私のための小説

桜月猫

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73話

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 公は改めてホットミルクを作って飲みはじめた。

「そういえば、幽ってほかの人には見えるのか?」

 霊感がある人なら見えるだろうね。あ~。そうそう。今回のことで公にも霊感がついたからね。

「なっ?」

 霊感がないと幽は見えないんだから普通だろ?

「あ~。そういえばそうか」

 納得した公はホットミルクを一口飲みました。

【あの、公さん】
「なに?」

 公が幽を見ると、幽は首を傾げていました。

【先ほどの女性の声もそうなんですが、今聞こえる男性の声もどこから聞こえているんですか?】
「あ~」

 どう説明すればいいかわからずに公は頭を掻いた。

 そうか。俺が干渉できない世界だから、俺のことを知らないのか。

「そういうことみたいなんだよ」

 ふむ。それなら、これでどうだ。

 幽がビクッとした。 

【なるほど。わかりました。あなたが作者なのですね】

 そういうことだ。理解した?

【はい。そして公さん。中二なんて言ってすいませんでした】
「大丈夫だから気にするな」

 公は頭を下げている幽の頭を撫でた。

「まぁ、知らなかったらそう思ってもしかたないからな」
【公さん】

 あっ、そうそう。もちろん幽は普通の人には見えないし、声も聞こえないから話す時は気をつけなよ。

【でしたら、普段は私は黙っているほうがいいですね】

 幽の言葉に公は顎に手を当てた。

「作者。どうにかならないか?」

 公ならそう言うと思ってたから、幽に話しがしたいと思ってから心の中で声をかければ幽と話せるようにしといたから。

 俺の説明を聞いた公は早速試しに幽と話したいと思ってから心の中で声をかけた。

【幽。聞こえるか?】
【はい。聞こえます。公さん】
【これなら人が居ても普通に話せるな】
【はい!】

 幽は公に笑顔を向けて頷いた。

「作者もたまにはいいことするよな」

 まぁね。

【そういえば、私って守護霊にクラスアップしたと言っていましたが、どんなことが出来るのですか?】

 そうだね。公に悪さをしようとする悪霊退治だね。

【それだけですか?】

 それ以外だと、軽いポルターガイストを起こせるくらいかな?

「それってどれくらいの威力なんだ?」

 小物を動かせるくらいだね。

【それしかできないのですか?】

 そうだね。守護霊とは言っても実体を持たない幽霊だからね。でも、守護霊がついている人間は運が少しよくなるから、幽が憑いてることで公の運はよくなってるよ。

【そうですか】
「なにを落ち込んでるんだよ」
【結局、私は幽霊でしかないんですね】

 幽の答えに公はため息を吐きながら幽の頭を撫でた。

「俺は別に幽が何も出来ないただの幽霊だったとしても気にしねーぞ。だって、こうして一緒にいて話が出来るだけで楽しいからな」

 公が笑顔を向けると幽は頬を赤く染めました。

「それに、幽だって自分の部屋で1人でいるより、こうして話相手がいるほうがいいだろ?」
【もちろんです!】

 幽は力強く頷いた。

「だったら落ち込む必要なんてどこにもないだろ?」
【そうですね】

 納得して微笑んだ幽の頬はさらに赤くなっていた。

 さすが天然ジゴロ。幽霊すらもこんな短時間で攻略してしまうとは!

「おい、そこの駄作者。なに言ってやがる」

 事実を言ったまでだよ?今の幽の乙女顔を見て違うと言えるのかな?

 俺の言葉に公が幽のほうを向くと、赤くなった顔を見られたくない幽はさっと顔を背けた。

 ほらね。幽をあんな状態にしといて天然ジゴロじゃないと言われても、説得力の欠片もないぞ。

 なにも言い返せないでいる公の姿に俺はニマニマしていた。

≪公。マスターの言葉なんて気にしてはいけませんよ≫

 唐突に話に入ってきたロマ。

 ってか、なんで公側に行ってるんだよ。

≪私はいつでも登場人物達の味方ですから≫
「ありがとう、ロマ。そうだよな。作者の言うことなんて気にしたら負けだよな」

 ほら、公が立ち直りやがったじゃねーか。面白くねー。

「あいにく、お前を楽しませる気はないんでね」

 残念だけど、俺が楽しむためにやってるから、無理矢理でも楽しくなってもらうからな。

「勝手にしてろ」
【あの、あなたがロマさんですか?】
≪はい。私がロマです。よろしくお願いします≫
【こちらこそ、よろしくお願いします】

 目の前にロマがいるわけでもないのに頭を下げる幽の姿に公は微笑んでいた。


          ☆


【ここは?】
「ヤッホー。初顔合わせだし、呼んでみた」

 唐突なことに幽は驚いていた。

【それじゃああなたが】
「そう作者(男性バージョン)だ!そして!」
≪どうも、ロマです≫

 ロマがお辞儀をすると、幽もお辞儀を返した。

「そして、こっちが作者(女性バージョン)よ」
【ホントに男性にも女性にもなれるのですね】

 幽は素直に驚いてくれるので、私は嬉しくなって微笑んだ。

「公達もこれぐらい素直に私の言うことを聞いてくれればいいのに」
≪そんなことをしたらこの小説が崩壊します≫
「すでに十分崩壊していると思っているくせに」
≪なんとかギリギリのラインで耐えているのですから、これ以上崩壊させないでくださいよね≫

 ロマの小言に私はため息を吐いた。

【そういえば、公さんがいないようですけど】
「あぁ。公を呼ぶとうるさそうだから置いてきたわ」
【私、公さんの守護霊なのに離れても大丈夫なのですか?】
「大丈夫大丈夫。作者の私が保証するわ」
≪マスターの保証は1番信用できない保証ですね≫

 ロマの辛辣な一言に私は泣きたくなってきました。

【大丈夫ですか?】

 心配してくれる幽の優しさが身に染みてきて軽く泣けてきた。

「みんなの生みの親であるはずの私にみんなきつくあたってくるから辛いのよ」
【そうなんですか?】

 幽は首を傾げながらロマを見た。

≪全部マスターの自業自得ですから同情する必要はないですよ、幽。それに、これからマスターの無茶苦茶に巻き込まれていけば、私達の考えも理解出来るでしょう≫
【そんなに無茶苦茶なんですか?】
≪えぇ。無茶苦茶です≫

 2人の視線が私に向いたので、私は「テヘッ☆」と可愛く返した。すると、幽は苦笑し、ロマはため息を吐いた。

「その反応はヒドくないかな?」
≪可愛くないのでこれ以上の反応はありませんけど?≫
【あはは………】

 2人の反応に頬を膨らませる私。

【そういえば、公さんやロマさんの生みの親は作者なんですよね】

 あからさまな話題変更だけど、「まぁいいや」と思って頷いた。

「そうよ」
【じゃあ、私の生みの親って誰なんですか?】
「それね~。案外、あの3人娘の恐怖心の塊があなたかもしれないわね」
【3人娘ですか?】
「えぇ。さっきまでいたロッジには公以外にも3人の少女が泊まっているのよ。そして、3人とも雷に恐怖していた。そんな中、森の中のロッジに泊まるとなると、オバケや幽霊を意識しないわけがない。そして、居もしないオバケや幽霊に恐怖心を抱いたまま眠った結果、幽が生まれた。
 と、言っても、これは全部私の想像だから実際のところはどうなのかわからないけどね」
【そうですか】

 幽は私の仮定を聞いて微笑んだ。

「それじゃあ、そろそろ向こうに戻すわね」
【はい。さようなら】
≪さようなら、幽≫
「まったね~」


          ☆


 公の隣に帰ってきた幽は公へ微笑みかけました。

【ただいまです】
「おかえり」

 公が微笑み返すと、幽は突然廊下のほうを向いた。

【誰か来ます】

 その言葉に公が廊下のほうを向くと、3人が入ってきた。

「なんだ。ここにいたのね」

 公の姿を見つけて秋はホッとしていた。

「どうかしましたか?」
「いえ。夏が目覚めたら公が居なかったから心配になってみんなで探したのよ」
「そうだったのですか。それはすいません。なぜか目が覚めてしまってホットミルクを飲んで、落ち着いてからまた寝ようと思っていたんですよ」

 公は持っていたホットミルクを3人に見せた。すると、近づいてきたハルが腕に抱きついてきた。

「急に居なくならないでクダサイ。余計に怖くなってしまったじゃないデスカ」
「すいません。少し飲みます?」

 公がホットミルクを勧めると、ハルは公が持っているコップを取ると、一口飲んで秋のもとへ。
 ハルからコップを受け取った秋も一口ホットミルクを飲んで夏へ。夏もホットミルクを飲むと、ハルは夏からコップを受け取って公のもとへ帰ってきてコップを差し出した。
 公としては新しいホットミルクを作る気だったのだが、飲まれたものはしょうがないと思い、残っているホットミルクを飲みきると、キッチンに行ってコップを洗い、3人のもとにやって来た。

「それじゃあ、もう一眠りしますか」
「えぇ」

 というわけで、寝室に戻ってきた4人はベッドに寝ころんだ。すると、ハルが公の腕に抱きついた。

「ハル先輩」
「勝手に居なくなられたらイヤデスカラ」

 そう言われると、離れてと言いづらい公は苦笑しながら目を閉じた。

【おやすみ、幽】
【おやすみなさい】

 幽と挨拶をかわした公はすぐに眠りについた。
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