紡ぐ者

haruyama81@gmail.com

文字の大きさ
上 下
90 / 117
【第20章 運命の選択】

第3節 燃え尽きぬ意志

しおりを挟む
「ゔあぁぁぁ!」
ニグレードは我を失ったかのように暴れ狂いながら、辺りに黒い炎をまき散らす。青は黒い炎の間を飛ぶ。
「しっかし、どう相手にすればいいんだ?このデカさのやつを真っ向から相手にするとかないよな?」
「それは流石に無謀ね。だから、一旦様子見よ。」
椿は青に飛び回るよう命令する。ニグレードは腕を振って攻撃を仕掛けてくる。青は体を曲げてギリギリで躱す。3人は振り落とされないようしがみつく。青はニグレードの後ろにまわるが、ニグレードはすぐに振り返る。
「どこにいても、すぐに気づかれるわけね。」
ニグレードは青を掴もうと、両手で襲いかかる。
「ええい、近寄るな!」
青はニグレードを振り払うが、お構いなしに突っ込んでくる。
「近寄るなと言っているだろう!」
青はニグレードに雷を落とす。しかし、ニグレードには全くと言っていいほど効いていない。
「ぜやあぁぁぁ!」
ロビンは青から飛び降りて、ニグレードに向かって刀を斜めに振り下ろす。刀から放たれた斬撃がニグレードの腕を斬り落とす。
「ゔおあぁぁぁぁ?!」
ニグレードは絶叫する。
「こいつの声、さっきから耳障りなんだけど!」
「おそらく、人間が嫌う音波などに近いのかもしれない。人体に影響はないと思うけど。」
青は2人の会話のことに耳を向けない。ロビンが青の顔もとに飛んでくる。
「青、もう少し近づけるか?」
「こいつらが無事で済むかは知らんぞ。」
「俺が援護する。」
ロビンが背中に飛び乗ると、青はニグレードに向かって急加速する。ニグレードは腕を薙ぎ払って黒い炎を滞留させる。ロビンは青い炎で黒い炎を撃ち破る。
「来るぞ、振り落とされるなよ!」
ニグレードが口から特大の光線を吐いてくる。青は勢いよく上昇する。
「あんたは絶叫マシンか何かなの~?!」
美桜は必死にしがみつきながら青に向かって叫ぶ。
「まだまだ行くぞ!」
青はニグレードに向かって急降下を始める。同時に美桜の体が少し浮かぶ。
「しっかりしろ!」
ロビンは美桜の背中を押さえる。
「美桜のことは任せなさい。あんたはニグレードに集中して。」
椿は前方を指差す。前方からは黒い炎が砲弾のように飛ばされてくる。ロビンは青い炎で撃ち落とすが、少し数が多い。
「何個あるんだよ!」
ロビンは青い炎の範囲を広めて一掃する。しかし、まだまだ黒い炎は飛んでくる。
「キリがねぇ……青、まだ行けるか?」
「いいぜ、まだまだ飛ばすぞ!」
ロビンは青に掴まる。その直後、青は飛行速度を急上昇させる。青は黒い炎の間を高速ですり抜けていく。ニグレードは黒い炎の数を増やして応戦する。
「任……せろっ!」
ロビンは不安定な状態だが、体を起こして黒い炎をかき消す。体勢を崩して後ろに倒れそうになるが、椿が支える。
「よし、作戦は決まった。」
椿は2人に作戦を伝える。
「……確かに可能性は高いけど、危険じゃないか?」
「でも、それ以外ないと思う。」
美桜は椿の考えに賛同する。
「我も同感だ。ぐずぐすしていたら奴が何をしでかすか分からん。それなら、多少のリスクくらいは目を瞑ったほうがいいだろう。」
ロビンは少し考えて決心する。
「それしかないなら……わかったよ。」
「決まりね。」
椿は青の角を掴んで先頭に立つ。
「チャンスは一回よ。準備はいい?」
「行けるぜ。」
「はい。」
椿は前を向いて薙刀を手に持つ。ニグレードは雄叫びを上げる。
「青、全速力で飛びなさい!」
「お前は座れぇぇぇ!」
青は飛行しながら落ちそうな椿を支える。ニグレードが前方に黒い炎の壁を作る。ロビンは青い炎で壁にも穴を作る。
「もっとよもっと!もっと速度を上げなさい!」
「これ以上は無理だ!」
「前前前!」
椿は美桜の警告に気づいて青の角を左右に揺らす。
「揺らすなぁぁぁ!」
青は椿の手を振り払うと、黒い炎の間を蛇のように通り抜ける。
「あと少しだ!」
ニグレードはこちらに向かって腕を振り下ろす。衝撃で海面が大きく波打つ。
「行け、美桜!」
美桜はニグレードの腕に飛び降りる。黒い炎が美桜の体を蝕み始める。
「急げ!」
美桜はニグレードの腕を駆け上る。ニグレードは反対の手で掴もうとする。
「させねぇ!」
ロビンはニグレードの手を青い炎で爆破する。
「こっちだ!」
青がニグレードを挑発する。ニグレードは青のほうに敵意を向ける。
(やっぱりね。知性は残ってても、理性がなければ冷静な判断はできない。注意を逸らすことは容易だったわ。)
椿のニグレードの腕に向かって魔力砲を放つ。ニグレードの腕に纏ってある黒い炎を大きくかき消す。
(黒い炎は消せても、本体には効かないか。まぁ、ここまでは想定内かな。)
ニグレードは青に掴みかかる。青は手に巻き付くように飛行する。
「届きそうか?!」
「まだだ、あと少し近づいてくれ!」
2人がニグレードの注意を引いている中、美桜はニグレードの肩まで登る。黒い炎の影響で、体のあちこちに針で刺されたような痛みが走る。
(赤の加護があるとは言っても……流石にきついわね。)
「うわっ?!」
美桜は足を滑らせて転落しそうになるが、なんとか踏み留まる。
(早く……登れ!こんなところで時間を無駄にするわけには……いかないの!)
美桜は腕に力を込めて体を引き上げる。ニグレードの肩にもう一度乗る。
「首を攻撃して隙を作ればいいんでしょ。やってやるわよ!」
美桜は刀を構える。ニグレードはこちらに気づいて黒い炎を吐き出してくる。
「しっかり守ってよ?」
「言われなくともそのつもりだ。」
美桜は赤を信じて黒い炎に突っ込む。痛みはあるが、赤の加護のお陰でさほど影響を受けない。
(やっぱり痛いか………でも、これぐらいなら、問題ない!)
美桜は黒い炎から飛び出してニグレードの首に向かって刀を振る。しかしその刀はニグレードの首には届かなかった。黒い炎の壁を作られ、防がれてしまう。
(やばい……)
ニグレードの手が美桜に迫る。その時、ニグレードの手に向かって青が凄まじい勢いで頭突きをお見舞いする。ニグレードが怯んで手が離れる。
(今なら……)
美桜は刀にありったけの魔力を込める。赤も刀に力を注ぎ込む。
「はあぁぁぁっ!」
刀はニグレードの首を捉え、大きく斬り裂く。
「ぐがぁぁぁぁっ?!」
ニグレードは苦痛の叫びを上げる。ニグレードの体が反れて、胸部が無防備になる。
「行け!」
ロビンは青から飛び降りてニグレードの胸部を目指す。ニグレードは苦痛を堪えながら黒い炎で応戦する。
「邪魔はさせない!」
椿は魔法で黒い炎の威力を弱める。ロビンは落下しながら刀に青い炎を集める。
「トドメだぁぁぁぁっ!」
刀がニグレードの胸部に突き刺さる。それと同時に、ニグレードは耳をつんざくようなおぞましい叫び声を上げる。
「くっ………」
ロビンは吹き飛ばされそうになるが、刀を両手で掴んで体を支える。ニグレードの体から黒い炎が噴き出る。ロビンは黒い炎をもろに受ける。
(まずい……力が抜けて……)
すると、九尾がロビンの手に力を添える。
「俺がついている。」
「ふっ……そうだな。」
ロビンは体勢を整えて刀に青い炎を注ぎ込む。ニグレードの体が少しずつ崩れだした。
「があぁぁぁぁ!」
ニグレードは最後の力を振り絞って狂ったように暴れまわる。振り落とされそうになるロビンを九尾が支える。
「おわ……りだぁぁっ!」
ロビンは自身の全ての魔力を刀に注ぐ。ニグレードは今までにないほどの大きさの雄叫びをあげると、背中から地面に倒れる。倒れた衝撃で、海面が大きく荒れる。
「離れるよ!」
「まだロビンが!」
「わかってるから!」
椿は美桜を引っ張って青に乗ってその場から離れる。ニグレードの体が地面についた瞬間、辺りを強烈な突風が襲う。青はバランスを崩すが、すぐに立て直す。



