上 下
232 / 279
第十五章

レベル232

しおりを挟む
 紛らわしい言い方すんな。ってパーティメンバーの男性を小突いているアスカさん。

「えっ、お姫様なの?」
「違う違う、コイツが勝手に言ってるだけよ」
「だっておめえ、お嬢様とか言われてたじゃねえかよ」

 小突かれていた男性が、からかうような口調でそう言っている。

「もしかしてどっかの、いいとこのお嬢さんだったとか?」
「違うって。パパがね、昔の戦争でそこそこの地位にいたらしくて、元部下の人にそう呼ばれているだけよ」

 突き出した両手を、高速で左右に振りながらそんな事を言うアスカさん。

 その手、危ないんでちょっと止めてもらえません?
 ほら、風圧でスラミィの子供さんが飛ばされそうですよ?
 さすが格闘家のスキル持ち、素手での攻撃はプラスアルファ。

「別に攻撃じゃないわよ」

 なんでもアスカさんのパパさんは、その昔、一部隊の隊長をされていたそうな。
 結構な武功も挙げられ、幾つかの賞状もあるとか。
 しかし今は神秘の滝付近の、辺境の村で畑を耕しているそうな。

「あそこの国は血統主義だからな、いくら武功を挙げても、古代王国の末裔じゃなきゃ貴族にはなれないらしいし」
「そうだな、アスカの親父さんがファンハートじゃなきゃ、きっと今ごろアスカもお貴族様だったに違いない」
「ちょっと止めてよ、私が貴族なんかになれると思う?」

「「「思わない」」」

 アスカさん以外の全員の声がハモった。
 おまえらぁ、とちょっと怒りぎみだ。

 先ほどの話でも出たが、ファンハートの国は血統主義。
 古代王国の末裔は1等国民、それ以外は2等国民と言われている。
 1等国民でなければ貴族にはなれないし、古代王国の末裔以外は下級国民とみなされ差別されているそうな。

 その末裔とやらはどうやって判断しているの、と聞いてみると、なにやら血統書なるものがあるらしい。犬かな?

 先祖代々受け継がれている魔法的な処置を施した血統書なるものがあり、それを持っていなければ大きな街での滞在も制限があるし、武器、防具、魔道具などの所持も決まりがある。
 結婚だって、1等国民が2等国民と結婚される場合、その子は2等国民とみなされるので、大きな壁になっているそうだ。

「古代王国の末裔ねえ……」

 エフィールさんの話では滅んだって事だけどなあ。
 今、南の諸国の人々は、聖皇国を打ち立てた先代、聖剣の導き手の部下だった人達らしい。
 まあ、戦禍を逃れてどこかに隠れ住んでいた人が居ないともいいきれないけど。

「血統書の魔法的な処置っていっても、そんな大層な魔法じゃないからね。神殿にお金を握らせて偽造をしようと思えばできる程度」
「アスカんちもやってもらえば良かったのに。それだけ活躍したなら金は持ってたんだろ?」
「全部、土地や畑でぶんどられたわよ。倍以上の値段でね」

 どのみちパパは一等国民に嫌気がさしてたから、辺境でのんびりできる今が最高だって言ってるわよ。などと言う。

 差別がある所じゃ暮らすのも大変そうだしなあ。
 される方だけじゃなくする方も、したくなくてもしなくちゃならない。
 なにより子供の教育に良くない。

 差別をしてもいいと教えると、それは1等、2等の差別だけじゃなく、様々なものに普及する。
 子供はそれを区別できないからだ。
 そしてそんな子供達が大人になると、全てに差別する事が普通の世の中になる。

 まあそんな国だからこそ、あんな無茶なことを平気で言いだすのだろうが。

「ただ、そういう国は、パワーバランスさえ崩してしまえば脆いんだよなあ……」
「ちょっと恐ろしい事考えないでよ、なんかラピスちゃんの影響うけてきてない?」

 ええっ!? そんなはずは……ないと思いたい! ないよね?

◇◆◇◆◇◆◇◆

 暫く実家にも帰ってないという事で、里帰りがてら神秘の滝に案内してもらえる事になった。
 よくよく考えたら、ファンハートと敵対しているのは聖皇国を中心とした派閥。
 ピクサスレーンはそことつい最近まで戦争していたので、別段、ファンハートと仲が悪い訳じゃない。

 ファンハートの国籍を持っているアスカさんの付き添いで、ピクサスレーンから旅行というのなら特に問題がある行動じゃなかった。

 で、準備が整うまでおやっさんの店に泊まり込む事になった訳だが。

「よう、ちょっと相談があるんだが」

 なにやらアスカさんのパーティメンバーの1人が手招きしている。

「えっ、カード化してもらいたいモンスターが居る」
「ああそうだ、まあ、できればでいいんだが……」

 その人に連れられて街の外まで出る。
 暫く森を進むと月夜に照らされた美しい泉にたどり着く。
 そこでは1匹のモンスターが裸で水浴びをしていた。

 それは美しい人型の少女。

 その少女はオレの隣の男性を見ると走り寄って飛びつく。

「おっ、おい、服着ろ、服!」

 男性は慌てて少女を木陰に連れて行く。
 うむ、いいものが見れた。
 というかあのモンスター、もしかして、かの有名な……

「サキュバスのフフって言うんだ、こないだ森で拾った」
「そういやお兄さん、最近色艶がいいですね、さては……」
「いやいや! さすがにまだ子供だから! 手を出して無いから!」

 というか最近ってキミ、あんまりこっちに顔出していないよね? って言う。
 うん、カマかけてみました。
 すんません。

 でもいつかは手を出すんでしょ?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

最弱の冒険者と呼ばれてますが、隠してるチート能力でたまには無双します!……と言いたいところだが、面倒だから今日は寝る。お前ら、邪魔するなよ?

ランド
ファンタジー
『最弱の冒険者』の称号をほしいままにしている、リアトリス。 仲間であるジャスミンにいくら誘われようとも、冒険に行かず、レベル上げすらもしようとしない怠惰っぷり。 冒険者の義務なんて知らない。 仕事なんて絶対にしたくない。 薬草採って、ポーション作って売ってのその日暮らしができれば大満足。 そんな舐めた事ばかり考えているリアトリスだが、実はこの世界で最も強力な能力を持つ最強の冒険者。 それも、本気を出せば魔王軍幹部すらも圧倒できるほどの。 だが、リアトリスは意地でも能力を隠そうとする。 理由はいたって単純。 面倒な事には関わりたくないから。 そんなリアトリスが、果たして魔王を倒すことができるのか。 そもそも、冒険の旅に出てくれるのだろうか。 怠惰で最強な冒険者による、異世界奇譚をお楽しみください! ※作品内に一部過激な描写がありますので、投稿ガイドラインに基づき、R15指定としています。 この作品はなろうとカクヨムにも掲載しています(下記URL参照)。また、タイトルの文字数制限の関係で、少々タイトルも変えています。 https://ncode.syosetu.com/n4679gv/ https://kakuyomu.jp/works/16816700428703293805

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

通称偽聖女は便利屋を始めました ~ただし国家存亡の危機は謹んでお断りします~

フルーツパフェ
ファンタジー
 エレスト神聖国の聖女、ミカディラが没した。  前聖女の転生者としてセシル=エレスティーノがその任を引き継ぐも、政治家達の陰謀により、偽聖女の濡れ衣を着せられて生前でありながら聖女の座を剥奪されてしまう。  死罪を免れたセシルは辺境の村で便利屋を開業することに。  先代より受け継がれた魔力と叡智を使って、治療から未来予知、技術指導まで何でこなす第二の人生が始まった。  弱い立場の人々を救いながらも、彼女は言う。 ――基本は何でもしますが、国家存亡の危機だけはお断りします。それは後任(本物の聖女)に任せますから

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

婚約破棄られ令嬢がカフェ経営を始めたらなぜか王宮から求婚状が届きました!?

江原里奈
恋愛
【婚約破棄? 慰謝料いただければ喜んで^^ 復縁についてはお断りでございます】 ベルクロン王国の田舎の伯爵令嬢カタリナは突然婚約者フィリップから手紙で婚約破棄されてしまう。ショックのあまり寝込んだのは母親だけで、カタリナはなぜか手紙を踏みつけながらもニヤニヤし始める。なぜなら、婚約破棄されたら相手から慰謝料が入る。それを元手に夢を実現させられるかもしれない……! 実はカタリナには前世の記憶がある。前世、彼女はカフェでバイトをしながら、夜間の製菓学校に通っている苦学生だった。夢のカフェ経営をこの世界で実現するために、カタリナの奮闘がいま始まる! ※カクヨム、ノベルバなど複数サイトに投稿中。  カクヨムコン9最終選考・第4回アイリス異世界ファンタジー大賞最終選考通過! ※ブクマしてくださるとモチベ上がります♪ ※厳格なヒストリカルではなく、縦コミ漫画をイメージしたゆるふわ飯テロ系ロマンスファンタジー。作品内の事象・人間関係はすべてフィクション。法制度等々細かな部分を気にせず、寛大なお気持ちでお楽しみください<(_ _)>

処理中です...