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第十二章

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 どうしたロゥリ、ため息なんてついて。
 えっ、マリッジブルー?
 お前がマリッジブルーになってどうすんよ?

 えっ、お前には一生分からない? なんだよぉ……

 エクサリーとの結婚式が終わったあと、なにやらロゥリが、オレの顔を見るたびにため息を吐いて行きやがる。

 そんなに、あのプロポーズのシーン、クサかったか?
 いやだって定番だろ?
 夕日をバックに指輪を贈るなんて。

「ガゥ……」

 だから人の顔を見てため息を吐くなって!

◇◆◇◆◇◆◇◆

『クソッ、クソクソクソ、あのクソラビット! あたしゃてめえの小間使いじゃねえってのよっ!』

 そんな悪態を吐きながら、半透明な姿をした炎を纏った小鳥が扉をすり抜けて私の部屋に入ってくる。
 私はその小鳥を、女の子がクソクソ言っちゃだめよ。と言って手のひらで受け止める。
 ほんのり私の手の上が暖かくなる。

 なんでも纏っている炎は色々調整できるみたい。

 他に燃え移らせなくしたり、温度もちょっと暖かい程度まで下げれる。
 この子は私がクイーズに貰ったモンスター。
 私の指に嵌っている指輪から現れた精霊のようなもの。

『エンゲージリング』所持者・エクサリー
 ☆10・レベル3
 スキル:精霊化

 名前はホウオウと言うらしい。

「あ、ホウオウちゃん、いつもの出来てるけど食べる?」
『うっひょ~、待ってました! だからエクサリー大好き!』

 頭の中に響くように声が聞こえる。
 この子の言葉は耳からじゃなく、なぜか頭の中に直接響いてくる。
 早く早く、なんてそんなこの子の言葉にせがまれながら、冷蔵庫にしているお料理セットから小さな器を取り出す。

『うっひゃ~、つべてー! ウマウマ! これが浴びるように食うって奴よね!』

 小さな人型の姿を取ったホウオウちゃんが、その器にダイブして、入っているシャーベットアイスを貪り始める。
 最初この子が現れたときはびっくりした。
 その時は巨大な火の鳥で、お前を食ってやる、なんて言われたっけ。

 その後すぐラピスが何やら命令して、泣きながら土下座をしてきたので、慌てて止めた。

 そしたらなんか懐かれてしまったらしい。
 ラピスも酷いんだから、ちょっと踊って見なさいとか、これは冬の暖房にちょうどいいとか。
 駄目よラピス、そんな風に部下を扱っちゃ。

 信頼関係の築けない上下関係は、どんな敵よりも恐ろしいってクイーズも言ってたんだから。

『しっかし我等が神も、なんかあっつい物ばっか勧めてくるのよねぇ。体が炎で出来てるからと言って熱いものが好きなわけ無いジャン』

 なんでもこのホウオウちゃん、冷たいものが大好きなんだって。
 以前も、高山とか出来るだけ涼しい場所で過ごしてきたらしい。
 涼しい場所といっても、雪や氷は弱点なので冬場は移動しないと駄目だし、時期によって涼しい場所も代わるので、いい場所を探すのは大変だったとか。

 そりゃ体から火が出るくらい体温が高いんだから、涼しい場所にいきたいよね。

「その我等が神ってクイーズの事?」
『あのクソラビットがそう呼べと言うのよ』

 なんでも、あなたは忠誠心が低いようなので、せめて毎回そう言葉にする事で無意識下に植え付けるだなんだかと。
 なんか難しい事をしてるね?
 でも私の前ではそんな事しなくてもいいのよ。

 そう言うと、ジーンと感動した表情で見てくる。

『エクサリーはほんと優しいよね。それに比べて他の奴等ときたら……』
「もう一つあるけど食べる?」
『でもそれエクサリーのじゃない? えっ、いいの!? 食べる食べる~』

 またもや、うっひょ~と言いながらダイブするホウオウちゃん。
 でもいいのかな? 確か雪や氷は弱点だってクイーズが言ってたけど。
 ん、実体の無い精霊化だから問題ない? じゃあいいかな。喜んでいるようだし。

 十分アイスを堪能したのか私の指輪に戻ってくる。
 それまで、無色の透明感のあったダイヤモンドが赤く染まる。
 この指輪の宝石は、ホウオウちゃんがいると赤く、いないと透明感のある無色に変わる。

『ん? そういえばエクサリー、なんか元気ない?』
「そんなことはない」

 そんなことはない……と思いたい、けど。
 ちょっと悩んでいる事はある。
 近々、クイーズの実家、ヘルクヘンセンの公爵家に挨拶にいかなければならない。

 と、いうより、結婚後に行って大丈夫なのだろうか?

 普通、結婚前に行くよね?
 クイーズが何も言わなかったし、追い出されたって聞いていたから、きっと会うことはないんだろうなって思っていたんだけど……
 どうやら実家に報告するの忘れていただけらしい。

 そんな事、普通忘れるかなぁ……しっかりしているようで、どこか抜けているんだよね。まあ、そんなとこも……

 うん! 私も頑張らないと。
 パンと両手で顔を叩いて気合をいれる。
 公爵家なんて大貴族、ただの商家の私との事なんて良く思われていないはず。

 それに私はこんな怖い顔だし。
 なんか最近さらに怖がられているような気もするし。
 一時、ちょっとマシになったと思ったんだけどなあ……

『ふ~ん……大丈夫よ! ごちゃごちゃ言うようなら、私が燃やし尽くしてあげるから!』

 えと、向こうに行っても暴れるのは止めてあげてね?
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