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「其方のそれは何だ?」

皇太子様が私にそう訊ねてきました。
そう言えば私は携帯を手にしていたのをすっかり忘れていたのです。
私はスカートのポケットにそっとしまいました。

「な、何でもないのです」
「そうなのか…ま、何方でも良い」

そう皇太子さまは言われ馬車の中では色々話をしてくれました。
王政の事、国王さまの事、自分の今後の事…色々です。
私はまだ現実味がありませんでした。
異世界に飛ばされてまだ一日経っていないのにも拘らず、いきなりフィアンセが出来て、皇太子さまが相手だなんて。
神様は何を考えているのかと思いました。

馬車が止まり扉を開くと大きなお城の正面に着きました。
皇太子さまと私は手をつないだまま一緒に国王さまの部屋に向かいました。
とても広く、中世ヨーロッパにありそうなお城です。
赤いじゅうたんも特徴的です。

大きな扉の前に来ると皇太子さまがノックをして扉を開きました。
ぎー、という重たそうな扉でした。
中に入ると国王さまとお后さまが椅子に座って待っていたのです。
私は一礼をしました。
この作法が正しいのか分からないのですが、体が勝手にそうしていたのです。

「陛下、舞を連れて参りました。今後の婚儀についてお話があります」

皇太子さまがそう言うと国王さまが困った表情を浮かべながら口を開きました。

「皇太子よ、その娘はダメだ。諦めるのだ」

そう言うと皇太子さまが大きな声で応戦しました。

「何を言っているのです!私とこの娘との婚約は成立しているではありませんか。後は国民に対し盛大に結婚式を挙げるだけになっている筈。なぜだめなのですか、陛下」

私は黙ってそのやり取りを聞いているだけしか出来ませんでした。
国王さまが応対します。

「皇太子よ、その娘は純血を奪われておる。それだけではない。この娘は他の侯爵たちの娘に対して悪役非道な振舞いをしていると多くの報告を受けておる。このままでは結婚は認められない。諦めてくれ。仕方がないのだ」
「なんですとっ!! じゅ、純血が……!?」

え、え、え、何、何、何ぃ~!!!
純血って……私まだ経験ないんですけど…キスもまだ経験してませんけど!
それに侯爵の娘たちに悪役非道ですって???
私はさっきこの世界に来たばかりだって言うのに何を言っているの、国王さま??

「舞…お前……私を誑かしたのか!?この女狐めっ!許せん、許さんぞ。貴様のような娘、婚約破棄だ!お前の両親の土地を取り上げ、お前はこの国から出て行け!もう貴様の顔なんぞ見たくもないわ!!」
「何でですか?私は何もしておりません。まだキスもしてないのに!」
「言い訳するでないわ!即刻国外追放だ!」

皇太子さまがそう言うと何処から来たのか兵たちが数名私を囲むと両腕を抱えて無理やりお城から出されてしまったのです。

私が兵隊たちに連れられるとき国王さまが小さな声でこう言っていました。

「其方の父への爵位剥奪も議会で承認された…諦めよ…」

こうして私は一文無しになり、まだ顔を知らない両親とも生き別れ国境まで馬車で移動することになってしまったのです。
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