 青は2人を乗せてアーロンドの前に降り立つ。
「あなたたちだけですか。」
「今助けに行くから!」
「奴は、倒したのか?」
天垣がアーロンドの後ろから問いかける。
「えぇ、たぶんね。その証拠に、ほら。」
椿は穴の壁となっている海面を指差す。結界が割れ、隙間から海水が溢れている。
「じゃあ、探しに行ってくる。美桜は………好きにしていいわ。」
椿は青に飛び乗る。続くように美桜も乗る。
「振り落とされるなよ。」
青は勢いよく上空へと飛び立つ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

残影の艦隊~蝦夷共和国の理想と銀の道

谷鋭二
歴史・時代
この物語の舞台は主に幕末・維新の頃の日本です。物語の主人公榎本武揚は、幕末動乱のさなかにはるばるオランダに渡り、最高の技術、最高のスキル、最高の知識を手にいれ日本に戻ってきます。 しかし榎本がオランダにいる間に幕府の権威は完全に失墜し、やがて大政奉還、鳥羽・伏見の戦いをへて幕府は瓦解します。自然幕臣榎本武揚は行き場を失い、未来は絶望的となります。 榎本は新たな己の居場所を蝦夷(北海道)に見出し、同じく行き場を失った多くの幕臣とともに、蝦夷を開拓し新たなフロンティアを築くという壮大な夢を描きます。しかしやがてはその蝦夷にも薩長の魔の手がのびてくるわけです。 この物語では榎本武揚なる人物が最北に地にいかなる夢を見たか追いかけると同時に、世に言う箱館戦争の後、罪を許された榎本のその後の人生にも光を当ててみたいと思っている次第であります。

救国の大聖女は生まれ変わって【薬剤師】になりました ~聖女の力には限界があるけど、万能薬ならもっとたくさんの人を救えますよね?~

日之影ソラ
恋愛
千年前、大聖女として多くの人々を救った一人の女性がいた。国を蝕む病と一人で戦った彼女は、僅かニ十歳でその生涯を終えてしまう。その原因は、聖女の力を使い過ぎたこと。聖女の力には、使うことで自身の命を削るというリスクがあった。それを知ってからも、彼女は聖女としての使命を果たすべく、人々のために祈り続けた。そして、命が終わる瞬間、彼女は後悔した。もっと多くの人を救えたはずなのに……と。 そんな彼女は、ユリアとして千年後の世界で新たな生を受ける。今度こそ、より多くの人を救いたい。その一心で、彼女は薬剤師になった。万能薬を作ることで、かつて救えなかった人たちの笑顔を守ろうとした。 優しい王子に、元気で真面目な後輩。宮廷での環境にも恵まれ、一歩ずつ万能薬という目標に進んでいく。 しかし、新たな聖女が誕生してしまったことで、彼女の人生は大きく変化する。

あなたが選んだのは、私ではない私でした

LIN
ホラー
隣町から引っ越してきたケリーのことを妹のように可愛く思っていた。 私の持っているものを買って「お揃いだね!」と言ったケリーを見て、妹ができたみたいで嬉しかった。だから、我儘なところも笑って許せた。 でも、段々と私に似てくるケリー… 少しずつ感じる違和感… ケリーは一体何がしたかったの?

芭小庵〜夏至

dragon49
大衆娯楽
俳句。

俺様公爵様は平民上がりの男爵令嬢にご執心

狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
五歳の時に男爵である父親に引き取られたセレア。 でもそれは、父がセレアを愛していたわけでも、死んだ愛人(セレア母)に負い目があるからでもなく、セレアが聖女が持つ浄化能力を顕現させたからであった。 国に聖女は何人かいるが、最近瘴気だまりが発生しやすくなっていることもあり、聖女は領地を持つ高位貴族たちから大人気だ。 つまり、自分がのし上がるための政略結婚の道具にしたくて引き取ったのである。 義母は愛人の子であるセレアが気に入らないようで、父がいないところで殴る蹴るの暴力を加えてくる。 義母の子である異母兄は、セレアが成長するにつれていやらしい目で見るようになってきた。 …もう、こんな家にいたくない! そんな思いを抱えながら、セレアは父に連れられてあるパーティーに参加する。父はそこで、二十も年上の好色な侯爵にセレアを紹介し、娶せようと計画しているのだ。 どうやら、セレアと引き換えに、貴族議員に推薦してもらえる約束を取り付けているらしい。それを知ったセレアは、隙を見て逃げだそうと画策する。けれどもその途中、異母兄に見つかり、茂みに連れ込まれてしまう。 「結婚がいやなら俺がかくまってやるよ」舌なめずりで言う異母兄。 絶体絶命! セレアは異母兄から逃げようと抵抗するも、逆に怒らせて殴られて気絶してしまう。 そして次に目を覚ました時、セレアは知らない邸にいた。 なんと、あの場から助けてくれたレマディエ公爵ジルベールに連行され、セレアは彼の邸に連れて来られていたのである。 助けてくれたーーそう思ったのもつかの間、ジルベールは助けてやった礼に妻になれと迫ってくる。 逃げ出したいのに、逃げられない!これってある意味監禁ですよね!? なんとかしてジルベールのもとから逃げ出して、自由を手にしたいのに、彼はあの手この手でセレアの逃亡を阻止してきてーー

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!

日之影ソラ
ファンタジー
 かつては騎士の名門と呼ばれたブレイブ公爵家は、代々王族の専属護衛を任されていた。 しかし数世代前から優秀な騎士が生まれず、ついに専属護衛の任を解かれてしまう。それ以降も目立った活躍はなく、貴族としての地位や立場は薄れて行く。  ブレイブ家の長女として生まれたミスティアは、才能がないながらも剣士として研鑽をつみ、騎士となった父の背中を見て育った。彼女は父を尊敬していたが、周囲の目は冷ややかであり、落ちぶれた騎士の一族と馬鹿にされてしまう。  そんなある日、父が戦場で命を落としてしまった。残されたのは母も病に倒れ、ついにはミスティア一人になってしまう。土地、お金、人、多くを失ってしまったミスティアは、亡き両親の想いを受け継ぎ、再びブレイブ家を最高の騎士の名家にするため、第一王子の護衛騎士になることを決意する。 こちらの作品の連載版です。 https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!? ※ご都合主義展開 ※全7話  

処理中です...