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沼 5月13日
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杏梨は悩みの沼にはまっていた。
飾らない自分自身を好きになりたいし、そんな自分を金田に好きになってもらいたいと気づいたが、自分が何かがわからないのだ。
残りのGWも、そのあとの平日も一人で過ごした。
金田からは、もてなしありがとな。と返事がきただけで音沙汰はない。
そうたからは何回か電話があったが、声を聞いたらまた頼ってしまう気がして、出られなかった。
メッセージでだけ、大丈夫だよ!と送った。
今日は5月13日の金曜日、定時で上がって、鶏肉のカシューナッツ炒めを作っている。
この間、金田と行った中華料理店で金田が美味しいと言っていたメニューだ。
作ったことがなかったので、万が一、金田がリクエストしてきたときに作れるように練習しているのだ。
金田がまたこの家に来てくれるかはわからないが、それでも杏梨の手は動いた。
「私…何が好きなんだっけ?」
杏梨は自分がわからなくなっていた。
欲望のまま、好きなことをしてみようと思い、ケーキ屋さんでケーキを3つも買ってきたが、
一気に食べられなかったし、その後身体を動かしたくなりジョギングしてしまった。
だらだらしようと思ったが、気づいたらヨガのポーズを取っていたし、FXの本に手がのびていた。
仕事も程程にと思ったが、出勤したらいつも通り気を張って、できる限り一生懸命やってしまった。
料理もお休みしようと思ったが、お惣菜よりも自分が作った方が自分好みの味になるので、ついつい作ってしまっている。
しかも、作るのは自分が食べたいというより金田に関連するものばかりだ。
メイクも仕事のときはもちろんするし、それ以外のときも、すっぴんの自分が好きになれなくて結局変わらずしてしまった。
スキンケアもやめてしまったら、どんな反動がくるのかわからないので、やめる勇気がない。
なんか、上手くゆっくりできない…。
こんな、ゴテゴテ防御の私じゃ金田さんに好きになってもらえるかわかんない。
「はぁ…」
杏梨はため息をついて、完成した鶏肉のカシューナッツ炒めを食べ始めた。
金田はもう少し、お肉を大きめに切った方が好みだったかな?
「あっ…」
自分で食べてるのに何で金田さんばかりで、自分が好きか考えられないの?
もぐもぐ噛んでいても、好きかどうかわからない。美味しいとは思うが好きかどうかがわからなかった。
「沼ってる…」
杏梨はどうしたらいいかわからなかった。
ピンポーン
不意にインターホンが鳴る。
あれ?何か届く予定あったっけ?
画面越しに見えたのはそうたの顔だった。
「そうた?どうしたの?」
ドアを開けると、そうたがひょいっと入ってきた。
「可愛い杏梨に会いに来た。あと、お腹減った~」
にこっと笑うそうたは可愛かった。
「今日、2品しか作ってないよ…」
もっと作れば良かったと思った。
「十分だよ。突然押し掛けてごめんね」
そうたは自然に杏梨の家の中に入っていった。
杏梨は料理をそうたに食べさせる間に、もう1品作って出した。
「杏梨~美味しいよ~杏梨ちゃんのご飯最高っ!」
「それは良かった」
1品追加した後、杏梨はそうたの食べるところを見ていた。
途中まで食べていたし、自分自身はもうお腹いっぱいだった。
食べ終わったら帰ってもらおう。一緒にいたら甘えてしまう。そして、また甘えてしまったら、金田に合わせる顔がない。
本当は思いきり甘えたいのに、そんな自分も杏梨は嫌で認めたくなかった。
「美味しかった。ごちそうさまっ。食器片付けるね~」
そうたが手を合わす。食器をシンクに持っていこうとする。
「あっ大丈夫だよ。私やるよ?」
思わず止める。それは私の仕事だ。
「なんで~?突然来たのにもてなしてくれたのは杏梨じゃん。片付け位やるよ。座ってて~」
立ち上がったのをそうたに押し戻される。
結局、そうたは食器や調理器具を全て洗ったばかりか、温かいコーヒーまでいれてくれた。
「良い匂い、上手い、お腹いっぱい。幸せ~」
杏梨の隣でコーヒーを飲んでいるそうたは確かに幸せそうだった。
「そうた、それで、どうしたの?」
そうたが連絡なしに来ることは今までに1度もなかった。
そうたは杏梨の方を見て微笑み、じっと目を見て切り出した。
「杏梨のご飯が食べたかった。
杏梨の顔が見たかった。
可愛い杏梨に癒されたかった。
会いたかった。それだけだよ。」
そっとキスをしようとする。
その顔を杏梨は手で遮った。
「…っ!もうそういうのはしないのっ!」
本当はそうたの言葉が嬉しかった。そのままキスして甘えられたらどんなに気持ちいいだろう。
「俺の事、嫌いになった?」
手の平越しにそうたの息が熱かった。
「違う…そうたのことは嫌いじゃない!私が嫌いなのはそうたに甘えちゃう自分自身…。
そうたは悪くない。そうたに甘えたら金田さんに嫌われる…」
しぼんだ杏梨の声に対して、そうたの声は明るかった。
「そんな感じの事を1人で悩んで、強がって、うじうじしてるんじゃないかと思った。
ははっ、俺が来たのは~まぁ俺自身も来たかったからだけど、金田さんに言われてるのもあるんだけど?
俺に甘えても金田さんには嫌われないよ?
むしろ、できる限り杏梨甘やかさないと俺が金田さんに怒られちゃうかも。」
「…なん…で?」
そうたの顔が杏梨の手を避けて近づいてくる。
わかっていたけど、杏梨は動けなかった。
耳元で囁かれる。
「金田さんも、俺も、そうしたいから」
動けなかった。
そのまま、優しくキスをされた。
飾らない自分自身を好きになりたいし、そんな自分を金田に好きになってもらいたいと気づいたが、自分が何かがわからないのだ。
残りのGWも、そのあとの平日も一人で過ごした。
金田からは、もてなしありがとな。と返事がきただけで音沙汰はない。
そうたからは何回か電話があったが、声を聞いたらまた頼ってしまう気がして、出られなかった。
メッセージでだけ、大丈夫だよ!と送った。
今日は5月13日の金曜日、定時で上がって、鶏肉のカシューナッツ炒めを作っている。
この間、金田と行った中華料理店で金田が美味しいと言っていたメニューだ。
作ったことがなかったので、万が一、金田がリクエストしてきたときに作れるように練習しているのだ。
金田がまたこの家に来てくれるかはわからないが、それでも杏梨の手は動いた。
「私…何が好きなんだっけ?」
杏梨は自分がわからなくなっていた。
欲望のまま、好きなことをしてみようと思い、ケーキ屋さんでケーキを3つも買ってきたが、
一気に食べられなかったし、その後身体を動かしたくなりジョギングしてしまった。
だらだらしようと思ったが、気づいたらヨガのポーズを取っていたし、FXの本に手がのびていた。
仕事も程程にと思ったが、出勤したらいつも通り気を張って、できる限り一生懸命やってしまった。
料理もお休みしようと思ったが、お惣菜よりも自分が作った方が自分好みの味になるので、ついつい作ってしまっている。
しかも、作るのは自分が食べたいというより金田に関連するものばかりだ。
メイクも仕事のときはもちろんするし、それ以外のときも、すっぴんの自分が好きになれなくて結局変わらずしてしまった。
スキンケアもやめてしまったら、どんな反動がくるのかわからないので、やめる勇気がない。
なんか、上手くゆっくりできない…。
こんな、ゴテゴテ防御の私じゃ金田さんに好きになってもらえるかわかんない。
「はぁ…」
杏梨はため息をついて、完成した鶏肉のカシューナッツ炒めを食べ始めた。
金田はもう少し、お肉を大きめに切った方が好みだったかな?
「あっ…」
自分で食べてるのに何で金田さんばかりで、自分が好きか考えられないの?
もぐもぐ噛んでいても、好きかどうかわからない。美味しいとは思うが好きかどうかがわからなかった。
「沼ってる…」
杏梨はどうしたらいいかわからなかった。
ピンポーン
不意にインターホンが鳴る。
あれ?何か届く予定あったっけ?
画面越しに見えたのはそうたの顔だった。
「そうた?どうしたの?」
ドアを開けると、そうたがひょいっと入ってきた。
「可愛い杏梨に会いに来た。あと、お腹減った~」
にこっと笑うそうたは可愛かった。
「今日、2品しか作ってないよ…」
もっと作れば良かったと思った。
「十分だよ。突然押し掛けてごめんね」
そうたは自然に杏梨の家の中に入っていった。
杏梨は料理をそうたに食べさせる間に、もう1品作って出した。
「杏梨~美味しいよ~杏梨ちゃんのご飯最高っ!」
「それは良かった」
1品追加した後、杏梨はそうたの食べるところを見ていた。
途中まで食べていたし、自分自身はもうお腹いっぱいだった。
食べ終わったら帰ってもらおう。一緒にいたら甘えてしまう。そして、また甘えてしまったら、金田に合わせる顔がない。
本当は思いきり甘えたいのに、そんな自分も杏梨は嫌で認めたくなかった。
「美味しかった。ごちそうさまっ。食器片付けるね~」
そうたが手を合わす。食器をシンクに持っていこうとする。
「あっ大丈夫だよ。私やるよ?」
思わず止める。それは私の仕事だ。
「なんで~?突然来たのにもてなしてくれたのは杏梨じゃん。片付け位やるよ。座ってて~」
立ち上がったのをそうたに押し戻される。
結局、そうたは食器や調理器具を全て洗ったばかりか、温かいコーヒーまでいれてくれた。
「良い匂い、上手い、お腹いっぱい。幸せ~」
杏梨の隣でコーヒーを飲んでいるそうたは確かに幸せそうだった。
「そうた、それで、どうしたの?」
そうたが連絡なしに来ることは今までに1度もなかった。
そうたは杏梨の方を見て微笑み、じっと目を見て切り出した。
「杏梨のご飯が食べたかった。
杏梨の顔が見たかった。
可愛い杏梨に癒されたかった。
会いたかった。それだけだよ。」
そっとキスをしようとする。
その顔を杏梨は手で遮った。
「…っ!もうそういうのはしないのっ!」
本当はそうたの言葉が嬉しかった。そのままキスして甘えられたらどんなに気持ちいいだろう。
「俺の事、嫌いになった?」
手の平越しにそうたの息が熱かった。
「違う…そうたのことは嫌いじゃない!私が嫌いなのはそうたに甘えちゃう自分自身…。
そうたは悪くない。そうたに甘えたら金田さんに嫌われる…」
しぼんだ杏梨の声に対して、そうたの声は明るかった。
「そんな感じの事を1人で悩んで、強がって、うじうじしてるんじゃないかと思った。
ははっ、俺が来たのは~まぁ俺自身も来たかったからだけど、金田さんに言われてるのもあるんだけど?
俺に甘えても金田さんには嫌われないよ?
むしろ、できる限り杏梨甘やかさないと俺が金田さんに怒られちゃうかも。」
「…なん…で?」
そうたの顔が杏梨の手を避けて近づいてくる。
わかっていたけど、杏梨は動けなかった。
耳元で囁かれる。
「金田さんも、俺も、そうしたいから」
動けなかった。
そのまま、優しくキスをされた。
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