキョンシーの、暁明について語ろう」
嘘偽りなく話し始めた四人はまるで怪談師のよう。
小夜はだまって四人の体験を聞いた……。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
太郎ちゃん
ドスケベニート
児童書・童話
きれいな石ころを拾った太郎ちゃん。
それをお母さんに届けるために帰路を急ぐ。
しかし、立ちはだかる困難に苦戦を強いられる太郎ちゃん。
太郎ちゃんは無事お家へ帰ることはできるのか!?
何気ない日常に潜む危険に奮闘する、涙と愛のドタバタコメディー。
いつか私もこの世を去るから
T
児童書・童話
母と2人で東京で生きてきた14歳の上村 糸は、母の死をきっかけに母の祖母が住む田舎の村、神坂村に引っ越す事になる。
糸の曽祖母は、巫女であり死んだ人の魂を降ろせる"カミサマ"と呼ばれる神事が出来る不思議な人だった。
そこで、糸はあるきっかけで荒木 光と言う1つ年上の村の男の子と出会う。
2人は昔から村に伝わる、願いを叶えてくれる祠を探す事になるが、そのうちに自分の本来の定めを知る事になる。
月星人と少年
ピコ
児童書・童話
都会育ちの吉太少年は、とある事情で田舎の祖母の家に預けられる。
その家の裏手、竹藪の中には破天荒に暮らす小さな小さな姫がいた。
「拾ってもらう作戦を立てるぞー!おー!」
「「「「おー!」」」」
吉太少年に拾ってもらいたい姫の話です。
フラワーキャッチャー
東山未怜
児童書・童話
春、中学1年生の恵梨は登校中、車に轢かれそうになったところを転校生・咲也(さくや)に突き飛ばされて助けられる。
実は咲也は花が絶滅した魔法界に花を甦らせるため、人の心に咲く花を集めに人間界にやってきた、「フラワーキャッチャー」だった。
けれど助けられたときに、咲也の力は恵梨に移ってしまった。
これからは恵梨が咲也の代わりに、人の心の花を集めることが使命だと告げられる。
恵梨は魔法のペンダントを預けられ、戸惑いながらもフラワーキャッチャーとしてがんばりはじめる。
お目付け役のハチドリ・ブルーベルと、ケンカしつつも共に行動しながら。
クラスメートの女子・真希は、恵梨の親友だったものの、なぜか小学4年生のあるときから恵梨に冷たくなった。さらには、咲也と親しげな恵梨をライバル視する。
合唱祭のピアノ伴奏に決まった恵梨の友人・奏子(そうこ)は、飼い猫が死んだ悲しみからピアノが弾けなくなってしまって……。
児童向けのドキワクな現代ファンタジーを、お楽しみいただけたら♪
クール天狗の溺愛事情
緋村燐
児童書・童話
サトリの子孫である美紗都は
中学の入学を期にあやかしの里・北妖に戻って来た。
一歳から人間の街で暮らしていたからうまく馴染めるか不安があったけれど……。
でも、素敵な出会いが待っていた。
黒い髪と同じ色の翼をもったカラス天狗。
普段クールだという彼は美紗都だけには甘くて……。
*・゜゚・*:.。..。.:*☆*:.。. .。.:*・゜゚・*
「可愛いな……」
*滝柳 風雅*
守りの力を持つカラス天狗
。.:*☆*:.。
「お前今から俺の第一嫁候補な」
*日宮 煉*
最強の火鬼
。.:*☆*:.。
「風雅の邪魔はしたくないけど、簡単に諦めたくもないなぁ」
*山里 那岐*
神の使いの白狐
\\ドキドキワクワクなあやかし現代ファンタジー!//
野いちご様
ベリーズカフェ様
魔法のiらんど様
エブリスタ様
にも掲載しています。
こちら御神楽学園心霊部!
緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。
灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。
それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。
。
部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。
前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。
通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。
どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。
封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。
決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。
事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。
ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。
都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。
延々と名前を問う不気味な声【名前】。
10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる