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第三章

レベル43 竜の住処

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「よく来たなドラゴンスレイヤー。護衛などいらぬと言ったのだがな」
「ドラスレは重いんで持って来てません」
「ハッハッハ! 冗談がうまいな貴様」

 洞窟の入ったばかりの広場で兵士達が大量に鎮座している。
 そこには、一際豪華な装備を身に纏った女性が一人。
 たぶんアレが護衛対象だろうと近づいた所、そんな事を言ってくる。

「やはり重いかその称号、此度の戦、益々楽しみになってきたな」
「何の事か知りませんが、あんなの持てる奴はどこにもいませんよ」
「ハッハッハ! 気に入ったぞ! 貴様は随分謙虚な奴だな!」

 なんだか、ちょっと話が噛み合ってない気もする。

「よし! 出立の準備をせよ!」
「まだ冒険者達が集まっていない様ですが?」
「必要ない! たかが岩竜ごときに冒険者の手を煩わすまでもないだろう」

 随分自信家なお姫様だ。
 岩竜ってそんなに強くないのかな?
 と、そこへ一人の兵士がオレに近づいてくる。

「やはり、師匠でしたか……」
「ん、もしかしてリーヴィか。お前も呼ばれたの?」
「志願致しました。たぶんこうなるだろうと思ったので……師匠、私の傍から離れないでください」

 お前……いい奴だな!
 頼むよ、オレそんなに強くないから。
 ほんとどうしようかと思っていた所なんだ。

「なんでオレが呼ばれたんだろうな……アレかな? やっぱ2年前手柄を横取りしたの恨まれてんのかな?」
「師匠が居なければかの竜は王都に向かい、多くの犠牲を出したでしょう。なのに師匠を恨む者など誰も居ませぬよ」
「だといいんだがなあ」

 ちょっとお姫様、そんなにドンドン先頭を歩かないでくださいよ。
 なんで指揮官が一番先頭に居るのよ?
 後方勤務だとばかり思っていたんですが……

 そこへモンスターの集団が現れる。

「仕方ない、やるか」

 オレは腰の剣を抜き身構える。
 しかし、

「貴様は何もせずとも良い、むしろ手を出すな。私は貴様の手を借りずかの称号を手に入れる!」

 それをお姫様が遮る。
 えっ、護衛しなくていいんスか?
 じゃあオレ何しに来たの? 帰っていいスか? えっ、ダメ? ですよね。

「護衛が必要な場面など訪れぬ! 見ておれ!」

『シャドウスキル・猛槍!』

 お姫様が手を前に突き出しそう叫ぶ。
 その瞬間、地面から無数の黒い楔が突き出したかと思うと、モンスター達を次々と串刺しにする。
 いくつかが掻い潜って来るが、兵士達と共に素早い動きで斬り捨てていく。

「我がスキル『影技・極』影を自由に操る事が出来るスキルだ。光の差さぬ洞窟ではまさに無敵であると言っても過言ではない!」

 なるほど、これならオレの出番はなさそうですね。
 となると、急に気持ちが軽くなってきた。
 ふうむ……そうだな、もっとお姫様に頑張ってもらう為に……

『出でよ! マンドラゴラ・ギター!』

 ――ギュイィィーン!

 突如、戦闘中にギターをかき鳴らすオレを、お姫様一同、不信な目付きでこっちを見てくる。
 オレはそんな奴らに、グッと親指を立ててニカッと笑ってやる。

「補助魔法です(大ウソ)」

 オレはお姫様達の戦闘に合わせて例のテーマを演奏する。
 そう誰もが聞いた事が有る、戦闘のテーマだ! えっ、聞いた事無い? あっ、日本人限定です!
 そうするとお姫様、キレッキレな動きでモンスター共を屠って行く。

「確かに、体が軽くなった気がするな」
「気持ちが逸りますな。まるで戦えって急かされている気分です」

 でしょうでしょう。
 これを聞くと戦意高揚になるんですよね~。
 イケイケどんどんな時はコイツを、慎重に戦わなければならない場合はコッチを。
 ボス戦のテーマとか最高の奴がいっぱいあるよね!

 ゲーム中、一回しか聞かないのに凄くいい音楽とか、超もったいないけどだからこそ盛り上がったよな。

「そのギターにはそんな効果が付与されているのですか……!?」

 リーヴィが驚いた表情で聞いてくる。

「いいや、ギター自体にはそんなスキルは存在しない。ついでに言えば正確には補助魔法ですらない」
「えっ!?」
「これは……音楽が持つ、そのままの力だ」

 音楽の……力? と聞き返してくる。

「そうだ。音楽には人を奮い立たせる力が有る」

 オレは戦闘に向いた激しいリズムを掻き立てる。

「音楽には人を慰める力がある」

 オレはゆっくりとしたバラードを力強く響き渡らす。

「音楽には人を笑顔にさせる力がある」

 オレは軽快なポップミュージックを奏でる。

「響くだろ? 心に、それを人は、音楽の魔法と呼ぶんだ」

 リーヴィは何か思いつめたような表情で前を向く。
 そして、そのまま前線に走っていく。
 ちょっと、何処行くの? オレの護衛は?

「姉貴、俺も戦う」

 なんか、お姫様が凄く驚いた顔をしている。

「……いいのか、今まで散々隠してきたのだろう? 実力を。私の目の前でたとえ手加減したとしても・」
「手加減はしない、全力で戦う!」
「…………何がお前をそうまで変えた?」

「音楽だ……俺は師匠の音楽を体に感じて戦いたい!」
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