私のための小説

桜月猫

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86話

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 三輪娘から受けた精神的ダメージから復活した庵は気を取り直して走り出した。

「くそっ!三輪娘のせいでさらにムダな時間をくっちまったし!」

 三輪車に当たり負けしたしな。

 俺の言葉に庵は走りながらも落ち込んでいた。

「あれは三輪娘がホントに異常なんだよ。俺が弱いわけじゃないんだよ」

 庵はぶつぶつ言いながら走り続けた。

「ってか、さっきのでまたムダに時間くっちまったし、さらにショートカットするしかねーか」

 そう言った庵は公園入り口の柵を飛び越えたのだが、着地した瞬間に小さな落とし穴にはまって前のめりに倒れて顔面を強打した。

「いってー!誰だ!こんなところに落とし穴作ったヤツは!」

 起き上がって叫ぶ庵。

「あちらの悪ガキ達からでございます」

 いつの間にかバーテンダー姿のマスターとバーカウンターが倒れている庵の隣に現れ、マスターが指差す先、砂場のほうでは悪ガキ達が庵に向かって手を振っていた。

「あいつら~!」
「お客様。朝の住宅街で叫ぶとご近所迷惑になりますのでご遠慮くださいませ」
「あっ」

 黙りこんだ庵だが、すぐにマスターを睨みながら立ち上がりました。

「なぁ作者」
「なんでしょうか?」
「これはなんなんだ?」

 庵はバーカウンターを叩きました。

「ギャグばかりなのでカッコいい雰囲気作りのためでございます」

 そう言いながらマスターが指を鳴らすと、公園内が薄暗くなり、どこからか音楽が流れてきました。

「いかがでしょうか?カッコいいと思いませんか?」
「悔しいがカッコいい。だが、そんなことをしている暇はないんだよ」

 時間が無いので走り出した庵は公園内を突っ切り始めました。

「お客様!飛び出したら危ないですよ!」

 マスターが忠告をしましたが、庵は気にすることなく柵を飛び越えました。
 直後、やって来た車にはね飛ばされて道路を転がりました。
 そんな庵のもとへマスターがやって来ました。

「だから言ったじゃありませんか。飛び出したら危ないですよって」
「だったら助けろよ!作者なんだからそれぐらいできただろ!?」

 立ち上がりながら叫んだ庵はマスターを睨みますが、そんな庵へマスターは冷ややかな目で睨み付けました。

「だから、危ないですよと声をかけたのに、それを無視して飛び出したのは誰ですか?」
「すいませんでした」

 庵は速やかに土下座をしました。

「では、飛び出し注意で気をつけて中学校に向かってください」
「はい」

 頷いて走り出した庵は「あれ?」と不思議に思ったが、時間がないということもあってそれ以上考えることなく走りつづけた。

 あと10分だよ。

「ここからならまだ間に合うな」

 庵は家と家の塀の間、子供が1人横向きで通れるくらいの隙間に入っていった。

 ここは近道なのか?

「そういうこと」

 道なき道を突き進む庵。
 しかし、もう少しで普通の道へ出るというところで庵は挟まって動けなくなった。

「あれ?」

 庵は頑張って前へ行こうとするけど、やっぱり動くことはできない。

「いやいや、昨日まで普通に通れてたのにあり得ないって」

 太ったんじゃねーか?

「いやいや!たった1日でそんなに太るわけねーだろ!作者!またお前がなにかしただろ!」

 なんでもかんでも俺のせいにしないでほしいな。

「でも、それ以外あり得ねーだろが!」

 冤罪だよ。

「ねぇ」

 後ろから聞こえてきた少女の声に庵は「おっ?」と思ったけど後ろを振り向くことはできないので、言葉を返した。

「誰かいるのか?」
「いるわよ。だから早く出ていってくれない?」

 少女の言葉に庵は苦笑するしかなかった。

「なに笑っているのよ」
「いや、挟まってしまって出れないんだよね」

 少女がため息を吐いた。

「そんなんでよくここを通ろうと思ったわね」
「あはは。昨日までは普通に通れてたはずなんだけどな~」

 庵が困ったように笑っていると、少女は大きくため息を吐いた。

「もう、せっかく近道しようと思ったのにこれじゃあ意味がなくなるじゃないの」
「申し訳ない」

 庵が謝罪していると、後ろから走る音が聞こえてきたかと思うとわき腹に飛び蹴りをくらった。

「ぐぇっ!」

 苦悶の声をあげた庵はスポン!と抜けることができて道に倒れこんだ。

「やっ「ジャマよ」
「ぐえっ!」

 起き上がろうとした庵の頭を少女が踏み向けて走り去った。
 すぐに再度起き上がった庵は回りを見回すも、少女はすでに居なかったので背中をさすった庵はとりあえず走り出した。

「なんでこうも不幸が続くかな!」

 それはお前がギャグ主人公だからだろ?

「いやいや!ギャグだからといってそれが全て不幸なわけじゃねーだろが!」

 と、言われてもな~。

「チッ!」

 舌打ちをした庵が階段を降りようと踏み出した足の下にタイミングよくボールが転がり込んできた。

「なっ!」

 避けることも出来ずにボールを踏んだ庵はバランスを崩して階段を転がり落ち、道路に飛び出した。

「ププー!」

 クラクションとともにやって来たトラック。

「なっ!」

 空中を飛んでいる庵に回避が出来るはずもなく、トラックにあたり、ぶっ飛ばされた。
 しかも、その飛距離は今日1番であり、庵は空を高々と飛んでいき空き地に墜落した。

 おーい。生きてるか?

「死ぬわ!」

 庵は叫びながら起き上がった。

 生きてるじゃねーか。さすがギャグ主人公。

「テメー」

 庵が俺にたいして怒っていると、庵の回りを野良犬が取り囲んだ。

「グルルルル!」
「うわ~」

 殺気だっている野良犬達を刺激しないように気をつけながら庵はこの状況の打開策を考え始めた。

「なぁ、作者」

 どうした?庵。もっと大声で怒鳴ってもいいんだぞ。

「今叫ぶとヤバイことになるのがわかっていてそれ言ってるだろ」

 庵は拳を握りしめてプルプルと震えていた。

 もちろん。

「テメーな」

 俺への怒りに殺気だった庵に反応した野良犬達が一斉に襲いかかった。

「ちょっ!待て!お前達を威嚇したわけじゃなくてな!」

 庵は野良犬の攻撃を避けながら必死になって野良犬を落ち着けようと言葉をかけるが、当然通じるわけがないので野良犬達の攻撃の手が止まることはなかった。
 しだいに野良犬達の攻撃をくらい始めた庵はキレた。

「こっちが攻撃せずにいやがったら調子にのりやがって!こうなったらとことんやってやるよ!」

 叫んだ庵は野良犬達に向かっていった。


          ◇


「はい。それじゃあ出席を始めるぞ」

 先生がそう言った瞬間、教室の扉が開いて庵が滑り込んできた。

「ギリギリ「アウトだ」

 先生は呆れながら庵の頭を出席簿で叩いた。

「ですよね」

 叩かれた庵は頭を掻いた。

「お前はそこで正座して出席な」
「はい」

 教卓の横で庵が正座をしたのを見て先生は出席をとり始めた。
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