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130.海を渡って
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服よし、荷物よし。と充てがわれている自室で服装と荷物のチェックをする。別にこれが初めてっていうわけでもないから慣れてはいるけれど、忘れ物はしたくないしそれにやっぱり服装にも気を使ってしまう。
身なりと身支度を整えて部屋から出て、しっかりと鍵を閉めた私はトランクを持って宿舎から出た。向かう先は義賊だけが使っている、ミストラル国のすぐ側にある港。この道もすっかり通い慣れて、港で働いている人の中には顔見知りになった人もいる。目が合って軽く挨拶を済ませて周りを見渡してみると、見覚えのある船がすでに停泊していた。
「ごめん待たせたー⁈」
甲板にチラッと見えた姿に向かってそう大声を出せば、ぴょっこりと出てきた顔がにっこりと笑って大きく腕を振って返してきた。
「大丈夫気にする必要はないよー!」
「もう乗っても大丈夫ーっ?」
「ああ! いつでもおいで!」
手招くように大きく腕を振っている姿に、相変わらずだなぁって変わらないことにフフッて思わず笑顔を浮かべながらその船に乗り込む。この船にいる人たちともすっかり仲良くなってしまった。ほぼ男の人ばかりだけど目が合うと「久しぶりだな!」って声をかけてきてくれて、ハイタッチで返事をする。
「でかくなったなぁ、アミィ。今いくつだ?」
「二十二歳になったよ」
「はぁ~! もうそうなったか! あのおチビちゃんが酒も飲める年齢になったたぁ……そりゃ頭も歳食うわな」
「あん? 誰が老けたってぇ?」
「いやなんでもねぇって! 頭も変わらず若い!」
「るっさいね! あたしだって歳食ったこと自覚してるから!」
部下の人たちとお喋りをしていたら甲板から降りてきた姿が腕を組んで立っていた。あれからまったく会っていないわけじゃないから、八年ぶりっていうわけでもないけど。
「フレイ!」
「ふふっ、アミィまた大きくなったんじゃないのかい?」
勢いよく抱きつけばふらつくことなく私の身体を抱きしめてくれた。あれから八年経ったけどフレイは自分が思っているよりそんなに変わっていない。相変わらず海賊フエンテの頭としてかっこいいし、それに胸も大きい。ちょっと羨ましい。
「それって横にっていう意味?」
「違う違う! 縦にだよ、縦に!」
「でも身長は流石にもう止まったよ……フレイは全然変わってないね」
フレイは歳を取ったことを自覚してるって言っていたけど、でもそんなフレイもまだ二十六歳だ、まだまだ若い。っていうか八年前フレイだってまだ十代だったんだなって寧ろそっちに驚いてしまう。
あれだけしっかりしてたものだから、当時の私からしたらものすごく大人に見えて頼り甲斐のある人だった。今は更に頭としての威厳が大きくなって見える。そしてそんなフレイに憧れて若い子たちがこの船の一員になっているのだと、前に部下の人たちが誇らしげに教えてくれた。
「今回もぐるっと回るんだろ?」
「うん。みんなにも会いたいし、それにあちこちの状況も気になるし」
「はぁ~……本当に、あのアミィが随分と大きくなったもんだよ」
「フレイから見たらまだ子どもじゃない?」
「まさか! 寧ろその成長度合いに驚いているところだよ! それに、お酒も飲めるようになったしねぇ?」
「う~ん、お酒はまだそんなに得意じゃないかなぁ?」
成人として認められる年齢になってから、周りはちょくちょくお酒を飲ませようとしていた。私もその年齢になる頃には興味を持ち始めたし、嗜む程度に飲むようにはなっていたけれど。それでもまだ、フレイたちのようにたくさんは飲めない。
こういうのは得意不得意っていうものがあるから、無理して飲む必要はないよと教えてもらった。でもやっぱり、子どもの頃から飲んでいる大人の姿を見て憧れのようなものを持っていたから。もう少し飲めるようにはなりたいかなぁと思わないわけでもない。
いつもフレイの船に乗せてもらう時に充てがわれる部屋にトランクを置いて、今後のどの海路を進むか説明を受ける。とは言っても普段とあまり変わらない。たまに波が荒い時があるけれど、それはまだ精霊たちの力が元に戻っていないという証拠でもあった。その時は航海が難しくなる船もあるようだけれど、フレイのこの船は荒い波の中でも進む。それだけフエンテの人たちの腕がいい。
「それじゃまずはあの場所――ってこらぁっ!」
「おっと」
「おっとじゃないよ! 無駄にいじんなって一体何度言えばわかるんだい‼」
「まぁまぁ」
「まぁまぁ、じゃないッ!」
地図を前にしてフレイの説明を受けていたんだけど、近くにいた部下さんと目を合わせて「また始まった」と軽く肩を上げた。
怒っているフレイに耳を引っ張られている当人といったら、全然反省している様子じゃない。わりと強めに引っ張られてるのに痛くないのだろうか、ハハハって笑うだけで謝る素振りも一切見せず。まぁこれもフレイの船に乗らせてもらう時いつも見る光景だから私もすっかり慣れてしまった。というか二人とも同じやり取りをしていていい加減飽きないんだろうか。
「アミィが来た時ぐらい黙っててくれない⁈」
「おや、来ていたんですかアミィ」
「いたよ。いつもよく気付かないでいられるね」
「ハハハ、他に見るところがありますからねぇ」
「……クルエルダも相変わらずだね」
銀髪で眼鏡かけて、私と一緒の『紫』の目をしているクルエルダはなぜかいつもフレイの船に乗っている。いつも不思議に思っているけどここはまぁ、聞くのは野暮ってものなんだろうか。
クルエルダは数年前に私の首に着けていた媒体を取ってくれた張本人だ。私を実験していた人はすでに姿をくらませていて、媒体を外してから数年後に遺体として発見された。自殺か他殺かはたまた事故か、それは誰も教えてくれなかった。
ただ当時着けた当人がいなかったものだから、クルエルダは勝手にその人の研究室に無断で入って勝手に資料を持ち出して、そして研究の末媒体を取り外す方法を見つけてくれた。精霊の力が弱まっているからこそ、受ける影響も最小限で済む。だから今のうちに取ってしまおうとさっさと取り外してくれた。おかげであれから魔術を暴走させることもなければ、大きい魔力で体調を崩すこともない。
そしてそんなクルエルダは然も当たり前のようにフレイの船に乗っている。そしていつもフレイに怒られている。流石にもう気になるし、聞いてしまえと喧嘩を始めそうな二人に口を挟んだ。
「なんでいつもフレイの船に乗ってるの? クルエルダ」
クルエルダは未だスピリアル島の研究員のはず。ちゃんとした研究施設も割り当てられているのだと聞いたけれど、それなのになんで船の上。
私の疑問に自分の耳からフレイの手を外して、いつものように眼鏡のブリッジをグッと押し上げて胡散臭い笑みを浮かべた。
「いやはや、各地の魔力の動向は私も気になるところでして。しかし回る箇所が多い、それをいちいち転移魔術で移動するのも疲れる。そもそも精霊たちの力が弱まっているので転移魔術で移動できる距離もかなり狭まってしまったんですよね。そこでおや、身近にいい足があるではないかと気付きまして」
「あたしの船に勝手に乗り込んで足にしないでくれるかい⁈」
「ハハハ、いいじゃないですか。減るもんでもないですし」
「あたしの平穏が減ってるんだけど⁈」
また始まった、と部下の人と目を合わせて小さく息を吐き出した。でもその各地の調査? っていう名目でいいのかな。その調査ももう五年ぐらいになるんだけど。その間ずっとフレイの船に乗ってるってことになるんだけど。
二人とも性格が真逆で相性も悪いのに。よく一緒にいられるね。って、そう言ってしまうのは野暮ってものなんだろうか。こういうやり取りをよく見ている部下の人たちはもう二人の喧嘩なんて気にせずに自分の作業に戻ってる。
「いいから大人しくしときなッ!」
そう言ってフレイは容赦なくクルエルダの背中を蹴っ飛ばして甲板から退場させた。流石にあれは痛かったようで扉の奥で「相変わらずの馬鹿力ですね~!」なんて、また煽るようなこと言うもんだからフレイはもうカンカンだ。中指立てて色々と文句を言ってて、そして扉の向こうからも色々と聞こえてくる。仲がいいのか悪いのか。
「大変だね、フレイも」
「まったくだよ! ったく、誰の了承も得ないで勝手に乗ってんだよ⁈ ありえなくない⁈」
「船から蹴飛ばさないの?」
単純に浮かんだ疑問だったけど、プンプン怒っていたフレイの動きがピタリと止まる。何かまずいことでも言っちゃったかなと、不安には思わなかったけど首を傾げつつフレイが動き出すのを待っていた。
「……一応、ね」
「うん?」
