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15.女の友情
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この村がフェネクス国に降る、となってから動きは早かった。フェネクス国から物資が運ばれギルドからは新たに人材も派遣された。まずは底を尽きそうになっていた備蓄を元に戻すこと、ということで農作業を再開されたけれどここでもフェネクス国の手厚い施しが。作物が育ちにくい土地でも育つようにと品種改良された種も物資と共に運び込まれたそう。
物と人材が充実したことによって急ピッチであらゆることが進んでいく。直されていない碑石から発生された魔物が村にやってこないようにと村一周ぐるりと柵を設置されることになった。質素だった村に厳ついものができて村の人たちも最初こそはいい顔をしなかったけれど、人というのは慣れてしまうもので。
そして新たにギルドから派遣された人たちと、私たちが村に滞在することになったんだけれどその人数を収める家がない。ということで簡易テントで過ごしていたけれど、流石にそれじゃ疲れが取れないだろうと今は村の人たちとギルドの人たちで協力して新たに建物を建てている最中だった。
つい先日まで魔物に怯え家に籠ることしかできなかった村の人たちは、めまぐるしい日々を過ごすことになった。けれど大変だとこぼしつつもその顔はどこか晴れやかに見える。大変じゃないですかと聞いた時「大変だけれど働き甲斐がある」と笑ったのは村の女性だった。
「これ運びますね」
「お願いします!」
私もただ碑石の修復だけ、というわけにもいかない。自分ができることならと荷物運びや他に手伝えることがあるなら積極的に手伝っていた。ただ見ているだけというのも邪魔になるだけだし。ボーッと突っ立っているよりも人手に加わった方がずっといい。
そうして一週間過ぎる頃には誰も霧を気にすることなく、せっせと村は活力を取り戻し賑わいを見せていた。フェネクス国から人が来ていることもあってか、単純に人が増えたせいかはわからない。ただこうして見てみると最初にこの村に来たときよりも、こう、あっという間に様変わりしている。村から街へ発展していく様を見ているような気分だった。
「ってか一週間ぐらい経つけどよ、やっぱ向こうは気付いてねぇみたいだな」
鍬を持って戻ってきたハルバがそう告げた。私たちが危惧していたのはこの村がフェネクス国に降って、その情報がいち早くサブノック国の王に伝わってしまうこと。そうなると自分の領地を取り戻そうときっとサブノック国は兵を差し向けてくる。でもハルバが言う通り、今のところ何かしら動きがあるわけではないからその心配はしなくてもいいみたい。
「というか、そもそも城はどうなっているんでしょうね? ここの霧は薄れましたけど」
同じく畑の方から戻ってきたカミラがタオルで汗を拭きながら疑問をこぼした。確かにこっちはこまめに碑石の管理をしていて、他所から来る魔物もギルドの人たちが対応しているから今のところ平穏に過ごせている。でも城周辺は、今の聖女がその辺りの碑石を修復しているとは言え、ここから見える城方面は相変わらず黒い霧で覆われている。
「オイラたちまた様子見に行ってきましょうか? 道はわかりますし」
そう言ってくれたのは前に村長さんの家にやってきた若い男性。私たちの会話を聞きつけてそう言い出してくれた彼に、ハルバは「そしたら」と言葉を続けようとしたところに今度はリクが現れた。
「俺が行ってきましょう。途中霧が濃いですし危険です。俺も道はわかりますし、彼らが行くよりはいいかと」
「そしたらリクいってら~。しっかりと情報収集任せるわ」
「こっちは貴方方に任せますね」
またもやトントン拍子に話が進んでしまって内心慌ててしまう。ギルドの人たちはこう、話が進むのも決まるのも早い。それだけ情報把握がしっかりしていて決断が早いっていうことなんだろうけれど。そうこうしている内にリクはすぐに出発の準備をし始めるし、少ない荷物をまとめて今すぐにでも行こうとする背中を慌てて呼び止める。
「リク、あの、これ! お守り……」
今こそリクから預かったこのネックレスを返す時だと慌てて服の下に隠していたものを引っ張りだそうとしたけれど、出すよりも早くリクの手が私の手をやんわりと止めた。
「それはサヤが持っていていいですよ」
「でもこれ、お守りなんだよね? リクが持っていた方が……」
「お守りだから、貴女が持っていないと」
そっと軽く私の手の上からネックレスを押され、リクの手が離れる。
「なるべく早く戻るので」
笑顔で一言そう告げたリクは、止める暇もなくあっという間に村から出立してしまった。あまりの早さに私が止めようとしても、やめなかったのかもしれないとふとそんなことを思う。
「あ。リクが行っちまって寂しくなっちまったな、サヤ」
「そっ、そんなことないです!!」
「あ~ごめんなぁ、気ぃ付けれなくて」
「だから違っ」
「ハルバ、サヤさんをからかわないの」
ハルバもニヤニヤというよりも本当に申し訳なさそうな顔をして言うものだから、力強く反論するのもなんだか気が引ける。困っているところでカミラの助け舟があってとても助かった。
もう、と小さくこぼしながらも運ぼうとしていた物をもう一度持ち上げて、歩き出そうとしたところ二つあった荷物のうち一つをヒョイとカミラが持っていく。
「手伝います」
「ありがとうございます、カミラ」
「いいえ」
そうしてお互い荷物を一つずつ持って隣同士で歩き出す。こうして隣に並び立ってみると、カミラは背が高くて身体つきも女性特有の柔らかさと剣術を嗜む身としての力強さを併せ持っている。出ているところは出ていて、引っ込んでいるところは引っ込んでてスタイルがとてもいい。まるでスポーツをやっているモデルさんみたいだ。
「私、サヤさんに謝らなければならないことが」
「えっ?」
マジマジとカミラを見ていたからもしかしたら注意されるのかと思いきや、カミラの口から出てきた言葉は予想していなかったことで思わず目を丸くする。カミラに謝らなければならないことなんてあっただろうか。首を傾げるばかりの私にカミラは静かに視線を地面に落とした。
「……最初に依頼を受けた時に、なぜ女性がと思ったんです。碑石の修復は神官でもできる。隣国の元『聖女』かどうかは知らないけれど、魔物も出現する場所になぜ『普通の女性』が行くんだと訝しげました」
フェネクス国には『聖女』の伝承がないため、聖女に対して親しみも信用もなかったのだと小さく頭を下げたカミラに首を左右に振る。カミラの反応は普通のことで、そう思っても何もおかしくない。
「護衛で私たちが行くわけだから、『聖女』も碑石を修復することしかできないのだと思いました……そんなこと、一切なかったですね。あなたはこうして村の人たちのために泥に汚れても嫌な顔一つもしていないのに。勝手な思い込みであなたを決めつけていました。申し訳ございません」
「や、やめてくださいカミラ、頭を上げてください! ……カミラの言う通り、私は一人じゃ何もできないんです」
この世界に来てから数ヶ月経ったというのに未だにわからないことがあるし、聖女としての力を使えてもカミラたちみたいに魔物を倒すことができるわけじゃない。カミラの言う通り、私は碑石の修復をすることしかできない。聖女だった頃も周りに支えて助けてくれる人がいたから巡礼だってできた。
「それに、サブノック国の碑石の修復をしたいと言い出したのも私の我が儘ですし……」
「でもあなたがいなかったら魔物はきっとフェネクス国に流れていましたよ。門兵たちも無事ではいられなかった」
「……神官さんたちが来るのが、一番だったと思います」
「うーん、神官だと少し難しかったかもしれませんね」
「……え? そうなんですか?」
思いもよらない言葉が出てきて思わず足を止めて口をポカンと開ける。でもカイゼルベルク様は私が断ったとしても神官を向かわせる的なことを言っていたはずだけれど。
「神官は国の直轄なんです。動けば恐らく早めにサブノック国に知られていたと思いますよ。なので今回は数人でこっそり動くのがベストだったんです」
「そう、だったんですか……?」
あれ、もしかしてカイゼルベルク様は私に無理強いはしないと言いながらも、私がどう決断するかわかっていたってこと? 私の考えが読まれていたんだ……王様って、怖い。そういう人の感情とか考えも読めちゃう人なんだ、カイゼルベルク様は。だからこその王様なのかもしれないけれど。
なんだかんだで王様の思う通りに動いてたかと思うと、ちょっとモヤモヤするような、でも乗せられてもよかったと思うような。少し唇を尖らせた私にカミラは小さく笑みをこぼした。
「ところで、私から提案があるんですが」
「なんでしょう?」
「私たち、お友達になりませんか? 私はあなたともっとたくさん色んなことを話してみたいです」
カミラの提案に持っていた荷物を落としそうになって、それを素早く彼女が支えた。友達、ともだち。思えばサブノック国にいたときは周りにはほぼ神官さんだけで頼りにはしていたけれど友達、というわけでもなくて。フェネクス国に移ってからもお客さんでたくさんお喋りはするようになったけれど、こうして同年代で友達と言える人はいなかったかもしれない。毎日生活に慣れるので精一杯で、そう考える余裕がなかった。
「あっ、えっ、よろしくお願いします!」
「ふふっ、よろしくお願いします。ついでに敬語もなしにしちゃいましょう。よろしくね、サヤ」
「よ、よろしくカミラ……!」
にこにこ笑顔のカミラについこっちの顔が赤くなる。美人は笑顔も可愛らしい。正直に言って、眼福です。
心の中で合掌しつつ荷物を運んじゃおう、ということで再び歩き出した私たちだけれど、カミラが何かを思い出したかのよに「あっ」と声をもらした。
「ところで私も気になってたんだけど、リクとはどんな関係で?」
「どんな関係で?!」
「そんなにびっくりすること? 結婚してるの? それともまだ婚約……」
「けけけ結婚?! 婚約?!」
「……なるほど、初心なのね」
とんでもないことを言い出したかと思ったら、今度は一人で納得している。ハルバといいカミラといい、なんでこう、リクとの仲をこう、いい感じなんだろうなと思っているんだろう。べ、別にそう言われるのが嫌いってわけじゃなくて。でもそんな、いきなり結婚とかそんな話にまで飛ぶだなんて誰も思わないじゃない。
「その辺りもジャンジャン私に相談して? 初心なサヤの背中押して上げる」
「あ、あうぅ……」
弁解しようにもどう弁解すればいいのかわからなくて、言葉にならない声を出すことしかできなかった。
物と人材が充実したことによって急ピッチであらゆることが進んでいく。直されていない碑石から発生された魔物が村にやってこないようにと村一周ぐるりと柵を設置されることになった。質素だった村に厳ついものができて村の人たちも最初こそはいい顔をしなかったけれど、人というのは慣れてしまうもので。
そして新たにギルドから派遣された人たちと、私たちが村に滞在することになったんだけれどその人数を収める家がない。ということで簡易テントで過ごしていたけれど、流石にそれじゃ疲れが取れないだろうと今は村の人たちとギルドの人たちで協力して新たに建物を建てている最中だった。
つい先日まで魔物に怯え家に籠ることしかできなかった村の人たちは、めまぐるしい日々を過ごすことになった。けれど大変だとこぼしつつもその顔はどこか晴れやかに見える。大変じゃないですかと聞いた時「大変だけれど働き甲斐がある」と笑ったのは村の女性だった。
「これ運びますね」
「お願いします!」
私もただ碑石の修復だけ、というわけにもいかない。自分ができることならと荷物運びや他に手伝えることがあるなら積極的に手伝っていた。ただ見ているだけというのも邪魔になるだけだし。ボーッと突っ立っているよりも人手に加わった方がずっといい。
そうして一週間過ぎる頃には誰も霧を気にすることなく、せっせと村は活力を取り戻し賑わいを見せていた。フェネクス国から人が来ていることもあってか、単純に人が増えたせいかはわからない。ただこうして見てみると最初にこの村に来たときよりも、こう、あっという間に様変わりしている。村から街へ発展していく様を見ているような気分だった。
「ってか一週間ぐらい経つけどよ、やっぱ向こうは気付いてねぇみたいだな」
鍬を持って戻ってきたハルバがそう告げた。私たちが危惧していたのはこの村がフェネクス国に降って、その情報がいち早くサブノック国の王に伝わってしまうこと。そうなると自分の領地を取り戻そうときっとサブノック国は兵を差し向けてくる。でもハルバが言う通り、今のところ何かしら動きがあるわけではないからその心配はしなくてもいいみたい。
「というか、そもそも城はどうなっているんでしょうね? ここの霧は薄れましたけど」
同じく畑の方から戻ってきたカミラがタオルで汗を拭きながら疑問をこぼした。確かにこっちはこまめに碑石の管理をしていて、他所から来る魔物もギルドの人たちが対応しているから今のところ平穏に過ごせている。でも城周辺は、今の聖女がその辺りの碑石を修復しているとは言え、ここから見える城方面は相変わらず黒い霧で覆われている。
「オイラたちまた様子見に行ってきましょうか? 道はわかりますし」
そう言ってくれたのは前に村長さんの家にやってきた若い男性。私たちの会話を聞きつけてそう言い出してくれた彼に、ハルバは「そしたら」と言葉を続けようとしたところに今度はリクが現れた。
「俺が行ってきましょう。途中霧が濃いですし危険です。俺も道はわかりますし、彼らが行くよりはいいかと」
「そしたらリクいってら~。しっかりと情報収集任せるわ」
「こっちは貴方方に任せますね」
またもやトントン拍子に話が進んでしまって内心慌ててしまう。ギルドの人たちはこう、話が進むのも決まるのも早い。それだけ情報把握がしっかりしていて決断が早いっていうことなんだろうけれど。そうこうしている内にリクはすぐに出発の準備をし始めるし、少ない荷物をまとめて今すぐにでも行こうとする背中を慌てて呼び止める。
「リク、あの、これ! お守り……」
今こそリクから預かったこのネックレスを返す時だと慌てて服の下に隠していたものを引っ張りだそうとしたけれど、出すよりも早くリクの手が私の手をやんわりと止めた。
「それはサヤが持っていていいですよ」
「でもこれ、お守りなんだよね? リクが持っていた方が……」
「お守りだから、貴女が持っていないと」
そっと軽く私の手の上からネックレスを押され、リクの手が離れる。
「なるべく早く戻るので」
笑顔で一言そう告げたリクは、止める暇もなくあっという間に村から出立してしまった。あまりの早さに私が止めようとしても、やめなかったのかもしれないとふとそんなことを思う。
「あ。リクが行っちまって寂しくなっちまったな、サヤ」
「そっ、そんなことないです!!」
「あ~ごめんなぁ、気ぃ付けれなくて」
「だから違っ」
「ハルバ、サヤさんをからかわないの」
ハルバもニヤニヤというよりも本当に申し訳なさそうな顔をして言うものだから、力強く反論するのもなんだか気が引ける。困っているところでカミラの助け舟があってとても助かった。
もう、と小さくこぼしながらも運ぼうとしていた物をもう一度持ち上げて、歩き出そうとしたところ二つあった荷物のうち一つをヒョイとカミラが持っていく。
「手伝います」
「ありがとうございます、カミラ」
「いいえ」
そうしてお互い荷物を一つずつ持って隣同士で歩き出す。こうして隣に並び立ってみると、カミラは背が高くて身体つきも女性特有の柔らかさと剣術を嗜む身としての力強さを併せ持っている。出ているところは出ていて、引っ込んでいるところは引っ込んでてスタイルがとてもいい。まるでスポーツをやっているモデルさんみたいだ。
「私、サヤさんに謝らなければならないことが」
「えっ?」
マジマジとカミラを見ていたからもしかしたら注意されるのかと思いきや、カミラの口から出てきた言葉は予想していなかったことで思わず目を丸くする。カミラに謝らなければならないことなんてあっただろうか。首を傾げるばかりの私にカミラは静かに視線を地面に落とした。
「……最初に依頼を受けた時に、なぜ女性がと思ったんです。碑石の修復は神官でもできる。隣国の元『聖女』かどうかは知らないけれど、魔物も出現する場所になぜ『普通の女性』が行くんだと訝しげました」
フェネクス国には『聖女』の伝承がないため、聖女に対して親しみも信用もなかったのだと小さく頭を下げたカミラに首を左右に振る。カミラの反応は普通のことで、そう思っても何もおかしくない。
「護衛で私たちが行くわけだから、『聖女』も碑石を修復することしかできないのだと思いました……そんなこと、一切なかったですね。あなたはこうして村の人たちのために泥に汚れても嫌な顔一つもしていないのに。勝手な思い込みであなたを決めつけていました。申し訳ございません」
「や、やめてくださいカミラ、頭を上げてください! ……カミラの言う通り、私は一人じゃ何もできないんです」
この世界に来てから数ヶ月経ったというのに未だにわからないことがあるし、聖女としての力を使えてもカミラたちみたいに魔物を倒すことができるわけじゃない。カミラの言う通り、私は碑石の修復をすることしかできない。聖女だった頃も周りに支えて助けてくれる人がいたから巡礼だってできた。
「それに、サブノック国の碑石の修復をしたいと言い出したのも私の我が儘ですし……」
「でもあなたがいなかったら魔物はきっとフェネクス国に流れていましたよ。門兵たちも無事ではいられなかった」
「……神官さんたちが来るのが、一番だったと思います」
「うーん、神官だと少し難しかったかもしれませんね」
「……え? そうなんですか?」
思いもよらない言葉が出てきて思わず足を止めて口をポカンと開ける。でもカイゼルベルク様は私が断ったとしても神官を向かわせる的なことを言っていたはずだけれど。
「神官は国の直轄なんです。動けば恐らく早めにサブノック国に知られていたと思いますよ。なので今回は数人でこっそり動くのがベストだったんです」
「そう、だったんですか……?」
あれ、もしかしてカイゼルベルク様は私に無理強いはしないと言いながらも、私がどう決断するかわかっていたってこと? 私の考えが読まれていたんだ……王様って、怖い。そういう人の感情とか考えも読めちゃう人なんだ、カイゼルベルク様は。だからこその王様なのかもしれないけれど。
なんだかんだで王様の思う通りに動いてたかと思うと、ちょっとモヤモヤするような、でも乗せられてもよかったと思うような。少し唇を尖らせた私にカミラは小さく笑みをこぼした。
「ところで、私から提案があるんですが」
「なんでしょう?」
「私たち、お友達になりませんか? 私はあなたともっとたくさん色んなことを話してみたいです」
カミラの提案に持っていた荷物を落としそうになって、それを素早く彼女が支えた。友達、ともだち。思えばサブノック国にいたときは周りにはほぼ神官さんだけで頼りにはしていたけれど友達、というわけでもなくて。フェネクス国に移ってからもお客さんでたくさんお喋りはするようになったけれど、こうして同年代で友達と言える人はいなかったかもしれない。毎日生活に慣れるので精一杯で、そう考える余裕がなかった。
「あっ、えっ、よろしくお願いします!」
「ふふっ、よろしくお願いします。ついでに敬語もなしにしちゃいましょう。よろしくね、サヤ」
「よ、よろしくカミラ……!」
にこにこ笑顔のカミラについこっちの顔が赤くなる。美人は笑顔も可愛らしい。正直に言って、眼福です。
心の中で合掌しつつ荷物を運んじゃおう、ということで再び歩き出した私たちだけれど、カミラが何かを思い出したかのよに「あっ」と声をもらした。
「ところで私も気になってたんだけど、リクとはどんな関係で?」
「どんな関係で?!」
「そんなにびっくりすること? 結婚してるの? それともまだ婚約……」
「けけけ結婚?! 婚約?!」
「……なるほど、初心なのね」
とんでもないことを言い出したかと思ったら、今度は一人で納得している。ハルバといいカミラといい、なんでこう、リクとの仲をこう、いい感じなんだろうなと思っているんだろう。べ、別にそう言われるのが嫌いってわけじゃなくて。でもそんな、いきなり結婚とかそんな話にまで飛ぶだなんて誰も思わないじゃない。
「その辺りもジャンジャン私に相談して? 初心なサヤの背中押して上げる」
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