12 / 80
1章 異世界起床編
第12話 夜の勉強会
しおりを挟むルリアの作ったスープと、バケットのようなパンを御馳走になった後、ソファで食休みをしていると、食器を片付け終えたルリアが声をかけてくる。
「どう? ボクの特製スープは。美味しかったでしょー」
「あぁ、思ってたよりは美味かった」
「素直じゃないなぁー」
ルリアが隣に座り、頬をつついてくる。
「おいやめろ、男に頬をつつかれる趣味は無いぞ」
「さっきまで喜んでたくせにぃ」
「喜んでない喜んでない」
「もうちょっとナイショにしとけばよかったかなー」
「……やめてくれ」
ルリアがにひにひと笑う。
これでスープが美味しかったと素直に吐けば、余計にからかってくるであろう事は理解っていたので、言葉を濁したのは秘密にしておこう。
「さてと、そろそろお勉強の続き……やろっか」
そう言って、ルリアはベッドの近くに置かれていたベージュ色の鞄から分厚い本を一冊取り出すと、これみよがしに表紙を見せてくる。
「じゃじゃーん。子供でもわかる、スペリティアの歴史ー」
「スペリ、ティア?」
「ほんとーになーんも覚えて無いんだねぇ。これは重症だー。スペリティアっていうのは、この星の名前だよ。そんでもって、クラウル地方の都市レストがここの名称だから、覚えておいてねー」
「お、おう……」
横文字だらけで若干の不安を覚えるが、一般常識的知識は覚えておかなければならない。
少しずつでも蓄えていこう。
「ちなみに、北のルクランと南のエニスペって国が古くからある大国なんだけど、まぁ今は頭の片隅にでも置いておいてぇ」
――本当に覚えられるだろうか。
不安になった俺は、ルリアからメモになるような紙を借りて、メモを取りはじめる。
ルリアが教えてくれたことをまとめると、こうだ。
この世界、スペリティアには多くの種族がおり、大きく分けると、人間族・エルフ族・ドワーフ族・獣人族・花人族・龍人族・妖精族、そして魔族・死霊族の九種が存在するらしい。
その中でも更に細かく枝分かれして、多種多様な種族がいるらしい。
ちなみに俺もルリアも人間族とのこと。
また、予想していた通り魔法が存在する、所謂『剣と魔法の世界』であった。
しかし魔法とは、あくまでスキルと呼ばれる能力の小分類に過ぎず、基本的には、このスキルの有無やレベルによって、個々の能力が決まってくるのだそうだ。
レベルはゼロから十まで存在し、ゼロは一切の使用が出来ない状態。
レベル一が最低限で、レベル三もあれば十分中堅は名乗る事ができるレベルだそうで、その分野でレベル七~八の時点で超一流とのことらしい。
スキルを調べる方法があるらしいので、今度調べてみようとルリアに誘われた。
思わず年甲斐もなくワクワクしたが、あまり期待しすぎてガッカリな結果だった場合、非常に悲しくなるので、ほどほどにしておこうと自重した。
通貨についても教えてもらった。
通貨の単位はペリンで、一ペリンが銅貨一枚という認識は正しかった。
ちなみに、百ペリンが銀貨一枚、一万ペリンが金貨一枚とのこと。
銀貨が百円玉、金貨は諭吉と覚えておくことにした。
「まー、今日のところはこんな感じかなぁ。だいたい理解できたかなー」
「なんとか。とりあえず定期的に見直してしっかりと記憶しておくよ」
「記憶喪失って大変だねー。こーんな事も忘れちゃうなんて。かわいそかわいそ」
「でもお陰でなんとかなりそうだ。ありがとうな、ルリア」
「いいっていいってー、困った時はお互い様ってやつだよぉー」
ルリアはにひにひと笑いながら顔の前で手を横に振る。
こんなやつだが、面倒見のいい優しくて気のいいやつなのだ。
俺はルリアに対しての認識を少し改めた。
「ちゃーんとこの分の借りは返してもらう予定だから、安心していーっぱい借りを作ってってねぇー。にひひひ」
……俺はルリアに対しての認識を再度改めた。
夜も更《ふ》けてきたので、俺は馬小屋に向かおうとする。
すると後ろから
「あれぇ、どこ行くのぉ。もしかして、本当に馬小屋で寝るつもりだったぁ?」
「ん? もしかして、ここで寝てもいいのか?」
「いいよー別にぃ。その分借りは増えて……」
「わかったわかった。それでもいいからここで寝てもいいか?」
俺はルリアの言葉を遮る。
「いいよぉー」
後ろからにひにひという笑い声が聞こえてくる。
馬小屋で寝なくて済んだのはとてもありがたいが、こんなやつに頼ってばかりいると、本当に骨の髄までしゃぶられかねない。
早くギルドで仕事を探して、自立しなければ……。
そう心に強く誓いを立てながら、俺は干し草まみれになっていた布団を、庭でバサバサと振っていた。
10
お気に入りに追加
815
あなたにおすすめの小説
気がついたら異世界に転生していた。
みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。
気がついたら異世界に転生していた。
普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・
冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。
戦闘もありますが少しだけです。
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~
未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。
待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。
シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。
アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。
死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる