49 / 80
4章 異世界葛藤編
第49話 ヤドカリ
しおりを挟む今日の出来事を順に話していく。
二人は黙って話を聞いていたが、話し終えると同時にエリスさんが口を開いた。
「なるほどねぇ…、まぁなんとなく状況は理解したよ。それならひとまず今日のところはそこの休憩室を貸してやるから、そこで寝るといいさ」
エリスさんが、親指で休憩室の方向を指さしながら、淡々と言う。
キリーカは、エリスさんの発言を聞いて深く頷く。
「…いいんですか?」
「今日のところは行く宛も無いんだろう?」
「そう、ですね。宿屋に泊まれない事もないですが…今の手持ちでは心もとないのは事実ですし、正直困っていました」
「だろう? まぁ大した広さは無い部屋だけど、テーブルをどけて、椅子でも並べた上にその布団でも敷けば、あんた一人くらいならなんとか寝れるだろう?」
確かに、寝るだけならなんとかなりそうな広さではある。
正直、願ってもない提案であった。
「…ご迷惑をおかけします。今夜はよろしくお願いします」
俺は膝に両手を置きながら、頭を下げる。
しかし、恩を受けるだけでは気が済まず、何か手伝いができないか提案をしようと、代わりにと言ってはなんですがと声を掛けるが、エリスさんの発言によって遮られる。
「あぁ、その前に、キリーカ。休憩室を軽く掃除してきてくれるかい?」
「うん、分かった」
キリーカはこくりと頷き、パタパタと休憩室へと向かう。
しばらくすると、何かを引きずるような音や、椅子の足が互いに当たっているような、金属のガチャガチャという音が聞こえてきた。
すると、エリスさんが真剣な面持ち…というよりも、少し怒っているような表情でこちらを見下ろしてくる。
「さて、あの子がいなくなったから言うけどね、あんたちょっと勘違いしてるんじゃないのかい?」
キリーカに聞こえないようにか、声の大きさは小さめだが、どこか圧のあるトーンで言われ、思わずドキリとする。
しかし、思い当たるフシが無く、首を傾げる。
「勘違い…? 何を、でしょうか…」
「人の親切心ってやつをだよ。それにね、あんた、何であの子には何も話してやらなかったんだい?」
先程の外でのこと、だろう。
確かに、キリーカに聞かれたとき、俺はその場を誤魔化した。
しかし、それは迷惑をかけたくない、巻き込みたくないと思ったからであって…、それの何がいけなかったのかと考えていると、エリスさんが言葉を続ける。
「あの子があたしのとこにきて、なんて言ったかわかるかい? 今のあんたには分からないだろうね。」
どこか挑発的な言葉に、俺は返す言葉が見つからず、黙って次の言葉を待つ。
「私なんかじゃ頼ってもらえないから、お姉ちゃんならきっと頼ってくれるから、代わりに何があったかお兄様に聞いてくれって、悲しそうな顔をしながら言ったんだよ」
「あんた、そん時のキリーカの気持ちが分かるのかい?」
テーブルに片手をバンとつきながら、俺の顔をじろりと見ながら言い放つ。
俺は、何も言い返すことが出来ない。
「……」
「話は終わりだよ。今日はもう寝な。あたしも少し、冷静じゃないからね」
テーブルから手を話し、俺の前から離れていき、顔だけを少しこちらに向けながら、「朝飯は作ってやる、あとは自分で考えて自分で行動しな」と、冷たく言い放つ。
「…ありがとう、ございます。それと、すみません…」
「…はぁ。そろそろあの子も戻る頃だね。それじゃ、また明日。おやすみ」
最後は少しだけ、いつもの優しげな雰囲気に戻ったエリスさんがその場を去ると、入れ替わりでキリーカが休憩室より戻ってきた。
急いでくれていたのか、戻ってくる際も、パタパタと駆け足であった。
「準備、出来ましたよ。…あれ? どうか、しましたか?」
俯いて考え込む俺に、不思議そうにキリーカが声を掛けてくれる。
「ううん、何でもない…いや…、違うな。ごめんよキリーカ」
思わずまた誤魔化そうとしてしまう考えを捨てて、先程の態度に対して謝罪をする。
「え…? あ………聞いた、のですね。その…、いえ、私が、勝手にそうしただけですから、気にしないで、ください」
いきなりの謝罪に、はじめは何のことかわからないといった様子だったが、すぐに察したのか、悲しそうな表示をしながらそれだけ言うと、キリーカはそのまま奥の部屋へと去っていってしまった。
並べた椅子に布団を敷いてみると、なんとか眠れるくらいのスペースは確保できたので横になってみる。
少しぼこぼことした感触はあるが、眠れない程では無かった。
椅子を倒さないように、ゆっくりと布団へ潜り込む。
横になり一息つくと、エリスさんとキリーカ、それにルリアの言葉が頭の中で何度も繰り返し流れていた。
俺は一体、何をやっているのだろう。
自分に対して、親切にしてくれた人達に対して、感謝の気持ちを伝える為にしてきた発言や行動が、何か間違っていたのだろうか。
何故、怒らせるような…悲しませるような事に、なってしまったのか…。
俺はただ…。
見慣れない天井を眺めながら、どうすればよかったのかとしばらく考えていると、なかなか寝付けずにいたが、一時間も過ぎる頃には、次第に目も重たくなっていき、気づけば眠りに落ちていた。
0
お気に入りに追加
815
あなたにおすすめの小説
謎の能力【壁】で始まる異世界スローライフ~40才独身男のちょっとエッチな異世界開拓記! ついでに世界も救っとけ!~
骨折さん
ファンタジー
なんか良く分からない理由で異世界に呼び出された独身サラリーマン、前川 来人。
どうやら神でも予見し得なかった理由で死んでしまったらしい。
そういった者は強い力を持つはずだと来人を異世界に呼んだ神は言った。
世界を救えと来人に言った……のだが、来人に与えられた能力は壁を生み出す力のみだった。
「聖剣とか成長促進とかがよかったんですが……」
来人がいるのは魔族領と呼ばれる危険な平原。危険な獣や人間の敵である魔物もいるだろう。
このままでは命が危ない! チート【壁】を利用して生き残ることが出来るのか!?
壁だぜ!? 無理なんじゃない!?
これは前川 来人が【壁】という力のみを使い、サバイバルからのスローライフ、そして助けた可愛い女の子達(色々と拗らせちゃってるけど)とイチャイチャしたり、村を作ったりしつつ、いつの間にか世界を救うことになったちょっとエッチな男の物語である!
※☆がついているエピソードはちょっとエッチです。R15の範囲内で書いてありますが、苦手な方はご注意下さい。
※カクヨムでは公開停止になってしまいました。大変お騒がせいたしました。
気がついたら異世界に転生していた。
みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。
気がついたら異世界に転生していた。
普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・
冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。
戦闘もありますが少しだけです。
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~
未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。
待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。
シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。
アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。
死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる