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四章 予想はよそう、第四層

68 生は駄目、チキンはキチンと火を通そう

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 僕はいつも通り停止コマンドを送るため、アクセスポイントを確認した。そして驚愕することになる。

 えええええぇぇぇぇぇ、256越え!!! ちょっと待って。

 メモリ容量と動作負荷の都合で、アクセスポイントの取得は256件までにしてあった。それで十分だと思っていたのだ。しかしその最大件数はあっさりと破られた。まあ、それでオーバーフローするようなアホなプログラムは組んで無いけど。

 今からでは、見つけたものを片っ端から停止させるようにプログラムを組み直す時間は無い。とりあえずは逃げよう。僕はアクセルを踏み込む。あまり速度を上げすぎると、燃費が悪くなるから嫌なんだよなあ。

 僕は肉眼で周囲を確認するものの、100を超えるはずの敵の姿はまったく認識できない。さすがに見つからないなんてあり得ないはずだ。僕はスバードに索敵を命令する。するとあっさり発見したようだ。ノートPCに映し出されたのは、ぱっと見は黒い霧だった。

 霧? なんか凄い嫌な予感がするんだけど。

 スバードにズームしてもらった。するととんでもないものが映し出された。イナゴのような姿をした虫型ロボットが大量に飛んでいる。

 ヤバイヤバイヤバイ

 燃費のことなど頭から消え去り、アクセルを突き破る勢いで力一杯踏み込む。パニック映画でありそうなシチュエーションだ。あの黒い霧に巻き込まれた自分の姿を想像して戦慄する。怖い、怖すぎる。

 クラックさえしてしまえば、第四層の魔物など恐るるにたり無いと思っていた。しかし案の定、僕の想定など簡単に踏み越えてくる。それがソルトシールダンジョンだ。

 虫の大群は、幸いなことにそれほど移動速度は速くなかった。装甲車の速度で十分引き離すことが可能だった。しかし冷静になったときには時既に遅し。ガソリンをぶん回して走った装甲車は、第四層の出入り口を前に力尽きた。そう、ガス欠だ。つまり終着の村に戻るためには、装甲車無しでアンアン地帯を通り抜けなければならない。

 さあ、またまたヤバくなってまいりましたよ。

 一難去ってまた一難。ちょっと作戦を考えよう。隠匿の指輪を使いつつ、ウーナに乗って通り抜けるとか。いや、たぶんそんな速度で走ったら、隠匿の指輪の効果が切れるだろう。しかしゆっくり移動していたら、魔力切れで終了だ。

 指輪の効果無しで突撃したら、たぶんウーナ自体は問題ない。しかし上に乗っている僕が、アンアンと衝突してジ・エンドだ。よし、正攻法で行こう。普通にアンデッドを倒して進めばいい。そんなことが可能かだって? 今の僕はロボモンマスターだ。自分は戦わず、後ろを付いて進めば良いのだ!

 そして僕は螺旋階段を登り第三層に戻る。ボス部屋を出て少し進んだ後、墓場ゾーンへの入り口へやってきた。空を見上げると、きれいな月が出ていた。満月だ。

「アイボウは前方の敵を蹴散らせ。ウーナは僕の周辺に敵が来ないように警戒。スバードは上空からウーナの取りこぼしをフォローして僕を守れ!」

 攻撃に対して守備多め。それが今回の作戦だ。チキンだって? うん、鶏肉美味しいよね。

 そして墓場ゾーンへと足を踏み入れた。鉄の装甲で守られていない状況がこんなに不安だとは。そういえば最近、まともに戦ってなかったからなあ。ぬるい状況に身を置きすぎた。僕ってダンジョンに入った当初の頃の方が、まともに戦ってたよね? でもインチキをしているとは思っていない。ダンジョンのバランス設定がおかしすぎるのだ。

 さあ、まずはスケルトン達がお出迎えだ。いつも通り、矢が雨のように降り注ぐ。

 いや・・・いつも通りじゃ無かった。いくら雨のような矢といっても、空が完全に見えなくなる量ってどうなんだ? 西洋のロングボウ部隊かっちゅーの。そんな数がどこにいたんだ?

 作戦通り前方のスケルトンに向かって突撃していくアイボウ。周辺を警戒し、僕の周りをグルグル回るウーナ。空を覆い尽くして近づいてくる矢の塊。

「え? もしかして終わった? 僕、終わった?」

 真っ暗になった空。そして僕に終焉をもたらすであろう雨。僕はそれを、ただ口を開けで眺めることしか出来なかった。なんで今回に限ってそんなに数が多いのか、理不尽にもほどがあると、心の中でちょっと腹を立てていた。
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