16 / 43
《祩》の章
【侏】
しおりを挟む
そして、時間は怜と榎が無事駅へと到着したところへと進む。
「事故もなく無事帰ってこられたわね。それにしても、都会の方は反射が強くて嫌になるわ」
帽子を目深に被りながら榎が話す。
「照り返しとか強いとか聞くねー。さて、竹子からこれから会社に戻るんでしょ?」
「怜の方は弐沙を迎えに行くんだったわね。じゃあ、ここで解散ね。また機会があれば会いましょ? 今度は怜にモデルでもやってもらおうかしら?」
「こういう機会というのは滅多に来ない方がいいと思うけどねー。モデルも遠慮しておくよ。俺は目立つのは好きじゃないからねー」
「その口でよく言うわね。ま、そういうことだから」
手をヒラヒラとしながら、榎は出版社の方向へと去っていった。
「さてと、俺は迎えに行かないと。送ってもらった地図は……っと」
怜はメールで送られて来た住所を頼りに地図のアプリを起動させ、駅から皆神の家への方向へと歩き出す。
大学を通り過ぎ、閑静な住宅街を抜け、こじんまりとした一軒家が見えた。
怜は地図と照らし合わせて一軒家を見る。
「ここ……かな?」
首を傾げつつ、一先ずインターホンを鳴らす。
『はーい』
玄関の奥で声が聞こえて、パタパタとかける音が聞こえる。そして、カラカラと玄関の引き戸が開かれ、中から普段着に着替えた皆神がひょっこりと顔を出す。
「たしか、えーと、弐沙のことを迎えに来てくれた怜さんだった……ね……えっ」
皆神が怜と視線が合った瞬間にギョッと目を見開いた。
その様子を怜は見て、ニヤニヤと笑う。
「もしかして皆神君、俺の姿を見て驚いたのかなぁ? 余りにも弐沙に似ているから」
言い当てられた皆神は少しムスッとした顔になって、無言で頷いた。
「弐沙の格好に変装しているんだよ。影武者としてねー」
ニヤニヤとしながら怜が説明する。
「初対面の人にそんな事バラしてもいいわけ?」
「弐沙の知り合いなら言っても差し支えないと思ってるからねー。ところで弐沙は何処?」
「俺の部屋で休ませている。案内するから、上がって」
そう言って皆神は怜を家へと招き入れる。
トコトコと廊下を歩く二人。
「他の家族の人は?」
怜はキョロキョロと家の中を見回す。
「皆実家に居るぞ。ここは俺が大学に通う都合で一人暮らし用に借りた」
「え。此処、一人暮らし用で借りたの!? 俺が知っている一人暮らしのスケールが違いすぎる」
「そうなのか? あー、だから、同じゼミの人間が俺の家を見たときビックリしたのか、納得」
「え、今頃気づいちゃうやつ?」
「ここだ」
皆神の感覚が一般人と違うことを知り怜が驚いている中、弐沙が休んでいる部屋へと辿り着いた。
その部屋を開けるとそこには、
寝転がりながら、何やら紙にびっしりと文字を書いている弐沙の姿があった。
「やっと来たか」
弐沙は怜の姿を見るなり、そう言った。
「弐沙、何やってんの? 倒れたって聞いたからこれでも急いで来たんだけど?」
「何って、レポートをまとめているんだ。お前を待つまで暇だったからな」
そう言って弐沙はさらに執筆作業を続行する。
「俺が弐沙の調査に協力する代わりに、レポートを手伝ってもらっているんだ。まさか、寝ながらやるとは思わなかったけど」
「まだ、本調子じゃないんでね。出来たぞ。さすがにレポートに書くと筆跡とかでバレるだろうから、後は皆神が書くんだな」
トントンと紙を纏めて、畳の上に置いた。
「りょーかい。ところで本調子で無いならもう少し休んでいくか?」
「怜が迎えに来たから大丈夫だ。帰ってから探偵社で二人での話もあるしな。と、その前に」
弐沙は布団からムクリと起き上がった。
「怜、コイツが前々から言っていた協力者の皆神奏士(みなかみそうし)だ。一族で“縁”に関する仕事をしている。コイツはまだ見習いの身だけどな。で、私と瓜二つの容姿をしたコイツがさっき言っていた探偵社居候の怜だ。私の暗殺に失敗して組織から殺されかけたところを私が拾った」
弐沙が仲介役となって、皆神と怜の相互の紹介をする。
「へー、一族でそんな凄い仕事をしているんだねぇー。よろしくー!」
「え、え、弐沙を暗殺しようとしたのか……?」
満面の笑みで握手を求める怜とは対照的に、皆神は少し怜との距離をとり始めた。
「もう、弐沙。そんなの昔の話じゃないかー。普通、そんな事を人に言ったらビックリしちゃうでしょー、ダメ!」
「何も本当のことではないか。私はそういうことはきっちり覚えている性質でな」
「都合のいい事は直ぐに忘れるくせに……」
弐沙の言葉にボソッと怜が文句を呟く。
「お前ら仲が良すぎだろ」
そんな様子を見て皆神が口を開く。
「えー。仲が良さそうにみえる? 嬉しい!」
「コイツと、何処をどう見れば仲が良さそうに見えるのか?」
「じゃあ、見るか?」
