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終章 世界の終わりと創世の伝説
210 睨むのはニラだけにして欲しい
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僕が配属されたのは基礎学研究部門だ。
ぱっとしない感じに思えるかも知れないけれど、そうではない。
各部署で解決不能になった案件が持ち込まれ、その解決方法を考える場所なのだ。
僕は異界の辞典の力を遺憾なく発揮した。
技術的な困難をどんどん解決していった。
それに伴い僕の立場はどんどん上がっていった。
クルセイダーズや神獣との戦いが待っているのだ。
武器や輸送の技術は確実に向上させておかなければならない。
そんな形で活躍する僕を、大賢者オキス様の再来と呼ぶ人が現れた。
そもそもオキスはいつの間に大賢者になったんだろう?
ちなみにブレイトンさんは、いつの間にか医療部門の幹部に出世していた。
悪徳商人ペネッティは、レイネスに来てからは違法な商売はしていないようだ。
フェイエルト商会という大手の商会で重要なポストに就いた。
商会で働きながら、人脈を拡大しつつ僕が教えた金の卵を使うタイミングを計っている。
僕は時間を惜しんで働いている状況だ。
考えてみると、以前の世界ではここまで真面目に働いたことは無かった気がする。
そんなある日、僕は廊下で顔見知りと出くわす。
エリッタだ。
エリッタはこの街では紅姫(こうき)と呼ばれている。
場合によっては紅鬼(こうき)という意味で呼ぶ人もいる。
表の警備部門のトップとして大活躍している。
街で不正を働く犯罪者を災害じみた力で検挙し、嵐が過ぎ去ったその跡は赤く染まるという。
後ろ暗いことがある者は、彼女を見たら震え上がるという。
僕はエリッタと目が合った。
つい癖が出てしまい、僕は笑顔を向ける。
それを見たエリッタは僕を睨み付ける。
そしてしばらくすると、何も言わずに立ち去った。
気安すぎたかもしれない。
アグレトという名の僕は、何故だか嫌われているようだ。
その日以降、何故だかちょくちょくエリッタと擦れ違うことが増えた。
しかしいつも睨んで去って行くだけで話をすることは無かった。
時々それ以外にも妙な視線を感じるんだけど、もしかして監視でもされているんだろうか?
そして忙しく研究を続ける日々が続いた。
オキスだった頃の想定以上に、街のインフラ整備が進んでいく。
工業プラントもかなり高度な物が製造できるレベルまでになっている。
異界の辞典から引っ張ってきた設計図を使えば、ミサイルや飛行機の製造すら可能なレベルだ。
ただし複雑の物の製造には時間がかかる。
とりあえずは収容力の高い空輸手段の確保を優先したかったので、輸送用の大型飛行船の製造を提案した。
僕の案はあっさり可決され、試作機の開発が始まることとなった。
実はレイネスでは既に、通信の中継アンテナをのせた小型飛行船が実用化されている。
一日働いて疲れた僕は晩ご飯を済ませた後、共有スペースのテラスで夜風に当たりながら酒を飲んでいた。
今の体はとっくに成人しているので、酒を飲んでも特に問題は無い。
僕は空を見上げる。
この世界にも月があり、そしてちょうど満月だった。
そろそろ自分の部屋に戻ろうと振り返ったとき、月明かりの反射で輝く髪が見えた。
リプリアだ。
「やあ、君もお月見かい?」
僕はリプリアに話しかけた。
何度か気配を感じたような気がするんだけど、アグレトとして直接会うのは初めてだ。
「・・・。」
リプリアは僕を見つめたまま何も言おうとしない。
エリッタのように睨んだりもしない。
ただ僕をじっと見つめていた。
「・・・様。」
良く聞き取れなかったけれど、リプリアがようやく口を開いた。
そして突然剣を抜く。
久々に見たリプリアの魔法剣だ。
月明かりに剣の刃とリプリアの髪が輝く。
そんなリプリアを今度は僕が黙って見つめた。
リプリアはゆっくりと動いた。
そして剣を床に向け、膝を付く。
「オキス様、わたくしが再びあなたにお仕えすることをお許しください。」
そうリプリアはそう言った。
ハゲ頭だったら月明かり無双になれるかな。
ぱっとしない感じに思えるかも知れないけれど、そうではない。
各部署で解決不能になった案件が持ち込まれ、その解決方法を考える場所なのだ。
僕は異界の辞典の力を遺憾なく発揮した。
技術的な困難をどんどん解決していった。
それに伴い僕の立場はどんどん上がっていった。
クルセイダーズや神獣との戦いが待っているのだ。
武器や輸送の技術は確実に向上させておかなければならない。
そんな形で活躍する僕を、大賢者オキス様の再来と呼ぶ人が現れた。
そもそもオキスはいつの間に大賢者になったんだろう?
