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5章 冒険者初級編

第62話 打ち明ける

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 しばらくローブに付いているフードごしに頭を撫でていてやると、「もう大丈夫です」と言うので手を離した。

「唐突な話で、申し訳ないです……、改めてお願いします。わたしもパーティに入れてくれませんか?」

「理由を教えてもらう事は出来る?」

 俺はなるべく優しげなトーンで話しかける。
 問い詰めるようなかたちにはしたくなかった。

「はい。まず、きっかけは、お兄様が冒険者を目指そうとされていたところからです」

「結構前から考えていたんだね」

「そう、ですね。最初は、せっかく仲良くなれたお兄様とまた離れちゃうのかな、とか考えていたんですけど……そしたらお姉ちゃんが、なら付いていっちゃえ、って」

 あの人はまったく……豪快というか、なんというか……。

「それからです、ずっとどうしようか考えてました……。冒険者だなんて、考えたことも無かったですし。でも、出来ない事は無いかもしれないとも思ってました。わたしの力とスキルがあれば……お兄様の役に立てるかもしれないって」

「怖くないの? 危険な目にもあうかもしれないよ?」

「怖かったです、よ? でもそれよりも寂しい方が嫌でしたし……何よりも、もしかしたら変われるかもって思ったんです」

「変われる?」

「はい。いつも、店やお姉ちゃんに隠れてコソコソと過ごす毎日から、変われるんじゃないかって……すごい冒険者になれば、たとえわたしがこんなでも、みんなから認めてもらえるんじゃないかって、そう思ったんです」

 一緒に話を聞いている二人は、よく分からない部分もきっとあっただろうに、キリーカの話を真剣に聞いてくれている。

「そうだよね、寂しいのは嫌だもんね」
「うんうん、名のある冒険者になれば、自分の思いもしたいことも、悪いことじゃなければ何でも押し通せちゃうはずだよ!」

「だから決めたんです、わたしも……冒険者になろうって。思ったんです、お兄様と一緒ならきっと怖くないって。だから、わたしを……パーティに入れてくれませんか?」

 最初にあたふたとしながら宣言した時よりも、強い眼差しで俺に向かって手を差し出す。
 よく見れば、差し出した手は小刻みに震えている。
 あのキリーカが、こんなにも勇気を振り絞っているのだ。

 俺は、振り返り二人とアイコンタクトを取る。
 二人共、予想通りの反応を返してくれた。

 俺は「これから、改めてよろしくな。キリーカ」と、震える手を両手で握りしめた。

「っ……! ありがとうございます、お兄様!」

 キリーカが俺の両手を反対の手で握りしめた。
 その手の震えはようやく止まった。

「よろしくねキリーカちゃん。これから仲良くしよーね」
「もちろんスーとも仲良くしてほしいにゃ」

 後ろの二人が声をかける。

「はい……よろしくお願いします! それで、最後にちゃんと伝えておかないといけないと思って……」

 いずれは話すのだろうと思っていたが、キリーカは最初からちゃんと伝えておく事にするようだ。

「もし、嫌だったら言って下さい。でも、仲間になる人に、隠し事……したくない、ので」

 そう言って、キリーカはローブのフードになっている部分を両手で少しだけ浮かし、二人にだけ角が見えるようにする。

「あー、そういうことにゃ? でも、スーが知ってる知識とはちょっと違う気がするけど」
「ボクも同意見かな。ちゃんと聞いてもいい?」
「もちろんです、ちゃんと……説明します」

 そして、キリーカが魔族と人間族のハーフであること。
 それによるものなのか、感情の色が見えること。
 キリーカが秘密にしていたことを二人に話した。

「理解したよ。でもさ、それを知っていてレイくんはキリーカちゃんと仲良くしてたんだよね?」

「あぁ、そうだな。キリーカはキリーカだ。種族がどうとか生まれがどうとか、見た目がどうとか関係ないからな」

「さっすがボクのレイちゃん、カッコイイ事言うねー」
「誰かお前のだ」

「にひひ。ボクもびっくりはしたけど、気にしない事にしたよ。だって、キリーカちゃんが何か悪い事したわけでもないし、今こうして話してみていい子だなーって思ったから」

「スーはかなりびっくりしたけど、うんそうだね。ルリアちゃんの言う通りだと思うな。スーも、もし獣人ってだけでどうこう言われたらすっごく嫌だし、そんな事は言いたくないもん」

「ということは、二人ともキリーカの加入は問題ないってことでいいか?」

「「もちろん」にゃ!」

「っ……、ありがとうございます。勇気を出して、良かったです」

 キリーカは二人とも握手を交わし、こうして四人組のパーティが結成されたのであった。

「んー……それにまぁ、ボクも隠し事は現行でしてるし? あんまし人のことは言えないからねー」
「え、女装のことかにゃ?」
「あの、女装のこと、ですか?」
「おい、隠し事になってないみたいだぞ」
「なんで?! どうして?!」

 どうやらルリアのコレ女装は、周知の事実のようだった。

 それとは別に、一つの問題が浮上する。

「でも、ちょっと前衛が足りないかもね。スーはどっちかっていうと、攻撃型だから、防御型の前衛が欲しいかなって」

 確かに現状では前衛一人に後衛三人という、なかなかのアンバランスさである。
 仮に俺が中衛ポジションであると置き換えても、前衛は不足している。

「なぁ、スーのところにいたやつで、優秀な防御型前衛のやつはいなかったのか?」

「何人かはいたけど、もうだいたいは取られちゃったみたいだねー」

 スーの目線を追うと、既に同期たちはギルドの前で俺たち同様パーティーを結成していた。
 その輪のすべてにおいて、それらしき人物が混ざっている事が分かる。

「まだパーティーを組んでないやつだいるといいんだがな」と、辺りを見回していると、銀色に光る鎧を着込んで、何やら手鏡で前髪を整えている奴が目に入る。

「んー、今日も傷ひとつない。うつくしい……」

「あ、まだいたね。ちょっと声をかけてくるね!」
「ちょっと待った」

 俺はスーの手を急いで掴む。
 ――アレは、絶対にヤバい奴だ。関わってはいけない。

「んー、ビューティフォー!」
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