皆神がすっと右手を振ると、弐沙と怜の体を様々な糸が巻きついた。
「え、何コレ何コレ!?」
突如出てきた様々な色の糸を見て、怜は驚いて問う。
「コイツは縁(えにし)を糸として具現がすることが出来るんだよ」
頭を抱えながら弐沙が答えた。
「これだけお前ら二人の縁が強いんだ。仲がいいに決まっているだろう」
してやったりという顔で皆神は笑っていた。そして再び右手をふると、糸はすっと消えていった。
「あ、消えた」
怜は少し残念そうな声で言う。
「さて、少しは体調が回復したし、探偵社へと戻ろう。皆神、世話になったな。また暇になったら本家の方にも立ち寄るつもりだ」
「その時は連絡しろよな。さて、作業で夜更かしまでしたんだから、俺はここで一眠りするとするよ」
「分かった。では、怜、帰るぞ」
「はーい」
皆神に別れを告げ、弐沙と怜は探偵社へと帰って行った。
「事故もなく無事帰ってこられたわね。それにしても、都会の方は反射が強くて嫌になるわ」
帽子を目深に被りながら榎が話す。
「照り返しとか強いとか聞くねー。さて、竹子からこれから会社に戻るんでしょ?」
「怜の方は弐沙を迎えに行くんだったわね。じゃあ、ここで解散ね。また機会があれば会いましょ? 今度は怜にモデルでもやってもらおうかしら?」
「こういう機会というのは滅多に来ない方がいいと思うけどねー。モデルも遠慮しておくよ。俺は目立つのは好きじゃないからねー」
「その口でよく言うわね。ま、そういうことだから」
手をヒラヒラとしながら、榎は出版社の方向へと去っていった。
「さてと、俺は迎えに行かないと。送ってもらった地図は……っと」
怜はメールで送られて来た住所を頼りに地図のアプリを起動させ、駅から皆神の家への方向へと歩き出す。
大学を通り過ぎ、閑静な住宅街を抜け、こじんまりとした一軒家が見えた。
怜は地図と照らし合わせて一軒家を見る。
「ここ……かな?」
首を傾げつつ、一先ずインターホンを鳴らす。
『はーい』
玄関の奥で声が聞こえて、パタパタとかける音が聞こえる。そして、カラカラと玄関の引き戸が開かれ、中から普段着に着替えた皆神がひょっこりと顔を出す。
「たしか、えーと、弐沙のことを迎えに来てくれた怜さんだった……ね……えっ」
皆神が怜と視線が合った瞬間にギョッと目を見開いた。
その様子を怜は見て、ニヤニヤと笑う。
「もしかして皆神君、俺の姿を見て驚いたのかなぁ? 余りにも弐沙に似ているから」
言い当てられた皆神は少しムスッとした顔になって、無言で頷いた。
「弐沙の格好に変装しているんだよ。影武者としてねー」
ニヤニヤとしながら怜が説明する。
「初対面の人にそんな事バラしてもいいわけ?」
「弐沙の知り合いなら言っても差し支えないと思ってるからねー。ところで弐沙は何処?」
「俺の部屋で休ませている。案内するから、上がって」
そう言って皆神は怜を家へと招き入れる。
トコトコと廊下を歩く二人。
「他の家族の人は?」
怜はキョロキョロと家の中を見回す。
「皆実家に居るぞ。ここは俺が大学に通う都合で一人暮らし用に借りた」
「え。此処、一人暮らし用で借りたの!? 俺が知っている一人暮らしのスケールが違いすぎる」
「そうなのか? あー、だから、同じゼミの人間が俺の家を見たときビックリしたのか、納得」
「え、今頃気づいちゃうやつ?」
「ここだ」
皆神の感覚が一般人と違うことを知り怜が驚いている中、弐沙が休んでいる部屋へと辿り着いた。
その部屋を開けるとそこには、
寝転がりながら、何やら紙にびっしりと文字を書いている弐沙の姿があった。
「やっと来たか」
弐沙は怜の姿を見るなり、そう言った。
「弐沙、何やってんの? 倒れたって聞いたからこれでも急いで来たんだけど?」
「何って、レポートをまとめているんだ。お前を待つまで暇だったからな」
そう言って弐沙はさらに執筆作業を続行する。
「俺が弐沙の調査に協力する代わりに、レポートを手伝ってもらっているんだ。まさか、寝ながらやるとは思わなかったけど」
「まだ、本調子じゃないんでね。出来たぞ。さすがにレポートに書くと筆跡とかでバレるだろうから、後は皆神が書くんだな」
トントンと紙を纏めて、畳の上に置いた。
「りょーかい。ところで本調子で無いならもう少し休んでいくか?」
「怜が迎えに来たから大丈夫だ。帰ってから探偵社で二人での話もあるしな。と、その前に」
弐沙は布団からムクリと起き上がった。
「怜、コイツが前々から言っていた協力者の皆神奏士(みなかみそうし)だ。一族で“縁”に関する仕事をしている。コイツはまだ見習いの身だけどな。で、私と瓜二つの容姿をしたコイツがさっき言っていた探偵社居候の怜だ。私の暗殺に失敗して組織から殺されかけたところを私が拾った」
弐沙が仲介役となって、皆神と怜の相互の紹介をする。
