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113話
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バッターボックスに入った人は、初球のストレートを見送ってから「ヒュー」と口笛を吹いた。
「はぇ~な」
棒人間が投げるストレートより30キロも速いストレートに人は素直に驚きの声をあげた。
「それに、守備に違和感がバリバリだな」
人がそう思うのも仕方ないことで、センターを守る陸上部員はユニホームが陸上部のものというだけでまだ違和感もマシなほうだが、ファーストを守るおじいさんは相変わらずスティックを杖がわりにプルプルしているし、ライトを守るテニス部員はグローブをはめているもののなぜかラケットも持っているし、きわめつけはレフトを守るラクロス部員。ラクロス部員はグローブすらはめずにスティックをかまえていた。
「ふう」
軽く息を吐いた人はあることを思いつき、一気に集中力を高めた。
そしてスライダー、フォークと2球見送ったあとにきたストレートを完璧に打ち返した。
打ち返されたボールはピッチャー返しになってピッチングマシンに迫り、発射口に吸い込まれた。
そう。人が思いついてしたかったこととはピッチングマシンへのピッチャー返し。
小さく「よし!」と人がガッツポーズをしていると、発射口から投げ出された先ほどのピッチャー返しした球が人のわき腹に直撃した。
「グハッ!」
苦悶の表情を浮かべながらわき腹をおさえてうずくまる人。
「アウト」
そんな人へ何事もなかったように冷静にコールする審判。
「い、いや。ちょっと………待て………。これは………明らかに………危険球………やろ………」
プルプル震えながら立ち上がった人は、痛みをこらえながら審判に抗議した。
「その前に、ピッチングマシンがキャッチしてるからその時点でアウトだよ」
「それでも危険球だろ」
「そもそも、ピッチャー返しを狙わなかったらこんなことにならなかっただろ」
たまたまならともかく、狙い打った結果がこれなので、人は言い返すことができない。
「それに相手はボールを打ち出すことしかできない機械だ。そんな機械の発射口にボールを入れたら打ち出されるのは普通だろ。それに対して危険球とか言うわけか?」
審判の正論になにか言い返せるわけもなく、人はすごすごとベンチへと帰っていった。
「なにやってるんだか」
ベンチに帰ってきた人を雪が呆れながら迎えた。
「いやな。あのピッチングマシンにピッチャー返しでボールぶつけてやろうって思って実行したら思わぬしっぺ返しがきてもてな」
笑っている人に対し、雪は呆れながらため息を吐いていた。
「普通に打ち返せるなら」
「カキーン!」
次のバッターである庵はチェンジアップをうまくセンター前に運んでヒットにしていた。
「ヒットを打っていれば今ごろノーアウト1・2塁とチャンスになっていたはずなんだぞ」
「いや~。ホンマにすまん」
笑いながら謝る人に「いいよ」「まだ勝ってるし」とみんな優しく声をかけた。
「おおきにな。次はまじめに打つことにするわ」
「いつもまじめに打ってほしいんだけどね」
軽く小言をいいながら雪はバッターボックスに入った廻に視線を向けた。
バッターボックスに入った廻は初球のフォークと2球目のスライダーを見送り、3球目のストレートに手を出したがファール。
2ストライクと追い込まれた廻は、その後のシュートとチェンジアップをファールで粘り、フォークを見逃してカウント2ー2となった。
「フゥ」
1度バッターボックスからはずれて軽く息を吐いて再度バッターボックスに入った廻は、7球目のストレートをライト前に打ち返した。
2ストライクとあって、廻が打つ前から走り出していた庵は2塁を蹴って3塁を目指した。
それを見たテニス部員は、グローブでボールを取ると真上に放り投げ、3塁めがけてサーブの要領でボールをラケットで打った。
放たれたボールは庵より速く3塁に到達し、棒人間はヘッドスライディングで飛び込んできた庵に楽々タッチした。
「アウト!」
まさかの展開に公達は「うわ~」と声をあげていた。
そこへ、アウトになった庵がとぼとぼと帰ってきた。
「ドンマイ」
蛙が庵の肩に手をのせた。
「なぁ。普通あのタイミングでアウトになるか?」
「さすがにどんなプロでも、どんな強肩な人でもあのタイミングでアウトにできる人はいないだろうな」
答えながら慰めるように朧月も庵の肩に手をのせた。
「だよな。だったらなんで俺はアウトになったんだ?」
「仕方ないよ。だってテニスのサーブは200キロ以上だからね。人間の肩と同じに考えちゃダメだよ」
蛍の説明に納得した庵が肩を落とした。
そんな庵を見て苦笑した裁がバッターボックスに入った。
裁に対しての初球はチェンジアップ。
それをしっかりと打ち返した裁なのだが、ボールは1・2塁間を抜けてライトへ。
先ほどの庵を見ていたので、廻は無理せずに2塁で止まった。
すると、テニス部員はまたボールを放り投げたので、裁は「まさか!」と思い走るスピードを上げた。
テニス部員は高速サーブを1塁に向けて放った。
『なっ!』
スタジアム中から驚きの声があがった。
それもそのはず、なんせ1塁を守っているのはおじいさんなのだから。
さらに、先ほど庵をアウトした時は3塁までと距離があったが、今回は1塁までと距離がないで当然飛んでくるスピードが速く勢いもある。
「キェェェェェェ!」
みんなが心配する中、おじいさんはまた気合いの叫びをあげながらボールを受け止めた。
しかし、一瞬だけ早く裁が1塁を駆け抜けていた。
「あっぶねー!」
危うくライトゴロでアウトになるところだった裁は大きく息を吐いた。
「朧月。ライトは要注意な」
庵の忠告に手を振ってからバッターボックスに入った朧月は、初球のフォーク、2球目のスライダー、3球目のフォークと見逃して1ー2のカウントになった4球目。
ど真ん中にきたストレートを意識してレフト方向へと打っていった。
大きく打ちあがったボールを追っていたラクロス部員が早い時点で飛び上がった。そして、普通に手を伸ばしても届かない高さを飛んでいるボールをスティックでキャッチした。
「アウト!」
審判の理不尽な宣告に1塁に到達した朧月は両手両膝をついて落ち込んだのだった。
「はぇ~な」
棒人間が投げるストレートより30キロも速いストレートに人は素直に驚きの声をあげた。
「それに、守備に違和感がバリバリだな」
人がそう思うのも仕方ないことで、センターを守る陸上部員はユニホームが陸上部のものというだけでまだ違和感もマシなほうだが、ファーストを守るおじいさんは相変わらずスティックを杖がわりにプルプルしているし、ライトを守るテニス部員はグローブをはめているもののなぜかラケットも持っているし、きわめつけはレフトを守るラクロス部員。ラクロス部員はグローブすらはめずにスティックをかまえていた。
「ふう」
軽く息を吐いた人はあることを思いつき、一気に集中力を高めた。
そしてスライダー、フォークと2球見送ったあとにきたストレートを完璧に打ち返した。
打ち返されたボールはピッチャー返しになってピッチングマシンに迫り、発射口に吸い込まれた。
そう。人が思いついてしたかったこととはピッチングマシンへのピッチャー返し。
小さく「よし!」と人がガッツポーズをしていると、発射口から投げ出された先ほどのピッチャー返しした球が人のわき腹に直撃した。
「グハッ!」
苦悶の表情を浮かべながらわき腹をおさえてうずくまる人。
「アウト」
そんな人へ何事もなかったように冷静にコールする審判。
「い、いや。ちょっと………待て………。これは………明らかに………危険球………やろ………」
プルプル震えながら立ち上がった人は、痛みをこらえながら審判に抗議した。
「その前に、ピッチングマシンがキャッチしてるからその時点でアウトだよ」
「それでも危険球だろ」
「そもそも、ピッチャー返しを狙わなかったらこんなことにならなかっただろ」
たまたまならともかく、狙い打った結果がこれなので、人は言い返すことができない。
「それに相手はボールを打ち出すことしかできない機械だ。そんな機械の発射口にボールを入れたら打ち出されるのは普通だろ。それに対して危険球とか言うわけか?」
審判の正論になにか言い返せるわけもなく、人はすごすごとベンチへと帰っていった。
「なにやってるんだか」
ベンチに帰ってきた人を雪が呆れながら迎えた。
「いやな。あのピッチングマシンにピッチャー返しでボールぶつけてやろうって思って実行したら思わぬしっぺ返しがきてもてな」
笑っている人に対し、雪は呆れながらため息を吐いていた。
「普通に打ち返せるなら」
「カキーン!」
次のバッターである庵はチェンジアップをうまくセンター前に運んでヒットにしていた。
「ヒットを打っていれば今ごろノーアウト1・2塁とチャンスになっていたはずなんだぞ」
「いや~。ホンマにすまん」
笑いながら謝る人に「いいよ」「まだ勝ってるし」とみんな優しく声をかけた。
「おおきにな。次はまじめに打つことにするわ」
「いつもまじめに打ってほしいんだけどね」
軽く小言をいいながら雪はバッターボックスに入った廻に視線を向けた。
バッターボックスに入った廻は初球のフォークと2球目のスライダーを見送り、3球目のストレートに手を出したがファール。
2ストライクと追い込まれた廻は、その後のシュートとチェンジアップをファールで粘り、フォークを見逃してカウント2ー2となった。
「フゥ」
1度バッターボックスからはずれて軽く息を吐いて再度バッターボックスに入った廻は、7球目のストレートをライト前に打ち返した。
2ストライクとあって、廻が打つ前から走り出していた庵は2塁を蹴って3塁を目指した。
それを見たテニス部員は、グローブでボールを取ると真上に放り投げ、3塁めがけてサーブの要領でボールをラケットで打った。
放たれたボールは庵より速く3塁に到達し、棒人間はヘッドスライディングで飛び込んできた庵に楽々タッチした。
「アウト!」
まさかの展開に公達は「うわ~」と声をあげていた。
そこへ、アウトになった庵がとぼとぼと帰ってきた。
「ドンマイ」
蛙が庵の肩に手をのせた。
「なぁ。普通あのタイミングでアウトになるか?」
「さすがにどんなプロでも、どんな強肩な人でもあのタイミングでアウトにできる人はいないだろうな」
答えながら慰めるように朧月も庵の肩に手をのせた。
「だよな。だったらなんで俺はアウトになったんだ?」
「仕方ないよ。だってテニスのサーブは200キロ以上だからね。人間の肩と同じに考えちゃダメだよ」
蛍の説明に納得した庵が肩を落とした。
そんな庵を見て苦笑した裁がバッターボックスに入った。
裁に対しての初球はチェンジアップ。
それをしっかりと打ち返した裁なのだが、ボールは1・2塁間を抜けてライトへ。
先ほどの庵を見ていたので、廻は無理せずに2塁で止まった。
すると、テニス部員はまたボールを放り投げたので、裁は「まさか!」と思い走るスピードを上げた。
テニス部員は高速サーブを1塁に向けて放った。
『なっ!』
スタジアム中から驚きの声があがった。
それもそのはず、なんせ1塁を守っているのはおじいさんなのだから。
さらに、先ほど庵をアウトした時は3塁までと距離があったが、今回は1塁までと距離がないで当然飛んでくるスピードが速く勢いもある。
「キェェェェェェ!」
みんなが心配する中、おじいさんはまた気合いの叫びをあげながらボールを受け止めた。
しかし、一瞬だけ早く裁が1塁を駆け抜けていた。
「あっぶねー!」
危うくライトゴロでアウトになるところだった裁は大きく息を吐いた。
「朧月。ライトは要注意な」
庵の忠告に手を振ってからバッターボックスに入った朧月は、初球のフォーク、2球目のスライダー、3球目のフォークと見逃して1ー2のカウントになった4球目。
ど真ん中にきたストレートを意識してレフト方向へと打っていった。
大きく打ちあがったボールを追っていたラクロス部員が早い時点で飛び上がった。そして、普通に手を伸ばしても届かない高さを飛んでいるボールをスティックでキャッチした。
「アウト!」
審判の理不尽な宣告に1塁に到達した朧月は両手両膝をついて落ち込んだのだった。
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