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1章 異世界起床編
第11話 明かされる秘密
しおりを挟む俺は市場観光を夕暮れ時までじっくりと楽しんでから、ルリアの家へと戻った。
拠点……馬小屋に戻ってくると、既に家の中には灯りが灯っており家主は帰ってきているらしい。
敷地内に入ると子馬がこちらをじーっと見つめてくるので、また手を振ってみる。
子馬はそっぽを向き尻尾をゆらゆらと揺らしながら、小屋の奥へと行ってしまった。
少し悲しい気持ちになりながらも、扉を数回ノックする。
すると中からパタパタと軽い足音が聞こえてきて、扉が開かれる。
「へへ、待ってたよぉー。思ったより遅かったねぇ」
「俺はそっちの方が遅いと思ってたけど」
「私は夕方までの勤務シフトなんだー。ささ、上がっていいよー」
「あぁ、じゃあ、お邪魔します」
促されるままに家に入るが、女性ひとりの家にこんな見知らぬ男性が入り込んで良いものなのだろうか。
そんな疑問は胸の奥にしまいこみ、ひとまずは冷静を装う事にした。
部屋の中はまた随分と可愛らしいファンシーな雰囲気で、ぬいぐるみが部屋のあちこちに置かれており、薄い水色や桃色の可愛らしい家具が並んでいる。
それに……なんだかいい香りもした。
「ちゃんとお買い物はできたのー?」
「これで良かったのか?」
そう言って皮袋ごと手渡す。
その際指が触れ合い少しドキリとする。
「んー……うん、問題ないよーカンペキカンペキーってどしたの?」
「いや、何でもない。大丈夫なら良かった」
「んー……?」
顔をそらすが下から覗き込むようにじーっと見つめられる。
一瞬目が合い、思わず逸らしてしまう。女性は色んな意味で少し苦手だ。
「ぷっ、あはははは。どーしたのぉ? 急に緊張しちゃってぇ。うわ、心臓のドキドキスゴイねぇ。」
胸元に細く小さな手のひらが当てられたかと思えば、そっと撫でられた後、耳を当ててくる。
「おいっ、やめろって。良くないぞ、見ず知らずの男を家に上げてそんなことするのはさ……」
俺は焦ってルリアを引き剥がそうと肩を掴もうとするが、その刹那ルリアが身体をずらしたことで俺の手のひらは肩ではなく、もっと胸元の方へと向かってしまい……。
「あっ、ちが……」
「……えっち」
終わった。
何もかも終わった。
異世界転生初日をもって倉井礼二は、監獄送りになりましとさ。
「……ぷ。くくく、あはははははは。もー、そんな顔しないでよ。にひひひ……。安心してよ、ボク、男、だからさ」
「…………は?」
「だーかーらー、男なんだってー。にひひ。レイちゃんも言ってたけど、見ず知らずの男を家に上げるほど無警戒な女の子なんていないってー」
パシパシと柔らかい手のひらで肩を叩かれる。
俺は、確かめるように、伸ばした手をわきわきと動かしてみるが、言われてみると、あるはずの柔らかさは無く、平べったい感触が伝わる。
「……あのさー、確かめ方……」
「あ、すまん」
「まぁいいよいいよ、ボクの方こそ、からかってごめんねー。からかい甲斐がありそうだなーって思っちゃって、つい、ね」
ルリアが言うには、日頃から新人冒険者や新しい働き手が来るたびにからかっていたそうで、からかわれた人達は再び顔をあわせるのが気まずいのか、再びカウンターに来る事はあまりなく、また変な噂……所謂男色家であるなどという噂が広まってしまい、女性以外の来訪者は少ないのだそうで。
道理で俺がギルドに行った時も空いていたワケだ。
「一応言っておくけどぉ、ボクは可愛い服やモノが好きなだけであって、男が好きなワケじゃないから、勘違いしないでよねぇー」
「むしろその方が助かるよ」
「さっきドキドキしてたくせにー」
「そりゃ女だと思ってたからだ」
「じゃあ今抱きついてもドキドキしない……?」
「おい、そろそろいい加減にしとけよな」
「はいはい、つまんないのー」
正直言えば、視覚情報的には完全に女性の姿であるため脳が混乱する。
万が一鼓動が早くなってしまえば、また良い弄りの材料をむざむざ提供してしまうことになる。
そう考えた俺は、早めにこの会話を切り上げる事にした。
ルリアはわざとらしく、膨れ面をしている。
「そういやぁ男ってことは、ルリアって名前は偽名なのか?」
「んー、まるっきり偽名ってわけじゃないけど、本当の名前はルリアンっていうんだ。ルリアの方が女の子っぽいし、響きが可愛いでしょ?」
「可愛いかは知らんが、確かに女性の名前っぽいかもな」
「でしょでしょ? だから、今後もボクの事はルリアって呼んでね」
「別にルリアンでいいじゃねぇk「呼・ん・で・ね!」」
「……わかった」
一応こんなでも一宿一飯の恩があるのだ。
このくらいは従ってやってもいい、か。
「さーてと、それじゃあ買ってきてくれたお野菜を使って、美味しい美味しいルリアちゃん特性野菜スープを作ってあげるからー、すこーしだけ、待っててねぇ」
「え、ごちそうしてくれるのか?」
「まーねー。ルリアちゃん聖母優しい&可愛いって思った?」
「オモッテマセン」
「もー、ノリが悪いなぁ」
ルリアはフリフリの付いた可愛らしいエプロンを付けると、台所横に置かれている木箱に入っていた皮袋から野菜を取り出して、既に汲んであった水で洗い始める。
俺は何か手伝おうかと一瞬考えたが、料理スキルはカップに湯を注ぐ程度しか無いことを思い出し、大人しく座って待つ事にした。
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