ちなみにブレイトンさんは、いつの間にか医療部門の幹部に出世していた。
悪徳商人ペネッティは、レイネスに来てからは違法な商売はしていないようだ。
フェイエルト商会という大手の商会で重要なポストに就いた。
商会で働きながら、人脈を拡大しつつ僕が教えた金の卵を使うタイミングを計っている。
僕は時間を惜しんで働いている状況だ。
考えてみると、以前の世界ではここまで真面目に働いたことは無かった気がする。
そんなある日、僕は廊下で顔見知りと出くわす。
エリッタだ。
エリッタはこの街では紅姫(こうき)と呼ばれている。
場合によっては紅鬼(こうき)という意味で呼ぶ人もいる。
表の警備部門のトップとして大活躍している。
街で不正を働く犯罪者を災害じみた力で検挙し、嵐が過ぎ去ったその跡は赤く染まるという。
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僕はエリッタと目が合った。
つい癖が出てしまい、僕は笑顔を向ける。
それを見たエリッタは僕を睨み付ける。
そしてしばらくすると、何も言わずに立ち去った。
気安すぎたかもしれない。
アグレトという名の僕は、何故だか嫌われているようだ。
その日以降、何故だかちょくちょくエリッタと擦れ違うことが増えた。
しかしいつも睨んで去って行くだけで話をすることは無かった。
時々それ以外にも妙な視線を感じるんだけど、もしかして監視でもされているんだろうか?
そして忙しく研究を続ける日々が続いた。
オキスだった頃の想定以上に、街のインフラ整備が進んでいく。
工業プラントもかなり高度な物が製造できるレベルまでになっている。
異界の辞典から引っ張ってきた設計図を使えば、ミサイルや飛行機の製造すら可能なレベルだ。
ただし複雑の物の製造には時間がかかる。
とりあえずは収容力の高い空輸手段の確保を優先したかったので、輸送用の大型飛行船の製造を提案した。
僕の案はあっさり可決され、試作機の開発が始まることとなった。
実はレイネスでは既に、通信の中継アンテナをのせた小型飛行船が実用化されている。
一日働いて疲れた僕は晩ご飯を済ませた後、共有スペースのテラスで夜風に当たりながら酒を飲んでいた。
今の体はとっくに成人しているので、酒を飲んでも特に問題は無い。
僕は空を見上げる。
この世界にも月があり、そしてちょうど満月だった。
そろそろ自分の部屋に戻ろうと振り返ったとき、月明かりの反射で輝く髪が見えた。
リプリアだ。
「やあ、君もお月見かい?」
僕はリプリアに話しかけた。
何度か気配を感じたような気がするんだけど、アグレトとして直接会うのは初めてだ。
「・・・。」
リプリアは僕を見つめたまま何も言おうとしない。
エリッタのように睨んだりもしない。
ただ僕をじっと見つめていた。
「・・・様。」
良く聞き取れなかったけれど、リプリアがようやく口を開いた。
そして突然剣を抜く。
久々に見たリプリアの魔法剣だ。
月明かりに剣の刃とリプリアの髪が輝く。
そんなリプリアを今度は僕が黙って見つめた。
リプリアはゆっくりと動いた。
そして剣を床に向け、膝を付く。
「オキス様、わたくしが再びあなたにお仕えすることをお許しください。」
そうリプリアはそう言った。
ハゲ頭だったら月明かり無双になれるかな。
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