「あー……ネレウスのね、ガジェットとかの調子を見てるのはアイツなもんでね……役に立っていない、ってわけでもないんだよね。ほら、アイツガジェットのほうも詳しくなり始めたじゃないか」
「うん、そうだね」
クルエルダは色んなものに興味を示すのか、魔術の効果が低くなったとわかった瞬間次はガジェットに目をつけた。ガジェットも魔力で動いていることには変わりないからって。わざわざべーチェル国にまで行ってガジェットのことを学び始めてくれたことで、私の首に着けていた媒体も無事外すことができたんだけど。
「何ていうか……知識に対して無駄に貪欲だと言うか」
「それは昔から変わらないよね。だから私たち変態変態言ってたんだけど」
「あっはは! 言ってたね、懐かしい」
ピンチな状況でもあの感じだったから、当時の私の目から見たらクルエルダは少し異様に見えた。でもそれ以上のものも見てしまったからクルエルダはまだマシな部類なんだなとか妙に納得してしまったけど。でもきっとクルエルダから知識欲というか、そういうものを取ってしまったらそれはもうクルエルダじゃないんだろう。
「それで、クルエルダの調査は進んでるの?」
「さぁね。あたしも詳しくは聞いてない。前に一度軽く聞いてみたらもうつらつらとこっちが寝不足になるぐらい永遠と言い聞かされたもんだから、それ以来二度と聞いてないんだよ」
「ぶえっくしゅん‼」
扉越しから豪快なくしゃみの音が聞こえて、思わずフレイと顔を見合わせてプッと小さく吹き出す。ここで私たちがずっと噂話をしていたらクルエルダはひたすらくしゃみを出すことになってしまう。
「さて、思い出話は道々に花を咲かせるとして。今回はアミィが主役だからね、行き先はアミィに任せるよ」
「あとで西南のほうにも向かってくれます?」
「だから今回はアミィが主役だって言ってんだろ! 何立ち聞きしてるんだい!」
「やれやれ」
「やれやれはこっちのセリフだ‼」
いつの間にか扉が開いていて、そこからひょっこり顔を出してるクルエルダに対してフレイはまたブチ切れた。うん、やっぱりこれが二人の仲のよさを表しているんだろう、そう思うことにした。
でもこんなやり取りも懐かしいと思って、つい表情が笑顔になる。二人ともずっとこのままだったんだろうなって。変わらないものもあって、心の片隅のほうでどこかホッとした。
「それじゃあフレイ。まずはウィンドシア大陸に向かってもらっていい?」
「ああ、もちろんだよ!」
身なりと身支度を整えて部屋から出て、しっかりと鍵を閉めた私はトランクを持って宿舎から出た。向かう先は義賊だけが使っている、ミストラル国のすぐ側にある港。この道もすっかり通い慣れて、港で働いている人の中には顔見知りになった人もいる。目が合って軽く挨拶を済ませて周りを見渡してみると、見覚えのある船がすでに停泊していた。
「ごめん待たせたー⁈」
甲板にチラッと見えた姿に向かってそう大声を出せば、ぴょっこりと出てきた顔がにっこりと笑って大きく腕を振って返してきた。
「大丈夫気にする必要はないよー!」
「もう乗っても大丈夫ーっ?」
「ああ! いつでもおいで!」
手招くように大きく腕を振っている姿に、相変わらずだなぁって変わらないことにフフッて思わず笑顔を浮かべながらその船に乗り込む。この船にいる人たちともすっかり仲良くなってしまった。ほぼ男の人ばかりだけど目が合うと「久しぶりだな!」って声をかけてきてくれて、ハイタッチで返事をする。
「でかくなったなぁ、アミィ。今いくつだ?」
「二十二歳になったよ」
「はぁ~! もうそうなったか! あのおチビちゃんが酒も飲める年齢になったたぁ……そりゃ頭も歳食うわな」
「あん? 誰が老けたってぇ?」
「いやなんでもねぇって! 頭も変わらず若い!」
「るっさいね! あたしだって歳食ったこと自覚してるから!」
部下の人たちとお喋りをしていたら甲板から降りてきた姿が腕を組んで立っていた。あれからまったく会っていないわけじゃないから、八年ぶりっていうわけでもないけど。
「フレイ!」
「ふふっ、アミィまた大きくなったんじゃないのかい?」
勢いよく抱きつけばふらつくことなく私の身体を抱きしめてくれた。あれから八年経ったけどフレイは自分が思っているよりそんなに変わっていない。相変わらず海賊フエンテの頭としてかっこいいし、それに胸も大きい。ちょっと羨ましい。
「それって横にっていう意味?」
「違う違う! 縦にだよ、縦に!」
「でも身長は流石にもう止まったよ……フレイは全然変わってないね」
フレイは歳を取ったことを自覚してるって言っていたけど、でもそんなフレイもまだ二十六歳だ、まだまだ若い。っていうか八年前フレイだってまだ十代だったんだなって寧ろそっちに驚いてしまう。
あれだけしっかりしてたものだから、当時の私からしたらものすごく大人に見えて頼り甲斐のある人だった。今は更に頭としての威厳が大きくなって見える。そしてそんなフレイに憧れて若い子たちがこの船の一員になっているのだと、前に部下の人たちが誇らしげに教えてくれた。
「今回もぐるっと回るんだろ?」
「うん。みんなにも会いたいし、それにあちこちの状況も気になるし」
「はぁ~……本当に、あのアミィが随分と大きくなったもんだよ」
「フレイから見たらまだ子どもじゃない?」
「まさか! 寧ろその成長度合いに驚いているところだよ! それに、お酒も飲めるようになったしねぇ?」
「う~ん、お酒はまだそんなに得意じゃないかなぁ?」
成人として認められる年齢になってから、周りはちょくちょくお酒を飲ませようとしていた。私もその年齢になる頃には興味を持ち始めたし、嗜む程度に飲むようにはなっていたけれど。それでもまだ、フレイたちのようにたくさんは飲めない。
こういうのは得意不得意っていうものがあるから、無理して飲む必要はないよと教えてもらった。でもやっぱり、子どもの頃から飲んでいる大人の姿を見て憧れのようなものを持っていたから。もう少し飲めるようにはなりたいかなぁと思わないわけでもない。
いつもフレイの船に乗せてもらう時に充てがわれる部屋にトランクを置いて、今後のどの海路を進むか説明を受ける。とは言っても普段とあまり変わらない。たまに波が荒い時があるけれど、それはまだ精霊たちの力が元に戻っていないという証拠でもあった。その時は航海が難しくなる船もあるようだけれど、フレイのこの船は荒い波の中でも進む。それだけフエンテの人たちの腕がいい。
「それじゃまずはあの場所――ってこらぁっ!」
「おっと」
「おっとじゃないよ! 無駄にいじんなって一体何度言えばわかるんだい‼」
「まぁまぁ」
「まぁまぁ、じゃないッ!」
地図を前にしてフレイの説明を受けていたんだけど、近くにいた部下さんと目を合わせて「また始まった」と軽く肩を上げた。
怒っているフレイに耳を引っ張られている当人といったら、全然反省している様子じゃない。わりと強めに引っ張られてるのに痛くないのだろうか、ハハハって笑うだけで謝る素振りも一切見せず。まぁこれもフレイの船に乗らせてもらう時いつも見る光景だから私もすっかり慣れてしまった。というか二人とも同じやり取りをしていていい加減飽きないんだろうか。
「アミィが来た時ぐらい黙っててくれない⁈」
「おや、来ていたんですかアミィ」
「いたよ。いつもよく気付かないでいられるね」
「ハハハ、他に見るところがありますからねぇ」
「……クルエルダも相変わらずだね」
銀髪で眼鏡かけて、私と一緒の『紫』の目をしているクルエルダはなぜかいつもフレイの船に乗っている。いつも不思議に思っているけどここはまぁ、聞くのは野暮ってものなんだろうか。
クルエルダは数年前に私の首に着けていた媒体を取ってくれた張本人だ。私を実験していた人はすでに姿をくらませていて、媒体を外してから数年後に遺体として発見された。自殺か他殺かはたまた事故か、それは誰も教えてくれなかった。
ただ当時着けた当人がいなかったものだから、クルエルダは勝手にその人の研究室に無断で入って勝手に資料を持ち出して、そして研究の末媒体を取り外す方法を見つけてくれた。精霊の力が弱まっているからこそ、受ける影響も最小限で済む。だから今のうちに取ってしまおうとさっさと取り外してくれた。おかげであれから魔術を暴走させることもなければ、大きい魔力で体調を崩すこともない。
そしてそんなクルエルダは然も当たり前のようにフレイの船に乗っている。そしていつもフレイに怒られている。流石にもう気になるし、聞いてしまえと喧嘩を始めそうな二人に口を挟んだ。
「なんでいつもフレイの船に乗ってるの? クルエルダ」
クルエルダは未だスピリアル島の研究員のはず。ちゃんとした研究施設も割り当てられているのだと聞いたけれど、それなのになんで船の上。
私の疑問に自分の耳からフレイの手を外して、いつものように眼鏡のブリッジをグッと押し上げて胡散臭い笑みを浮かべた。
「いやはや、各地の魔力の動向は私も気になるところでして。しかし回る箇所が多い、それをいちいち転移魔術で移動するのも疲れる。そもそも精霊たちの力が弱まっているので転移魔術で移動できる距離もかなり狭まってしまったんですよね。そこでおや、身近にいい足があるではないかと気付きまして」
「あたしの船に勝手に乗り込んで足にしないでくれるかい⁈」
「ハハハ、いいじゃないですか。減るもんでもないですし」
「あたしの平穏が減ってるんだけど⁈」
また始まった、と部下の人と目を合わせて小さく息を吐き出した。でもその各地の調査? っていう名目でいいのかな。その調査ももう五年ぐらいになるんだけど。その間ずっとフレイの船に乗ってるってことになるんだけど。
二人とも性格が真逆で相性も悪いのに。よく一緒にいられるね。って、そう言ってしまうのは野暮ってものなんだろうか。こういうやり取りをよく見ている部下の人たちはもう二人の喧嘩なんて気にせずに自分の作業に戻ってる。
「いいから大人しくしときなッ!」
そう言ってフレイは容赦なくクルエルダの背中を蹴っ飛ばして甲板から退場させた。流石にあれは痛かったようで扉の奥で「相変わらずの馬鹿力ですね~!」なんて、また煽るようなこと言うもんだからフレイはもうカンカンだ。中指立てて色々と文句を言ってて、そして扉の向こうからも色々と聞こえてくる。仲がいいのか悪いのか。
「大変だね、フレイも」
「まったくだよ! ったく、誰の了承も得ないで勝手に乗ってんだよ⁈ ありえなくない⁈」
「船から蹴飛ばさないの?」
単純に浮かんだ疑問だったけど、プンプン怒っていたフレイの動きがピタリと止まる。何かまずいことでも言っちゃったかなと、不安には思わなかったけど首を傾げつつフレイが動き出すのを待っていた。
「……一応、ね」
「うん?」
「あー……ネレウスのね、ガジェットとかの調子を見てるのはアイツなもんでね……役に立っていない、ってわけでもないんだよね。ほら、アイツガジェットのほうも詳しくなり始めたじゃないか」
「うん、そうだね」
クルエルダは色んなものに興味を示すのか、魔術の効果が低くなったとわかった瞬間次はガジェットに目をつけた。ガジェットも魔力で動いていることには変わりないからって。わざわざべーチェル国にまで行ってガジェットのことを学び始めてくれたことで、私の首に着けていた媒体も無事外すことができたんだけど。
「何ていうか……知識に対して無駄に貪欲だと言うか」
「それは昔から変わらないよね。だから私たち変態変態言ってたんだけど」
「あっはは! 言ってたね、懐かしい」
ピンチな状況でもあの感じだったから、当時の私の目から見たらクルエルダは少し異様に見えた。でもそれ以上のものも見てしまったからクルエルダはまだマシな部類なんだなとか妙に納得してしまったけど。でもきっとクルエルダから知識欲というか、そういうものを取ってしまったらそれはもうクルエルダじゃないんだろう。
「それで、クルエルダの調査は進んでるの?」
「さぁね。あたしも詳しくは聞いてない。前に一度軽く聞いてみたらもうつらつらとこっちが寝不足になるぐらい永遠と言い聞かされたもんだから、それ以来二度と聞いてないんだよ」
「ぶえっくしゅん‼」
扉越しから豪快なくしゃみの音が聞こえて、思わずフレイと顔を見合わせてプッと小さく吹き出す。ここで私たちがずっと噂話をしていたらクルエルダはひたすらくしゃみを出すことになってしまう。
「さて、思い出話は道々に花を咲かせるとして。今回はアミィが主役だからね、行き先はアミィに任せるよ」
「あとで西南のほうにも向かってくれます?」
「だから今回はアミィが主役だって言ってんだろ! 何立ち聞きしてるんだい!」
「やれやれ」
「やれやれはこっちのセリフだ‼」
いつの間にか扉が開いていて、そこからひょっこり顔を出してるクルエルダに対してフレイはまたブチ切れた。うん、やっぱりこれが二人の仲のよさを表しているんだろう、そう思うことにした。
でもこんなやり取りも懐かしいと思って、つい表情が笑顔になる。二人ともずっとこのままだったんだろうなって。変わらないものもあって、心の片隅のほうでどこかホッとした。
「それじゃあフレイ。まずはウィンドシア大陸に向かってもらっていい?」
「ああ、もちろんだよ!」
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