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第三章

レベル44

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 なにあいつ、つえぇえ。
 現れるモンスターを次から次へとなぎ倒していく。
 えっ、リーヴィの奴あんなに凄かったの?

 やべえ、そういや年上なのに呼び捨てにしてたわ。今度からリーヴィさんと呼ばないとな。

 それにしてもお姫様も凄い。
 シャドウスキルだっけ? それをまったく使ってないのに、瞬殺してござる。
 他の兵士さんまったく仕事してないよ?

 さすが本物のプリンセス。プリンセス(笑)とは大違いだ。誰の事とは言わない。

「凄いですね音楽とは、こんなに心も体も軽くなれる」

 いや、凄いのは君の基本性能だと思う。

「やはりそのギターがいいのでしょうか?」
「ん? まあ、いい楽器はいい音を奏でるのは当然かな。でも……」

 オレ手拍子を打つ、そして偶に剣を指で弾く。

「これだけでも音楽は作れる」
「……自分、目から鱗です」

 まあまあ、そんな硬くならなくても。ほんと真面目だなあコイツ。

「久しぶりにいい汗かいたな。今後も偶にはこうして付き合ってくれ!」
「いいですよ」
「えっ!?」

 お姫様が目をまん丸に見開く。
 どうやら冗談のつもりで言ったらしく、了解が得られるとは思ってもみなかったようだ。

「えっ、お前、ホンモノ? もしかして偽者じゃないだろうな?」

 なんだか顔が引き攣っている。そんなに珍しい事なのだろうか?
 いやでも、お姫様なんだし、命令すればいつでも可能だと思うのだが。

「もう、別に隠す必要はなくなりましたから」

 ふむ、隠していたのならしょうがない。

「素直なお前は逆に気持ち悪いな。まあいい、よしっ! お前達、今日はここで終わるぞ! 野営の準備をせよ!」
「ハッ!」

 その後も、圧倒的兵力と突出した二人の戦闘で、最深部に辿り着くまでにさほどの時間も掛からなかった。

「ふうむ……手ごたえが無いな……仮にも竜の寝床、もっと強力なモンスターが居てもおかしくはないのだが」
「岩竜は竜の中でもランクが低いと聞きます!」
「そうか、まあ贅沢は言ってられんな。よしっ! 戦闘準備をせよ!」
「ハッ!」

 お姫様の号令と共に攻城兵器が運ばれていく。
 そんな物まで準備できるのは、さすがは一国の軍である賜物だな。
 どうやら、ほんとにオレの出番はなさそうでござる。良かった、ほんとに良かった。

「竜は見つけたか?」
「ハッ、うまく擬態しているようですが、壁際に竜の反応をしている岩があります!」
「よしっ、ならば目覚めの一撃を加えてやるとするか」

 攻城兵器がとある岩に向けられる。
 その攻城兵器は、巨大な一本の槍が斜めに立て掛けられているだけだった。
 どうすんのかな? なんか魔法で打ち出すのだろうか?

 と思ってたら、地面から幾つもの黒い帯状のものが槍に絡み付く。
 どうやら影を操って射出する模様。
 その影によって限界まで弾き絞られる、いくつもの攻城兵器。

「これで死んでくれるなよ」

 そうニヒルに笑うお姫様。
 次の瞬間、一斉に槍が放たれる。
 それは狙いたがわず、一つの大きな岩に次々と突き刺さる。
 するとだ、

「グォォオオオ! ギャァアアオォオオ!」

 その岩が動き出したではないか。
 激しく暴れながら俺達を睨み付ける二つの赤い瞳。
 槍が突き刺さった岩の部分は大きく裂け目が出来ている。

「戦闘準備! 来るぞ!」

 岩から足が生えたかと思ったら、ドスンドスンとこちらに向かって走ってくる。
 しかし、

「オォオオ……グォオオ」

 地面から生え出した黒い帯が岩竜に絡まり動きを封じてしまう。

「フン、たわいもない。それでも竜種か? 2年前はもっと歯ごたえがあったぞ」

 兵士達はその動きを止めた岩竜に向かってランスを無数に突き立てる。
 ささった場所からボロボロと岩が崩れていく。

「さてと、それではドラゴンスレイヤーの称号を頂きにいくとするか? お前も来るか?」

 姫様は隣のリーヴィに問いかける。
 そのリーヴィはオレの方を向き、

「今回はギターを鳴らされないのですか?」

 そう聞いてくる。

「いやな、何か嫌な予感がするんだよな。いや、具体的にどうとも言えないんだがな……なんていうか、岩がなんか不自然な気が……」

 オレのそのセリフを聞いて眉をしかめるリーヴィ。
 するとハッと何かに気づいた表情で慌てて前を向く。
 まさかと呟いたリーヴィは駆け足で姫様の元へ向かう。

 その瞬間だった!

 突然、岩竜が姫様の影の拘束を断ち切ってジャンプする。
 その岩竜が地面についた瞬間、割れた。地面がだ!

「姉貴!」

 その岩竜を中心として地面が割れ、地面と共に下に開いた大きな穴に落ちていく岩竜。
 周りにいる兵士達を道連れにして。
 その穴に落ちかけた姫様の手を掴みこちらへ思いっきり引きこむリーヴィ。
 しかし、反動でリーヴィが穴に向かって落ちて行ってしまう。

「カユサルッ!」

 姫様がそう叫びながら穴の中へ飛び込もうとする。
 慌ててオレはお腹に抱き付きそれを止める。

「はなせっ! 貴様、離せというのに!」

 いや危ないでしょ! いたっ、イダダダ、やめろよ!

「落ち着いてください! イダッ、やめっ、……いい加減にしろよ! このワガママ娘!」
「なん、だと……」

 あっ、すいません、口がすべったッス。
 そんな怖い顔でみちゃイヤン。
 ふと、バサッ、バサッという音と共に辺りに風が拭き付ける。

 顔を上げると、そこには――――黒く輝く鱗を纏った一匹のドラゴンが宙に浮いていた。

「ブラック……ドラゴン……!?」
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