75 / 80
5章 冒険者初級編
第75話 水を差す
しおりを挟む案の定ルリアとフレイシーはご機嫌に騒ぎ出していて、今ではテーブルを離れ立ち飲み――というより瓶酒をラッパ飲みをしている。
明日どうなっても知らないぞ……。
キリーカはいつの間にかテーブルに伏して眠っていた。
スーも以前よりはお酒が進んでおり、顔が溶ろけ始めているようだ。
俺はというと、お酒があまり進んでいなかった。
それというのも少し離れた席に座っている冒険者パーティーらしき団体のうちの一人の女性が、こちらを睨むようにして見てきている事に気づいてしまったからである。
何処かで見たことがあるような気がするのだが、思い出せずにいるのも拍車をかけており、純粋にこの場を楽しめずにいる。
しかもたまに、目があってしまうので余計に気まずい。
なるべく目を逸らしつつ食事会を楽しもうとしていたが、その女性がテーブルを勢いよく立つのが横目に映る。
……何か嫌な予感がするぞ、と思っていると案の定こちらにツカツカと近づいてくる。
同じパーティーの男性が止めようとしているが跳ね除けられていた。
そして俺達のテーブルに来るなり、腕を組んだまま「アンタ達、調子に乗れるのも今だけだからね!」などと言い出した。
この人は何を言っているのだろうかと、思わず思考が停止しかける。
というかいきなり失礼が過ぎないか?
「あの、突然そんなことを言うのは失礼では?」
つい思ったままを口に出してしまうが、どうやら元からメインターゲットは俺だったようで――
「あんたこそ、仲間に悪いと思わないのかしら?」
「……何がでしょう」
しかし矛先が全体から自分一人に移ったことで、かえって冷静になる。
接客で理不尽な事を言われていた時と比べれば気にならないし、仲間を悪く言われるよりは腹が立たない。
「仲間を試験優秀者だけで固めるだなんて、恥ずかしいと思わないの? まだ試験優秀者だけのパーティーならまだしも、貴方のような足手まといがいると優秀な者にとっては迷惑なのよね。自分の実力はちゃんと見極めておかないと、恥ずかしいわよ?」
なるほど、まさかそういった見方をされれているとは思ってもみなかった。
しかし、パーティーの組み方なんぞで人に指図される言われも無い。
「そうですか、ご忠告ありがとうございます。ですが私達はそれぞれ納得した上でパーティーを組んでいますのでご心配には及びません。それよりも貴方の常識の無さをどうにかしないと、仲間に迷惑がかかりますよ。自分の行動はちゃんと見直してください、恥ずかしいですよ?」
つい現世での仕事を思い出し、口調が俺から私に変わる。
「なっ――!」
似たようなセリフで言い返すと、まさか言い返されるとは思ってもみなかったのか分かりやすく顔を赤くしている。
ただこのくらいで簡単に効いてしまうのなら、こうやって突っかかってくるのには向いていないと思うので辞めたほうがいいぞと思う。
「私は貴方と違って優秀だから、迷惑なんかかけてないわ! ね、そうでしょ?」
「あー、うん。迷惑なんかかけてないから、ほらこっちきて食事の続きしよう?」
先程彼女を止めようとしていた男性が、返事をする。
彼女には見えない位置で、こっそりとペコペコこちらに頭を下げていた。
「ふん、仕方ないわね。でも貴方、実力差があればあるだけパーティーを危険に晒すというのは事実よ。肝に銘じておくことね」
「そうですか、ご心配ありがとうございます」
「誰があんたなんかの心配をしてるっていうのよ! まったく、バカばっかりだわ」
女性は、腕を組んで不機嫌そうに自分たちのテーブルへと戻っていったが、あれではパーティーの人たちも苦労していることだろう。
それに、結局のところ何がしたかったのだろうか……。
◆◇◆◇
謎の女性が去ってから、スーがグラスの中のマドラーを回しつつ「今のって、レイくんと同じ部門で試験受けてた子だよね」と呟く。
その言葉で思い出したが、試験中やたら派手に爆破系の魔法を唱えて空中の矢を消し去っていた魔法使いがいたが、彼女がそうだったのか。
すっかり忘れていた。
「よく覚えてたな」
「むしろ覚えてない方が驚きだけどね」
「はは……あんまり人のこと覚えるの苦手なんだよな」
「それにしても、なんだかターゲットにされちゃってたね。私達のこと庇ってくれちゃったりして、ちょっとかっこよかったから何も言わず見守っちゃった。ごめんね」
「からかうなよ。それに気にしてない。あんなのにわざわざ絡みにいく必要はないからな。まぁ向こうがだいぶ子供ぽかったから助かったよ」
「……それ言ったらもっと怒りそう」
「……言うなよ?」
「にゃはは」
「んん……何かありましたか……?」
テーブルにつっぷしていたキリーカが眼を覚まし、まぶたをこする。
「何でも無い、そのまま寝ててもいいぞ」
「……はい、わかりまし……た……」
そのまま再び顔を伏せて、眼をつむるキリーカの頭をスーが優しく撫でた。
「ねーねーれいちゃーん、なんかおはなししてたけどー、どったのー?」
完全に出来上がって呂律が回っていないルリアがフラフラと戻ってくる。
ルリア越しにいつのまにか上半身裸でポーズを決めているフレイシーが見えたので、視線をすぐにルリアに戻した。
「なんでもないよ。冒険者同士挨拶してただけだ」
「んー? そっかぁ、あいさつかー。にへへ……れいちゃーん、こんばんわぁ」
「はいはいこんばんわこんばんわ」
「へへへ……」
そのまま俺の膝に頭を置いて座り込んでしまう。
ぐりぐりと頭をふとももにこすりつけてくるのは、少しくすぐったいので辞めてもらいたい。
「おい、お前は犬かなにかか」
「へへー、れいちゃ……わんわんっ」
「はぁ……酔っぱらいめ」
スーがくすくすと笑っている。
嵐が去っても、なんとも騒がしい夜であった。
0
お気に入りに追加
815
あなたにおすすめの小説
気がついたら異世界に転生していた。
みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。
気がついたら異世界に転生していた。
普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・
冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。
戦闘もありますが少しだけです。
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~
未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。
待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。
シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。
アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。
死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる