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第7章
罠 10月7日
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10月7日午前10時、予定通りにこおりの家に訪れたあいりは彼の目には輝いて見えた。
柔らかくウェーブしたグレージュの髪に、襟のついた紺色のロング丈のワンピースとショートブーツ。ピンクのラメがうっすらと輝く目、艶めく桜色の唇は思わずキスしたくなる。
こおりはそんな心のざわめきは顔には出さず、あいりを家の中に招き入れた。
「わざわざ来てくれてありがと」
「そうちゃん、酷い顔色だよ? 体調悪いの? 」
これから自分がしようとしていることなど想像もしないあいりは、無防備に家の中に入ってくる。
顔色が悪いのがなんだ。そんなのはわざとだ。
「えっ、そうかな? 大丈夫だよ」
大丈夫と言って大丈夫じゃなさそうにして彼女の気を引く。優しいあいりにはこれが効く筈だ。
「本当に? そうちゃんの好きなチーズケーキ買ってきたんだけど食べられるかな?」
あいりは手に持っていた箱をこおりに差し出すが、こおりはそれを受け取らない。
「ありがと、さっき朝御飯食べちゃったから、後で一緒に食べよう。俺お茶淹れるから悪いけど冷蔵庫に入れといてくれる? 」
言われるがままに冷蔵庫を開けたあいりが、中を見てしばらく固まっているのをこおりはお湯を沸かしながら横目で確認した。
「そうちゃん、杏梨さんにご飯作ってもらってるの? 」
キッチンで玄米茶を淹れるこおりの横にあいりが来る。こおりを見つめる目は何故か不服そうだ。
「ああ、『痩せた』って心配して持ってきてくれるんだ。杏梨は面倒見が良いから」
「確かに……痩せたよ、そうちゃん。
私が急に出ていったから? 」
長袖の薄手シャツを着ているこおりの腕をあいりが服の上から撫でる。
「違うよ。元々あいりは水川さんの『彼女』だろ? その後も順調そうで何より」
テーブルの上に淹れた玄米茶のカップを2つ置き、こおりは引き出しに入れてあった約束のものを取り出しあいりに渡す。
「はい、預かってたあいりの家の合鍵。引っ越しはいつ? 手伝おうか?」
「手伝いは大丈夫だよ。ねぇ、そうちゃん。今日お仕事は? 」
少し悲しそうなあいりの顔を見て、こおりは内心嬉しかった。
「休みだよ。俺の会社は社長の意向で自分と家族の誕生日は休み取れるんだ。あいり、もしかして俺の誕生日覚えてくれてた? あのケーキ」
今日はこおりの28歳の誕生日だ。あいりには一回だけ教えたかもしれない。彼女のそれを祝ったときに。
「勿論、覚えてるよ。教えてもらった日に手帳に書いたから。そうちゃん、お誕生日おめでとう」
お祝いの言葉なのに、あいりのその顔で言うと寂しく聞こえるのは何故だろうか。
「ありがと。今日呼んだのは、あいりと2人で腹を割って話したかったから。これまでのこと全部。長くなるかもだけど頼むから聴いてほしい」
「わかった。私も話したかったの」
テーブルに向かい合い、2人でお茶を飲みながら話す――
何てことはしない。最初はそうするように見せかけるだけ。
当たり障りのない序章を話したところでトイレに立つ。そして口を押さえて出てくる。
あいりは心配して、横になった方が良いと声を掛ける。そして2人は寝室へ。
こおりは後ろ手でさりげなくドアを閉め、ペットボトルの飲料をサイドテーブルに置いた。そして、ベットの近くで嘔吐用の袋を持っていたあいりを押し倒す。
袋なんて必要ない。
こおりは呆気に取られているあいりの手から袋を取って床に捨てた。抵抗しても動けないようにあいりの手首を押さえ付ける。
「そう、ちゃん? 」
「あいり、俺が具合悪そうにしてたのは全部このシチュエーション作るためだった、って言ったら怒る?
