129 / 208
六章 熱血沸騰、第六層
129 コメントには気持ちをこめんと
しおりを挟む
部屋にゴミが溜まり始めたある日、一通のメールが来た。僕が作ったAIギスケをゲームエンジンの中に組み込みたいというものだった。もともとBSDライセンスで公開しているものなので、許可を取る必要など無い。勝手に使って構わないのだ。だから僕はそのメールに対する返事は出さないことにした。
そんな事があった程度で、何事も無い日々が過ぎていく。相変わらず僕は外出をしていない。しかしながら、外に出ようと思えば出られるのだ。そうしないのは行きたいところが無い、それだけだ。
僕は次のプログラムの作成に取りかかっていた。目指すは感情を持ったAIの作成だ。しかしAIギスケと違い、こっちを作るのは本当に難しい。もともと感情というのは何から生まれるのか? 根本として生きる上で必要な欲求、それを原理として発生したものではないだろうか? もちろん生存欲求だけでなく、群れ全体の繁栄のために仲間と協調するのにも必要となるものだ。
ではプログラムに感情を持たせるとして、欲求とはなんだろう? そもそもプログラムとは人間が目的を達成するために作り出すものだ。それは人間の意思であって、プログラムの意思では無い。だから人間っぽいAIを擬似的に作ったとしても、それは人間の指示した通りの結果を演じているだけに過ぎないのだ。
プログラムは生き物では無い。だから生存欲求というコードを書くことは出来ない。だったら何か別の目的を与えるべきだろうか? いや、そうすると結局は指示した人間の欲求をかなえる為に動くだけで、そこに感情を求めるのは無理だ。
僕はぼんやりとどうすればいいのか考えた。プログラムは指示された通りただひたすらに動く。だったらいっそルールを決めた仮想世界を作り、そこで生きていくような物を生み出せばいいのではないだろうか? どちらかというとシミュレータに近い。違いは学習を繰り返しロジックを自己改変する部分だ。
名前は何にしよう? ふと今飲んでいる栄養ドリンクの名前を見る。主成分はリコリスだった。そうだAIリコリスにしよう。こうして僕はAIリコリスの開発に取りかかった。
それからまたしばらくの月日が経った。AIリコリスの開発はそれなりに進めたけれど、箱となる仮想世界の準備が出来ていない。ある程度多様なルールを持った箱を用意しないと、単純作業をするただのプログラムと変わりない結果となる。僕は途方に暮れていた。箱が見つかるまで開発は保留状態だ。
今日は差し迫った作業は無い。久々に某大手動画サイトでゲームのプレイ動画を見ることにした。その中に僕が注目している人がいる。その人はとにかくゲームが上手い。しかも兄と妹という組み合わせで、息の合ったマルチプレイもこなす。実況の声を聞く限り、二人は中学か高校生ぐらいだろうか?
ただどうも最近この二人にネガティブなコメントを残していくヤツがいる。誹謗中傷に近いレベルだ。しかも二人の所在を知っているというような内容まで臭わせている。悪質だ。幸い二人とも相手にはしていないようだけど、見ていると気分が悪い。
その二人が次に実況すると言っていたのは、以前にメールをもらったアレだった。どうやら開発版のテストプレイが出来るらしい。僕もやってみたいとは思っているんだけど、どうやらジャンルはMMORPGのようなのだ。これはマズイ。
何がマズイかというと、時間を持って行かれるという部分だ。僕は一度ハマると延々とやり続けてしまうタイプで、しかも今の僕の環境はそれを抑制するものが何も無い。危険極まりない。一応インストールはしてみたものの、それ以上は何もしていない。プレイ動画を見るだけで我慢しよう。
そんなある日、いつも通り兵站部隊隊長の風海(かざみ)がやってきた。
「辛ちゃん、このゲームやってる~?」
「ああそれ、僕の作ったプログラムが一部使われているヤツですよ。」
「ええ! そうなの? すご~い!」
どうやらそれなりに評判が良いゲームになったようだ。色々なところで話題になっている。確かにプレイ動画を見た限りでは、グラフィックやサウンドのリアルさは他のゲームの比では無い。リアルさが実写を超えているのだ。自分で言っていてもおかしいと思うけれど、現実を超えたリアルって完全に矛盾だよね。
「一応受験生なんですよね? 学校の方は大丈夫なんですか?」
「学校・・・もちろん大丈夫ですよ~。」
一瞬、間があった気がする。風海の顔を見ると笑顔だった。気のせいか。
こうして僕はずっと引き籠もり生活を続けているけれど、それなりに平和な日常が続いていた。これからもずっと同じような日が続く、僕は何の根拠も無くそう考えていた。
そんな事があった程度で、何事も無い日々が過ぎていく。相変わらず僕は外出をしていない。しかしながら、外に出ようと思えば出られるのだ。そうしないのは行きたいところが無い、それだけだ。
僕は次のプログラムの作成に取りかかっていた。目指すは感情を持ったAIの作成だ。しかしAIギスケと違い、こっちを作るのは本当に難しい。もともと感情というのは何から生まれるのか? 根本として生きる上で必要な欲求、それを原理として発生したものではないだろうか? もちろん生存欲求だけでなく、群れ全体の繁栄のために仲間と協調するのにも必要となるものだ。
ではプログラムに感情を持たせるとして、欲求とはなんだろう? そもそもプログラムとは人間が目的を達成するために作り出すものだ。それは人間の意思であって、プログラムの意思では無い。だから人間っぽいAIを擬似的に作ったとしても、それは人間の指示した通りの結果を演じているだけに過ぎないのだ。
プログラムは生き物では無い。だから生存欲求というコードを書くことは出来ない。だったら何か別の目的を与えるべきだろうか? いや、そうすると結局は指示した人間の欲求をかなえる為に動くだけで、そこに感情を求めるのは無理だ。
僕はぼんやりとどうすればいいのか考えた。プログラムは指示された通りただひたすらに動く。だったらいっそルールを決めた仮想世界を作り、そこで生きていくような物を生み出せばいいのではないだろうか? どちらかというとシミュレータに近い。違いは学習を繰り返しロジックを自己改変する部分だ。
名前は何にしよう? ふと今飲んでいる栄養ドリンクの名前を見る。主成分はリコリスだった。そうだAIリコリスにしよう。こうして僕はAIリコリスの開発に取りかかった。
それからまたしばらくの月日が経った。AIリコリスの開発はそれなりに進めたけれど、箱となる仮想世界の準備が出来ていない。ある程度多様なルールを持った箱を用意しないと、単純作業をするただのプログラムと変わりない結果となる。僕は途方に暮れていた。箱が見つかるまで開発は保留状態だ。
今日は差し迫った作業は無い。久々に某大手動画サイトでゲームのプレイ動画を見ることにした。その中に僕が注目している人がいる。その人はとにかくゲームが上手い。しかも兄と妹という組み合わせで、息の合ったマルチプレイもこなす。実況の声を聞く限り、二人は中学か高校生ぐらいだろうか?
ただどうも最近この二人にネガティブなコメントを残していくヤツがいる。誹謗中傷に近いレベルだ。しかも二人の所在を知っているというような内容まで臭わせている。悪質だ。幸い二人とも相手にはしていないようだけど、見ていると気分が悪い。
その二人が次に実況すると言っていたのは、以前にメールをもらったアレだった。どうやら開発版のテストプレイが出来るらしい。僕もやってみたいとは思っているんだけど、どうやらジャンルはMMORPGのようなのだ。これはマズイ。
何がマズイかというと、時間を持って行かれるという部分だ。僕は一度ハマると延々とやり続けてしまうタイプで、しかも今の僕の環境はそれを抑制するものが何も無い。危険極まりない。一応インストールはしてみたものの、それ以上は何もしていない。プレイ動画を見るだけで我慢しよう。
そんなある日、いつも通り兵站部隊隊長の風海(かざみ)がやってきた。
「辛ちゃん、このゲームやってる~?」
「ああそれ、僕の作ったプログラムが一部使われているヤツですよ。」
「ええ! そうなの? すご~い!」
どうやらそれなりに評判が良いゲームになったようだ。色々なところで話題になっている。確かにプレイ動画を見た限りでは、グラフィックやサウンドのリアルさは他のゲームの比では無い。リアルさが実写を超えているのだ。自分で言っていてもおかしいと思うけれど、現実を超えたリアルって完全に矛盾だよね。
「一応受験生なんですよね? 学校の方は大丈夫なんですか?」
「学校・・・もちろん大丈夫ですよ~。」
一瞬、間があった気がする。風海の顔を見ると笑顔だった。気のせいか。
こうして僕はずっと引き籠もり生活を続けているけれど、それなりに平和な日常が続いていた。これからもずっと同じような日が続く、僕は何の根拠も無くそう考えていた。
0
お気に入りに追加
366
あなたにおすすめの小説
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました
mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。
ーーーーーーーーーーーーー
エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。
そんなところにある老人が助け舟を出す。
そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。
努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。
エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる