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ほんの一コマ
アレな騎士様
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「あの、こちらもどうぞ」
「ありがとうございます」
野郎共で買い出しに出ていたわけなんだが、バプティスタ国だと他のところと違ってこうしたはっきりとした違いが顕になる。
野郎共、ってことで俺とエルダとそんでもってウィルがいるわけだが、ウィルはさっきからしょっちゅう呼び止められている。主にバプティスタ国にいる女たちから。やっぱり自国を、自分たちを守ってくれる騎士の存在っていうのは人気らしい。ウィルだけじゃなく甲冑姿の男がよく呼び止められているのがちらほら見える。物を貰ったり丁寧に断ったり。ご苦労なこった。
ということで、ウィルを連れて歩けばよく足止めされる。とはいえ女からの贈り物の中にアミィが好みそうな菓子もあったりするもんだから、ウィルも断ることなく受け取っていた。流石に大量の花束は断っていたが。あそこまでの花束は旅をしている中で荷物にしかならない。
「いつもありがとうございます、騎士様」
「いいえ、当然の行いをしているまでです」
「きゃーっ」
「素敵ーっ」
「うるせぇ……」
貰えるもんは貰って来いよ、と言ったものの。流石にウィルが笑顔を向ける度にあちこちから上がる黄色い声は耳を突き抜けて頭に直接響いてくる。こっちは荷物持ったまま待ってるっつーのに、さっさとしろよと舌打ちをしたところで向こうも文句は言えねぇだろう。
「まだでしょうかねぇ……」
「その程度の荷物で腕プルプルさせてんじゃねぇよ」
「貴方方と違ってそこまで身体を痛めつけてまで鍛えていないもので」
「俺だってそこまで痛めつけてねぇっつーの」
ただ義賊として動いていると筋肉がついただけで、騎士たちみたいに日々鍛錬しているわけでもない。一緒にするなと表情を歪めているとようやくウィルがこっちに戻ってきた。
「よお色男、大変だな」
「茶化さないでくれ……それにここではそう珍しい話でもない」
「丁寧に対応して大変ですねぇ」
「僕たちの行動が騎士団への評価に繋がるんだ。しっかりとやるさ」
「おら、荷物」
「ああ、すまない」
女から贈り物を貰うためにウィルの荷物は俺が抱えておいた。それを容赦なく戻したものの、平然と重い荷物を持っているのは流石騎士様と言ったところか。贈り物も持って買い出しの荷物も持って、まぁ一見大変そうだが俺もエルダも代わりに持ってやるということはしない。
「無駄に丁寧に対応して向こうも勘違いしそうだけどな」
「流石にそこの線引きはしっかりするよう言われている。確かに……中にはその相手と結婚する騎士もいるにはいるが」
「ちゃっかりしてますねぇ」
「探さなくても向こうから寄ってくるんなら苦労はしねぇな」
「君たち……棘のある言い方はやめてくれないか」
はいはい清廉潔白の騎士様には面白くない話だったな、と口に出すことはなかったがひとりごちればなんとなくエルダと目が合った。恐らく同じようなことを思ったに違いない。
とか思っている側からまた少し離れた場所からこっちに来ようとしている女の姿が目に入る。十歩も歩けていねぇんじゃねぇかっていうほど呼び止められるのは流石にちょっとどうかと思う。っていうかそもそもコイツまだバプティスタ国の騎士の甲冑を脱いだままなんだが、それでもコイツがここの騎士だっていうことをわかっている女たちの記憶力が凄まじい。
まぁ金髪金眼、整っている顔に爽やかな風貌。しかも話しかけると物腰柔らかに対応してくる。女にモテないわけがない。相手がいるようにも見えず目をつけていた女はたくさんいるだろう。そんでしばらく姿を見せないと思いきやこうして街中を歩いているもんだから積極的に声をかける、といった具合か。
「アイツ置いていくか」
「いい案ですね。流石に私の腕も限界です」
「それはお前の腕が細ぇだけだ」
このままじゃ埒が明かねぇと、置いていく方向に決めようとしたところ何やら少し騒がしい。今度は何だと訝しげながら視線を向けてみると、どうやら揉めていたのはウィルのようだった。
お前さっき女に呼び止められて対応してたんじゃねぇのかって思ったが、いつの間にか相手の女が代わってる。しかもさっきまで話しかけていた女はどこか遠慮がちというか控えめだったんだが、今ウィルの側にいる女はどうもそうでもなさそうだ。
そこまで露出の多い服ってわけでもなさそうなのに、あざとく肌を見せつけそして腕にしがみつく形で自分の胸をウィルに押し付けている。さっきまで無駄に爽やかに対応していたウィルが明らかにタジタジだ。このままだと確実に押し切られるだろうな、と半ば呆れてしまった。
「ねぇウィルさん、久しぶりに戻ってこられたのでしょう? どう? 今晩、私と一緒に過ごさない?」
「す、すまないが、僕は宿舎のほうではなく宿に泊まっていて……」
どういう断り方だ、下手くそかよ。と思わず言いそうになったところをグッと堪える。ちなみに助け舟は出さずに今のところ俺もエルダも黙ったまま見ている。なぜかというと、面白いから。
「まぁ! 宿? そしたら私が会いに行こうかしら?」
「い、いや! その、正直、そういったことは困る、から……」
「ふふっ、相変わらずウブな方ね。でもとっても魅力的だわ。ねぇ、ウィルさん……私、今晩貴方のところに行ってもいいかしら?」
「なっ、仲間が待っているので失礼するっ!」
「あんっ」
逃げるように、というか実際逃げた。腕を振り解いてウィルは真っ直ぐにこっちにすっげぇ勢いで駆け寄ってきた。顔はゆでタコのように真っ赤である。
っていうか初めてフレイと会った時といい、ああいう女に対する対応といい、全然顔の熱が引かないところといい。
「お前、アレか」
「アレのようですねぇ」
明らかにアレな反応だ。絶対経験ないだろと確信が持てるほど積極的な女や露出の多い女に対する免疫が極端に低い。
「あっ、アレアレ言わないでくれっ! そ、そもそも騎士にっ、そのような時間はっ‼」
「あると思うぜ?」
「結婚した方もいるというのであれば、あるでしょうねぇ」
「ッ……‼」
さっき真っ赤になった顔が今度は顔だけじゃなく首や耳まで赤くなる。流石は清廉潔白、真っ直ぐに生きてきた男はわけが違う。この程度の会話でそこまで赤くなるかと寧ろ関心してしまう。
「お前今二十だっけ? 別にいいんじゃねぇの童――」
「わーっ‼ わーっ‼」
「三十になれば魔法使いになれるらしいぜ」
「ははは、面白い噂話ですね。私たちはすでに魔術を使えるというのに。いい冗談です。はははははは」
「からかわないでくれっ‼」
一体どこまで赤くなるのか、必死に反論しようとしてもそれ以上はできないということを俺たちは知っている。これはいいネタを掴むことができたなと内心ほくそ笑む。いい酒の肴だ。
俺たちが面白がっていることがわかったのか、さっきよりも少しマシになった顔の赤みのまま思いっきりこっちを睨んできた。おーこわ、と思いつつもまったく怖がってはいない。ただ面白いだけで。
「こ、こんな人が多い場所でそんな会話をするなんて、ふ、ふしだらだぞ⁈」
「ブフォッ⁈」
「あははははっ、そう来ましたか」
面白すぎて思いっきり吹いちまった。よくそんな単語出てきたなとさっきから関心しっぱなしだ。流石のエルダも面白かったらしく、いつもわざとらしい笑い声じゃなくてわりとマジもんのほうの笑い声だった。そんでもって俺たちが笑い出したもんだから尚更ウィルの顔が赤いまま険しくなっていく。
「マ、マジで久しぶりにツボった……」
「君たちいい加減にしろ‼」
「いやいやいいじゃないですか、まっさらで。女性もきっと安心しますよ」
「君に慰められてもなッ……⁈」
まぁそういうのは向こうにも好みってもんがあるから一概には言えないだろうが。腹を抱えてクツクツ笑っていると容赦なく横っ腹にグーパンを貰った。アミィとは違って騎士様の容赦ない馬鹿力のグーパンはガチで痛い。
少しは容赦しろよと腹を抱えていた手を横っ腹に移動しつつ、顔を上げて短く息を吐き出した。
「ま、ティエラは喜ぶだろ。安心しろよ」
「っ⁈」
「よかったですねぇ」
「なっ……なっ……⁈」
真っ赤な顔のまま唖然として口をパクパクしているウィルを放置して歩き出す。流石にこのまま立ち話していると次から次へと女がやってきて宿に戻れなくなっちまう。エルダも俺に続くように歩き出し、しばらくして棒立ちしていたウィルは我に返って急いで駆け寄ってきた。
宿に戻れば「戻ってくるのが遅い!」とフレイにグチグチ言われ、その主な原因はウィルにあるためスルーして荷物をテーブルの上に置く。
「どうしたんですか? ウィルさん」
「い、いやっ、何もっ」
どこかぎこちない動きで同じように荷物を下ろしたウィルにティエラが不審、というよりも単純に心配したんだろう。顔を覗き込むようにそう尋ねていたが、声が裏返ってしまったウィルにもう一度盛大に吹き出してしまった。
「ありがとうございます」
野郎共で買い出しに出ていたわけなんだが、バプティスタ国だと他のところと違ってこうしたはっきりとした違いが顕になる。
野郎共、ってことで俺とエルダとそんでもってウィルがいるわけだが、ウィルはさっきからしょっちゅう呼び止められている。主にバプティスタ国にいる女たちから。やっぱり自国を、自分たちを守ってくれる騎士の存在っていうのは人気らしい。ウィルだけじゃなく甲冑姿の男がよく呼び止められているのがちらほら見える。物を貰ったり丁寧に断ったり。ご苦労なこった。
ということで、ウィルを連れて歩けばよく足止めされる。とはいえ女からの贈り物の中にアミィが好みそうな菓子もあったりするもんだから、ウィルも断ることなく受け取っていた。流石に大量の花束は断っていたが。あそこまでの花束は旅をしている中で荷物にしかならない。
「いつもありがとうございます、騎士様」
「いいえ、当然の行いをしているまでです」
「きゃーっ」
「素敵ーっ」
「うるせぇ……」
貰えるもんは貰って来いよ、と言ったものの。流石にウィルが笑顔を向ける度にあちこちから上がる黄色い声は耳を突き抜けて頭に直接響いてくる。こっちは荷物持ったまま待ってるっつーのに、さっさとしろよと舌打ちをしたところで向こうも文句は言えねぇだろう。
「まだでしょうかねぇ……」
「その程度の荷物で腕プルプルさせてんじゃねぇよ」
「貴方方と違ってそこまで身体を痛めつけてまで鍛えていないもので」
「俺だってそこまで痛めつけてねぇっつーの」
ただ義賊として動いていると筋肉がついただけで、騎士たちみたいに日々鍛錬しているわけでもない。一緒にするなと表情を歪めているとようやくウィルがこっちに戻ってきた。
「よお色男、大変だな」
「茶化さないでくれ……それにここではそう珍しい話でもない」
「丁寧に対応して大変ですねぇ」
「僕たちの行動が騎士団への評価に繋がるんだ。しっかりとやるさ」
「おら、荷物」
「ああ、すまない」
女から贈り物を貰うためにウィルの荷物は俺が抱えておいた。それを容赦なく戻したものの、平然と重い荷物を持っているのは流石騎士様と言ったところか。贈り物も持って買い出しの荷物も持って、まぁ一見大変そうだが俺もエルダも代わりに持ってやるということはしない。
「無駄に丁寧に対応して向こうも勘違いしそうだけどな」
「流石にそこの線引きはしっかりするよう言われている。確かに……中にはその相手と結婚する騎士もいるにはいるが」
「ちゃっかりしてますねぇ」
「探さなくても向こうから寄ってくるんなら苦労はしねぇな」
「君たち……棘のある言い方はやめてくれないか」
はいはい清廉潔白の騎士様には面白くない話だったな、と口に出すことはなかったがひとりごちればなんとなくエルダと目が合った。恐らく同じようなことを思ったに違いない。
とか思っている側からまた少し離れた場所からこっちに来ようとしている女の姿が目に入る。十歩も歩けていねぇんじゃねぇかっていうほど呼び止められるのは流石にちょっとどうかと思う。っていうかそもそもコイツまだバプティスタ国の騎士の甲冑を脱いだままなんだが、それでもコイツがここの騎士だっていうことをわかっている女たちの記憶力が凄まじい。
まぁ金髪金眼、整っている顔に爽やかな風貌。しかも話しかけると物腰柔らかに対応してくる。女にモテないわけがない。相手がいるようにも見えず目をつけていた女はたくさんいるだろう。そんでしばらく姿を見せないと思いきやこうして街中を歩いているもんだから積極的に声をかける、といった具合か。
「アイツ置いていくか」
「いい案ですね。流石に私の腕も限界です」
「それはお前の腕が細ぇだけだ」
このままじゃ埒が明かねぇと、置いていく方向に決めようとしたところ何やら少し騒がしい。今度は何だと訝しげながら視線を向けてみると、どうやら揉めていたのはウィルのようだった。
お前さっき女に呼び止められて対応してたんじゃねぇのかって思ったが、いつの間にか相手の女が代わってる。しかもさっきまで話しかけていた女はどこか遠慮がちというか控えめだったんだが、今ウィルの側にいる女はどうもそうでもなさそうだ。
そこまで露出の多い服ってわけでもなさそうなのに、あざとく肌を見せつけそして腕にしがみつく形で自分の胸をウィルに押し付けている。さっきまで無駄に爽やかに対応していたウィルが明らかにタジタジだ。このままだと確実に押し切られるだろうな、と半ば呆れてしまった。
「ねぇウィルさん、久しぶりに戻ってこられたのでしょう? どう? 今晩、私と一緒に過ごさない?」
「す、すまないが、僕は宿舎のほうではなく宿に泊まっていて……」
どういう断り方だ、下手くそかよ。と思わず言いそうになったところをグッと堪える。ちなみに助け舟は出さずに今のところ俺もエルダも黙ったまま見ている。なぜかというと、面白いから。
「まぁ! 宿? そしたら私が会いに行こうかしら?」
「い、いや! その、正直、そういったことは困る、から……」
「ふふっ、相変わらずウブな方ね。でもとっても魅力的だわ。ねぇ、ウィルさん……私、今晩貴方のところに行ってもいいかしら?」
「なっ、仲間が待っているので失礼するっ!」
「あんっ」
逃げるように、というか実際逃げた。腕を振り解いてウィルは真っ直ぐにこっちにすっげぇ勢いで駆け寄ってきた。顔はゆでタコのように真っ赤である。
っていうか初めてフレイと会った時といい、ああいう女に対する対応といい、全然顔の熱が引かないところといい。
「お前、アレか」
「アレのようですねぇ」
明らかにアレな反応だ。絶対経験ないだろと確信が持てるほど積極的な女や露出の多い女に対する免疫が極端に低い。
「あっ、アレアレ言わないでくれっ! そ、そもそも騎士にっ、そのような時間はっ‼」
「あると思うぜ?」
「結婚した方もいるというのであれば、あるでしょうねぇ」
「ッ……‼」
さっき真っ赤になった顔が今度は顔だけじゃなく首や耳まで赤くなる。流石は清廉潔白、真っ直ぐに生きてきた男はわけが違う。この程度の会話でそこまで赤くなるかと寧ろ関心してしまう。
「お前今二十だっけ? 別にいいんじゃねぇの童――」
「わーっ‼ わーっ‼」
「三十になれば魔法使いになれるらしいぜ」
「ははは、面白い噂話ですね。私たちはすでに魔術を使えるというのに。いい冗談です。はははははは」
「からかわないでくれっ‼」
一体どこまで赤くなるのか、必死に反論しようとしてもそれ以上はできないということを俺たちは知っている。これはいいネタを掴むことができたなと内心ほくそ笑む。いい酒の肴だ。
俺たちが面白がっていることがわかったのか、さっきよりも少しマシになった顔の赤みのまま思いっきりこっちを睨んできた。おーこわ、と思いつつもまったく怖がってはいない。ただ面白いだけで。
「こ、こんな人が多い場所でそんな会話をするなんて、ふ、ふしだらだぞ⁈」
「ブフォッ⁈」
「あははははっ、そう来ましたか」
面白すぎて思いっきり吹いちまった。よくそんな単語出てきたなとさっきから関心しっぱなしだ。流石のエルダも面白かったらしく、いつもわざとらしい笑い声じゃなくてわりとマジもんのほうの笑い声だった。そんでもって俺たちが笑い出したもんだから尚更ウィルの顔が赤いまま険しくなっていく。
「マ、マジで久しぶりにツボった……」
「君たちいい加減にしろ‼」
「いやいやいいじゃないですか、まっさらで。女性もきっと安心しますよ」
「君に慰められてもなッ……⁈」
まぁそういうのは向こうにも好みってもんがあるから一概には言えないだろうが。腹を抱えてクツクツ笑っていると容赦なく横っ腹にグーパンを貰った。アミィとは違って騎士様の容赦ない馬鹿力のグーパンはガチで痛い。
少しは容赦しろよと腹を抱えていた手を横っ腹に移動しつつ、顔を上げて短く息を吐き出した。
「ま、ティエラは喜ぶだろ。安心しろよ」
「っ⁈」
「よかったですねぇ」
「なっ……なっ……⁈」
真っ赤な顔のまま唖然として口をパクパクしているウィルを放置して歩き出す。流石にこのまま立ち話していると次から次へと女がやってきて宿に戻れなくなっちまう。エルダも俺に続くように歩き出し、しばらくして棒立ちしていたウィルは我に返って急いで駆け寄ってきた。
宿に戻れば「戻ってくるのが遅い!」とフレイにグチグチ言われ、その主な原因はウィルにあるためスルーして荷物をテーブルの上に置く。
「どうしたんですか? ウィルさん」
「い、いやっ、何もっ」
どこかぎこちない動きで同じように荷物を下ろしたウィルにティエラが不審、というよりも単純に心配したんだろう。顔を覗き込むようにそう尋ねていたが、声が裏返ってしまったウィルにもう一度盛大に吹き出してしまった。
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