上 下
87 / 279
第五章

レベル87

しおりを挟む
「あなた……!? おかあちゃま……!?」

 ユーオリ様が申し訳なさそうな顔で答える。
 神獣様にそう言われるのは光栄な事なのですが……既に自分には愛する夫と娘が……。それを聞きまいと両手で耳を塞ぐ竜王。

「おのれ! また貴様か! 何度私からヘルクを奪って行けば気が済むのだ!?」

 どうやらユーオリ様の旦那さん、始祖ヘルクォース様の旦那さんの生まれ変わりだった模様。
 刻を越えて結ばれる愛。うん、感動的な話ではないか。

 その影では、うぉおおおって、地面に拳を叩き付けて咽び泣く老人が約一名。
 そしてそんな老人の肩に手を当てる幼女。
 ふと老人の顔が上がる。

「なんだかわからないですけど、がんばるのでちゅよ」
「お、おお……ヘルクォース様。結婚してください!」

 その幼女の手を取る竜王。
 いかん、あの老人、ちょっとボケが入っているかも知れない……
 そしてそんな情熱的な告白を受けた幼女、真っ赤な顔で両手を頬に当ててイヤイヤしている。

「あたちのなまえは、くぉーすでしゅよ。へるはちゅきましぇん」
「おお、おお、クォース様! ぜひに我が嫁となってくだされ!」

 けっこんはじゅうろくちゃいになってからですよ。と場違いな事を言っている。
 大丈夫なんですかお母さん。
 娘さん、今すごいロリコンに迫られて居ますよ?

「神獣様に見初められるとは……いい事なんでしょうか?」
「いやロリコンは神獣でも駄目だと思いますよ」
「ロリコン、ボクメツ!」

 ロリドラゴンがドラスレで竜王を殴っている。
 さすが竜王、ドラスレの一撃を受けても……かじろうで無事だ。

「なにをする貴様! あだっ、あだだだ! やめっ! カンベンしてください!」

 ドラゴンスレイヤーの力は偉大だな。
 というか、なんでお前はそっちのロリ姿に戻るの?
 エロいままでいいじゃないか?

「ヤレ、リュウオウ!」

 やめろ! そいつはシャレにならん! オレは普通に死ぬんだからな!

「あなたは我が国の恩人です」

 深々と頭を下げてくるユーオリ様。
 あれから一旦客室へ通されて待機。
 皇帝陛下の意識が戻ったという事で、陛下の寝室にお呼ばれされている。

「みっともない所をお見せしてしまいましたな」

 ベットの上で半身を起こしている皇帝陛下。
 悪霊に操られていた間の記憶は残っているらしい。
 なお、骸骨はヘルクヘンセンでの仕事が在るとの事で早急に帰って行った。

「まさか、聖皇国の皇帝が悪霊に取り憑かれ様とは……」
「永い時の間、この国は私が守って来た。悪霊など一匹たりとも進入は許さなかった。だが、私の力も衰え、聖剣を守るので精一杯になっておった」
「その為、悪霊にとってはいい餌場になってしまったのかもしれませんね。進入を許されなかった、という事は、進入された場合の対策は何一つとっていなかった。という事でしょ」

 ラピスがそう問いかける。
 無菌の楽園の無が取れた時、そこは、菌の楽園になるという訳か。

「私の力は未だ全盛期には程遠い、早急に対策を取られる事をお勧めする」
「そうですな……」

 元気のない皇帝陛下。

「案ずるな、二度とこのような事は起こさせぬ。城域ぐらいは私が守ってやろう、未来の嫁もいる事だしな」

 だからアレは、その始祖さんの生まれ変わりじゃないだろ?
 えっ、違う? ユーオリ様もクォース様も同じ生まれ変わり? 魂が分裂した訳?

「魂とは死した後、世界に溶け込むのだ。そうしてまた新たな魂となり生まれ変わる。完璧に、そのものを残す事は決してありえない」

 ありえないのだよ、本来ならばな。と、意味深な視線をオレに向けてくる竜王。

「二人共に始祖の魂の一部が混ざりこんでいる。という事か」
「そういうことだな」
「お父様、元気を出してください。神獣様も城は守って下さると言っています。それに我が子クォースも愛して下さって居ますし」
「まるで孫を生贄に差し出した気分だ」

 大丈夫ですよ。嫌がるようでしたらオレが力ずくで止めますんで。
 だよなロゥリ。

「ガウガウ」

 しかし相変わらず俯いている陛下。

「陛下、私達が持って来たものはあのダンジョンコアだけではありません」
「ふむ?」
「それを披露したいと思います。少し騒がしくなりますが、よろしいでしょうか」

 オレ達は広々とした皇帝陛下の寝室に例のブツを運び込む。
 陛下もユーオリ様もそれを興味深そうな表情で見てくる。
 そして最後に、

『出でよ! マンドラゴラ・ギター』

 ――ギュイィィーン!

 静寂を切り裂く稲妻の様な音が走る!
 ラピスがドドドドとドラムを叩き、暫くの後、カユサルがベースギターを弾き始める。
 グランドピアノのセレナーデさんがキーボードに手を添える。
 このセレナーデさん、擬態のスキルでキーボードを作り出せる。同じ鍵盤楽器なら作り出すことが可能だそうだ。

 そして、音楽が完成する。

 二人とも、始めて聞くその音に驚いた表情を見せる。
 だが、これはまだ序章でしかない。
 出だしが終わり、ゆっくりとしたバラード曲へと変えていく。
 一歩前に出るエクサリー。

 音楽が歌に変わる瞬間。エクサリーから聞こえてくる澄んだ歌声。全てがそこへ集約されていく。

 気が付けば、目を閉じて、うっとりとした表情で耳を澄ましている皇帝陛下とユーオリ様。

「私達だけ聞くのは勿体無い程のものですね……」
「うむ……後で皆にも、聞かせてやりたいものだ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

【完結】ただ離婚して終わりだと思ったのですか?

紫崎 藍華
恋愛
デイジーは夫のニコラスの浮気を疑っていた。 ある日、デイジーは偶然ニコラスが見知らぬ女性と楽しそうに買い物をしている場面を目撃してしまった。 裏切られたと思ったデイジーは離婚のために準備を進める。 だが準備が整わないうちにニコラスが浮気を告白し離婚を提案してきた。

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

怪奇短篇書架 〜呟怖〜

縁代まと
ホラー
137文字以内の手乗り怪奇小話群。 Twitterで呟いた『呟怖』のまとめです。 ホラーから幻想系、不思議な話など。 貴方の心に引っ掛かる、お気に入りの一篇が見つかると大変嬉しいです。 ※纏めるにあたり一部改行を足している部分があります  呟怖の都合上、文頭の字下げは意図的に省いたり普段は避ける変換をしたり、三点リーダを一個奇数にしていることがあります ※カクヨムにも掲載しています(あちらとは話の順番を組み替えてあります) ※それぞれ独立した話ですが、関西弁の先輩と敬語の後輩の組み合わせの時は同一人物です

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

心からの愛してる

松倖 葉
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

異世界漫遊記 〜異世界に来たので仲間と楽しく、美味しく世界を旅します〜

カイ
ファンタジー
主人公の沖 紫惠琉(おき しえる)は会社からの帰り道、不思議な店を訪れる。 その店でいくつかの品を持たされ、自宅への帰り道、異世界への穴に落ちる。 落ちた先で紫惠琉はいろいろな仲間と穏やかながらも時々刺激的な旅へと旅立つのだった。

処理中です...