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1章 幼き魂と賢者の杖

17 矢が飛んできたらヤだな

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 辺りは薄暗くなっていた。
 木々や草が鬱蒼と茂っていて、魔領ほどでは無いけれど、瘴気が立ちこめている。
 僕は慣れたものだけど、二人はこの気配に完全に飲まれていた。

「来た道を戻るのはやめた方がいい。迷うのは覚悟で、行けるところへ行こう。」

 追われるリスクを考えると、とにかく小屋から離れなければならない。
 ただし来た道を戻ろうとすると、発見されるリスクが高まる。
 探す側の立場になって考えた場合、もうすぐ夜になろうという時間に、こんな場所で本気で隠れられたら見つけるのは困難だろう。
 足跡などの痕跡に注意し移動した。
 そして茂みの中に身を隠して、完全に暗くなるまでやり過ごすことにした。

 時が経ち、薄暗い時間から夜になった。

 僕は魔王種、魔族だ。
 そして魔族は夜目が利く種族が多い。
 僕もある程度の暗視能力がある。
 そのおかげで、空が曇り月明かりすらほとんど無い状況ながら、多少の視界は確保されていた。

 この闇に紛れて迂回しつつ町まで戻りたいところだ。
 本当はそのつもりだった。
 しかし曇っているのは誤算だった。
 僕はともかく、他の二人を暗闇の中を歩かせるのは不可能と言っていい。
 そして問題はそれだけでは無い。
 曇っているせいで星が見えないのだ。
 この世界にも北極星に相当する星があるのだけれど、それが見えないので方向がさっぱり分からない。
 どうやら朝までじっとしているしか無いようだ。

「二人とも、今のうちに寝ておくといい。何かあったら起こすから。」

 二人は恐怖による疲労でボロボロだ。
 今のうちに体力を回復してもらわないと、この後が大変だ。

「オキス君は大丈夫なの?」

「見ての通り僕は平気だよ。心配しなくて大丈夫。」

 ジキルが申し訳なさそうにしている。
 しかし二人ともいざ横になると、あっという間に寝入ってしまった。

「まあ、こんな状況じゃ無理も無いか。」

 二人ともまだ幼い。
 今までずっと気を張っていたのだ。
 ここまでよく頑張ったと思う。

 僕は辺りの気配を伺いながら朝日が出るのを待った。
 体感的にかなりの長い時間が経ち、ついに空が明るくなり始めた。
 そろそろかと思った瞬間、緊張が走る。
 遠くでかすかに茂みをかき分ける音が聞こえたのだ。
 僕は音を立てないように二人を起こした。

 茂みに身を隠したまま、音のした方向を伺う。
 二人もすぐに僕が見ている方向に目をやった。
 音が近づいてくる。
 そしてその正体を捉えた。

 町で見かけた冒険者4人パーティーだ。
 彼らに保護してもらえれば、僕らを誘拐した男達は手出しできないだろう。
 しかし僕は動けずにいた。
 誘拐犯とグルである可能性があるからだ。

 彼らに助けを求めて保護してもらうか、スルーして自力で町に戻るか、難しい判断だ。
 そもそもこんな時間、こんな所で彼らは何をしているのだろう?
 まだ距離は十分にある。
 彼らの動きを観察しようと、再び目をやった瞬間あることに気がついた。
 一人いなくなっている。

 気配を後ろから感じた。
 嫌な予感しかしない。
 覚悟を決めて振り向く。
 そこには冒険者の女いた。
 
 弓を引き絞り、やじりを僕に向けている姿だった。




 主人公属性があれば、死亡フラグ回避無双だよね。
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