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5章 冒険者初級編
第71話 不穏な影
しおりを挟むその後も探索を続け、草むらから飛び出してくるキラーラビットを順に始末していく。
十体目を狩り終わる頃には角の処理にも少し慣れてきていた。
だからなのか、ふとした違和感に気づく。
「なぁ……この個体についてるひっかき傷みたいなの、スーの武器じゃないよな?」
「え、今日はまだこの子は使ってないから違うよ」
そう言って腰元につるしている鍵爪を手に取りながらスーは俺の問いに答える。
「そうなると……この傷、だれがつけたんだ?」
「ねぇねぇ、こっちの個体にもひっかき傷みたいなのついてるよ?」
「ほんとか? 見せてくれ」
ルリアが先程狩った中から一体を掴み、俺の元へと運んでくる。
指をさされた箇所を見れば、先程の個体とはまた別の場所に傷があった。
そして、どちらも新しい傷だった。
「近くで同じような任務してる冒険者がいて、取り逃がしたとか?」
「その可能性はあるかもしれないけれど、それなら近くに冒険者パーティーがいるってことだよね」
「そういや毎回キラーラビット達は草むらから飛び出してきてたよな。その冒険者パーティーから逃げ出してたのかもしれないな」
「……でももし、冒険者じゃないとしたら……どういうことになるんでしょうか」
「それはもちろん、キラーラビットよりも凶暴なモンスターが近くにいるということだろう! ハッハッハッハッ」
「えーっと、それは笑い事じゃぁないとボクは思うんだけどなぁ……」
一人呑気なやつは置いておくとして、それ以外の面々に緊張の色が浮かび始める。
もしもフレイシーの言う通りより危険なモンスターが近くにいるのであれば、それと遭遇したとき俺達が無事でいられる保証はどこにもない。
薬草の採集は出来ていないが、キラーラビットの討伐自体は既に最低限完了しているのだ。
すぐに帰還すべきではないかという考えが少しずつ色濃くなっていく。
「なに、そんなに心配することはない。このような浅い場所にさほど強力なモンスターは出現しないさ。現に数刻、安全に探索を行えていたではないか」
「まぁキラーラビットはモンスターの中でも下層も下層のモンスターだし、ちょっと強いくらいならなんとかなるか」
そう言われれば大丈夫なような気もしてくる。
「薬草採集……失敗になっちゃいます」
どうやら五人中三人は残って薬草採集とキラーラビット討伐を続けたいようだ。
確かに、コレアスの森に来てからまだ一時間が二時間そこらしか経っていない。
せっかくの冒険者としての初任務を、こんな短時間で済ませたく無いという気持ちは俺にもある。
しかし、未知の情報が出てきた今俺はどうすればいいのか悩んでしまった。
そうしているうちに、次第に話がまとまっていく。
「では薬草採集をしつつ、遭遇したキラーラビットは討伐を続けてゆこうではないか」
「キラーラビットの討伐が増えれば報酬も増えるかも……」
「初めての仕事……頑張りましょう」
「……あぁ、そうだな」
結局自分では決めきれず、その場の流れに合わせてしまう。
ルリアが心配そうな顔で見てくるので、頭を撫でてやる。
「大丈夫だ。みんな強いし、フレイシーの言う通り多少強いくらいならなんとかなるよ。本当に危なそうならすぐに引き返すよ」
「うん……そうだね。大丈夫だよね」
それからもしばらくの間、森の浅いところを重点的に調べて回るがとうとう薬草を見つける事ができなかった。
今はというと、結局既に通ってきた道を戻るかたちとなっている。
「残念、薬草見つからなかったにゃぁ……」
「キラーラビットは山程狩れたがな!」
「手がかなり獣臭くなっちまった……洗って取れるかなこれ」
「レイちゃん、くっさ」
「……」
「ちょ、無言で顔に手を近づけてくるのやめ――あ、ほんとにくっさいよ!?」
「ふふふ……」
すっかり凱旋モードになり、気が緩んでいた――その時だった。
「!? と、止まって下さい!」
キリーカが今日一の声を出す。
俺達は何事かと思い、戸惑いながらも臨戦態勢を取る。
「……前方に、なにかいます」
「なにかって、なにがいるんだ……?」
「わかりません。でも、すごく……怒ってます」
前方、つまりは森への出口に繋がる道に何かがいるとキリーカは言う。
ということは――
「なるほど。それと対峙しなければ、俺様たちは森から出られない状況になったというわけだな?」
「なんともわかりやすい状況説明をありがとう、フレイシー」
「ハッハッハ、礼にはおよばん」
「悪いなルリア、あそこで引き換えしてれば……」
「それは言いっこなし。ボクだってちゃんと意見を言わなかったし、次気をつければいいだけのこと! 今は眼の前のことに集中だよ、リーダー」
「……ありがとう」
俺は改めて現状を整理し始める。
そして考える。
このまま進むのか、それとも何かが去るまでどこかに潜むか……。
俺の言葉を皆が待っている。
皆の視線を浴びながら、俺は一つの選択をした。
「よし、進もう」
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