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《祠》の章
【偲】
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「弐沙、こっち」
怜によって案内されたのは自宅にぽつんとあったガレージだった。
「ここに小さい物置があってね、其処に押し込んだんだけど……って聞いてる?」
ちらちらと物置小屋の方を見る弐沙に怜が訊ねる。
「あぁ、聞いているよ」
「そんなにあっちが気になるんだったら弐沙だけ戻るかい?」
「いや、いい。戻ったとしても何も出来ることはないだろうしな、ただ……」
「ただ?」
「イリサは一体何を企んでいるんだろうな」
その言葉の意味が分からず、怜は首を傾げた。
「もし、何か企んでて弐沙に魔の手が伸びるようであるなら、鏡である俺が身代わりになるから安心しなさーい」
「おやおや、朱禍になかなか苦戦していたようだけど、大丈夫なのか?」
「弐沙もなかなかに傷つく言葉をいうなぁ……もう」
怜はぶう垂れながら、小型物置の扉を開けるとそこにはかなえがまだ気絶をしていた。
「とりあえず、自宅のほうへ運ぼう」
弐沙の指示で、怜はかなえを優しく抱えながら自宅へと運ぶ。
かなえの部屋らしき場所で彼女をそっと寝かせてやると、かなえはすぐに意識を取り戻して起きた。
「ここは……」
「お前の自室だ」
弐沙が答えるとかなえは肩が跳ね上がる。
「どうして此処に貴方たちが! みそぐは! みそぐを何処に連れ去ったの!」
まだかなえはみそぐが既に異形に変えられていただなんて真実は受け止めきれず、弐沙に食ってかかる。
「……みそぐは何処かへ連れ去られたんじゃない。異形にされたんだ。お前が作って渡した最初の朱糸守の効果でな」
「うそよ! あんなの……あんなの弟じゃない……」
かなえはそう言って泣き崩れる。
「私はみそぐの中へ一時的に取り込まれたときにちゃんと本人から全てを聞かされた。戦地で確かにアイツは一度死んだ。だけど、お前の作ったお守りの中へ朱禍がねじ込んだ“核”によってアイツは生き返った。異形としてな。お前が今までソレに気づけなかったのは、朱禍の手が入っていたからだ。だから、お前が望む姿の弟像しか見えてなかった」
弐沙の説明の最中もかなえの嗚咽は止まる事はない。
「そして、すべての真実を見せたみそぐは私に言付けを言った後、消えてしまった。肉片は朱禍が全て食べてしまったからもう何も残っていないが、アイツからお前へ伝言を預かっている」
「伝言?」
かなえは腫らした目を弐沙に向ける。
「『愛していたよ、姉さん』だそうだ」
その言葉を聞いて、さらに涙が溢れるかなえ。
「みそぐ……」
「アイツはいつもお前の幸せを願っていたようだぞ」
泣き崩れるかなえの肩を弐沙は優しく叩いた。
「ちょっと私は物置小屋の方へ戻る」
「やっぱりあの後どうなっているかが気になるの?」
「気になるというか……余りにも静か過ぎやしないか?」
弐沙にそう言われて、怜が耳を澄ませる。
「確かにバタバタという物音があってもいいのに、それが聴こえないや」
「とりあえず、いってみよう」
泣いているかなえを布団へ寝かせてから、弐沙達は物置小屋へ向かうと。
其処には、一人の白髪の青年が倒れていた。
「朱禍じゃない……。誰だ?」
怜がその青年を見て首を傾げるが、弐沙にはその青年に見覚えがあった。
「み……そぐ、コイツ、みそぐだ」
「えっ? みそぐってあのウネウネしてた物体? でも、コレどう見ても人間じゃん」
「あれは変貌を遂げた姿だったからな。アイツの中に取り込まれた時にこの姿で現われたんだ」
弐沙はそう言いながら、そっとみそぐの頬に触れてみる。それはまるで陶磁器を触るかのように白く冷たく感じた。
「どうする? またお姉さんの方を起こす?」
「さっき眠らせたばかりだから、知らせるのは明日の朝にするべきだな」
「それもそうだねぇー。というかイリサは何処へ行ったんだろうねぇ」
「帰ったら飄々とした顔でまたやってくるだろうから、その時に問いただせば良い」
