残365日のこおり。

tonari0407

文字の大きさ
上 下
20 / 113
第1章

事実

しおりを挟む
「都合の良い現実逃避してんじゃねぇっ!」

怒鳴り声にこおりは目を開いた。

殺気立った目をしたリイトが目の前に立っていた。
背広を脱いだスーツ姿だった。
ネクタイはしていない。

「すぐ逃げるやつなのは知ってたけど、ここまでとは思わなかった…ですよ」

チンピラのような口調を語尾だけ整えている。毎回キャラがぶれているのはなんなのだろうか。こいつの性格が読めない。

「…なんのことだ?」

「はぁ?こおりくんがあいりちゃんが警察に行かないのは自分のことまだ好きだとか、
妊娠してたら自分を頼ってくれるとか、
寒気のする勘違いをして、
やって当たり前の仕事をやって、さぞ自分は償ってる感出して
現実から目を背けてることですよ」

自分の考えをそのまま口に出されることに嫌悪を感じた。

そうだこいつは頭の中も読めるんだった。

「杏梨ちゃんに対しても、俺良い人、やってあげてる感がでてて、さぶいですよ。
自分が最低って認めるのがそんなにこわいですか?」

「ちがっ…俺は俺に出来ることをやろうとして…」

「何をしたんですか?一体?」
「…」
「思い出して考えろって言ったのやってました?やってないですよね?」
「それは…」

「僕、あんまり気が長くないのと、見てて胸くそ悪くて病気になりそうなので
特別に僕からみた事実を教えてあげます。
言っとくけど、これは僕からみた事実であって、あいりちゃんからみた事実ではないです。
事実はみる人の数だけあるので。
そこは忘れないで下さい」


「まず、お金。
あいりちゃんのアパートみました?ぼろぼろですよね。
バイト、時間あればしてましたよね?
服、あんまり枚数持ってないですよね。
学校は国立大学、資格が取れる学部ですね。
まぁ、ここまでいえばあまり資金援助はなく、自分でバイトして生活してたのかな?位はわかりますか?

んで、こおりくんはあいりちゃんを家に呼びつけといて、交通費も出してなかったですよね。どこから捻出してたのかなー
料理するときの材料もただで出てくる訳ないですよね?気にしたことあります?

親から十分過ぎる援助があって、遊ぶ金のためにしかバイトしてなくて、社会人になってからも、困窮してないこおりくんにはわからないですかねー?お金に困る苦しさは

次、病院。あいりちゃんは何の病院いったんですかね?気にしました?真剣に。
こおりくんのせいですよ?
セックスの本来の目的知ってます?生殖ですよ?一時の感情で、4月8日避妊してませんよね?しかもそれをあいりちゃんに言わなかった。何か様子変じゃなかったですか?
排卵とかって知ってます?排卵日の特徴とか。この時代の人はそんなことも習わないのかなー?いや、こおりくんだけか。
あいりちゃんがいった病院は産婦人科です。
自費診療でアフターピル内服したんじゃないかな?自費は高いし、産婦人科に行くのは勇気いりますよねー本来やらかした彼氏が一緒に行くべきですよね。
アフターピルの副作用は自分で調べてください。強制的に妊娠を食い止めることが身体に全く影響ないなんてまさか思わないですよね?
あと、性行為の72時間以内という時間制限があります。早い方が確率は高い、でも避妊率は100%じゃない。これってすごい不安ですよね。
あいりちゃんは1人で悩んだのかな~
そもそもあいりちゃんがこども持つことに対してどんな気持ち持ってたかこおりくんは聞いてますよね?
彼女が大事にしてる思いをよく踏みにじれますね。しかも2回も

僕が持っていくように言った50万をあいりちゃんがどう使うかはわかりません。
でも僕は、緊急避妊とそれが失敗してしまって妊娠した際の中絶費用、
あと暴行の後遺症で生活が困難になるのはわかるので生活費として考えて指示しました。

痴漢にあったあと、杏梨ちゃんはすごく怖がってましたよね。お金がいるはずのあいりちゃんが何でバイトを辞めざる得なかったのか。お客さんも定員さんも男の人沢山いますよね?今のあいりちゃんには外の世界がこわいとは思いませんか?


あーまだまだありますけど、価値観のヒントだけ教えてあげましょーねー
ほっておいたら気づきそうにないので。

なんでこおりくんが杏梨ちゃんに無条件で優しくできて、あいりちゃんにできないのか

それはあなたがいつも人を上か下かで判断して値踏みして対応しているからです。

そういうのまぁ誰しもありますけど、ずっと下にみられるのはあいりちゃん嫌だったんじゃないですか?僕だったらそんなやつからはソッコー逃げます。」

こおりは自分の身体が自分のものではないように感じた。


あいりの声が聞こえる。

こどもって尊いよねー。だって、無限大の可能性を秘めてるんだよ?すごくない?
私、全然良いお母さんになれる自信はないけど、もしも今後欲しいと思えるようになったら、子どもが不自由な思いをしないように精一杯準備してから、育てたいんだ~
親って選べないじゃない?可哀想な思いをしないように、まずお金も貯めて、自分を好きになって…、沢山あるけど頑張りたいんだ~

公園で子どもが遊ぶのを眺めながら、へへへと笑っていた。俺はそんなことまだ先のことだと聞き流していた。

俺が避妊しなかったことは
あいりのその気持ちと価値観を踏みにじったんだ。

わからないならもういい!
あいりはそう言っていた。

俺が全然わかっていなかったんだ。


呆然と立ちすくむこおりにリイトは冷たくい捨てた。

「こおりくん、落ち込むのはいいけど、自殺は認めない。もししても4月7日まではひどい状態でも生かしておくよ?

こおりくんのDeleteボタンを押すのは僕だから

もちろん、何があっても、4月7日に 」


意識が消える前に、カチッと音がした気がした。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

彼女の母は蜜の味

緋山悠希
恋愛
ある日、彼女の深雪からお母さんを買い物に連れて行ってあげて欲しいと頼まれる。密かに綺麗なお母さんとの2人の時間に期待を抱きながら「別にいいよ」と優しい彼氏を演じる健二。そんな健二に待っていたのは大人の女性の洗礼だった…

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

人妻の日常

Rollman
恋愛
人妻の日常は危険がいっぱい

【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)

幻田恋人
恋愛
 夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。  でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。  親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。  童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。  許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…  僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…

処理中です...