上 下
61 / 262
3章 冒険の始まりと動き出す王国

62 威光の力に移行する

しおりを挟む
 僕に向かって三メートル級の岩が降ってくる。
 このまま行けば直撃だ。
 さすがにこれを躱(かわ)す手立ては無い。
 心残りは沢山あるが、けっこうやれた方ではあるだろう。

『ちょっとー、諦めちゃうの?』

 唐突に頭の中から声が響く。
 そういえばこの子と話が出来てなかったな。

「さすがに無理、もう体が動かないよ。」

 僕は頭の中から聞こえる少女の声に応える。

『えぇー、ようやく声が届いたのに。』

 少女は残念そうだ。

「君は僕のユニークスキルなんだよね。
 打開する手立てとかあるのかい?」

『え、知ってたの?
 結論から言います。
 アタシにそういう力はありません。』

「やっぱりね。
 そんな気がしてたんだ。」

 岩は僕の視界を覆い、空が見えなくなる。
 僕は覚悟を決めて目を瞑る。
 ドーンという轟音が響く。

 ん?轟音が響く?
 なんで音が聞こえる?

「あれ?」

 僕は落ちてきた岩から数メートル離れたところに立っていた。
 体に植物の蔓(つる)のようなものが巻き付いている。

「なんだいこの状況は?
 私がいない間に偉いことになってないかい?
 ちょっと事情を聞いて良いかな?」

 僕の目の前にはローブの男が立っていた。
 右腕から植物のようなものが出ている。
 僕に巻き付いている蔓はそこから出ていた。
 ローブの男は僕の顔を覗き込んでくる。

「うんん?もしかして君はクエルクの。
 ああ、久しぶりだねオキス君。」

 ローブの男、魔術師ワイアデスの事件の裏にいた魔族だ。
 まさかこの男に助けられるとは。

「もしかしてあの亀の魔物は。」

 僕が聞く。

「クルタトルの事かい?
 そうだよ。
 ちょっとした実験をしてたのさ。
 せっせと育てていたのに、酷いことになってるね。」

 ローブの男は同士討ちでボロボロになっていく巨大クルタトルを悲しそうに見つめている。
 そしてふと思い当たったのか、僕に尋ねてくる。

「もしかして精神魔法かけたの?」

「・・・。」

 僕は答えなかった。
 この魔族に情報を与えてもメリットは無い。

「人間で精神魔法を使うなんて轟魔(ごうま)ぐらいしか知らないよ。
 彼だってここまで激しい同士討ちをさせるなんて出来るはずは無いし。
 あのお方なら朝飯前だろうけど。」

 ローブの男は僕をじっと見る。

「君・・・もしかして魔族なのかな?
 クラレウスの鎖の効果・・・。
 なるほど、それなら合点はいく。
 いや、魔族だったとしてもこの幼さでは。
 可能性があるというと・・・ハッ!」

 何か閃いたようだ。

「あのぉ、一つお尋ねします。
 あなた様の母君はアストレイア様というお名前だったりしませんかね?」

 ローブの男が不安げな表情で尋ねてくる。

「・・・。」

 僕は黙っていた。
 しかし状況を悟ったのか、ローブの男はみるみる青ざめていく。
 しばらくは口をパクパクさせていたが、ついに声を絞り出す。

「ひぃぃぃ。
 知らぬ事とは言え、ご無礼を。
 何とぞ、何とぞご容赦を。
 私は非力な身ではありながらアストレイア様からの命(めい)を賜っております、ブリゲアンと申します。」

 額を地面にこすりつける。
 これ以上は無いと言うほどの見事な土下座だ。

「もしかして僕がこっちに飛ばされた事情とかを知ってたりするの?」

「いえ、そこは存じ上げません。
 しかし私の知っていることであれば何でもお答えいたします。
 本当に、本当に今までのご無礼は・・・。」

 何度も地面に額を打ち付ける。
 僕の母親の威光なんだろうけど、どれだけなんだ。
 
 クルタトルの同士討ちの音が弱まってきた。
 クルタトル達はもうボロボロになっており、そろそろ限界が来ているのだろう。
 この後も一波乱ありそうだけど、危機はひとまず脱することが出来たようだ。
 




 親の七光り無双だった。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

転生賢者の異世界無双〜勇者じゃないと追放されましたが、世界最強の賢者でした〜

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人は異世界へと召喚される。勇者としてこの国を救ってほしいと頼まれるが、直人の職業は賢者であったため、一方的に追放されてしまう。 だが、王は知らなかった。賢者は勇者をも超える世界最強の職業であることを、自分の力に気づいた直人はその力を使って自由気ままに生きるのであった。 一方、王は直人が最強だと知って、戻ってくるように土下座して懇願するが、全ては手遅れであった。

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

リヴァイヴ・ヒーロー ~異世界転生に侵略された世界に、英雄は再び現れる~

灰色キャット
ファンタジー
「君に今の時代に生まれ変わって欲しいんだ」 魔物の王を討伐した古き英雄グレリア・ファルトは死後、突然白い世界に呼び出され、神にそう言われてしまった。 彼は生まれ変わるという言葉に孫の言葉を思い出し、新しい人生を生きることを決意した。 遥か昔に生きていた世界がどう変わっているか、発展しているか期待をしながら700年後の時代に転生した彼を待ち受けていたのは……『英雄召喚』と呼ばれる魔法でやってきた異世界人の手によって破壊され発展した――変貌した世界だった。 歴史すら捻じ曲げられた世界で、グレリアは何を求め、知り……世界を生きるのだろうか? 己の心のままに生き、今を知るために、彼は再び歴史を紡ぐ。 そして……主人公はもう一人――『勇者』、『英雄』の定義すら薄くなった世界でそれらに憧れ、近づきたいと願う少年、セイル・シルドニアは学園での入学試験で一人の男と出会う。 そのことをきっかけにしてセイルは本当の意味で『勇者』というものを考え、『英雄』と呼ばれる存在になるためにもがき、苦しむことになるだろう。 例えどんな困難な道であっても、光が照らす道へと……己の力で進むと誓った、その限りを尽くして。 過去の英雄と現代の英雄(の卵)が交差し、歴史を作る! 異世界転生型アンチ異世界転生ファンタジー、ここに開幕! ――なろう・カクヨムでも連載中――

処理中です...