上 下
61 / 208
四章 予想はよそう、第四層

61 グイッと来ないGUI、キュイっと動かないCUI

しおりを挟む
 股の間にキャノンを持っているロボット、僕は奴から逃れるためそっと身を翻し、近くにあった扉を開け中に隠れる。

 心臓がバクバクしている。似ているだけなんだろうか? いや、あの特徴的な身体とそして顔、どう考えてもアイツだ。戦闘力とかそういう領分を超えて、色々な意味での危険性しか感じない。

 落ち着くために雑学を一つ。ロボットの構造は大まかに分けて、外骨格系と内骨格系の2種類がある。日本国産の有名なロボットは、外側のフレームで身体を支える外骨格系の物が多い。それに対し骨のような構造で内側から身体を支えるのが内骨格系だ。内骨格系の特徴は外側のスキンが柔軟に選択できることだ。SFに出てくるような人間そっくりのアンドロイドは内骨格系に属し、見るからにロボットっぽいタイプは外骨格系だ。

 そして奴は内骨格系ロボットだ。時代の先を行っていると昔、話題をさらったアイツにそっくりなのだ。とにかくあのキャノンが火を噴いたら、僕など粉微塵にされるに違いない。そして奴にはスキンが張られておらず、骨格はむき出しになっている。・・・これ以上、奴の出自については考えるのをやめた方が良いかもしれない。本当に危険なのだ。

 僕は周囲を確認する。部屋の中は、非常灯がうっすらと部屋を照らしている。見たところ色々な器具が置いてある部屋だ。僕は照明のスイッチを探す。たぶんこれだろう。実は罠で警報装置だとか言う落ちはさすがにあるまい。

 照明のスイッチを入れると部屋が明るく照らされた。いきなり攻撃してきそうな物はない。僕は散乱するように置いてある器具を確認する。半田ごて発見。おっLSIリーダ/ライタもある。どうやらここは工作室のようだ。他にも電子パーツっぽい物がケースに詰め込まれていた。それらを魔法の袋に放り込んでいく。もしかしたら後で流用できるかもしれない。ちなみに第四層に落ちている物は、この世界ではほとんどが無価値なのであまり高く売れないようだ。

 股の間にキャノンを持つ内骨格ロボットに見つからないように、他の部屋も探索してみよう。その前に僕は魔力計リストバンドを確認する。さっき30秒ぐらい使ったはずなのに、魔力は90%ほど残っていた。単純計算で残り4分30秒。いつの間にか僕の魔力が増加していたらしい。そういえば、あれだけ覚えたかった魔法は、何一つとして習得していない。まあ、汎用属性の僕じゃカネの無駄遣いにしかならないのだろう。上位魔法をバンバン使えるようなチート能力でもあれば良かったんだけどね。

 そして隠匿の指輪を細かく刻みながら使い、いくつかの部屋を回った。そこで使えそうな物を魔法の袋に詰める。泥棒ってこういう気分なのかな? まあ、ダンジョンだし、持って行っても問題ないよね?

 そんな中、とある物の前にたどり着く。目の前にあるのはノートPCだ。ついに出た。紙に書かれていたユーザアカウントを使うときが来たのかもしれない。

 僕はPCを立ち上げる。起動プロセスの出力がディスプレイに文字として表示されていく。この起動画面、OSはUnix系の何かだ。GUIは立ち上がらず、ユーザ名を求めるテキストのプロンプトが点滅する。僕はあのユーザ名を入力しようとし手が止まる。ええっと・・・CUI状態で日本語入力できないんだけど? どのキーを押しても、それっぽい挙動をしない。

 くそ、ユーザ名を日本語で設定したバカは誰だ? こういう時に困るだろう。僕はPCにリブートをかけ、ブートローダが表示された時点で割り込みをかける。どうやらローダのコンフィグレーションはロックされていないらしい。パラメータ設定を予測し、シングルユーザモード起動、ユーザ認証をスキップした。セキュリティがザルだ。まあ、現物を物理的に確保している時点で、セキュリティも何も無いんだけどね。ストレージ全体を暗号化されていたらさすがに厄介だけど。

 PCの管理者権限を得た僕は、中のデータを確認する。ネットワーク系の設定は入っていない。完全にスタンドアロンだった。そして登録ユーザは「Admin」一つだけ。どうやらあのIDとは無関係のPCのようだ。一発逆転のチャンスかと思ったのに肩すかしを食らった気分だ。とりあえずこのPCも魔法の袋に放り込んだ。後でもう少し調べてみよう。

 一通りの探索を終え、一度も戦闘をせずにこっそり建物を脱出する。なんだか逃げ隠ればかり上達していく気がする。さすがにカッチェレベルには及ばないけど。彼の隠密スキルは、その能力だけ考えれば剣聖や武王に匹敵するんじゃないかと思っている。あれだけの能力を持ちながら、第三層で大けがを負ったというのが逆に信じられない。「勝つ」ではなく「逃げる」のであれば、何とかなったはずなのだ。

 色々と謎が謎を呼んでいるような気がするけれど、まずは第四層の攻略だ。まともにやっても勝てないのなら、まともにやらなければ良いだけなのだ。相手のルールで勝てないのなら、勝てるルールを作れば良い。スポーツ競技でも、自分の国が有利になるようにルールを変えてしまうなんて良くあることだ。

 僕は終着の村へ戻る帰り道、装甲車を運転しながらそんなことを考えていた。しばらく戻らないと思って色々買い込んだんだけど、PCを手に入れたため発電機を作らなければいけなくなった。ということで村に戻って発電用のエンジンを作る。

 今回集めた物で上手く立ち回れば、第四層は意外とあっさり何とかなるかもしれない。



【  35日目  】
単価     個数  金額     項目           
-------------------------------------------------------------
  4万5000蝸  1個   4万5000蝸 風呂燃料売り上げ50%    
 -1万0000蝸  1個  -1万0000蝸 借金返済(8)        
  2万0000蝸  1個   2万0000蝸 鍛冶屋燃料売り上げ50%   
[ 残金 195万7800蝸 ]
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました

mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。 ーーーーーーーーーーーーー エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。 そんなところにある老人が助け舟を出す。 そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。 努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。 エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...