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第8話 お腹を空かせた、いつかの君へ
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「おいっ! タコ。悪いが今日は店を手伝ってくれ」
本日、僕は生まれるなり店主にそう言われてしまった。
「僕のヒーロー活動は世界を救うんだが、店の手伝いはそれよりも大事なことか? 」
店主は僕の方などチラリとも見ずにたこ焼きを焼き続ける。
「大事、大事。
最近、店の売上が悪くてよ~。
店の外でたこ焼きらしく良い匂い振りまいてくれ。 ほら、今までのマヨネーズ代だと思えば3分労働でいくらになると思うよ?
高時給ならぬ……うーんなんだ?まぁいいや。
なっ、今日だけ頑張って俺を助けてくれよ? 」
人に物を頼むときは、せめて顔くらいは向けて欲しいものだが、『助けてくれ』と言われたらヒーローである僕には断れない。
「わかった。でも仲間を食べさせる為に売るって道徳的にどうなんだ? 」
「問題ねーって。食べもんは美味しい内に食べられてこそ幸せってもんだ」
売り子の活躍を期待してか、店主は鼻唄交じりに高速ピックさばきで僕の友達達を鉄板の上で転がし始める。
忙しそうなので、マヨネーズを冷蔵庫から出したものの、いつものように首に着けてもらえない。幸子さんも見当たらない。今は夕方だ。夕飯の買い物にでも行ったのだろうか。
たこ焼きによるたこ焼きの為のマヨネーズサービスもうけるかな? と思いながら僕は裏口から出て、店の前に佇んだ。
そこまで大きくない通りに面した小さく寂れたたこ焼き屋。時折、高校生らしき若者たちが笑いながら歩いている。
(バイトなんて初体験だ……。タコがドクドクいってる気がする)
僕は勇気を出して声をあげた。
「た~こやきや~さおだけ~
た~こやきや~さおだけ~
1パック400円~」
「おいっ! なんか違くないか? 」
僕は今までの経験で聞いたことのある売り子を精一杯再現したのに、店主はこちらに金属のピックを向けながら睨み付けてくる。
(やべぇよ、このおっさん……)
「これじゃ不服か? 」
「ふつーでいいんだよ。ふつーで。
ほら、『美味しいたこ焼き食べませんか?』って可愛く言ってみな?」
店主は普段かっこよさしかない僕に向かって無茶振りをする。だが、仕方ない。時間もないし、やるしかない。
「お、おいちぃたこ焼き食べましぇんかぁ~?」
恥じらいを持って僕がそう言ったところに、丁度5歳位の女の子とお母さんが通りかかる。
「ママぁ~。このアン○ンマンいい匂いする~」
「そ、そうね……」
お母さんは、僕に一瞬驚いたが笑顔を取り繕った。
「僕達は美味しいよ! ほっぺた落ちちゃうよ! 」
爽やかな声を出し、僕は営業スマイル&トークをした。
「マーマ! 食べたいぃ~」
「仕方ないわねぇ、すみません。1パックください」
こうして、僕はタコヤキ・セールス・マンとなった。
コツを掴んだ僕は、高校生には宇宙人のふりをして、おばあちゃんにはお饅頭のふりをして話しかけていく。
不思議な僕に気を引かれたのか次々とお客さんはやってきて、行列に引かれた人がまたやってきて、お店は大繁盛になった。
店主は忙しいので、希望する方には僕がマヨサービスを行う。
そろそろ冷めかけて、ほにゃほにゃの声しか出なくなった僕は潮時かなと思いながら、行列を眺める。
すると後ろから聞いたことのあるような声がした。
「あっ、お前! 」
振り向いて見ると、何と彼は以前僕の頭からタコごと爪楊枝を引き抜いた男子高校生だった。(第1話)
「おぉ~ひさしぶりぃ……」
僕が弱々しく手を振ると彼は近づいてきた。
「前は悪かったな」
謝る必要などないのに、彼は僕の目を見て謝罪した。
「いぃんだよぉ~」
僕がそう言うと、彼は言いにくそうに言葉を続ける。
「いや、あのあと実は……爪楊枝についたタコ食べられなかったんだ! 躊躇してたら消えちゃって。ごめんっ! 」
「そうだったかぁ……しかたないよぉ」
そう答えた僕の横で
ぐぅぅぅ
と育ち盛りの彼のお腹が音をたてる。
「ぼくをたべていいよ……」
「えっ、だって……」
「たべてもらえたらぁ、しあわせ!」
僕は彼をじっと見つめた。そっとマヨネーズを手渡す。そして彼の顔に、自分のたこ焼き顔を近づけた。
「……っ! い、いただきます! 」
ニュルリとマヨネーズがトッピングされ、彼の柔らかな唇が僕の頬にキスをする。
痛みはなかった。むしろ心地よい。
「うまっ! 」
その言葉を耳にして、僕は今まで感じたことのない充実感包まれながら旅立った。
「ごちそうさまぁーー!!!」
若者の元気な声が僕を見送った。
僕はタコヤキ・マン。
今日、僕は食べ物としての使命をまっとう出来て大変嬉しく思う。
悪魔のような作者も多少はたこ焼きの気持ちが理解できるようになったようだ。
美味しいって最高の褒め言葉だなっ!
