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六章 熱血沸騰、第六層

129 コメントには気持ちをこめんと

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 部屋にゴミが溜まり始めたある日、一通のメールが来た。僕が作ったAIギスケをゲームエンジンの中に組み込みたいというものだった。もともとBSDライセンスで公開しているものなので、許可を取る必要など無い。勝手に使って構わないのだ。だから僕はそのメールに対する返事は出さないことにした。

 そんな事があった程度で、何事も無い日々が過ぎていく。相変わらず僕は外出をしていない。しかしながら、外に出ようと思えば出られるのだ。そうしないのは行きたいところが無い、それだけだ。

 僕は次のプログラムの作成に取りかかっていた。目指すは感情を持ったAIの作成だ。しかしAIギスケと違い、こっちを作るのは本当に難しい。もともと感情というのは何から生まれるのか? 根本として生きる上で必要な欲求、それを原理として発生したものではないだろうか? もちろん生存欲求だけでなく、群れ全体の繁栄のために仲間と協調するのにも必要となるものだ。

 ではプログラムに感情を持たせるとして、欲求とはなんだろう? そもそもプログラムとは人間が目的を達成するために作り出すものだ。それは人間の意思であって、プログラムの意思では無い。だから人間っぽいAIを擬似的に作ったとしても、それは人間の指示した通りの結果を演じているだけに過ぎないのだ。

 プログラムは生き物では無い。だから生存欲求というコードを書くことは出来ない。だったら何か別の目的を与えるべきだろうか? いや、そうすると結局は指示した人間の欲求をかなえる為に動くだけで、そこに感情を求めるのは無理だ。

 僕はぼんやりとどうすればいいのか考えた。プログラムは指示された通りただひたすらに動く。だったらいっそルールを決めた仮想世界を作り、そこで生きていくような物を生み出せばいいのではないだろうか? どちらかというとシミュレータに近い。違いは学習を繰り返しロジックを自己改変する部分だ。

 名前は何にしよう? ふと今飲んでいる栄養ドリンクの名前を見る。主成分はリコリスだった。そうだAIリコリスにしよう。こうして僕はAIリコリスの開発に取りかかった。

 それからまたしばらくの月日が経った。AIリコリスの開発はそれなりに進めたけれど、箱となる仮想世界の準備が出来ていない。ある程度多様なルールを持った箱を用意しないと、単純作業をするただのプログラムと変わりない結果となる。僕は途方に暮れていた。箱が見つかるまで開発は保留状態だ。

 今日は差し迫った作業は無い。久々に某大手動画サイトでゲームのプレイ動画を見ることにした。その中に僕が注目している人がいる。その人はとにかくゲームが上手い。しかも兄と妹という組み合わせで、息の合ったマルチプレイもこなす。実況の声を聞く限り、二人は中学か高校生ぐらいだろうか? 

 ただどうも最近この二人にネガティブなコメントを残していくヤツがいる。誹謗中傷に近いレベルだ。しかも二人の所在を知っているというような内容まで臭わせている。悪質だ。幸い二人とも相手にはしていないようだけど、見ていると気分が悪い。

 その二人が次に実況すると言っていたのは、以前にメールをもらったアレだった。どうやら開発版のテストプレイが出来るらしい。僕もやってみたいとは思っているんだけど、どうやらジャンルはMMORPGのようなのだ。これはマズイ。
 何がマズイかというと、時間を持って行かれるという部分だ。僕は一度ハマると延々とやり続けてしまうタイプで、しかも今の僕の環境はそれを抑制するものが何も無い。危険極まりない。一応インストールはしてみたものの、それ以上は何もしていない。プレイ動画を見るだけで我慢しよう。

 そんなある日、いつも通り兵站部隊隊長の風海(かざみ)がやってきた。
「辛ちゃん、このゲームやってる~?」
「ああそれ、僕の作ったプログラムが一部使われているヤツですよ。」
「ええ! そうなの? すご~い!」

 どうやらそれなりに評判が良いゲームになったようだ。色々なところで話題になっている。確かにプレイ動画を見た限りでは、グラフィックやサウンドのリアルさは他のゲームの比では無い。リアルさが実写を超えているのだ。自分で言っていてもおかしいと思うけれど、現実を超えたリアルって完全に矛盾だよね。

「一応受験生なんですよね? 学校の方は大丈夫なんですか?」
「学校・・・もちろん大丈夫ですよ~。」

 一瞬、間があった気がする。風海の顔を見ると笑顔だった。気のせいか。

 こうして僕はずっと引き籠もり生活を続けているけれど、それなりに平和な日常が続いていた。これからもずっと同じような日が続く、僕は何の根拠も無くそう考えていた。
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