私のための小説

桜月猫

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108話

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 白父達を連れてリビングにやって来た公は、リビング内の光景を見て額に手をあてた。
 公の後ろにいる白父達もその光景に戸惑っていた。
 公達が見たのは、薫・夢・舞の3人が白を押さえつけているという光景だった。

「えっと………、これはどういうことだ」
「あっ、公」

 3人がこちらを見たので改めて公は問いかけた。

「で、この状況はどういうことなんだ?」
「見ての通り」

 薫が答えながら首を傾げたので、公はため息を吐いた。

「見てわからないから聞いてるんだよ」

 すると薫は1度自分達の状況を見てから公の方へ視線を向けた。

「わからない?」
「わかんねーって!俺が玄関に行っていた間とどうしてこんな状況になるんだよ!」

 薫は一瞬だけ白父の方へ視線を向けた。

「白が逃げ出そうとしたから押さえつけた」

 簡単な説明だけど、一瞬の薫の視線の動きを見逃さなかった公は納得した。

「白。多分うちの周りはすでに黒服達に取り囲まれてるだろうから、逃げたところですぐに捕まるぞ。ですよね、白父さん」
「あ、あぁ。だから話し合おう、白」

 白父が声をかけるが、白の反応はない。
 そんな白に公が近づいた。

「3人とも。とりあえず白の上からどいてあげて」
「わかった」
「わかりました」
「はーい」

 3人がどいても白はうつ伏せのまま立ち上がろうとはせず、白父の方を見ようともしなかった。

「白。家出をして、もう2週間だ。その間、ここでゆっくりして少しは頭も冷えただろ」

 公が優しく話しかけると、白は顔の向きを変えて公を見上げた。

「だったら、少し話し合ってみてもいいんじゃないか?」

 公が微笑みかけると、白は数秒考えた。

「公もいてくれる?」
「あぁ。もとからそのつもりだ」

 その返事を聞いた白は立ち上がると白父を見た。

「公が一緒なら話し合いをしてもいいよ」
「それでいい」

 白父が了承したので、白と公は並んでソファーに座り、向かいに白父が座った。

「萌衣さん。飲み物をお願いします」
「準備は万端です」

 すでに萌衣の手にはお盆があり、公と白父の前にはアイスコーヒー、白の前にはアイスティーが置かれた。

「ありがとう」

 公のお礼に対し、一礼をした萌衣は公の後ろに控えるように立った。

「で、なにをしにきたの?」

 少し睨み付けるように白は白父を見た。

「なにって、家出したお前を連れ戻しに来たにきまってるだろ」

 白父は微笑んだ。

「じゃあ、私が歌手になることを認めてくれるのよね?」

 白のその問いを聞いた白父の顔は複雑な表情になった。

「私、家出する時言ったよね。歌手になることを認めてくれないと帰らないって」
「………………」

 何も答えない白父へ白は鋭い視線を向けた。

「やっぱり歌手になることは認めてくれないんだ」
「歌手は不安定な職業だ。そんな不安定な職業につくことを認めるなんて、親としてできるわけないだろ」
「なんでよ!そんなの私の勝手でしょ!」

 机に手を叩きつけ、叫びながら白は立ち上がった。

「私は親としてお前のことを思って言っているんだ」
「私の人生なんだからお父さんには関係ないでしょ!」
「関係ないわけないだろ!」

 白父の方もヒートアップしてきた。

「いくらお前の人生だとしても、親なんだから無関係でいられるわけないだろ!」
「だからってお父さんが私の人生を決めていいわけじゃないでしょ!」
「そこまで」

 公は白の肩を押さえて座らせると、白父に向けて微笑みかけた。

「話し合いでそんなに声を荒立てることはないですよね。それに、ここは住宅地なんですから近所迷惑になることも考えてくださいね」
「すまなかった」
「ごめんなさい」

 公が止めたことで2人とも少し落ち着きを取り戻し、素直に謝った。

「わかってくれればいいんですけど。白、白父さんが白のことを心配するのは親として普通だし、歌手なんて不安定な職業になろうとすることで親に心配をかけていることもわかっているよね?」
「でも」
「でも歌手になる夢は諦められないんだよね」
「うん」

 白が頷いたのを見て、公は白父に視線を向けた。

「白父さん」
「なんだい?」
「確かに歌手という職業はちゃんとした収入がえられるかわからない不安定な職業です。でも、白の夢でもあります。だから、期限付きでいいんで許してあげてもらえませんか?」

 公の提案に白も白父も白父の後ろで控えていた萌香も驚いていた。
 その表情を見た公は微笑んだ。

「やっぱり、自分のやりたいことをやるっていうのが本人にとって1番いいことだと俺は思っています。もちろん、周りの人に迷惑をかけないことが大前提にありますけどね。
 そして、白が歌手を目指すことは周りの人に迷惑をかけることではない。でも、不安定な職業でもあるから白父さんは父親として不安になるでしょう。
 だから、期限付きで認める。その期限内に白が歌手として売れなければ歌手という夢を諦めて普通に働く。もちろん、高校に通っている間は学業もおろそかにしない。
 そういう条件で白が歌手になることを認めてくれませんか?」

 公の提案に白父は悩みだしたが、白は立ち上がって公を睨み付けた。

「なに勝手に条件を提示してるのよ!」
「白は別に両親のことが嫌いなわけでも、喧嘩をしたいわけでもないんだろ?」
「それはそうだけど」

 思うところがあるのか、白の言葉は勢いをなくしていった。

「確かに、自分の人生なんだから自分で決めたいって気持ちはわかるよ。でも、今の俺達はまだ未成年だから、全てのことに責任を持てるわけじゃない。じゃあその責任は誰が持ってくれるのかっていえばもちろん両親だ。だったらなんでもかんでも自分の意見を押し通すだけじゃなくて、少しは譲歩してみてもいいんじゃないか」

 公が微笑みかけると、白はうつ向いて黙りこんだ。

「白」

 そんな白へ、悩んでいた白父が話しかけた。

「30歳までに歌手になれなかったら普通の職につくこと。大学までの学費は私が出すから高校・大学はしっかりと通うこと。大学卒業後は家を出て一人暮らしすること。あと、いくら時間がかかってもいいから母さんが出してくれているボイストレーニングの授業料を自分で稼いだお金で返すこと。これが私の譲歩だ」

 白父の譲歩を聞いた白はまだうつ向いたまま黙りこんでいた。
 しかし、すぐに顔をあげると白父を見つめた。

「わかった。その条件でいい」

 白が了承すると、白父は微笑んでから公の方を見て頭を軽く下げた。

「ありがとう。おかげで話がまとまったよ」
「いえ」
「ところで、どうして君はよその家のことなのにそこまで親身になってくれるんだ?」

 白父も萌香も公の答えを興味津々とばかりに待っていた。

「半分は、白をこうしてかくまったからには最後まで面倒をみると決めていたからで、もう半分は、俺が介入することでそちらにムダな手間をかけさせてしまったからですね」

 公の答えを聞いた白父はウンウンと頷いていた。

「白」
「なに、お父さん」
「彼を夫にもらうなら年齢制限を解除しよう」
「なっ!」
「えっ!?」

 唐突な一言に萌衣以外の全員が固まったのを見て、白父は盛大に笑っていた。
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