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モブの証言「絶賛傷心王子」
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俺たちにとってただの交流会という名の立食会、貴族にとってはそれなりの大騒動だった婚約破棄という一大イベントは取りあえず落ち着いたようだ。
一般学部の生徒はホイホイ貴族の校舎に行くことはできないから、中で何が起こっているのかもわからない。情報源は流れてくる噂しかないけど、その噂によると婚約破棄直後にプロポーズをブチかましたナデシコさんはものすっごいイリスさんに猛アピールしているらしい。
めちゃめちゃ照れてるイリスさんに対してナデシコさんはフフッと笑って、二人のバックに花が咲き乱れているとかなんとか。実際俺たちが見れるわけじゃないからそれが本当かの確認はできないけど、まぁ、あの交流会の時に見たやつが幻じゃなかったら本当のことだろう。
そしてもう一つのカップル、と言ってもいいのかどうかわからないけど。あのアドニスっていう生徒と将来騎士様のセリオはなんと、王子から正式に付き合うことを許されたらしい。
自分は最悪な形でフラれたっていうのに、二人の背中を押してやるとは。王子も粋なことをするじゃないかとちょっと王子の株が上がった。下手したらあの二人は不敬罪に問われても不思議じゃなかったから。そもそもあんな場所で婚約破棄の宣言をするんじゃないよっていうのが根本的な問題だったんだけど。
っていうかあのアドニスとかいう生徒もなかなか魔性だ。王子の好意にまったく気付いていなかったというのか。気付いていなくて当日「俺の隣にいてくれ」と言われてホイホイ言われた通りに立っていたとでも言うのか。それもそれでやべぇなって。そしてその後好きな人とちゃっかり正式に結ばれてるんだから。
アドニスっていう生徒の性格をちゃんと知ってるわけじゃないから外野がやいやい言うのは違うだろうけど、それにしても正直いい印象がない。
「今思うと王子も不憫だなぁ」
「本当にね~。当事者だけで集まって話し合いしてればよかったのに」
「噂によるとかなり傷心らしい」
「そりゃあんなことになるとは思ってなかっただろうからなぁ」
休み時間、教室で二人とそんな会話をする。それぞれの事情は落ち着いただろうけど、まだまだ話題には上がってくる。きっと今どの教室でも同じ話題で盛り上がっているに違いない。同じクラスの女子たちも同じような会話をしているのが聞こえてきたぐらいだから。
「僕この間あのアドニスっていう子とセリオっていう人が一緒に中庭いるところ見たよ」
「正式に交際が認められたからって……それをもし王子が目撃したらとか思わないんだろうか、あの二人も」
「浮かれちゃってんだろうなぁ」
なんだか王子が段々と気の毒になってきた。流石にアドニスもセリオも王子を前にしてイチャイチャすることはないだろうけど。もししてたとしたら、二人は人でなしだ。
「ちょっと、それは流石にヤバいって!」
「大丈夫大丈夫、名前変えるしちゃんとアレンジも加えるから……!」
教室の端にいた女子生徒二人はどうやらこの騒動を薄い本でまとめるらしい。そういうの庶民の間では流行ってるらしいけど、流石に名前はちゃんと変えてあげなよと内心思わずにはいられなかった。
「先生~、資料これで全部です」
「ああ、ありがとう。お疲れ様」
「うっす」
交流会を楽しんだとはいえ普段は普通~の学園生活で普通~の生徒なため、先生に手伝いをお願いされたらもちろん手伝うしかない。これが成績に響くわけじゃないけど。でもたまに飴玉一個貰ったりする。子どものおやつじゃないんだからというツッコミはしないでおく。
放課後で他の生徒はほとんど寮に帰ってる。残ってる生徒は自主的に勉強している生徒か、成績がやばくて強制的に残らされている生徒か。とにかく廊下を歩いていると静かなもんで、夕日が綺麗だなぁとかどうでもいいこと考えながら歩いていた。
「ん?」
先生のいる職員室から一般学部の教室に戻る廊下はこじんまりとした中庭の隣を通る。先生もよく通る廊下だから一般生徒はあんまりその中庭で休憩することはない。たま~にカップルがそこでイチャイチャしてて、先生に注意されることもあったりはする。
んで、あんまり人が寄り付かないその中庭に何やら人影が見える。もしや放課後の逢瀬か? あんまり見るのも悪いなとそのまま通り過ぎようとした、んだけど。もう一度その姿を確かめてギョッとした。そこにいたのはカップルじゃなくて、一人の生徒。
「あ、あらぁ……」
めちゃくちゃアンニュイな表情をしてる、絶賛傷心中の王子の姿がそこにあった。すっごい遠い目をして、溜め息をついている。
いや、可哀想~……っていうのが正直な感想。もう如何にも元気ないじゃん心ここにあらずじゃん。でも見目がいいからそこにいるだけでなんだかキラキラしている。女子が見たら間違いなく喜ぶやつ。
でも俺は平々凡々の生徒なため、話しかけるということはしない。こういうのはそっとしておくのが一番。あの騒動だってうまいもの食いながらまるで舞台の劇場を見ているような感覚で、直接関わったわけでもない。こっちが一方的に事情を知っているだけだ。
そもそもなんでここにいるんだよ、ここ一般学部の校舎だぞ。という気持ちとドンマイ、という気持ちを抱えながらそのまま通り過ぎようとした。
「ぶわっ」
ところがだ、そんな俺の顔面に何かが飛んできた。一瞬何か投げつけられたのかと思ったけど、その直前に突風が吹いたからそれで飛んできたんだろう。しかも当たったものも固いものじゃなくて、何やら柔らかかった。
なんだなんだと顔に張り付いたそれを剥がしてみると、どうやらハンカチのようだった。
「すまない、当たってしまったか」
ま隣から聞こえてきた声に思わずビックリしてしまった。顔を上げたらさっきまで黄昏れて椅子に座っていた王子が、目の前にいるじゃないか。ということは何か? 飛んできたこのハンカチはもしかしたら王子の物だったのか。どうりで肌触りはいいしいい匂いがすると思った。どんな石鹸使って洗ってんだろうか。
「あ、はい。どうぞ」
「ありがとう」
取りあえず丁寧に畳んでハンカチを王子に手渡す。王子の物で間違いなかったらしい。
それにしても、と思わずジッと目の前にある綺麗な顔を見てしまう。自分の隣で頑張ってくれていた婚約者に対して、まるで恥をかかせるような形で婚約破棄をした王子のことひでぇ男だなと思ったけど。でもこうして対峙してみると、庶民に対しても偉ぶるような感じじゃなくてどっちかというと物腰柔らかだ。育ちがいいっていうのもひしひしと伝わってくる。
顔もいいし、あんなことがなかったらマジで性格もいいんだろうなぁとしみじみ思ってしまった。こりゃ婚約者がいなかったら周りの女性にモテモテだっただろうに。っていうか婚約者がいてもモテモテだったか。貴族の事情はよくわからんから想像することしかできないけど。
でもなぁ、と更にしみじみと見てしまう。綺麗な顔なのに、目の下にくっきりとあるクマがそれを台無しにしてしまっている。よっぽどショックだったんだろう。
庶民如きに何かを言われたくないだろうけど、でもついつい口が開いてしまった。
「よかったですね、失恋できて」
「……え?」
いやここは慰めるところだろ、とオリバーがいたらツッコまれるだろうけど。でもまぁいいじゃないのと頭の中に浮かんだオリバーをどうどうと落ち着かせる。
「貴族とか王族の事情はよく知らないですけど、でも恋愛って自由にできないんでしょ? だからよかったですね、失恋できて。誰かに恋することができてよかったじゃないですか」
「あ……」
「それに誰でも初恋は失恋するんですから、そう落ち込まなくても大丈夫ですって」
ただ王子は初めて恋をしてそれはとても浮かれちゃったんだろう。相手も自分に気があるかもしれない、何かあろうとも二人で乗り越えられるってテンション上がっちゃたんだろう。結果はまぁ、悲しいことになったけど。
でも貴族だろうと王族だろうと庶民だろうと、初恋って大概失恋するだろ。誰にだって経験したことがあるもんで、今回王子は初めて体験したのだからそれもそれで貴重な体験だったんじゃなかろうか。
「……誰でも、こんなつらい想いをするものなのか?」
「そうですよ」
「……君も?」
「そうですよ」
「どういう、感じで……と、聞いてもいいだろうか」
めちゃくちゃ傷心中だからか、おずおずといった感じで聞いてくる王子がものすごく新鮮だ。今こうして会話している相手は王子というか、同じ男子だなぁとぐらいしか思えない。
王子のクエスチョンに答えるべく、そうだなぁと顎に手を当てて当時の初々しいアシエ少年のことを思い出す。
「俺の場合、近所のお姉さんでした。綺麗な人でよく喋ってもいたので、こういう人がお嫁さんだったらいいなぁとか子どもながら思ってたんですけど」
ただそのお姉さんが俺と喋っていたのは、俺が鍛冶屋の息子だったからだ。店によく日常品の手入れの依頼でやってきていて、それで顔見知りになって喋っていただけなんだけど。
「ある日、お姉さんが彼氏と一緒に来てて。いやぁ、ショックでした。その彼氏がまた格好いいもんだから」
「それで君は、失恋したと」
「そうです。誰にでもあるんです。だから元気出してくださいよ」
流石に友達にするように気さくにポン、と肩を叩くことはできなかったけど。でもドンマイドンマイ次頑張ろ? という気持ちで俺なりに励ましてみた。王子のことだからまた次の恋がありそうだけど。いいよな、顔がいいって。
そう長話する仲でもないし、それじゃ、と告げてサッサと一般学部の校舎に戻ろうしていた俺の背中に「待ってくれ」と声がかけられた。え、もしかして不敬罪? 中途半端に慰めるんじゃないよ罪でもあるのかと恐る恐ると振り返る。
「君の名前、聞いてもいいだろうか」
なんだ、そんなことかと笑顔を浮かべて口を開いた。
「ただの一般生徒その一ですよ!」
一般学部の生徒はホイホイ貴族の校舎に行くことはできないから、中で何が起こっているのかもわからない。情報源は流れてくる噂しかないけど、その噂によると婚約破棄直後にプロポーズをブチかましたナデシコさんはものすっごいイリスさんに猛アピールしているらしい。
めちゃめちゃ照れてるイリスさんに対してナデシコさんはフフッと笑って、二人のバックに花が咲き乱れているとかなんとか。実際俺たちが見れるわけじゃないからそれが本当かの確認はできないけど、まぁ、あの交流会の時に見たやつが幻じゃなかったら本当のことだろう。
そしてもう一つのカップル、と言ってもいいのかどうかわからないけど。あのアドニスっていう生徒と将来騎士様のセリオはなんと、王子から正式に付き合うことを許されたらしい。
自分は最悪な形でフラれたっていうのに、二人の背中を押してやるとは。王子も粋なことをするじゃないかとちょっと王子の株が上がった。下手したらあの二人は不敬罪に問われても不思議じゃなかったから。そもそもあんな場所で婚約破棄の宣言をするんじゃないよっていうのが根本的な問題だったんだけど。
っていうかあのアドニスとかいう生徒もなかなか魔性だ。王子の好意にまったく気付いていなかったというのか。気付いていなくて当日「俺の隣にいてくれ」と言われてホイホイ言われた通りに立っていたとでも言うのか。それもそれでやべぇなって。そしてその後好きな人とちゃっかり正式に結ばれてるんだから。
アドニスっていう生徒の性格をちゃんと知ってるわけじゃないから外野がやいやい言うのは違うだろうけど、それにしても正直いい印象がない。
「今思うと王子も不憫だなぁ」
「本当にね~。当事者だけで集まって話し合いしてればよかったのに」
「噂によるとかなり傷心らしい」
「そりゃあんなことになるとは思ってなかっただろうからなぁ」
休み時間、教室で二人とそんな会話をする。それぞれの事情は落ち着いただろうけど、まだまだ話題には上がってくる。きっと今どの教室でも同じ話題で盛り上がっているに違いない。同じクラスの女子たちも同じような会話をしているのが聞こえてきたぐらいだから。
「僕この間あのアドニスっていう子とセリオっていう人が一緒に中庭いるところ見たよ」
「正式に交際が認められたからって……それをもし王子が目撃したらとか思わないんだろうか、あの二人も」
「浮かれちゃってんだろうなぁ」
なんだか王子が段々と気の毒になってきた。流石にアドニスもセリオも王子を前にしてイチャイチャすることはないだろうけど。もししてたとしたら、二人は人でなしだ。
「ちょっと、それは流石にヤバいって!」
「大丈夫大丈夫、名前変えるしちゃんとアレンジも加えるから……!」
教室の端にいた女子生徒二人はどうやらこの騒動を薄い本でまとめるらしい。そういうの庶民の間では流行ってるらしいけど、流石に名前はちゃんと変えてあげなよと内心思わずにはいられなかった。
「先生~、資料これで全部です」
「ああ、ありがとう。お疲れ様」
「うっす」
交流会を楽しんだとはいえ普段は普通~の学園生活で普通~の生徒なため、先生に手伝いをお願いされたらもちろん手伝うしかない。これが成績に響くわけじゃないけど。でもたまに飴玉一個貰ったりする。子どものおやつじゃないんだからというツッコミはしないでおく。
放課後で他の生徒はほとんど寮に帰ってる。残ってる生徒は自主的に勉強している生徒か、成績がやばくて強制的に残らされている生徒か。とにかく廊下を歩いていると静かなもんで、夕日が綺麗だなぁとかどうでもいいこと考えながら歩いていた。
「ん?」
先生のいる職員室から一般学部の教室に戻る廊下はこじんまりとした中庭の隣を通る。先生もよく通る廊下だから一般生徒はあんまりその中庭で休憩することはない。たま~にカップルがそこでイチャイチャしてて、先生に注意されることもあったりはする。
んで、あんまり人が寄り付かないその中庭に何やら人影が見える。もしや放課後の逢瀬か? あんまり見るのも悪いなとそのまま通り過ぎようとした、んだけど。もう一度その姿を確かめてギョッとした。そこにいたのはカップルじゃなくて、一人の生徒。
「あ、あらぁ……」
めちゃくちゃアンニュイな表情をしてる、絶賛傷心中の王子の姿がそこにあった。すっごい遠い目をして、溜め息をついている。
いや、可哀想~……っていうのが正直な感想。もう如何にも元気ないじゃん心ここにあらずじゃん。でも見目がいいからそこにいるだけでなんだかキラキラしている。女子が見たら間違いなく喜ぶやつ。
でも俺は平々凡々の生徒なため、話しかけるということはしない。こういうのはそっとしておくのが一番。あの騒動だってうまいもの食いながらまるで舞台の劇場を見ているような感覚で、直接関わったわけでもない。こっちが一方的に事情を知っているだけだ。
そもそもなんでここにいるんだよ、ここ一般学部の校舎だぞ。という気持ちとドンマイ、という気持ちを抱えながらそのまま通り過ぎようとした。
「ぶわっ」
ところがだ、そんな俺の顔面に何かが飛んできた。一瞬何か投げつけられたのかと思ったけど、その直前に突風が吹いたからそれで飛んできたんだろう。しかも当たったものも固いものじゃなくて、何やら柔らかかった。
なんだなんだと顔に張り付いたそれを剥がしてみると、どうやらハンカチのようだった。
「すまない、当たってしまったか」
ま隣から聞こえてきた声に思わずビックリしてしまった。顔を上げたらさっきまで黄昏れて椅子に座っていた王子が、目の前にいるじゃないか。ということは何か? 飛んできたこのハンカチはもしかしたら王子の物だったのか。どうりで肌触りはいいしいい匂いがすると思った。どんな石鹸使って洗ってんだろうか。
「あ、はい。どうぞ」
「ありがとう」
取りあえず丁寧に畳んでハンカチを王子に手渡す。王子の物で間違いなかったらしい。
それにしても、と思わずジッと目の前にある綺麗な顔を見てしまう。自分の隣で頑張ってくれていた婚約者に対して、まるで恥をかかせるような形で婚約破棄をした王子のことひでぇ男だなと思ったけど。でもこうして対峙してみると、庶民に対しても偉ぶるような感じじゃなくてどっちかというと物腰柔らかだ。育ちがいいっていうのもひしひしと伝わってくる。
顔もいいし、あんなことがなかったらマジで性格もいいんだろうなぁとしみじみ思ってしまった。こりゃ婚約者がいなかったら周りの女性にモテモテだっただろうに。っていうか婚約者がいてもモテモテだったか。貴族の事情はよくわからんから想像することしかできないけど。
でもなぁ、と更にしみじみと見てしまう。綺麗な顔なのに、目の下にくっきりとあるクマがそれを台無しにしてしまっている。よっぽどショックだったんだろう。
庶民如きに何かを言われたくないだろうけど、でもついつい口が開いてしまった。
「よかったですね、失恋できて」
「……え?」
いやここは慰めるところだろ、とオリバーがいたらツッコまれるだろうけど。でもまぁいいじゃないのと頭の中に浮かんだオリバーをどうどうと落ち着かせる。
「貴族とか王族の事情はよく知らないですけど、でも恋愛って自由にできないんでしょ? だからよかったですね、失恋できて。誰かに恋することができてよかったじゃないですか」
「あ……」
「それに誰でも初恋は失恋するんですから、そう落ち込まなくても大丈夫ですって」
ただ王子は初めて恋をしてそれはとても浮かれちゃったんだろう。相手も自分に気があるかもしれない、何かあろうとも二人で乗り越えられるってテンション上がっちゃたんだろう。結果はまぁ、悲しいことになったけど。
でも貴族だろうと王族だろうと庶民だろうと、初恋って大概失恋するだろ。誰にだって経験したことがあるもんで、今回王子は初めて体験したのだからそれもそれで貴重な体験だったんじゃなかろうか。
「……誰でも、こんなつらい想いをするものなのか?」
「そうですよ」
「……君も?」
「そうですよ」
「どういう、感じで……と、聞いてもいいだろうか」
めちゃくちゃ傷心中だからか、おずおずといった感じで聞いてくる王子がものすごく新鮮だ。今こうして会話している相手は王子というか、同じ男子だなぁとぐらいしか思えない。
王子のクエスチョンに答えるべく、そうだなぁと顎に手を当てて当時の初々しいアシエ少年のことを思い出す。
「俺の場合、近所のお姉さんでした。綺麗な人でよく喋ってもいたので、こういう人がお嫁さんだったらいいなぁとか子どもながら思ってたんですけど」
ただそのお姉さんが俺と喋っていたのは、俺が鍛冶屋の息子だったからだ。店によく日常品の手入れの依頼でやってきていて、それで顔見知りになって喋っていただけなんだけど。
「ある日、お姉さんが彼氏と一緒に来てて。いやぁ、ショックでした。その彼氏がまた格好いいもんだから」
「それで君は、失恋したと」
「そうです。誰にでもあるんです。だから元気出してくださいよ」
流石に友達にするように気さくにポン、と肩を叩くことはできなかったけど。でもドンマイドンマイ次頑張ろ? という気持ちで俺なりに励ましてみた。王子のことだからまた次の恋がありそうだけど。いいよな、顔がいいって。
そう長話する仲でもないし、それじゃ、と告げてサッサと一般学部の校舎に戻ろうしていた俺の背中に「待ってくれ」と声がかけられた。え、もしかして不敬罪? 中途半端に慰めるんじゃないよ罪でもあるのかと恐る恐ると振り返る。
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