「へー、一族でそんな凄い仕事をしているんだねぇー。よろしくー!」
「え、え、弐沙を暗殺しようとしたのか……?」
満面の笑みで握手を求める怜とは対照的に、皆神は少し怜との距離をとり始めた。
「もう、弐沙。そんなの昔の話じゃないかー。普通、そんな事を人に言ったらビックリしちゃうでしょー、ダメ!」
「何も本当のことではないか。私はそういうことはきっちり覚えている性質でな」
「都合のいい事は直ぐに忘れるくせに……」
弐沙の言葉にボソッと怜が文句を呟く。
「お前ら仲が良すぎだろ」
そんな様子を見て皆神が口を開く。
「えー。仲が良さそうにみえる? 嬉しい!」
「コイツと、何処をどう見れば仲が良さそうに見えるのか?」
「じゃあ、見るか?」
皆神がすっと右手を振ると、弐沙と怜の体を様々な糸が巻きついた。
「え、何コレ何コレ!?」
突如出てきた様々な色の糸を見て、怜は驚いて問う。
「コイツは縁(えにし)を糸として具現がすることが出来るんだよ」
頭を抱えながら弐沙が答えた。
「これだけお前ら二人の縁が強いんだ。仲がいいに決まっているだろう」
してやったりという顔で皆神は笑っていた。そして再び右手をふると、糸はすっと消えていった。
「あ、消えた」
怜は少し残念そうな声で言う。
「さて、少しは体調が回復したし、探偵社へと戻ろう。皆神、世話になったな。また暇になったら本家の方にも立ち寄るつもりだ」
「その時は連絡しろよな。さて、作業で夜更かしまでしたんだから、俺はここで一眠りするとするよ」
「分かった。では、怜、帰るぞ」
「はーい」
皆神に別れを告げ、弐沙と怜は探偵社へと帰って行った。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クアドロフォニアは突然に
七星満実
ミステリー
過疎化の進む山奥の小さな集落、忍足(おしたり)村。
廃校寸前の地元中学校に通う有沢祐樹は、卒業を間近に控え、県を出るか、県に留まるか、同級生たちと同じく進路に迷っていた。
そんな時、東京から忍足中学へ転入生がやってくる。
どうしてこの時期に?そんな疑問をよそにやってきた彼は、祐樹達が想像していた東京人とは似ても似つかない、不気味な風貌の少年だった。
時を同じくして、耳を疑うニュースが忍足村に飛び込んでくる。そしてこの事をきっかけにして、かつてない凄惨な事件が次々と巻き起こり、忍足の村民達を恐怖と絶望に陥れるのであった。
自分たちの生まれ育った村で起こる数々の恐ろしく残忍な事件に対し、祐樹達は知恵を絞って懸命に立ち向かおうとするが、禁忌とされていた忍足村の過去を偶然知ってしまったことで、事件は思いもよらぬ展開を見せ始める……。
青春と戦慄が交錯する、プライマリーユースサスペンス。
どうぞ、ご期待ください。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
マクデブルクの半球
ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。
高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。
電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう───
「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」
自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。
量子迷宮の探偵譚
葉羽
ミステリー
天才高校生の神藤葉羽は、ある日突然、量子力学によって生み出された並行世界の迷宮に閉じ込められてしまう。幼馴染の望月彩由美と共に、彼らは迷宮からの脱出を目指すが、そこには恐ろしい謎と危険が待ち受けていた。葉羽の推理力と彩由美の直感が試される中、二人の関係も徐々に変化していく。果たして彼らは迷宮を脱出し、現実世界に戻ることができるのか?そして、この迷宮の真の目的とは?
呪王の鹿~南宮大社380年目の謎に挑む~
hoshinatasuku
ミステリー
関ヶ原の戦いで全焼し、再建から380年が経過した美濃一之宮・南宮大社。江戸初期より社殿に巧みに隠されてきた暗号に気付いた若き史学博士・坂城真。真は亡き祖母と交わした約束を思い出し解読に挑む。幼馴染みで役場観光係の八神姫香と共に謎解きを進めるのだが、解けたそれは戦国の世を収束させた徳川家への呪法だった。そして突如解読を阻む怪しい者が現れ、真は執拗に狙われてゆく。
【なろう・カクヨムでも同小説を投稿済】
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる