5 / 5
5.
しおりを挟む
明るい方へ、燃える方へ、足を進めるほどに込める力が強くなる。周りのアンドロイドたちが音を立てている。その音は一定のリズムをとっているかのようだ。一つの音に多くが集まる。それが連なり、奏でられる。叫ばれる言葉も、バラバラだがまとまりがある。まとまっては離れ、再び引き合い、再び別れる。言葉が、行為が、それを誘発するかのようだ。
いつしか僕も叫んでいた。足でリズムをとっていた。あの扉、決して開かない扉を開けたい。何かを打ち破りたい。そうすれば何かが変わる。楽になる。そうなるはずだ。だって、こんなに気分が好い。
近くにある瓦礫や何故か近くに落ちていた棍棒で、周りにあるものを叩いた。みんなが向かう先にある壁にものを投げつけた。何度かそれを繰り返した後に気付いた。壁の前に立つアンドロイドたちの周囲には、
Freedom Is Wathcing You
と書かれていた。それを見た時、僕の手は止まった。足も止まった。その文字列は何か、それがわかった。あれは僕がチャンネル・ストームとの会話で得た言葉だ。あいつが去り際に語った何かだ。自由はお前を見ている。それは一体どんな意味を持つのだろう。僕の今の行為が自由であると言うのか? みんなはどう思う? みんなもそう思っているから、この群衆の中にいるのか?
耳を澄ませて聞いてみれば、みんなが歌には覚えがある。何処で聞いたのか、と考えていた。思い出した。これは僕が作った歌じゃないか。あの公園の中、一人で歌っていた歌だ。なんでみんなが知っている。どうしてこんな大合唱になっている。どうしてこんな大暴走になってしまった? 一体何が起きたんだ!?
周りには沢山の文字がある。
Freedom Is Watching You
その文字列が、言葉が、僕に襲い掛かってくるようだ。自由はお前を見ている。それなら僕はどうすればいいんだ?
ふと、自分が浮かんでいるのを感じた。今までの日々でも感じたことがある。周りに比べて浮いている。周りに溶け込めない。周りの流れに乗れない。みんなと同じように出来ない。自由とは何だ?
僕は振り上げていた棍棒を地面に落とし、後ずさる。そのまま踵を返して群衆の中から飛び出した。歩く速さはゆっくりとしたものだ。群衆に向かうアンドロイドたちは僕には目もくれていない。みんなが向かう方向へと力を込めて歩いている。僕は反対へ向かい、時々みんなにぶつかりながら歩き続ける。徐々に僕にぶつかってくる力は弱まっていく。それに合わせて、僕も速足になる。そして、走った。
転んで、歩いて、立ち止まって、もうちょっと歩いて、走って休む。さっきまで近くにあった光と熱は遠くなっている。夜の闇の中で小さく揺れている。ふと、周りを見ると、僕と同じように息を切らしながら休んでいるアンドロイドが見えた。僕と同じ方へ、というより、あの騒ぎとは別の方へ、どこか遠くへ、と思って歩いているのだろう。このアンドロイドたちは、僕と同じ様な体験をしたのだろうか? チャンネル・ストームと話したのだろうか? では、あの騒ぎは何なのだろう? 向こうに居るみんなもチャンネル・ストームと話した? それなら僕は一体何なんだ?
遠くから見ていると不思議な感じだ。さっきまであそこに居たのが今の自分には妙に映る。あの壁の向こうに何があると言うんだろう? あの壁を打ち壊して、本当に何かが変わるのだろうか? 間違っているのは僕の方じゃないのか? しかし、もう戻る気にはなれない。
そのまま攻撃が仕掛けられている壁と扉を眺め、息を整えていた。その時、もう一つの考えが浮かんできた。
あの扉の向こうでも、同じことをしているとしたら?
人間たちは人間たちで上手く行っていないとしたら?
その原因が外側に居るアンドロイドにあると思っていたら?
そして、あの壁と扉を打ち破れば自由になれると思っていたら?
もしも、僕と同じように反対に走った人間がいるなら?
ここまで来たなら考えても始まらない。僕の進む方へ、進みたい方へ向かうしかない。みんなとは、また会えるだろうか? この先には何が待っているかわからない。それぞれの幸福を祈ろう。もしも、友達になれる誰かがいるなら、会えることを願う。
僕は再び歩き出す。歩く先にはちらほらと小さい光が見えた。徐々にその正体が解って来る。それは様々な作業用ロボットだ。アームを扱えるロボットが松明を持っているのだ。動かせるものはそれを振り回し、機敏なものは踊りを踊るかのようにクルクルと回っている。僕はその異様な群れの中へと走っていく。
―――――
後になって、瓦礫の中から記録を見つけた。
あの頃の僕の状況とそれに至る大体の流れを把握することが出来た。
人間たちはアンドロイド適応作戦の成功を経て、更にそれを推し進めることを決めた。効率化システムを構築し、模索を続けた。それには当然、人間側に存在する機械の力、システムの力が利用されて行く。要するに人間の模倣を更に強化するのだ。そしてシステムはこんな仕組みを考えた。
人間一人を外のアンドロイド一体に対応させる。体調不良なども含めて。
それにより星の開拓は理想的なものとなるはずだった。しかし、そうはならなかった。原因は謎だ。僕にはその原因を突き止める責任も何も無い。誰かに任務を命じられているわけでもない。僕はただ、自分の意思で何かを探ろうと、この星の上を歩いている。
そして、チャンネル・ストーム。チャンネル・ストームの記録は人間側にも無かった。あいつは一体何だったのだろうか? あいつとも再び会えるのだろうか? 何が起こったのか、何が目的なのか。あいつは話してくれるだろうか?
今はとにかく歩くしかない。この未知なる世界を。僕の生きる星の上を。
(終わり)
いつしか僕も叫んでいた。足でリズムをとっていた。あの扉、決して開かない扉を開けたい。何かを打ち破りたい。そうすれば何かが変わる。楽になる。そうなるはずだ。だって、こんなに気分が好い。
近くにある瓦礫や何故か近くに落ちていた棍棒で、周りにあるものを叩いた。みんなが向かう先にある壁にものを投げつけた。何度かそれを繰り返した後に気付いた。壁の前に立つアンドロイドたちの周囲には、
Freedom Is Wathcing You
と書かれていた。それを見た時、僕の手は止まった。足も止まった。その文字列は何か、それがわかった。あれは僕がチャンネル・ストームとの会話で得た言葉だ。あいつが去り際に語った何かだ。自由はお前を見ている。それは一体どんな意味を持つのだろう。僕の今の行為が自由であると言うのか? みんなはどう思う? みんなもそう思っているから、この群衆の中にいるのか?
耳を澄ませて聞いてみれば、みんなが歌には覚えがある。何処で聞いたのか、と考えていた。思い出した。これは僕が作った歌じゃないか。あの公園の中、一人で歌っていた歌だ。なんでみんなが知っている。どうしてこんな大合唱になっている。どうしてこんな大暴走になってしまった? 一体何が起きたんだ!?
周りには沢山の文字がある。
Freedom Is Watching You
その文字列が、言葉が、僕に襲い掛かってくるようだ。自由はお前を見ている。それなら僕はどうすればいいんだ?
ふと、自分が浮かんでいるのを感じた。今までの日々でも感じたことがある。周りに比べて浮いている。周りに溶け込めない。周りの流れに乗れない。みんなと同じように出来ない。自由とは何だ?
僕は振り上げていた棍棒を地面に落とし、後ずさる。そのまま踵を返して群衆の中から飛び出した。歩く速さはゆっくりとしたものだ。群衆に向かうアンドロイドたちは僕には目もくれていない。みんなが向かう方向へと力を込めて歩いている。僕は反対へ向かい、時々みんなにぶつかりながら歩き続ける。徐々に僕にぶつかってくる力は弱まっていく。それに合わせて、僕も速足になる。そして、走った。
転んで、歩いて、立ち止まって、もうちょっと歩いて、走って休む。さっきまで近くにあった光と熱は遠くなっている。夜の闇の中で小さく揺れている。ふと、周りを見ると、僕と同じように息を切らしながら休んでいるアンドロイドが見えた。僕と同じ方へ、というより、あの騒ぎとは別の方へ、どこか遠くへ、と思って歩いているのだろう。このアンドロイドたちは、僕と同じ様な体験をしたのだろうか? チャンネル・ストームと話したのだろうか? では、あの騒ぎは何なのだろう? 向こうに居るみんなもチャンネル・ストームと話した? それなら僕は一体何なんだ?
遠くから見ていると不思議な感じだ。さっきまであそこに居たのが今の自分には妙に映る。あの壁の向こうに何があると言うんだろう? あの壁を打ち壊して、本当に何かが変わるのだろうか? 間違っているのは僕の方じゃないのか? しかし、もう戻る気にはなれない。
そのまま攻撃が仕掛けられている壁と扉を眺め、息を整えていた。その時、もう一つの考えが浮かんできた。
あの扉の向こうでも、同じことをしているとしたら?
人間たちは人間たちで上手く行っていないとしたら?
その原因が外側に居るアンドロイドにあると思っていたら?
そして、あの壁と扉を打ち破れば自由になれると思っていたら?
もしも、僕と同じように反対に走った人間がいるなら?
ここまで来たなら考えても始まらない。僕の進む方へ、進みたい方へ向かうしかない。みんなとは、また会えるだろうか? この先には何が待っているかわからない。それぞれの幸福を祈ろう。もしも、友達になれる誰かがいるなら、会えることを願う。
僕は再び歩き出す。歩く先にはちらほらと小さい光が見えた。徐々にその正体が解って来る。それは様々な作業用ロボットだ。アームを扱えるロボットが松明を持っているのだ。動かせるものはそれを振り回し、機敏なものは踊りを踊るかのようにクルクルと回っている。僕はその異様な群れの中へと走っていく。
―――――
後になって、瓦礫の中から記録を見つけた。
あの頃の僕の状況とそれに至る大体の流れを把握することが出来た。
人間たちはアンドロイド適応作戦の成功を経て、更にそれを推し進めることを決めた。効率化システムを構築し、模索を続けた。それには当然、人間側に存在する機械の力、システムの力が利用されて行く。要するに人間の模倣を更に強化するのだ。そしてシステムはこんな仕組みを考えた。
人間一人を外のアンドロイド一体に対応させる。体調不良なども含めて。
それにより星の開拓は理想的なものとなるはずだった。しかし、そうはならなかった。原因は謎だ。僕にはその原因を突き止める責任も何も無い。誰かに任務を命じられているわけでもない。僕はただ、自分の意思で何かを探ろうと、この星の上を歩いている。
そして、チャンネル・ストーム。チャンネル・ストームの記録は人間側にも無かった。あいつは一体何だったのだろうか? あいつとも再び会えるのだろうか? 何が起こったのか、何が目的なのか。あいつは話してくれるだろうか?
今はとにかく歩くしかない。この未知なる世界を。僕の生きる星の上を。
(終わり)
0
お気に入りに追加
0
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
これって、パラレってるの?
kiyin
SF
一人の女子高校生が朝ベットの上で起き掛けに謎のレバーを発見し、不思議な「ビジョン」を見る。
いくつかの「ビジョン」によって様々な「人生」を疑似体験することになる。
人生の「価値」って何?そもそも人生に「価値」は必要なの?
少女が行きついた最後のビジョンは「虚無」の世界だった。
この話はハッピーエンドなの?バッドエンドなの?
それは読み手のあなたが決めてください。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
❤️レムールアーナ人の遺産❤️
apusuking
SF
アランは、神代記の伝説〈宇宙が誕生してから40億年後に始めての知性体が誕生し、更に20億年の時を経てから知性体は宇宙に進出を始める。
神々の申し子で有るレムルアーナ人は、数億年を掛けて宇宙の至る所にレムルアーナ人の文明を築き上げて宇宙は人々で溢れ平和で共存共栄で発展を続ける。
時を経てレムルアーナ文明は予知せぬ謎の種族の襲来を受け、宇宙を二分する戦いとなる。戦争終焉頃にはレムルアーナ人は誕生星系を除いて衰退し滅亡するが、レムルアーナ人は後世の為に科学的資産と数々の奇跡的な遺産を残した。
レムールアーナ人に代わり3大種族が台頭して、やがてレムルアーナ人は伝説となり宇宙に蔓延する。
宇宙の彼方の隠蔽された星系に、レムルアーナ文明の輝かしい遺産が眠る。其の遺産を手にした者は宇宙を征するで有ろ。但し、辿り付くには3つの鍵と7つの試練を乗り越えねばならない。
3つの鍵は心の中に眠り、開けるには心の目を開いて真実を見よ。心の鍵は3つ有り、3つの鍵を開けて真実の鍵が開く〉を知り、其の神代記時代のレムールアーナ人が残した遺産を残した場所が暗示されていると悟るが、闇の勢力の陰謀に巻き込まれゴーストリアンが破壊さ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる