私のための小説

桜月猫

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67話

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 夕食も食べ終えた公達は銭湯にやって来ていた。

 さすがに家のお風呂で23人入ろうと思ったらかなり時間がかかるからね。

「だったらリビングみたいにお風呂もデカくしろって話だよ」

 えっ?なんでそこまでしないといけないの?めんどくさいじゃん。

「お風呂をデカくするぐらい一瞬で終わるのになんでそこでめんどくさがる!」

 銭湯があるんだからいいじゃん。それに、銭湯でそんな大声出すなよ。迷惑だろ。

 俺の注意にハッとした公は静かになってため息を吐いた。

「まぁ、いいじゃねーか。銭湯気持ちいいし」

 慰めるように庵は公と肩を組んだ。

「そうだな」

 諦めた公は服を脱ぎ始めた。


          ◇


 一方、女子のほうでは、

「う~ん」
「何かな?」

 ゆっこに裸を見つめられている雪は首を傾げた。

「やっぱりスタイルがいい」

 雪の全身をなめ回すように見たゆっこが呟いた。

「身長も高いし出るところは出て引っ込むところは引っ込んで、ムムム」

 身長の低さがコンプレックスのゆっこにとって、雪の体型は理想とも言えた。

「それに、みんなもスタイルがいいし~」

 ゆっこは桜や長や薫などを睨み付けるような目で見つめた。

「こ~ら。そんな目でみんなを見ない」

 叱ってきた夕を見たゆっこの顔はホッとしていた。

「その反応はなにかな~」

 夕が不機嫌オーラを出しながらゆっこを見るが、ゆっこは気にした様子もなく夕に抱きついた。

「やっぱり私にはこれが落ち着く~」

 つまり、夕はみんなほどスタイルが良くないとゆっこは暗に言っているのだ。
 もちろん、桜達に比べてスタイルが良くないのは夕も理解していた。しかし、ヒドい言われようなので拳を握りしめてげんこつをおみまいした。

