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3章 冒険の始まりと動き出す王国

67 魔王の重い思い

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 昨日は何度も死にそうになる酷い一日だった。
 そして僕の安眠を邪魔する地震。
 その後は特に何も無くさわやかな朝を迎えた。

 魔力も二割ぐらいは回復した。
 魔力量の増加と共に回復力も多少上がっている
 しかしだんだんと満タンまで回復する時間が延びている。
 やっぱり魔力無限回復スキルが欲しい。

『おはよー。』

「・・・。」

『ちょっとー、無視しないでよ。』

 現時点であまり役に立たないユニークスキルが話しかけてきた。

「いや、だってここで話しかけたらブツブツ独り言を言っている怪しい人物になるでしょ。」

 僕は朝の散歩中だ。
 村の人と時々擦れ違う。

『声を出さなくても、話は出来るよ。』

《へえ、そうなんだ》

『そうそう、それで大丈夫。』

《それで何か用?》

『朝の挨拶よ。
 まったく基本よ、基本。』

 面倒くさそうなので挨拶を返しておいた。
 僕はこの日忙しい。
 散歩をしている時間はあるが、脳内妄想みたいなスキルと話している暇は無い。
 
 エリッタの治療。
 冒険者達と大量に発見された魔晶石の分け前を交渉。
 そして巨大クルタトル討伐に関して根掘り葉掘り。
 村では既に伝説の勇者となりつつある。

 しかし僕は本物の試しの剣は、引き抜くことが出来ないという予感がしている。
 正直なところ抜けなかったときに恥ずかしいから、勇者ともてはやすのはやめて欲しい。
 前世でも余計な期待をかけられ、大失敗をしているし。
 いや、前世はどうでもいい、今は別の人間だ。

 エリッタの熱もだいぶ引いてきたので、明日にはロブルトンに出立することになっている。
 そして今僕は村の外れにいる。

「オキス様、私はこちらにおります。」

 声は聞こえているけれど、姿は見えない。
 僕は具合が良さそうな切り株に腰をかける。

「ブリゲアン、色々聞きたいことはあるんだけど。
 まずは僕が生まれた前後の話が知りたい。
 母はいったい何をしようとしていたの?」

「はい、私の知っていることであればお伝えいたします。」

 ブリゲアンは語り始めた。
 魔王アストレイアは僕を懐妊した。
 ブリゲアンも父親が誰かは知らないらしい。
 その時に母は語ったという。
 この子は絶対を覆す希望だと。

 そして母は行動に出た。
 召喚の儀を行ったのだ。
 その意図は不明ながら異世界から人間を呼び寄せたらしい。
 しかしどこかしらの妨害が入り儀式は失敗。
 呼び寄せた人間が想定していなかった場所にとばされる事態になった。
 ブリゲアンは捜索を命じられる。

 そして発見するも場所は帝国首都トレンテ。
 魔族がおいそれと手出しできる場所では無かった。
 それを聞いた母は挙兵する。
 たった一人の人間を奪取するために戦争を起こしたのだ。

 首都を殲滅するも、探していた人間には逃げられてしまう。
 母は僕を出産するため捜索を断念。
 魔領に引き返した。
 その後、母からの命令は出ていなかったにも関わらず、魔王の弟グレバーンが周辺の街へ侵攻する。
 それに対して母は侵攻の停止と帰還命令を出した。

 その後、母は僕を出産する。
 母は僕を出産したことにより、かなり弱っていた。
 魔力が著しく低下していたようだ。
 無事に出産を終えた母は、ブリゲアンに神の遺跡の封印解除を命令する。
 人間の支配地域に存在する封印を全て解除せよとのことだった。
 母は自分に何があろうと命令を遂行するようにと厳命した。
 そして後継者たる我が子に従うようにと。

 他の魔族にも何らかの指示が与えられていたようだが詳細は不明だ。
 ブリゲアンは命令を遂行するために数人の仲間の共に魔領から出立した。
 そこで魔王討伐の訃報を受けることになる。

「なるほど、繋がった点もあるけどまだ謎だらけだ。」

 いったい母は何をしようとしていたのだろう。
 そして僕に何をさせようというのだろうか。
 勘弁してもらいたいことに、世界の騒動は僕が転生したことを起点として発生している。

「申し訳ございません。
 私も魔領から離れて久しく、近しい者から時々入る情報しかございません。
 ただ一つ。」

「一つ?」

「グレバーン様にお子が。。
 竜種の后から姫がご生誕なさいました。
 オキス様がお生まれになってから、半年後でございます。」

 僕には従姉妹がいたらしい。
 いずれ会うこともあるのだろうか。

「ところで、魔族の中で僕の位置付けは?」

「アストレイア様のご崩御とともに行方不明扱いでございました。
 いくつか噂が立っていて、人間によって連れ去られたというものや、有力魔族によって匿われているものなどがまことしやかに囁(ささや)かれておりました。」

「後者が正解だね。
 ところで母の勢力下で魔法が得意な小人って知っている?
 僕は爺と呼んでいたけれど、しばらくは爺と魔領の山で過ごしていたんだ。」

「あの方が・・・。
 はい、存じております。
 名はジブルト、アストレイア様の参謀を務めていた者でございます。
 遺跡の封印解除は元々あの者の発案です。
 どんなやりとりがあったのかは存じませんが、最終的にアストレイア様が承認されたのです。」

 爺とはいずれ会うことになるだろうから、細かい経緯は経緯はそのとき聞こう。
 たぶん生きているだろうから。

「その後の情勢を知りたい、帝国との戦いはどうなってるの?」

 ブリゲアンが入手している情報は、優勢だった魔族が押し返されているという話だった。
 その中心にいるのが魔神ギスケ。
 そして驚きだったのは、ギスケこそが母が召喚した人間なのだということだ。
 大規模な騒動には、必ずうちの母が関わっている。
 魔族はそれに対抗するため周辺諸国を扇動し、帝国との緊張を高めたりと色々画策している。
 ただギスケが強すぎて状況は芳しくないという。

「ロブルトンの方へ戻られますと、私では入り込むのが難しくなります。
 戻られましたら連絡係をお送りします。
 何かあったときにはその者にお命じください。」

 色々な情報を得られたけれど、今日はもう時間が無い。
 必要なことがあれば、連絡係に頼めば良いだろう。
 最後に魔王の息子の存在を公には伏せておくように指示を出した。






 もしや召喚無双だったのか?
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