弐沙は窓から見える白み出した空を見ながらそういった。
怜によって案内されたのは自宅にぽつんとあったガレージだった。
「ここに小さい物置があってね、其処に押し込んだんだけど……って聞いてる?」
ちらちらと物置小屋の方を見る弐沙に怜が訊ねる。
「あぁ、聞いているよ」
「そんなにあっちが気になるんだったら弐沙だけ戻るかい?」
「いや、いい。戻ったとしても何も出来ることはないだろうしな、ただ……」
「ただ?」
「イリサは一体何を企んでいるんだろうな」
その言葉の意味が分からず、怜は首を傾げた。
「もし、何か企んでて弐沙に魔の手が伸びるようであるなら、鏡である俺が身代わりになるから安心しなさーい」
「おやおや、朱禍になかなか苦戦していたようだけど、大丈夫なのか?」
「弐沙もなかなかに傷つく言葉をいうなぁ……もう」
怜はぶう垂れながら、小型物置の扉を開けるとそこにはかなえがまだ気絶をしていた。
「とりあえず、自宅のほうへ運ぼう」
弐沙の指示で、怜はかなえを優しく抱えながら自宅へと運ぶ。
かなえの部屋らしき場所で彼女をそっと寝かせてやると、かなえはすぐに意識を取り戻して起きた。
「ここは……」
「お前の自室だ」
弐沙が答えるとかなえは肩が跳ね上がる。
「どうして此処に貴方たちが! みそぐは! みそぐを何処に連れ去ったの!」
まだかなえはみそぐが既に異形に変えられていただなんて真実は受け止めきれず、弐沙に食ってかかる。
「……みそぐは何処かへ連れ去られたんじゃない。異形にされたんだ。お前が作って渡した最初の朱糸守の効果でな」
「うそよ! あんなの……あんなの弟じゃない……」
かなえはそう言って泣き崩れる。
「私はみそぐの中へ一時的に取り込まれたときにちゃんと本人から全てを聞かされた。戦地で確かにアイツは一度死んだ。だけど、お前の作ったお守りの中へ朱禍がねじ込んだ“核”によってアイツは生き返った。異形としてな。お前が今までソレに気づけなかったのは、朱禍の手が入っていたからだ。だから、お前が望む姿の弟像しか見えてなかった」
弐沙の説明の最中もかなえの嗚咽は止まる事はない。
「そして、すべての真実を見せたみそぐは私に言付けを言った後、消えてしまった。肉片は朱禍が全て食べてしまったからもう何も残っていないが、アイツからお前へ伝言を預かっている」
「伝言?」
かなえは腫らした目を弐沙に向ける。
「『愛していたよ、姉さん』だそうだ」
その言葉を聞いて、さらに涙が溢れるかなえ。
「みそぐ……」
「アイツはいつもお前の幸せを願っていたようだぞ」
泣き崩れるかなえの肩を弐沙は優しく叩いた。
「ちょっと私は物置小屋の方へ戻る」
「やっぱりあの後どうなっているかが気になるの?」
「気になるというか……余りにも静か過ぎやしないか?」
弐沙にそう言われて、怜が耳を澄ませる。
「確かにバタバタという物音があってもいいのに、それが聴こえないや」
「とりあえず、いってみよう」
泣いているかなえを布団へ寝かせてから、弐沙達は物置小屋へ向かうと。
其処には、一人の白髪の青年が倒れていた。
「朱禍じゃない……。誰だ?」
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「み……そぐ、コイツ、みそぐだ」
「えっ? みそぐってあのウネウネしてた物体? でも、コレどう見ても人間じゃん」
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弐沙はそう言いながら、そっとみそぐの頬に触れてみる。それはまるで陶磁器を触るかのように白く冷たく感じた。
「どうする? またお姉さんの方を起こす?」
「さっき眠らせたばかりだから、知らせるのは明日の朝にするべきだな」
「それもそうだねぇー。というかイリサは何処へ行ったんだろうねぇ」
「帰ったら飄々とした顔でまたやってくるだろうから、その時に問いただせば良い」
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