私のための小説

桜月猫

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101話

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 両が差し出した手を握り返す公。

「高校で蛙とそこのバカと友達になった公だ。よろしく」

 公と両が握手をかわしていると、

「うがー!」

 叫びながら庵が立ち上がった。

「テメーら!さっきから俺のことをバカバカ言いやがって!」
「事実バカじゃねーか」
「否定出来ると思ってるのか?」

 公と両のカウンターにダメージをくらった庵は胸をおさえた。

「考えなしにそんなこと言うからお前はバカなんだよ」

 蛙が庵の頭にチョップを落とす。

「ぐふっ」

 頭をおさえる庵。
 そんな庵を見ながらも公と両の握手はまだ続いていた。

「えっと………」

 公が少し戸惑いだしたが、両は気にした様子もなくニコニコしていた。

「そろそろ離してくれないか?」
「あぁ。ごめんごめん」

 謝りながらも両は公の手をニギニギとしてからようやく公の手を離した。
 その行動を不思議に思いつつも、公は蛙を見た。

「これからどうするんだ?」
「それはそこのバカに聞いてくれるか」

 蛙は庵を指差した。

「で、どこにいくんだ?」

 公が問いかけると、庵はプルプル震えながらも立ち上がった。

「か」
「か?」
「ファミレス行くぞー!」
『うるせー』

 駅前で叫んだ庵の頭を公と蛙が同時に叩いた。

「いや、公が聞いてきたから答えたのになぜ殴られる?」
「うるさいから」
「周りの人に迷惑だから」

 公と蛙の殴った理由を聞いた庵は言い返せずに頭を掻いた。

「なぁ」

 静かに様子を見ていた両が会話に入ってきた。

「どうした?」
「俺もついていってもいいか?」

 両の思わぬお願いに蛙は少し驚きつつ、一瞬公を見てから両に視線を戻した。

「どこか行く予定があるんじゃないか」
「なんの予定もなく歩いていたら、たまたまお前達を見つけたんだよ。だから暇なんだよ。だから頼む!」

 両の懇願に困った蛙は公を見た。

「両も一緒でいいか?公」
「俺は別に構わないぞ」

 公の了承を得れたので、蛙は両に向かって頷いた。

「サンキュー。公」

 両は笑顔で公と肩を組んだ。

「別にいいってことよ」

 笑顔公が両と話していると、蛙は庵の頭を叩いていた。

「さっさといくぞ」
「そう、だな」

 庵はフラフラと立ち上がると歩きだし、公達はそのあとをついていった。
 そうしてファミレスにやって来て席につく頃には庵もだいぶ復活していた。

「やっぱり俺の扱いヒドすぎねーか?」

 開口1番そんなことを言う庵。
 蛙はため息を吐きながらメニューで庵の頭を叩いた。

「お前の普段の行いからすれば普通だろ」
「だろうな」

 蛙の言葉に同意しながら公は両へメニューを差し出した。

「ありがとう」

 メニューを受け取った両は微笑んだ。

「俺の普段の行いの何が悪い」
「考えなしの言動だな」
「それに周りの迷惑とか考えてないだろ」

 そう言った蛙と両の顔には呆れと苦笑が浮かんでいた。

「いや。考えてるって」
「だったら今回の俺の呼び出しはどう説明するんだ?」

 公から睨み付けられた庵は顔を背けた。

「だから、お前の扱いがヒドいんだよ」

 反論は出来ないのだけど、納得も出来ないので庵は頬を膨らませた。

「まぁ、今は昼飯にしようぜ」

 蛙が広げたメニューを庵の前に置くと、庵は膨らませた頬を引っ込めるとメニューを見始めた。

「公は何にするんだ?」

 両は公にも見えるようにメニューを広げた。

「そうだな」
「俺はトリプルコンボだな!」

 すでに機嫌が直った庵の大声を聞きながら公はメニューを見ていった。

「おろしハンバーグだな。両は?」
「俺はチキンステーキ」
「あとは蛙だけだぞ」

 庵に急かされるが、蛙は気にした様子もなくメニューを見ていく。

「早くしろよ~」
「そうだな。サイコロステーキだな」

 蛙がメニューを決めたので庵はボタンを押して店員を呼んだ。

「お待たせしました。ご注文をどうぞ」
「トリプルコンボにおろしハンバーグ、チキンステーキとサイコロステーキ。みんな。ドリンクバーはどうする?」
「いる!」

 公や蛙も頷いた。

「ドリンクバー4つ以上で」
「かしこまりました。コップはドリンクバーのコーナーにありますのでご自由にお取りください」

 お辞儀して店員が去ると、両が立ち上がった。

「みんなドリンクは何にする?」
「コーラ!」
「って、通路側にいるんだからテメーも行けよ」
「そうだぞ、庵」
「えー」

 動こうとしない庵の頭を蛙が叩くのを見ながら公が立ち上がった。

「俺が行くからいいよ」
「すまんな。俺はアイスコーヒーを頼む」
「了解」

 頷いた公は両と一緒にドリンクバーにやって来た。

「なんかごめんな」
「なんで両が謝るんだよ」
「だって、ムリについてきたのに手伝わせてしまってるし」

 申し訳なさそうに言う両に公は微笑みかけた。

「それを言い出したら俺だって今日は庵達と遊ぶ予定じゃなかったからな」
「そうなのか!?」

 驚いている両を見て公は苦笑した。

「あぁ。庵のやつがムリヤリ誘ってきて仕方なく遊ぶことにしただけだからな」
「へぇ~。それは災難だったな」

 両は苦笑した。

「あぁ。だから、謝る必要なんてないさ」
「わかったよ」

 笑いあった2人。

「さて、庵には罰が必要だな」
「何をするんだい?」

 両が興味津々に見つめる中、公はコップにコーラ・コーヒー・ウーロン茶・ジンジャエールを均等に入れてかき混ぜた特製ミックスジュースを作った。

「これでよし」
「おぉ~」
「あとは」

 蛙のコーヒーと自分用にメロンソーダをとった。
 両もジンジャエールをとり、お盆に乗せて席へ戻った。

「なんだ。お盆があるなら1人でもいけたんじゃねーか」
「そういう問題じゃねーよ」

 蛙に頭を殴られている庵の前に特製ミックスジュースを、蛙の前にコーヒーを置いた2人は席に座った。
 すると、早速庵はコップを手にとり、ミックスジュースをゴクゴクと飲み始めたのだが、その動きはすぐに止まり、

「ブフーーーーー!」

 おもいっきり両めがけて吹き出した。

「おっと」

 両は持ってきたお盆でそれをガードした。

「ゴホッゴホッ!」
「きたねーな」

 蛙の言葉なんて耳に入っていない庵は公と両を睨み付けた。

「テメーら。何をした」
「なに。ちょっとした罰さ」

 庵の睨み付けなど気にした様子のない公は普通に言ってのけると、庵はさらに睨み付けを鋭くした。

「で、どんな味なんだ?」
「甘くて苦くて辛いっていう変な味だよ」

 思い出したのか、庵は「うぇ~」となっていた。
 そんな庵の姿に満足した公と両はハイタッチをかわした。
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