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第6章
嫉妬 8月2日⑥
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「水川さん、ご飯の時間です」
そう言ったこおりはインターフォンの鳴った玄関に向かい、あいりは少し間をおいて、ソファーに座る水川の隣に座った。
ぽすんと軽い音をたてて、水川の隣に座ったあいりは顔色が良く元気そうに見える。そのフォルムから、彼女がブラジャーを着けたのがわかった。
首元に赤くなった部分がいくつか見えて、水川の胸の中は複雑だった。
前に怒られたので、他の人から見えるようなところには水川はキスマークはつけていない。あれをつけたのはこおりだ。
先程のこおりの行為に、何故彼女が『いや』と言わなかったのか。水川には理解できかねた。
あんなの、普通じゃない。2人の男がお互いを競い合うように触ることを彼女は望むのか。今後も3人でしたいのか?最後まで。
「あいり」
声を掛けようとすると、玄関から足音が聞こえてきた。話しながら近づいてくるそれはこおりと、あともう1人。目の前のあいりはキスマークだらけで、どんな行為があったのか容易に想像できる。水川は応急措置として、あいりを抱き寄せた。人から見えないように。
「優くん?」不思議そうにあいりが声を出す。でも彼女は抵抗せずに水川に身を預けていた。
がちゃっ
話し声はリビングに入って来た途端に止まった。水川は視線を感じながら、ゆっくりとドアの方に振り向く。そこには、手提げ袋を持ったこおりと、その後ろに目鼻立ちがはっきり整った『いい女』風の女性がいた。少し遠目にでもスタイルが良いのがわかる。前から見ても後ろから見ても文句のない美人だ。
何故か、女性がじっと自分の事を見つめるので、水川は恥ずかしかった。女の子を抱き締めているのを見られるのが、こんなに恥ずかしいとは。あいりに「首、キスマークやばいから隠して」と囁く。
「水川さん、俺ん家でいちゃいちゃしないでくださいよ」
こおりの冷たい声をきっかけに、あいりは水川の腕から抜け出した。辺りをキョロキョロと見回すが、首を隠せそうなものがない。
「あいりが寒そうだったから、温めてたんだよ。こおりさん、上着か何か貸してください」
「ここは雪山ですか?夏ですけど」
悪態をつきながらも、何故水川があいりを隠したのか察した様子のこおりは、椅子に掛かっていた薄手のブランケットを水川に投げる。受け取った水川はそれを広げてあいりの上半身をくるんだ。
首まできっちり隠したあいりは、安心したかのように息を吐く。水川がそれを見ているとあいりと目があって、「ありがとう」と呟いた彼女と水川は微笑み合う。
「いや、だから、いちゃいちゃしないでくださいよ。お客さんの前ですよ?」
こおりの声に水川は再度、ドアの方に顔を向けた。女性の顔が先程とは違った感情で覆われている気がする。悲しみ、嫉妬、でもそれを必死に隠すような泣きそうな顔。
「えっと、その人は?」
何も言われないので仕方なく水川から切り出した。
「彼女は岡野杏梨。俺の元彼女で友達です。あいりが体調悪いので、料理を作ったりして持ってきてくれてるんです。水川さんが朝食べたラタトゥイユも彼女が作って持ってきてくれたものですよ」
「ああ、あれ。凄く美味しかったです。ご馳走さまでした」
水川がそう伝えると彼女の顔が少しゆるんだ。
「お口に合って良かったです。あのあなたはあいりちゃんの彼氏さんですよね?」
先程の出来事を思い出し、水川が返答に迷っているとこおりが代わりに答えた。
「そう、こちらはあいりの彼氏の水川優一さん」
水川はこおりに『彼氏』と言われても嬉しくなかった。しかし、客人の前で話し合いを始める訳にもいかず、外面をつける。
「はじめまして、水川です。あいりがお世話になってます」
そう言って頭を下げると、彼女の顔が歪む。
「いえ、私は何も……あいりちゃん、可愛いから、辛そうなの見てると何かしたくなっちゃって、お節介してるだけです」
この人はなんだ?
水川には、目の前にいる美人の心が読めなかった。
「杏梨がご飯を作って持ってきてくれたので、夕御飯にしましょう?杏梨、言われたとおりにお米炊いといたから、杏梨も食べてくだろ?」
こおりが先程まで手に持っていた袋から、タッパーをいくつも取り出し始める。
「そうた、私はいいよ。ちょっと家でやること思い出しちゃったから帰る。
あいりちゃん、水川さん、お口に合うかわからないけど、良かったら食べてくださいね」
笑顔を1つ残して、彼女は背を向けた。
「杏梨、送ってくよ。
あいり、水川さんご飯先食べててください。俺杏梨を家まで送ってくるので。すぐ戻ります」
そう言い残しこおりも、玄関に向かう。
隣のあいりの顔を見ると、こおりの背中を見つめる彼女は苦しそうな顔をしていた。
がちゃんっ
玄関の閉まる音を確認して、水川はあいりを抱き締め、背中を擦る。
「あいり。あいりには俺がいるよ?俺はそんな悲しい顔させない。ずっとあいりだけ大事にする」
返事はなかった。ただ、水川が唇を近づけるとあいりはそれに応えた。
そう言ったこおりはインターフォンの鳴った玄関に向かい、あいりは少し間をおいて、ソファーに座る水川の隣に座った。
ぽすんと軽い音をたてて、水川の隣に座ったあいりは顔色が良く元気そうに見える。そのフォルムから、彼女がブラジャーを着けたのがわかった。
首元に赤くなった部分がいくつか見えて、水川の胸の中は複雑だった。
前に怒られたので、他の人から見えるようなところには水川はキスマークはつけていない。あれをつけたのはこおりだ。
先程のこおりの行為に、何故彼女が『いや』と言わなかったのか。水川には理解できかねた。
あんなの、普通じゃない。2人の男がお互いを競い合うように触ることを彼女は望むのか。今後も3人でしたいのか?最後まで。
「あいり」
声を掛けようとすると、玄関から足音が聞こえてきた。話しながら近づいてくるそれはこおりと、あともう1人。目の前のあいりはキスマークだらけで、どんな行為があったのか容易に想像できる。水川は応急措置として、あいりを抱き寄せた。人から見えないように。
「優くん?」不思議そうにあいりが声を出す。でも彼女は抵抗せずに水川に身を預けていた。
がちゃっ
話し声はリビングに入って来た途端に止まった。水川は視線を感じながら、ゆっくりとドアの方に振り向く。そこには、手提げ袋を持ったこおりと、その後ろに目鼻立ちがはっきり整った『いい女』風の女性がいた。少し遠目にでもスタイルが良いのがわかる。前から見ても後ろから見ても文句のない美人だ。
何故か、女性がじっと自分の事を見つめるので、水川は恥ずかしかった。女の子を抱き締めているのを見られるのが、こんなに恥ずかしいとは。あいりに「首、キスマークやばいから隠して」と囁く。
「水川さん、俺ん家でいちゃいちゃしないでくださいよ」
こおりの冷たい声をきっかけに、あいりは水川の腕から抜け出した。辺りをキョロキョロと見回すが、首を隠せそうなものがない。
「あいりが寒そうだったから、温めてたんだよ。こおりさん、上着か何か貸してください」
「ここは雪山ですか?夏ですけど」
悪態をつきながらも、何故水川があいりを隠したのか察した様子のこおりは、椅子に掛かっていた薄手のブランケットを水川に投げる。受け取った水川はそれを広げてあいりの上半身をくるんだ。
首まできっちり隠したあいりは、安心したかのように息を吐く。水川がそれを見ているとあいりと目があって、「ありがとう」と呟いた彼女と水川は微笑み合う。
「いや、だから、いちゃいちゃしないでくださいよ。お客さんの前ですよ?」
こおりの声に水川は再度、ドアの方に顔を向けた。女性の顔が先程とは違った感情で覆われている気がする。悲しみ、嫉妬、でもそれを必死に隠すような泣きそうな顔。
「えっと、その人は?」
何も言われないので仕方なく水川から切り出した。
「彼女は岡野杏梨。俺の元彼女で友達です。あいりが体調悪いので、料理を作ったりして持ってきてくれてるんです。水川さんが朝食べたラタトゥイユも彼女が作って持ってきてくれたものですよ」
「ああ、あれ。凄く美味しかったです。ご馳走さまでした」
水川がそう伝えると彼女の顔が少しゆるんだ。
「お口に合って良かったです。あのあなたはあいりちゃんの彼氏さんですよね?」
先程の出来事を思い出し、水川が返答に迷っているとこおりが代わりに答えた。
「そう、こちらはあいりの彼氏の水川優一さん」
水川はこおりに『彼氏』と言われても嬉しくなかった。しかし、客人の前で話し合いを始める訳にもいかず、外面をつける。
「はじめまして、水川です。あいりがお世話になってます」
そう言って頭を下げると、彼女の顔が歪む。
「いえ、私は何も……あいりちゃん、可愛いから、辛そうなの見てると何かしたくなっちゃって、お節介してるだけです」
この人はなんだ?
水川には、目の前にいる美人の心が読めなかった。
「杏梨がご飯を作って持ってきてくれたので、夕御飯にしましょう?杏梨、言われたとおりにお米炊いといたから、杏梨も食べてくだろ?」
こおりが先程まで手に持っていた袋から、タッパーをいくつも取り出し始める。
「そうた、私はいいよ。ちょっと家でやること思い出しちゃったから帰る。
あいりちゃん、水川さん、お口に合うかわからないけど、良かったら食べてくださいね」
笑顔を1つ残して、彼女は背を向けた。
「杏梨、送ってくよ。
あいり、水川さんご飯先食べててください。俺杏梨を家まで送ってくるので。すぐ戻ります」
そう言い残しこおりも、玄関に向かう。
隣のあいりの顔を見ると、こおりの背中を見つめる彼女は苦しそうな顔をしていた。
がちゃんっ
玄関の閉まる音を確認して、水川はあいりを抱き締め、背中を擦る。
「あいり。あいりには俺がいるよ?俺はそんな悲しい顔させない。ずっとあいりだけ大事にする」
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