やり直そう。あいりが俺を『嫌い』って言ったあの日を」
こおりを見上げるあいりの顔はぐしゃりと歪んだ。
柔らかくウェーブしたグレージュの髪に、襟のついた紺色のロング丈のワンピースとショートブーツ。ピンクのラメがうっすらと輝く目、艶めく桜色の唇は思わずキスしたくなる。
こおりはそんな心のざわめきは顔には出さず、あいりを家の中に招き入れた。
「わざわざ来てくれてありがと」
「そうちゃん、酷い顔色だよ? 体調悪いの? 」
これから自分がしようとしていることなど想像もしないあいりは、無防備に家の中に入ってくる。
顔色が悪いのがなんだ。そんなのはわざとだ。
「えっ、そうかな? 大丈夫だよ」
大丈夫と言って大丈夫じゃなさそうにして彼女の気を引く。優しいあいりにはこれが効く筈だ。
「本当に? そうちゃんの好きなチーズケーキ買ってきたんだけど食べられるかな?」
あいりは手に持っていた箱をこおりに差し出すが、こおりはそれを受け取らない。
「ありがと、さっき朝御飯食べちゃったから、後で一緒に食べよう。俺お茶淹れるから悪いけど冷蔵庫に入れといてくれる? 」
言われるがままに冷蔵庫を開けたあいりが、中を見てしばらく固まっているのをこおりはお湯を沸かしながら横目で確認した。
「そうちゃん、杏梨さんにご飯作ってもらってるの? 」
キッチンで玄米茶を淹れるこおりの横にあいりが来る。こおりを見つめる目は何故か不服そうだ。
「ああ、『痩せた』って心配して持ってきてくれるんだ。杏梨は面倒見が良いから」
「確かに……痩せたよ、そうちゃん。
私が急に出ていったから? 」
長袖の薄手シャツを着ているこおりの腕をあいりが服の上から撫でる。
「違うよ。元々あいりは水川さんの『彼女』だろ? その後も順調そうで何より」
テーブルの上に淹れた玄米茶のカップを2つ置き、こおりは引き出しに入れてあった約束のものを取り出しあいりに渡す。
「はい、預かってたあいりの家の合鍵。引っ越しはいつ? 手伝おうか?」
「手伝いは大丈夫だよ。ねぇ、そうちゃん。今日お仕事は? 」
少し悲しそうなあいりの顔を見て、こおりは内心嬉しかった。
「休みだよ。俺の会社は社長の意向で自分と家族の誕生日は休み取れるんだ。あいり、もしかして俺の誕生日覚えてくれてた? あのケーキ」
今日はこおりの28歳の誕生日だ。あいりには一回だけ教えたかもしれない。彼女のそれを祝ったときに。
「勿論、覚えてるよ。教えてもらった日に手帳に書いたから。そうちゃん、お誕生日おめでとう」
お祝いの言葉なのに、あいりのその顔で言うと寂しく聞こえるのは何故だろうか。
「ありがと。今日呼んだのは、あいりと2人で腹を割って話したかったから。これまでのこと全部。長くなるかもだけど頼むから聴いてほしい」
「わかった。私も話したかったの」
テーブルに向かい合い、2人でお茶を飲みながら話す――
何てことはしない。最初はそうするように見せかけるだけ。
当たり障りのない序章を話したところでトイレに立つ。そして口を押さえて出てくる。
あいりは心配して、横になった方が良いと声を掛ける。そして2人は寝室へ。
こおりは後ろ手でさりげなくドアを閉め、ペットボトルの飲料をサイドテーブルに置いた。そして、ベットの近くで嘔吐用の袋を持っていたあいりを押し倒す。
袋なんて必要ない。
こおりは呆気に取られているあいりの手から袋を取って床に捨てた。抵抗しても動けないようにあいりの手首を押さえ付ける。
「そう、ちゃん? 」
「あいり、俺が具合悪そうにしてたのは全部このシチュエーション作るためだった、って言ったら怒る?
やり直そう。あいりが俺を『嫌い』って言ったあの日を」
こおりを見上げるあいりの顔はぐしゃりと歪んだ。
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