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第九章

レベル136 ヘルクヘンセン王城宝物庫

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「大丈夫か? もしなんかあったらすぐに言うんだぞ?」
「うん、大丈夫!」
「主も心配性であるな。なに、学校と言っても少人数の塾のようなものだ。心配する事は無い」

 本日は、レリン達の学校への入学の日である。

「やっぱ初日は付いて行ったほうがいいんじゃないか?」
「子供は子供同士、大人が出る幕はありますまい」

 骸骨が言うには、あまり大人は顔を出さない方がいいらしい。
 貴族には家格があるので、顔を出すと他の皆を萎縮させてしまうそうな。
 特にオレのような大貴族は要注意だと。

「もう、呆れるわね。ほんと情けない姿、シャキッとしなさいよ、貴方の背を見てこの子達は大きくなるのよ」

 レリンの目線に合わせて屈んでいるオレを、腕組みしたパセアラが見下ろしてくる。

「さあ行きなさい。ここから先は、貴方達自身が切り開いていくのです。いつまでも他人に頼ってばかりでは、この先明るい未来は有りません」

 ちょっとパセアラさん、言い方きついんじゃないですか?
 えっ、あんたが甘やかすのなら私は厳しくする方だって? いやそんな夫婦みたいな言い方しなくても。

「誰が夫婦ですか!」
「イデッ」
「それでは、三人とも気を付けていくのだぞ」

 三人はいい返事を返して王宮を出て行く。

「何処行こうとしているの?」
「いやちょっと、こっそり後を付けようかなと」
「バカな真似はやめなさい」

 イダ、イダダダ、耳を引っ張らないでください。

「これから後を付ける気だったという事は、暫くは用事がないわよね」

 えっ? まあ今日は特に用事はないけど。

「だったらちょっと付き合いなさいよ。確かその、モンスターカード? でしたっけ、それで処分して欲しいものがあるのよ」

 ふむ?

 宝物庫に大層危険なブツが眠っている。
 危険なのでオレのモンスターカードで持って帰って欲しい?
 いや、そんな危険なものいらないっすよ?

「あなた男でしょ。かよわい女性に危険な物を持たせておく気?」

 いやそんな睨まなくても。
 分かりました、分かりましたよ。

 確かに強制的にパセアラを女王にしたのはオレだ。
 今現在、王家の宝物庫に入れるのはパセアラのみ。
 ヤバいものがあったら処分ぐらいはしないといけないか。

 で、パセアラと共に宝物庫に向かったのだが、

「うっわぁ……ほんと随分禍々しい、封印だなあ」

 宝物庫の中央に、黒い霞がとぐろ巻いている祭壇のようなものがある。

「ちょっ、ちょっと! それホントにヤバイ奴だから、触っちゃダメよ! 触れるだけでおかしくなるからね!」

 ええっ、そんなにヤバいものなのか。
 ゲットして大丈夫なのだろうか……

「そっちじゃないから、ほら、こっちよ!」

 そう言って手を引かれた先に有った物は……

「これ……蒼神の瞳じゃないか」

 蒼神の瞳。それは、スキルを暴く国宝級のアイテム。
 この水晶を通して人物を見ると、持っているスキルが表示される。
 どんなに遠くに居ようとも、視界が届く範囲を検索する事が可能で有る。

 これをゲットしたとなると……スカウターとかならないかな? ほら、戦闘力たったの5か、ゴミめ! みたいな。
 しかし、

「これの何処がヤバイものなんだ?」

 むしろ、あっちの祭壇に封印されているブツのほうがヤバイだろ。

「向こうにあるものは放置していれば問題ないわ。あそこに有るものは禁断の書物。それを手にすれば、世の全てが分かると言われている」

 ただし、強制的に知識が流れ込むんだと。
 その結果、良くて植物人間、悪くすればパンと弾け飛ぶとか。
 超コエエ。
 過去、あれに触れて無事だった者は存在しないらしい。

「ヤバイっていうのは、品そのものじゃないわ」

 蒼神の瞳みたいな国宝級の品物、このままでは全てピクサスレーンに奪われかねない。
 今ここに入る資格があるのは、女王で有るパセアラ、そして相談役となっているオレだけだ。
 そしてここには、王家の血を引くものしか入れない封印が施されている。
 なので骸骨も、ピクサスレーンの王族も入る事は出来ない。

「あなたには、薄くても王家の血が流れている。まったくの他人に取られるよりはましなのよ」
「…………パセアラ、もしかして、オレの為に?」
「勘違いしないで、私はあなたに押し付けているのよ。ヘルクヘンセンの未来を」

 しかし後でピクサスレーンの王様が文句を言ってこないかな?

「この宝物庫に何が有るかなんて知っているのは、今じゃ私とお父様だけ。そして何が有るかなんて口が裂けても言わないわ。知らなければ無くなった事も分からない」
「オレが、ピクサスレーンに差し出すかもしれないぞ」
「フフッ、そんなことしないわ。でしょ?」

 ……パセアラの奴、なんだかんだ言ってもオレの事を信用してくれているんだな。

「それに、ただ眠らせて置くより、あなたが使ったほうが、きっと、いいような気がするの」

 結局、本音はそうなんだろうな。

 パセアラの奴は、口は悪いが、中身は悪くない。
 それは、ずっと昔に、オレが知っていたことだ。
 最初からパセアラは、オレの力になりそうなものを選んでくれていたのだろう。

「分かった! ならばゲットさせてもらう!」

『モンスターカード!』
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