私のための小説

桜月猫

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54話

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 昼ごはんを食べ終わり、のんびりしている中、暁がふと外に視線をやるとなにかを見つけた。

「あっ。イヌだ」

 暁が指差した先には確かにイヌがいた。

 学校でよくある出来事よね。イヌが迷いこんでくるって。

「そうだな」

 公達もそのイヌを見ていると、牡丹がどんどん窓に近づいていき、校庭を歩いているイヌをジーと見つめた。

「どうしたんだ?」

 牡丹の行動を不思議に思った公達も窓に近づいた時、牡丹がいきなり叫んだ。

「チロー!」

 いきなりのことに公達は驚いたが、牡丹にチロと呼ばれたイヌのほうも驚き、牡丹のほうを見上げると逃げ出した。

「やっぱり!」

 逃げ出したイヌを見て牡丹が教室を飛び出したので、公達もその後をついていく。

「もしかして、牡丹の家のイヌなのか?」

 横を並走しながら聞いてきた公の問いに牡丹は頷いた。

「チロっていって、たまに脱走するクセがあるのよ。まさか学校に来るとは思わなかったけど」

 牡丹は早くチロを捕まえるために階段を2段とばしで駆け下りていく。

「捕まえるの手伝おうか?」
「お願いできる?」
「あぁ」
「もちろんだよ~」
「まかしとけ」
「いいに決まってるでしょ」

 公達から返ってきた返事を聞いた牡丹は微笑んだ。

「そうと決まれば、昼休みも残り少ないし、さっさと見つけて捕まえるぞ!」
『おぉ!』

 気合いを入れた公達は下駄箱で靴に履き替えて外に出た。


          *


 はずなのだけど、公はなぜか屋上に出てきていた。

「なっ!」

 驚きながら回りを見回すも、屋上には公以外誰も居なかった。

「作者!」

 なにかしら?

「またお前がなにかしたんだろ!」

 その通りよ!ようこそ異次元空間へ!今、この学校内の全ての出入口は異次元へと繋がれたわ!入った出入口が学校内のどこの出入口に繋がっているかは運次第!まぁ、学校の外に出ることや死んだりすることはないから安心して。

「なに一つ安心出来る要素がないんだが?」

 そう?

「あぁ」

 まぁ、それならそれで仕方ないとして~。

「仕方なくねーだろ!お前が変なことさえしなければ普通に安心できるんだからな!」

 こんな言い争いをしている間にも時間は過ぎていってチロを探す時間も昼休みの時間も無くなるよ~?

「チッ!」

 舌打ちをした公は屋上の扉に手をかけました。

 屋上はここしか出入口がないんだからさっさと入れば?

「わかってるよ」

 公は扉を開けて中に入っていった。


          ◇


 楓・由椰・蛍の3人は理科室にやって来ていた。

「出入口がまともに繋がってないとなると、チロを探すどころじゃないかもね」
「そうね。他のみんなと合流すら出来ずに昼休みが終わりそうね」
「ど、どうするんですか?」
「どうすると言われてもね」
「出入口がランダムに繋がっているのだから対策のしようがないんだよ」

 蛍の言葉にあわあわとし始める由椰。

「とりあえず行きましょう」

 由椰と手を繋いだ楓は扉を開いた。
 普通ならその先は廊下に繋がっているはずなのに、今は暗闇しか見えなかった。

「ほ、ホントに行くんですか?」

 腰が引けてしまっている由椰に楓は微笑んだ。

「こうして手を繋いでいる限り、私達が離ればなれになることはないわ」
「不安なら反対の手は僕と握る?」

 蛍が手を差し出すと、由椰はその手を握り返した。

「それじゃあ行くわよ」

 楓が最後の確認をすると、蛍と由椰は頷いた。

『せーの』

 3人は同時に1歩踏み出した。


          ◇


 朧月・薫・牡丹の3人はすでに何度か扉をくぐり抜けて今は図書室に来ていた。

「チロ~。チ~ロ~」

 もちろん各部屋でこうしてチロを捜索しているのだが、一向に見つかる気配がない。

「居ないね」
「居ないね~」
「居ないな」

 椅子に座った3人はため息を吐いた。

「作者のアホー!こんなランダム移動でチロを探せってムリがありすぎるのよー!」

 キレて叫ぶ牡丹の言葉に朧月と薫は頷いて同意した。

「普通だったらみんなで手分けして、見つけたらスマホで連絡取り合って追い込めるけど、この状態だと見つけても追い込めない」
「それに、見つけたとしても、逃げられて扉から出られた場合、追ったとしても同じ先に出れるとは限らないしな」

 それを考えた3人はまたため息を吐いた。

「とりあえず次の場所に行こっか」
「そうね」
「探し回るしかないしな」

 3人は立ち上がると、牡丹と薫は手を繋ぎ、朧月は後ろから2人の肩に手を乗せた。

「手を繋げばいいのに」
「これでも同じだからいいだろ」
「照れてる?」
「照れてねーよ。ほら、行くぞ」

 からかっても面白い反応が返ってこないので、つまらなそうな表情をした薫は扉を開けて暗闇の中へ踏み出した。


          ◇


 家庭科室を抜けた桜・蛙・蘭の3人は2度目の体育館にやって来た。

「また体育館か」
「ホントにランダムでわけがわからないわね」
「なにか法則性でもあったら楽なんだけどな~」

 しかし、法則性がない以上、探しては次の場所に行き、探しては次の場所に行きを繰り返すしか手はないのだ。

「ないのだじゃないわよ。あんたがそうしたんでしょが」

 そうだよ。

「あ~!イラつくわね!」
「気持ちはわかるが、イライラしてたら作者の思惑通りだぞ」

 蛙の言葉で落ち着きを取り戻した桜は大きく深呼吸をした。

「作者。なにかヒントはないの?」

 ヒントと言われても、さっきも言った通り、法則性もなにもないからヒントもないね。

「やっぱり使えない駄作者ね」
「期待するだけムダだろう」
「問いかけた私がバカでした」

 三者三様のヒドイ言葉を言い残し、3人は体育館の捜索を始めた。


          ◇


 色々と行くうちに校庭へと出てくることが出来た暁・彩・雪の3人。

「やっと校庭に出れた~」

 喜んだ暁は拳を突き上げた。

「ここにいる可能性が1番高いから念入りに探そうか」
「でも、広いですし、もっと人数が欲しいですね」

 彩の言葉に暁や雪も同意するのだけれど、3人もたまたま校庭に出れただけなので、他の人が来る確率は0だと思っていた。

「とりあえず~、探せるだけ探してみようよ~」
「そうですね。探さないことには始まりませんしね」

 拳を握って「ヨシ!」と気合いを入れた2人は早速チロが隠れれそうな草むらを中心に探し始めた。

「私も頑張るとしようかな」

 2人の様子を微笑ましく見ていた雪は少し遅れて草むらを探し始めた。


          ◇


「待ちやがれ!」
「止まれー!」

 そんな声をあげながら庵と中二の2人が追っているのは1匹のイヌ。
 そのイヌは2人が教室にランダム移動した時にたまたま同じタイミングで教室に入ってきたイヌだった。そこから2人と1匹の鬼ごっこが今も続いていた。

「くそ!逃げ足の早いイヌめ!」
「ランダム移動さえなければ先回りして捕まえてやるのに!」

 毒づきながら2人がランダム移動で次にやって来たのは購買部。そこでは今日も購買戦争真っ最中であり、イヌはその足元をぬうようにして駆け抜けると、抜けたところで反転しておすわりし、「ワン」と吠えた。

「ワンころめ!余裕みせやがって!」
「イヌに行けて我が行けないわけがない!」

 2人はためらうことなく購買戦争に飛び込んだ。
 最初はうまく避けながら横切っていたのだが、次第に攻撃を食らうようになり、抜けるころには2人とも満身創痍だった。

「ワン」

 そんな2人に吠えたイヌは走り出した。

「ま、待ちやがれ」
「イヌになど、我は負けぬ」

 2人は必死になってイヌを追いかけた。
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