「いったー!なにするのよ!」
「ヒドいことを言ってきたのはゆっこのほうでしょ」

 それを言われると何も言えないゆっこは、殴られた場所を掻きながらまた桜達のスタイルをじっくりとなめ回すように見つめた。

「なによ」

 桜は下着を脱ごうとした手を止めてゆっこを見返した。

「どうしたらそんなスタイルのいい体になれるの?」
「身長とか肉体的なことを言えば遺伝、というより自然のものとしか言えないわね」

 桜は困ったように言うと、ゆっこは「えー」と言いながらもさらに問いかけた。

「じゃあスタイル維持の秘訣は?」
「秘訣というより、私の場合は小学の時から卓球してるからかな」
「やっぱり運動が1番いいのか~」

 ゆっこは納得すると、自分のお腹をつまんだ。

「ゆっこは身長も胸もないけど、全体的にスリムだし太ってるってわけじゃないでしょ」

 夕はお返しとばかりに軽くヒドいことを言いながらゆっこのお腹をぷにぷにとつまんだ。

「だよねだよね」

 気にした様子もなく嬉しそうにしているゆっこに夕は少し苦笑した。

「スタイルの良さでいったらやっぱり由椰でしょう」

 牡丹は後ろから由椰の胸をわしづかみにした。
 牡丹の言う通り、今いるメンバーの中では由椰の胸が1番大きかった。

 物語全体でいえば夏がダントツだけどね~。

「キャーーー!」

 いきなり胸をわしづかみにされた由椰は当然悲鳴をあげた。
 回りにいた客達は由椰の悲鳴にビクッとしたが、すぐに状況を理解して微笑んだり自分のことに戻ったりした。

「こら」

 長は牡丹の頭を軽く叩いた。

「やめてあげなさい」
「はーい」

 牡丹はあっさりと離れると蘭のところに戻ると、手をわきわきさせた。

「やっぱり由椰のおっぱいはスゴかったよ」
「ホント?」
「ホントホント」
「そんなにスゴかったの?」

 2人の会話にゆっこが入ってきたのを見て、長はため息を吐いた。

「もうたゆんたゆんだったよ」

 蘭とゆっこの視線が由椰に向くと、由椰は胸を隠して3人に背中を向けた。

「ほら、早く中に入るわよ」

 長の言葉にみんなの服を脱ぐのスピードが早くなり、浴場へと入っていった。


          ◇


 体を洗って湯船に浸かる公達。

「しかし、明日にはみんな宿題を終わらせることが出来そうだな」

 現在の宿題の進捗状況はというと、宿題が苦にならないテスト成績上位8人と暁と朧月がすでに宿題を終えていて、1番残っている庵とゆっこでもすでに3割をきっていた。

「確かに早くは終わりそうだけど、そのかわりかなり疲れたよ」

 湯船のふちにぐで~と寄りかかっている庵はかなりお疲れモードだった。

「明日に宿題を終わらせることができたら、夏休みの残り30日以上を宿題を気にすることなくゆっくり過ごせるんだぞ」

 蛙の言葉に庵はバッと立ち上がった。

「そうだよ!今までは宿題の影に怯えてなかなか満喫出来ずにいた夏休みを、宿題を終わらせることでフルに満喫できるじゃないか!」
「うるさい」

 朧月はチョップで庵を黙らせた。

「それに、お前は宿題が残っていようがお構い無しに夏休みを満喫してたじゃねーか」
「そんなことはないぞ!宿題のことを考えると、夜もろくに眠れなかったんだからな!」
『嘘をつくな』

 朧月と蛙を庵の頭を掴むとお湯へ突っ込んだ。

「ガバッ!ガババババっ!」

 庵がもがくも、2人は押さえつける手を離そうとはしない。

「回りに迷惑にならないようにしろよ」

 止める気のない公はそれだけ言うと、ゆっくりお風呂を楽しんだ。


          ◇


「そういえば桜」

 湯船に浸かっている牡丹はまだ体を洗っている桜に声をかけた。

「なに?」
「桜って公か暁のどちらかと付き合ってはないの?」

 その話題に興味津々の蘭や夕やゆっこも桜の答えを待った。

「付き合ってはいないわよ」
「じゃあ楓は?」

 4人の視線は湯船に浸かっている楓に向いた。

「私も付き合ってはないわね」

 2人の答えに4人は少しがっかりした表情になった。

「やっぱり、幼なじみだと距離間が近すぎて恋愛感情とか芽生えないのか?」
「そんなことはないと思うわ」

 楓の否定に「おっ?」といった表情を向ける牡丹達4人。

「確かに距離間は近いし、一緒にいる時間も長いし、お互いのことは大抵のことは知ってるから恋愛に発展しにくいかもしれないけど、逆にお互いのことをなんでも知っているからこそわかる良さってのもあるのよ」
「つまり、楓は公か暁に恋愛感情を抱いている、ということですな」

 4人は楓を包囲した。

「ご想像におまかせするわ」
『おぉー!』

 楓の答えに盛り上がる4人。

「ところで、みんなは気になる人はいないの?」

 楓から返ってきた質問に牡丹・蘭・夕の3人は首を振ったが、ゆっこは静かに逃げようとした。

「逃がさないわよ」

 しっかりとゆっこの肩を掴んだ楓はニヤリと笑った。その笑顔を見てひきつった笑顔を浮かべるゆっこ。

「その反応からすといるみたいね」

 体を洗い終えた桜が湯船の中に入ってきた。

「えぇ。中学の時から気になってる相手がゆっこにはいるのよ」
「夕!」

 勝手な暴露にゆっこは夕に詰め寄った。

「もうバレてるんだからいいじゃんか」
「良くないよ!」
「へぇ~。中学の時からね~」
「相手はどんな人?」
「今も同じ学校?」
「告白はしないの?」

 矢継ぎ早にきた質問から逃げるためにゆっこは自らお湯の中へと沈んでいった。
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