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終章 世界の終わりと創世の伝説
238 新風が吹いてくるかもしれない神父
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僕は目の前の捕虜が誰なのかよく知っている。
僕がオキスだった時に、試しの剣を求めてエンプティモのエリッセン大聖堂へ旅をした。
その時に案内役をしてくれた人物、メリクル神父だ。
当時の印象は体格と人の良い、好感の持てる人物だ。
エンプティモまでの道のりと、そしてエンプティモ防衛戦の時にはだいぶ助けられた。
防衛戦が終わった後は、負傷者を癒やすために休む間もなく働いた。
そんな尊敬できる人なのだ。
彼は両手を拘束され、椅子に座らされている。
両サイドにレイネスの部隊員が立っている。
メリクル神父は背筋を伸ばし、どうどうとしていた。
目を瞑っているのは瞑想でもしているのだろうか?
僕は彼の向かいの椅子に腰掛ける。
「僕の名はアグレト、レイネスの代表をしています。
いくつか伺いたいことがあるのですが、よろしいですか?」
意を決して僕はメリクル神父に話しかけた。
メリクル神父の目が開く。
そして眼光鋭く僕を見つめる。
「魔族の手先が私に何を聞きたのですか?」
メリクル神父から出た言葉は、ハッキリとした拒絶だった。
「レイネスに魔族の協力者はおりますが、我々は彼らの手先というわけではありません。
ところで、オキスという名を覚えていますか?」
僕がオキスの名前を出すと、メリクル神父は少し迷いの入った表情をしたように見えた。
「・・・もちろん。
一緒に旅をしたことがあります。
忘れるわけがありません。
勇者にこそ選ばれませんでしたが、素晴らしい心と力を持った少年です。」
力強く答える神父。
「彼が以前までレイネスの代表をしていたことはご存じですか?」
「知っていますよ。
そして彼が魔族だったことも。
残念です。」
神父はそう答えた。
知った上でオキスを褒めてくれていたようだ。
「メリクル神父、オキスは確かに魔族ですが、彼は倒すべき敵ですか?」
僕は神父の名前を呼んだ上で聞く。
「ここに来て、誰にも名前を名乗ってはいないはずですが。
ずいぶんと情報が漏れていたようですね。
質問についての答えですが、私は神の意志に従う聖職者。
等しく神の元にある者に、個人の見解など意味はありません。」
「逆に僕は神の意志に興味はありません。
その個人の見解というのを聞きたいのです。」
「世界は神の元で平等であるべきです。
そして平等を阻む存在があれば、例え最愛の恋人であっても相対することになるでしょう。」
僕はメリクル神父の言いたいことを理解した。
オキスとしての僕は、メリクル神父に魔族であることを秘密にしていた。
これを裏切りと思ってもしかたが無い。
しかし彼は立場上相対する事になっても、個人的には恨んではいないと言っているのだ。
「神の元の平等とは、神の元の奴隷ということです。
そんな平等に意味がありますか?」
僕はジェイエルにも同じようなことを言った気がする。
「それをあなたと話しても、堂々巡りにしかならないでしょう。
私に聞きたかったことはそんなことなのですか?」
「リーフ、ジブルト、セフリ、この中に知っている名前は?」
「リーフ様はもちろん存じています。
教会から聖女の称号を賜っている方ですから。」
「今、どこにいるかは?」
「・・・お答えできません。」
メリクル神父に嘘をつくという選択は無いらしい。
「その他の二人は?」
「セフリという名なら聞き覚えがあります。
そう呼ばれていた女性を、エンプティモで何回か見かけたことがあります。
それ以上は存じません。」
エンプティモにいたことは分かった。
これだけでも大収穫だ。
セフリは人間の国での目撃情報があり、ジブルトはさっぱり情報が入ってこない。
「クルセイダーズは人を救うと思いますか?」
「人を救うのは神です。
クルセイダーズは神の呼び水に過ぎません。」
なるほど、それが教会の考え方か。
「エリッセン大聖堂が帝国と対立するつもりは?」
僕は盗聴した情報から得られている内容を投げかけてみた。
「神の御心次第です。」
つまり対立する可能性がある、いやたぶん既に反乱計画にも関わっているのだろう。
「聞きたいことは以上です。
メリクル神父、出来ればあなたには神の意志とは関係なく人を救う人物になってもらいたい。
それがあなたを尊敬していたオキスの願いです。」
戦いが終わったらメリクル神父には自由になってもらいたい。
教会の人達は信仰に従っているだけで、悪者では無いのだ。
問題なのは信仰対象の神がドイヒー過ぎるだけなのだ。
僕は複雑な思いを巡らしながら部屋を出た。
信仰無双だった。
僕がオキスだった時に、試しの剣を求めてエンプティモのエリッセン大聖堂へ旅をした。
その時に案内役をしてくれた人物、メリクル神父だ。
当時の印象は体格と人の良い、好感の持てる人物だ。
エンプティモまでの道のりと、そしてエンプティモ防衛戦の時にはだいぶ助けられた。
防衛戦が終わった後は、負傷者を癒やすために休む間もなく働いた。
そんな尊敬できる人なのだ。
彼は両手を拘束され、椅子に座らされている。
両サイドにレイネスの部隊員が立っている。
メリクル神父は背筋を伸ばし、どうどうとしていた。
目を瞑っているのは瞑想でもしているのだろうか?
僕は彼の向かいの椅子に腰掛ける。
「僕の名はアグレト、レイネスの代表をしています。
いくつか伺いたいことがあるのですが、よろしいですか?」
意を決して僕はメリクル神父に話しかけた。
メリクル神父の目が開く。
そして眼光鋭く僕を見つめる。
「魔族の手先が私に何を聞きたのですか?」
メリクル神父から出た言葉は、ハッキリとした拒絶だった。
「レイネスに魔族の協力者はおりますが、我々は彼らの手先というわけではありません。
ところで、オキスという名を覚えていますか?」
僕がオキスの名前を出すと、メリクル神父は少し迷いの入った表情をしたように見えた。
「・・・もちろん。
一緒に旅をしたことがあります。
忘れるわけがありません。
勇者にこそ選ばれませんでしたが、素晴らしい心と力を持った少年です。」
力強く答える神父。
「彼が以前までレイネスの代表をしていたことはご存じですか?」
「知っていますよ。
そして彼が魔族だったことも。
残念です。」
神父はそう答えた。
知った上でオキスを褒めてくれていたようだ。
「メリクル神父、オキスは確かに魔族ですが、彼は倒すべき敵ですか?」
僕は神父の名前を呼んだ上で聞く。
「ここに来て、誰にも名前を名乗ってはいないはずですが。
ずいぶんと情報が漏れていたようですね。
質問についての答えですが、私は神の意志に従う聖職者。
等しく神の元にある者に、個人の見解など意味はありません。」
「逆に僕は神の意志に興味はありません。
その個人の見解というのを聞きたいのです。」
「世界は神の元で平等であるべきです。
そして平等を阻む存在があれば、例え最愛の恋人であっても相対することになるでしょう。」
僕はメリクル神父の言いたいことを理解した。
オキスとしての僕は、メリクル神父に魔族であることを秘密にしていた。
これを裏切りと思ってもしかたが無い。
しかし彼は立場上相対する事になっても、個人的には恨んではいないと言っているのだ。
「神の元の平等とは、神の元の奴隷ということです。
そんな平等に意味がありますか?」
僕はジェイエルにも同じようなことを言った気がする。
「それをあなたと話しても、堂々巡りにしかならないでしょう。
私に聞きたかったことはそんなことなのですか?」
「リーフ、ジブルト、セフリ、この中に知っている名前は?」
「リーフ様はもちろん存じています。
教会から聖女の称号を賜っている方ですから。」
「今、どこにいるかは?」
「・・・お答えできません。」
メリクル神父に嘘をつくという選択は無いらしい。
「その他の二人は?」
「セフリという名なら聞き覚えがあります。
そう呼ばれていた女性を、エンプティモで何回か見かけたことがあります。
それ以上は存じません。」
エンプティモにいたことは分かった。
これだけでも大収穫だ。
セフリは人間の国での目撃情報があり、ジブルトはさっぱり情報が入ってこない。
「クルセイダーズは人を救うと思いますか?」
「人を救うのは神です。
クルセイダーズは神の呼び水に過ぎません。」
なるほど、それが教会の考え方か。
「エリッセン大聖堂が帝国と対立するつもりは?」
僕は盗聴した情報から得られている内容を投げかけてみた。
「神の御心次第です。」
つまり対立する可能性がある、いやたぶん既に反乱計画にも関わっているのだろう。
「聞きたいことは以上です。
メリクル神父、出来ればあなたには神の意志とは関係なく人を救う人物になってもらいたい。
それがあなたを尊敬していたオキスの願いです。」
戦いが終わったらメリクル神父には自由になってもらいたい。
教会の人達は信仰に従っているだけで、悪者では無いのだ。
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僕は複雑な思いを巡らしながら部屋を出た。
信仰無双だった。
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