紡ぐ者

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【第13章 竜女の怒り】

第1節 逆鱗

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ザンッ!
「くっ……」
天垣の大剣がシアンに傷をつける。シアンは傷を手で覆いながら後ろに下がる。
「貴様……よくも私に傷をつけたな。」
「やはり、弱っているな。昔のお前は俺の攻撃では傷をつけることすらできなかった。」
(ちっ……本来の力があればここまで苦戦することなどなかったというのに……全てあの女のせいだ!)
「だが私の体に傷をつけたのは事実。その罪…」

「万死に値する!」
「くるぞ!」
シアンは魔力を解き放つ。辺りが蒸気で包まれる。
「これは?」
「この辺り一体に水分を抽出する結界を張った。大気中だけでなく生物からも抽出する。当然、人間も例外ではない。この結界内にいるだけで干からびるぞ。」
天垣は喉が少しずつ渇いてきているのに気づく。
「ならば……干からびる前に仕留めるまで。覚悟しろ!」
天垣はシアンに剣を向けて突進する。
「その単純さが命取りだ!」
天垣の背後から無数の水流が襲いかかる。
「しまった!」
ザバァァァン!
上空からアーロンドが降り立って、水流を断ち切る。
「やれやれ、シアンに1人で突っ込むとは……死ぬ気ですか?」
「そんなつもりはない。だが助かった。」
「ガレジスト。あなたはロビン君の様子を見てきてください。シアンは私たちで相手をします。」
「2人で大丈夫か?」
「私たちを信じなさい。"今の"シアンに殺られるほどヤワじゃありませんから。」
ガレジストは天垣と拳を交わすと、遺跡へと向かう。
「これは運命の悪戯か?またお前たち2人と殺り合う羽目になるとはな。前みたいに瞬殺……とはいかないが、すぐに終わらせる。」
アーロンドは溜息をつく。
「昔のように簡単にやられたりはしませんよ。なんせ、200年も経ってるんですから。こちらも相当腕を上げていますよ。」
「椿の力で弱体化させられてるお前のほうが不利だと思うが?」
2人は互いを横目に見て反撃に出る。
「挟み撃ちか。そんなものは、これで解決だ。」
シアンを囲むようにして、水流が地面から吹き出てくる。
「私を舐めるな。弱体化しているからなんだ?貴様らを屠るのには十分だ。」
「こちらも策がありますよ。」
アーロンドは懐から何かを取り出すと、水流にむかって投げる。
「そんな小細工など、私の前では無意味だ!」
シアンは水流をアーロンドに放つが、水流は突然破裂する。
「どうですか?私特製の魔力爆弾は。」
「あれか。それがどうした?」
シアンは水流を放つ。しかし、すぐに消えてしまう。
「これであなたは水流を使えません。まだ私たちに勝てると?」
シアンは上空に向かって跳躍する。
「いつから、敵が私だけだと錯覚していた?」
シアンは地面に向かって急降下する。
ズズズズズッ……
辺りに地響きが鳴り響く。
「なんだ?何が起きている?」
「気を付けてください。何かやばいのがきます。」
シアンの体が何者かによって、徐々に上空へ持ち上げられる。
「こ、これは?!」
「私の趣味は工作だ。水を操り様々な生物を顕現する。そしてこれこそ、私の最高傑作!」




「八岐大蛇だ!」
シアンが声をあげるとともに、8本の首がこちらに向かって吠える。
「ぐうぅぅ……八岐大蛇とは言っても所詮は水。すぐに消し去ってくれる!」
天垣は水の八岐大蛇に向かって上空から勢いよく斬りつける。
ザバァ!
「脆いな。この程度で止められると思うな!」
「いえ、様子がおかしい。」
水は空中に集まりだして元の形へと戻る。
「水はあらゆる形へと姿を変える。そして、徐々にこの辺り一体を侵食している。この意味がわかるか?」
「侵食………まさか!」
天垣は足元に目を落とす。地面の砂が水分を含んでいる。
ドォォォン!
魔獣の群れを中心に、地面が爆発する。
「総員退避いぃ!」
天垣の声で魔獣と戦っていた団員たちは後ろに下がる。
「逃げられると思うな!」
地面から水の蛇が次々と現れる。
「囲まれたぞ!」
「押すな押すな!」
「だめだ!こっちにもいる!」
団員たちはパニックに陥っている。
「総員、慌てるな!」
「無駄だ!」
シアンはこちらに向かって魔力砲を放つ。魔力砲は前方を薙ぎ払うと着弾地で大爆発を起こす。
「死んだか。」
爆風が晴れる。
「くっ……」
「もう大丈夫だ。怪我はないか?」
「やっと来たか。ソール。」
ソールは広範囲に結界を張り、魔力砲を防いだ。
「シアンは私が相手をする。天垣、手伝ってくれるか?」
「あれ?私は?」
「君は随分と疲労しているように見える。周りの雑魚の処理をしてもらうと助かる。」
「君って……一応上司なんですけどね……」
アーロンドは渋々、周りの敵を討伐しに向かう
「作戦は?」
「私がシアンの注意をひく。その間にこの水の蛇を討伐してくれ。」
「1人で大丈夫なのか?」
「問題ない。自分のことを気にかけるんだ。」
ソールは八岐大蛇の背中に飛び乗る。
「私の魔力砲を防いだことは褒めてやる。だが、それで私に勝てると本気で思ってるいのか?」
「私は1人で勝つつもりはない。お前を足止めすることができればそれでいい。」
ソールの体から魔力が溢れ出す。額には竜の角が生えてくる。ソールは八岐大蛇に手をつく。
「お前、本当に竜か?」
「私は竜の力を使うのはこれが初めてだ。その力の強大さ故に、完全な制御が出来ない。」
シアンは目を細める。
「同じ竜だからできる奴だと思っていたが、とんだ思い違いをしていたようだな。」
「完全な制御が出来なくとも、お前を足止めするのは造作もないはずだ。」
ソールは立ち上がると、シアンを手で挑発する。
「へぇ……やる気か。なら、その心意気は買ってやらないと……失礼だね。」
シアンから圧倒的な威圧を感じる。ソールは押し潰されそうな感覚に襲われた。
「この力……逆鱗を解放したか。」
「その通り。竜の弱点であり、力の源でもある。今までは自身で出せる限界だったが、その制御を外したらどうなるか……私にも想像がつかない。」
「望むところだ。」
ソールはシアンの攻撃に備えて体勢を整える。
(おそらく、私がシアンを止められるのは保って15分程度だろう。しかし、それを下回るようなことがあった場合は………私も……)


(逆鱗を解放することになるだろう。そして……)



(理性を失い、ただの化け物へと成り下がる。)
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