45 / 80
3章 異世界技能編
第45話 最後の一投
しおりを挟む
俺は足元に転がっている、手で握れるくらいの石に目をやり、ほんの一瞬考えた。
やるしかない、怖い、無理だ、出来っこない、でもやるしかない。
そんな感情がぐるぐると頭を駆け巡る。
そして、俺は数パーセントの可能性にかけることにした。
「……分かりました。荷物を下ろすので、足をどけてもらえませんか」
「キヒヒ、やっぱり自分の身は大事にしねーとなぁ」
取り巻きが目を閉じて俺をあざ笑う。
その瞬間を逃さず、俺は小石を強く握りしめ、死ぬ気でそれを投げつけた。
小石は真っ直ぐに勢いよく飛んでいき、笑っている取り巻きの肩にぶつかった。
ガコンという、鈍い音が聞こえたと同時に、ギャアアアという悲鳴が上がった。
取り巻きは肩を抑えるようにして、その場に倒れ込む。
俺は小石をさらに拾い上げて立ち上がる。
大男は、取り巻きの突然の悲鳴に少し動揺したのか、そちらに一瞬視線が向くが、すぐにそれが俺の仕業である事を察知し、俺を鬼のような目つきで睨みつける。
「殺されてぇのか、キサマァ……」
低く、怒りの籠もった声に、思わず足が震えそうになるのを必死で抑え、一歩後ろに下がる。
「荷物を奪われるのも、殺されるのも……遠慮願いたいね」
精一杯強がって見せるが、少し声が震える。
それを見て、大男はニヤリと笑みを浮かべた。
俺は震える拳に力を込めて、思いっきり小石を大男に向かって投げつけた。
まっすぐに小石は、大男の顔面に向かっていく。
良し、と思ったのも束の間。
大男は、大きな手のひらで顔の前を覆い、小石を受け止めてしまう。
バシィッと弾けるような音がするが、大男の手のひらを赤くするに留める結果となってしまった。
「いてぇなぁ。いてぇじゃねぇか……よ!」
大男は、ハエでも叩き落とすかのように、俺に向けて掌底を振り下ろしてくる。
俺はそれを両腕でガードしようとするが、大男の力まかせの攻撃に、そのまま後ろに弾き飛ばされ、そのまま壁に激突してしまう。
背中に布団を背負っていたため、衝撃が多少分散されたが、ガードした両腕はジンジンと痛み、皮膚が切れてしまったのか、出血も見られた。
「今のは最後の警告だ。さっさと有り金と荷物を置いていきな。今なら後一発で許してやる」
大男は、拳を握りしめながら一歩一歩、死刑宣告をするかのように近づいてくる。
荒い呼吸をしながら、俺は周りに転がっている小石に目をやる。
そして、右手に1つ、石を握りしめ、大男を睨みつけた。
「そうか。それが返事だな。本当に、馬鹿なやつだ」
大男は、大きく拳を突き上げた。
その瞬間に、俺は一か八か、魔力を発現させようと試み、左手を大男にかざす。
出ろ……出ろ……出てくれ!
俺は、ありったけのエネルギーを手に集中させるようにして、叫ぶ。
「ぁぁぁあああああああああ!」
力を込めすぎて、頭の血管が切れてしまいそうなぐらい、全霊を込めて、未だ一度も成功したことのない魔法の発現を願う。
が、願っても願っても、左手からは何も発現することは無い。
「っ、くそがぁあああああああああああああああああああああ!」
俺は、右手に握りしめた小石を顔に向かって投げつけた。
しかし、それすらも大男は首を傾けただけで、避けてしまった。
「クックックッ……終わりだな」
大男の拳が顔面に迫りくる。
思わず目を閉じたその時、ガツンッという音が辺りに響いた。
そして、しばらく経っても殴られる様子が無い。
俺は、恐る恐る目を開けていく。すると、大男の拳はまさに目の前にあった。
しかし、大男に意識は無く、そのまま力なく地面へと突っ伏した。
それと同時に、カラカラカラと小石が地面に落ち、転がる。
そして、その大男の後頭部を見ると、何かに小石くらいのサイズの物に抉られたような凹みがあった。
「……はぁ……はぁ。やった、のか……?」
「ひ、ヒィィィぃ」
その様子を見てか、取り巻きの男は肩を抑えながら逃げていった。
思わず体から力が抜け、ため息がこぼれる。
倒れている大男を見ると、一応息はしている。
死んではいないようだった。
その事にも安心しつつ、俺はゆっくりと立ち上がり、ひとまずこの事を処理してもらう為にも、路地裏を抜けて、衛兵を呼ぶ事にした。
何故、避けられてしまった筈の小石が、後頭部に当たったのかという、一つの疑問が残りつつも……。
やるしかない、怖い、無理だ、出来っこない、でもやるしかない。
そんな感情がぐるぐると頭を駆け巡る。
そして、俺は数パーセントの可能性にかけることにした。
「……分かりました。荷物を下ろすので、足をどけてもらえませんか」
「キヒヒ、やっぱり自分の身は大事にしねーとなぁ」
取り巻きが目を閉じて俺をあざ笑う。
その瞬間を逃さず、俺は小石を強く握りしめ、死ぬ気でそれを投げつけた。
小石は真っ直ぐに勢いよく飛んでいき、笑っている取り巻きの肩にぶつかった。
ガコンという、鈍い音が聞こえたと同時に、ギャアアアという悲鳴が上がった。
取り巻きは肩を抑えるようにして、その場に倒れ込む。
俺は小石をさらに拾い上げて立ち上がる。
大男は、取り巻きの突然の悲鳴に少し動揺したのか、そちらに一瞬視線が向くが、すぐにそれが俺の仕業である事を察知し、俺を鬼のような目つきで睨みつける。
「殺されてぇのか、キサマァ……」
低く、怒りの籠もった声に、思わず足が震えそうになるのを必死で抑え、一歩後ろに下がる。
「荷物を奪われるのも、殺されるのも……遠慮願いたいね」
精一杯強がって見せるが、少し声が震える。
それを見て、大男はニヤリと笑みを浮かべた。
俺は震える拳に力を込めて、思いっきり小石を大男に向かって投げつけた。
まっすぐに小石は、大男の顔面に向かっていく。
良し、と思ったのも束の間。
大男は、大きな手のひらで顔の前を覆い、小石を受け止めてしまう。
バシィッと弾けるような音がするが、大男の手のひらを赤くするに留める結果となってしまった。
「いてぇなぁ。いてぇじゃねぇか……よ!」
大男は、ハエでも叩き落とすかのように、俺に向けて掌底を振り下ろしてくる。
俺はそれを両腕でガードしようとするが、大男の力まかせの攻撃に、そのまま後ろに弾き飛ばされ、そのまま壁に激突してしまう。
背中に布団を背負っていたため、衝撃が多少分散されたが、ガードした両腕はジンジンと痛み、皮膚が切れてしまったのか、出血も見られた。
「今のは最後の警告だ。さっさと有り金と荷物を置いていきな。今なら後一発で許してやる」
大男は、拳を握りしめながら一歩一歩、死刑宣告をするかのように近づいてくる。
荒い呼吸をしながら、俺は周りに転がっている小石に目をやる。
そして、右手に1つ、石を握りしめ、大男を睨みつけた。
「そうか。それが返事だな。本当に、馬鹿なやつだ」
大男は、大きく拳を突き上げた。
その瞬間に、俺は一か八か、魔力を発現させようと試み、左手を大男にかざす。
出ろ……出ろ……出てくれ!
俺は、ありったけのエネルギーを手に集中させるようにして、叫ぶ。
「ぁぁぁあああああああああ!」
力を込めすぎて、頭の血管が切れてしまいそうなぐらい、全霊を込めて、未だ一度も成功したことのない魔法の発現を願う。
が、願っても願っても、左手からは何も発現することは無い。
「っ、くそがぁあああああああああああああああああああああ!」
俺は、右手に握りしめた小石を顔に向かって投げつけた。
しかし、それすらも大男は首を傾けただけで、避けてしまった。
「クックックッ……終わりだな」
大男の拳が顔面に迫りくる。
思わず目を閉じたその時、ガツンッという音が辺りに響いた。
そして、しばらく経っても殴られる様子が無い。
俺は、恐る恐る目を開けていく。すると、大男の拳はまさに目の前にあった。
しかし、大男に意識は無く、そのまま力なく地面へと突っ伏した。
それと同時に、カラカラカラと小石が地面に落ち、転がる。
そして、その大男の後頭部を見ると、何かに小石くらいのサイズの物に抉られたような凹みがあった。
「……はぁ……はぁ。やった、のか……?」
「ひ、ヒィィィぃ」
その様子を見てか、取り巻きの男は肩を抑えながら逃げていった。
思わず体から力が抜け、ため息がこぼれる。
倒れている大男を見ると、一応息はしている。
死んではいないようだった。
その事にも安心しつつ、俺はゆっくりと立ち上がり、ひとまずこの事を処理してもらう為にも、路地裏を抜けて、衛兵を呼ぶ事にした。
何故、避けられてしまった筈の小石が、後頭部に当たったのかという、一つの疑問が残りつつも……。
0
お気に入りに追加
815
あなたにおすすめの小説
謎の能力【壁】で始まる異世界スローライフ~40才独身男のちょっとエッチな異世界開拓記! ついでに世界も救っとけ!~
骨折さん
ファンタジー
なんか良く分からない理由で異世界に呼び出された独身サラリーマン、前川 来人。
どうやら神でも予見し得なかった理由で死んでしまったらしい。
そういった者は強い力を持つはずだと来人を異世界に呼んだ神は言った。
世界を救えと来人に言った……のだが、来人に与えられた能力は壁を生み出す力のみだった。
「聖剣とか成長促進とかがよかったんですが……」
来人がいるのは魔族領と呼ばれる危険な平原。危険な獣や人間の敵である魔物もいるだろう。
このままでは命が危ない! チート【壁】を利用して生き残ることが出来るのか!?
壁だぜ!? 無理なんじゃない!?
これは前川 来人が【壁】という力のみを使い、サバイバルからのスローライフ、そして助けた可愛い女の子達(色々と拗らせちゃってるけど)とイチャイチャしたり、村を作ったりしつつ、いつの間にか世界を救うことになったちょっとエッチな男の物語である!
※☆がついているエピソードはちょっとエッチです。R15の範囲内で書いてありますが、苦手な方はご注意下さい。
※カクヨムでは公開停止になってしまいました。大変お騒がせいたしました。
気がついたら異世界に転生していた。
みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。
気がついたら異世界に転生していた。
普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・
冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。
戦闘もありますが少しだけです。
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~
未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。
待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。
シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。
アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。
死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる