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16 古傷

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「こんなことになるとは思わなかったのだ。本当にすまない」


王太子はそう言いながら頭を下げる。
そんなことをしても事態は解決しないことは分かっているだろう。
それでも私に誤りたかったのだということが伝わって来た。
私は父の戻るのを待つまで王太子と話をすることにした。


「仕方がない事ですわ。これは決まったこと。わたくしも腹を括ります。それはいいのですが、マリア―ヌ様に対してはしっかり説明をしてほしいです。わたくしが貴方様を奪ったと思われ、恨まれるのは嫌ですもの」
「それはしっかりと説明する。それだけはさせない。しっかりと私から伝える」
「そうしてください」

私はそれだけ言って王太子を見つめた。
すると王太子が私の目の前に立ち止まり私の額に手を当てた。
古傷を舐めるように指で触る。
その眼を見るとまるで傷ついた動物を可哀そうな感じで見ているのだ。


「この傷は……ずっとこのままなのだな」
「もう、そのことはいいのです」
「すまなかった」
「いえ……」
「マリエット。私は其方を幸せにする」


王太子はそう言って私の額にキスを落とした。
父はその後にやって来て私は恥ずかしくなり後ずさりしてしまった。
父は何があったのかと訊いてきたが私は何も言わずに王太子に一礼して父と共に馬車に乗り込んだ。
乗り込んだ馬車はゆっくりとお城の敷地を後にして屋敷に向かって走り出した。



その夜、私の両親が私に国王から命じられたことを伝えてくれた。
それは王太子との婚約発表をするという事だった。
すいすいと話が進んでいることに私は驚いたがそれを受け入れることにした。
明日から皆とどういう顔をして合えばいいのか。
ダリウス王太子との婚約発表後、アドルフ、カミーユは勿論、リエットやクリシア達も色々行ってくるだろう。
明日の学校には行きたくはない。そんなことを考えていた。




次の日。
私は普通に学校に登校するとリエットとクリシアがいつも通り私に声を掛けてきた。
私は挨拶を交わして講堂へ向かって歩いた。
二人は何気ない会話をしながら本当にいつも通りの2人だった。
私は内心いつ王太子との婚約が発表されるのか、びくびくしていた。
こういう時どういう対応すればいいのか、今の私にはその考える余裕はなかった。
願わくは、マリア―ヌ様達に合いませんように……。


「マリエット? どうしたの? 浮かない顔をして」
「ええっ!? な、何でもないのよ」
「そう? 顔色が悪いわよ?」

クリシアはそう言って心配していた。

「どうされたのですか? マリエット様」

リエットが不安そうな顔をしながら私に声を掛けてきたが私は笑顔で大丈夫だと言った。
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