私のための小説

桜月猫

文字の大きさ
上 下
112 / 125

111話

しおりを挟む
 2回・3回・4回・5回と順調に試合は進み、現在の点数はら9対0で公達が圧倒している状況だった。
 しかし、ベンチの公達は喜ぶどころか怪訝な表情を浮かべていた。

「なぁ、ロマ、マロ」
≪なんですか?≫
<なにかな?>
「いまのところ普通に野球の試合をしているけど、このまま作者がなにもしてこないってことあると思うか?」
≪ないですね≫
<ないだろうね>

 2人の即答に公はため息を吐きながら額に手をあてた。

「やっぱりか」
≪ここまでマトモに野球が出来たこと自体がある意味奇跡といえるでしょう≫
「だよな。そして試合も残すところあと4回だし、そろそろ作者がなにか仕掛けてくるころだろうな」

 それはみんな薄々感じているのか、頷いたり呆れたりしていた。

「しかし、作者はどんなことしてくると思う?」
<さすがにそこまではわからないな>

 マロの苦笑に、公は「だよな~」と頭を掻いた。

「まぁ、今考えたところで意味あらへんし、とりあえず行こか、公」

 人に言われ、「そうだな」と思った公はグローブをはめてピッチャーマウンドに向かった。
 さて、6回の棒人間チームの打順は8番から。
 公は早速初球を投げ込んだ。
 棒人間達はいままで初球を見送って1度もバットを振ることはなかったのだが、さすがに点差が点差なので焦っているのか、初球から積極的にバットを振ってきた。

「カキーン!」

 打ち返されたボールはライト前に転がり、先頭打者が塁に出た。
 いままでなかった展開に「おぉっ」と公が驚いていると、廻からボールが返ってきた。

「センター君に代わりまして、代走、陸上部君」
「なに?」

 アナウンスの言葉に公達が戸惑っていると、三塁側のベンチから陸上部員が出てきて一塁までやって来た。

「とうとう作者が仕掛けてきやがったか」
「続いて9番、ライト君に代わりましてテニス部君」

 さらなるアナウンスに公は額に手をあてた。
 そんな公をよそに、バッターボックスにはラケットを素振りしながらテニス部員が入った。

「タイム」

 タイムを取った人がマウンドにやって来ると、内野も集まってきた。

「完璧に作者の仕業やろうな」
「でしょうね。じゃないと、野球の試合に陸上部員やテニス部員が出てくるわけがないですからね」

 公達は素振りをしているテニス部員をチラッと見た。

「でも、バットじゃなくてラケットで打つ気なんですね」
「まぁ、ラケットでも打ち返せないことはないだろうし、使い慣れた道具を使ったほうがやりやすいだろうからな」
「ってか、野球の試合でラケット使っていいのか?」
「どうせ文句を言ったところで取り合ってもらえないだろうし、気にする必要ないんだろ」

 龍の言葉に公達は「それもそうだ」と笑った。

「そうやな。相手が野球部だろうがテニス部だろうがやることに変わりわないんやから、いままで通りいくで、公」
「あぁ」

 朧月達も頷いて守備位置に戻っていった。
 公は投げる前に軽く息を吐くと、一塁ランナーの陸上部員のほうへチラッと視線を向けて驚きから固まってしまった。
 なぜなら、陸上部員はクラウチングスタートの態勢をとっていたからだ。
 これにはファーストを守っている朧月も驚いていた。
 さらに言えば、陸上部員の右足はベースを踏んでいるので牽制でアウトにすることはできない。

「公!」

 人の叫び声にハッとした公は陸上部員を気にするのをやめてサインを確認した。
 サインは高めのストレートだったので、サイン通り高めのストレートをクイックで投げていると、

「走った!」

 朧月の言葉に反応した公は、投げ終わると「ストライク!」人がセカンドに投げやすいようにすぐにしゃがみこんだ。
 陸上部員は絶対盗塁すると思っていた人は、軽く中腰の態勢でいたのですぐにセカンドに投げたが、さすがに陸上部だけあって足は速く、悠々と盗塁を成功させた。

「やっぱりムリやったか」

 もとより盗塁を阻止できると思っていなかった人は、すぐに気持ちを切り替えてテニス部員を打ち取ることに集中した。
 そして、出したサインは低めにフォーク。しかも、ワンバンしてもいいという意味も込めてミットを軽く地面につけてからかまえた。
 頷いた公はホームベースのさらに手前でワンバンするフォークを投げたのだが、テニス部員はワンバンしたボールを見事にすくいあげて打ち返した。

「なにっ!」

 驚きながら振り返った公は打球の行方を確認した。
 打球は左中間を深々とやぶり、てんてんと転がっていった。
 そうなると2塁ランナーの陸上部員は楽々とホームに帰ってきて、打ったテニス部員も2塁まで到達して止まり、拳をつきあげた。

「タイム!」

 すぐにタイムを取ると、また内野陣で集まった。

「すまん。さっきのは俺のサインミスや。テニス部やから当然ワンバンのボールは打ちなれてるし、バットと違ってラケットは打てる場所の面積が広いってことを忘れてたわ」
「仕方ないって。普通、野球の試合にバットの変わりにラケットを持って出てくるバッターも代打でテニス部が出てくることもないんだからな」
「そうだぜ」
「気にする必要ないって」
「まだ1点返されただけだしな」

 公達が人を励ましていると、

「1番、レフト君に代わりまして、代打、ラスロス部」

 そのアナウンスになんとも言えない表情になった公達がバッターボックスのほうを見ると、ラクロス部員がバットではなくスティックを素振りしていた。

「なぁ。取り合ってもらえなくてもいいから1度抗議してみないか?」
「止めておけ」

 廻の提案を龍が止めた。

「でも」
「気持ちはわかるが、どうせこれ以上のおかしなことを作者はしてくるだろうから、いちいち抗議してたらきりがないぞ」
「そうですけど………」

 渋る廻。
 その気持ちは公達もわかるので、苦笑していた。

「とりあえず、今はこのピンチをのりきることが最優先だから気合いいれていくぞ」
『おー!』

 気合いを入れ直した内野陣が守備位置に戻ったので、公はサインを確認。
 外角低めにストレート。
 頷いた公はサインどおりに外角低めにストレートを投げ込んだのだが、ラクロス部員はそれをスティックで受け止めると、1回転して放り投げた。

『そんなのありか!』

 まさかの『打つ』ではなく『投げる』という行動に公達はありえないとばかりに叫ぶのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。

ねんごろ
恋愛
 主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。  その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……  毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。 ※他サイトで連載していた作品です

クラスで一人だけ男子な僕のズボンが盗まれたので仕方無くチ○ポ丸出しで居たら何故か女子がたくさん集まって来た

pelonsan
恋愛
 ここは私立嵐爛学校(しりつらんらんがっこう)、略して乱交、もとい嵐校(らんこう) ━━。  僕の名前は 竿乃 玉之介(さおの たまのすけ)。  昨日この嵐校に転校してきた至極普通の二年生。  去年まで女子校だったらしくクラスメイトが女子ばかりで不安だったんだけど、皆優しく迎えてくれて ほっとしていた矢先の翌日…… ※表紙画像は自由使用可能なAI画像生成サイトで制作したものを加工しました。

処理中です...