本日、僕は生まれるなり店主にそう言われてしまった。
「僕のヒーロー活動は世界を救うんだが、店の手伝いはそれよりも大事なことか? 」
店主は僕の方などチラリとも見ずにたこ焼きを焼き続ける。
「大事、大事。
最近、店の売上が悪くてよ~。
店の外でたこ焼きらしく良い匂い振りまいてくれ。 ほら、今までのマヨネーズ代だと思えば3分労働でいくらになると思うよ?
高時給ならぬ……うーんなんだ?まぁいいや。
なっ、今日だけ頑張って俺を助けてくれよ? 」
人に物を頼むときは、せめて顔くらいは向けて欲しいものだが、『助けてくれ』と言われたらヒーローである僕には断れない。
「わかった。でも仲間を食べさせる為に売るって道徳的にどうなんだ? 」
「問題ねーって。食べもんは美味しい内に食べられてこそ幸せってもんだ」
売り子の活躍を期待してか、店主は鼻唄交じりに高速ピックさばきで僕の友達達を鉄板の上で転がし始める。
忙しそうなので、マヨネーズを冷蔵庫から出したものの、いつものように首に着けてもらえない。幸子さんも見当たらない。今は夕方だ。夕飯の買い物にでも行ったのだろうか。
たこ焼きによるたこ焼きの為のマヨネーズサービスもうけるかな? と思いながら僕は裏口から出て、店の前に佇んだ。
そこまで大きくない通りに面した小さく寂れたたこ焼き屋。時折、高校生らしき若者たちが笑いながら歩いている。
(バイトなんて初体験だ……。タコがドクドクいってる気がする)
僕は勇気を出して声をあげた。
「た~こやきや~さおだけ~
た~こやきや~さおだけ~
1パック400円~」
「おいっ! なんか違くないか? 」
僕は今までの経験で聞いたことのある売り子を精一杯再現したのに、店主はこちらに金属のピックを向けながら睨み付けてくる。
(やべぇよ、このおっさん……)
「これじゃ不服か? 」
「ふつーでいいんだよ。ふつーで。
ほら、『美味しいたこ焼き食べませんか?』って可愛く言ってみな?」
店主は普段かっこよさしかない僕に向かって無茶振りをする。だが、仕方ない。時間もないし、やるしかない。
「お、おいちぃたこ焼き食べましぇんかぁ~?」
恥じらいを持って僕がそう言ったところに、丁度5歳位の女の子とお母さんが通りかかる。
「ママぁ~。このアン○ンマンいい匂いする~」
「そ、そうね……」
お母さんは、僕に一瞬驚いたが笑顔を取り繕った。
「僕達は美味しいよ! ほっぺた落ちちゃうよ! 」
爽やかな声を出し、僕は営業スマイル&トークをした。
「マーマ! 食べたいぃ~」
「仕方ないわねぇ、すみません。1パックください」
こうして、僕はタコヤキ・セールス・マンとなった。
コツを掴んだ僕は、高校生には宇宙人のふりをして、おばあちゃんにはお饅頭のふりをして話しかけていく。
不思議な僕に気を引かれたのか次々とお客さんはやってきて、行列に引かれた人がまたやってきて、お店は大繁盛になった。
店主は忙しいので、希望する方には僕がマヨサービスを行う。
そろそろ冷めかけて、ほにゃほにゃの声しか出なくなった僕は潮時かなと思いながら、行列を眺める。
すると後ろから聞いたことのあるような声がした。
「あっ、お前! 」
振り向いて見ると、何と彼は以前僕の頭からタコごと爪楊枝を引き抜いた男子高校生だった。(第1話)
「おぉ~ひさしぶりぃ……」
僕が弱々しく手を振ると彼は近づいてきた。
「前は悪かったな」
謝る必要などないのに、彼は僕の目を見て謝罪した。
「いぃんだよぉ~」
僕がそう言うと、彼は言いにくそうに言葉を続ける。
「いや、あのあと実は……爪楊枝についたタコ食べられなかったんだ! 躊躇してたら消えちゃって。ごめんっ! 」
「そうだったかぁ……しかたないよぉ」
そう答えた僕の横で
ぐぅぅぅ
と育ち盛りの彼のお腹が音をたてる。
「ぼくをたべていいよ……」
「えっ、だって……」
「たべてもらえたらぁ、しあわせ!」
僕は彼をじっと見つめた。そっとマヨネーズを手渡す。そして彼の顔に、自分のたこ焼き顔を近づけた。
「……っ! い、いただきます! 」
ニュルリとマヨネーズがトッピングされ、彼の柔らかな唇が僕の頬にキスをする。
痛みはなかった。むしろ心地よい。
「うまっ! 」
その言葉を耳にして、僕は今まで感じたことのない充実感包まれながら旅立った。
「ごちそうさまぁーー!!!」
若者の元気な声が僕を見送った。
僕はタコヤキ・マン。
今日、僕は食べ物としての使命をまっとう出来て大変嬉しく思う。
悪魔のような作者も多少はたこ焼きの気持ちが理解できるようになったようだ。
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