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みけねこ

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122.決戦③

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「君は相変わらず女性への対応を覚えないな」
 現れた場所は丁度彼らと目の前にいる人物の間。恐らく倒れているアミィの魔力でも奪おうとしていたのだろう。間に合ってよかったと思ったのと同時に、もう少し早く来てあげたかったという思いもあった。
 対峙している目の前の人間がこっちの顔を見た瞬間表情を歪ませた。
「大丈夫か⁈」
 私の傍にいた女性が急いで倒れている彼らの元へ駆け寄る。彼女は懐からガジェットを取り出すとその場に設置した。私はガジェットにそこまで詳しいわけではないけれど、起動するための操作をしているのだろう。少しすると広範囲に光が広がる。
「治癒師の力が込められているガジェットだ。もう少しで立ち上がれるはずだ」
「ラ……ライラ、さん」
「ああ私だ、アミィ。よく頑張ったな」
「ウィル、立ち上がれるのであれば急いで体勢を整えろ」
「だ、団長……はい……!」
 隣にいる彼は少しだけ視線を走らせ、自分の部下を叱咤した。素直に励ますことができない不器用さに内心苦笑を浮かる。彼に対して彼の部下はとても素直だ。言われた通りガジェットで回復しつつある身体を必死に起こそうとしている。その様子を視界の端に入れつつ、意識を目の前の人物に戻す。
「今更何をしに来た、この腑抜けが」
 目の前にいる人物は私と同じように百五十年前と変わらない姿に戻っている。若々しいその姿がここに私が現れるとは予想していなかったのだろう。この男も相変わらず不機嫌な時はすぐにその感情を表に出す。そんな男に私も百五十年前と同じような表情を向けた。また男の表情が歪んだ。
「逃げるばかりの男がこの場に何の用だと聞いているんだ、ルーファス」
「そうだね。私は逃げるばかりだったよ、アンビシオン」
 こうして言葉を交わすとまるで時が戻ったかのようだ。けれどそれは決してありえない。百五十年前と違うのは私と彼は母国のプロクス国の甲冑を身に纏っていないということ。そして、隣同士に立っていないことだ。
「けれど私は今こうして君の前に立っている」
「ふん。今のお前など俺の相手ではない」
「他者から魔力を奪って何を偉そうに言っているんだ、貴様は」
 鞘から剣を引き抜く音が聞こえる。アンビシオンに力強く言い放ったカルディアが真っ直ぐにその剣先を向けた。
「貴様など所詮他者から奪うことでしか力を付けれない弱者だろうが。何を粋がっているんだこの勘違い野郎」
 カルディアは煽りスキルが高いなと思わず感心してしまう。よくもまぁ全盛期のアンビシオンに臆することなく真正面から言い放ったものだ。けれどその気概は気持ちがいい。きっと誰もが思っていることを彼は容赦なく言い放ったのだから。
「どうだいアンビシオン。他者から奪った力で『赤』の者と同じような力を身に着けた感想は。新しいオモチャが手に入ったかのようにワクワクしているのかい?」
「会わない間に随分と口達者になったものだな」
「ははは、私も伊達に長い月日を生きてきたわけじゃないからね」
「剣を捨てたお前に何かを言われたところでどうでもいい」
「ああそうだ、私は剣を捨てた」
 あんな悲劇をもう見たくなくて、彼から魔力を奪われないようにと必死に逃げてそして閉じ籠もった。あれ以来二度と剣は握ってはいない。あれは人を守るものでもあるし、人を傷付けるものでもある。神父になった私には不要なものになった。
「剣は捨てたけれど、拳で戦えるものなんだよ」
 黒いグローブで両手を包み込み身構える。私の隣で同じようにカルディアも剣を構えた。
「私を忘れてもらっては困る」
 そう言ってべーチェル国から来てくれたライラは彼女の国で作られた銃を手に取った。
「たった三人で俺を止められるとでも思ったか、ルーファス!」
 魔力は奪ったものだけれど、元からアンビシオンの剣の腕は群を抜いていた。よって言葉を言い終えた瞬間彼は私たちと一気に距離を縮め剣を振り下ろす。予想していた通り真っ先に狙ってきたのは私の頭だ。もちろん大人しく斬られるわけがない。月日だけが流れていったけれど私の身体は女神の呪いによって歳を取らない。よって身体的な衰えも未だにない。
 アンビシオンの剣筋は未だによく見える。斬られる前に身を翻し紙一重で避けてやれば、隣から迷うことなくアンビシオンに向かって振りかざされる剣があった。私に当たることを考慮していない攻撃に思わず口角が上がる。当たったらきっと私が悪いんだろうし当たった瞬間文句も言われるんだろう。
 カルディアの剣も避けつつ少し飛び退いた私は、私と同様にカルディアの剣を避けたアンビシオンとの距離を一気に縮め容赦なく拳を叩きつける。剣の腹で拳は受け止められてしまったけれど、その隙にライラがアンビシオンの横っ腹に向けて発砲した。同時にカルディアの剣先も目の前にある首に向かう。
「小賢しい!」
 魔力を放って攻撃を防ぎ、尚且つこっちに対しても炎の矢を放ってきた。通常の二人では避けることも難しい速さで。
 しかし二人は難なく避けた。二人が今のアンビシオンに対応できるように突然『赤』になったわけじゃない。こうして攻撃を避けつつ拳を振るっている最中でも私が二人に対して強化魔術を施しているからだ。
「ルーファス……!」
「私は君と違って攻撃特化じゃないもんでね」
 戦い方を見ていると他者から力を奪って後天的に魔術が使えるようになったアンビシオンはその性格通り、攻撃性のある魔術ばかり使っている。一方先天的に魔術が使えた私は扱える種類も多い。戦いながら味方を強化することなど造作もないことだった。
 アンビシオンの表情が大きく歪む。今回復しようとしている彼らは決して弱いわけじゃない、経験もそれなりにあって仲間思いだ。けれど強かに狡猾に戦えるかと言われれば、若さ故にその辺りの経験が浅いと言わざるを得ない。
 しかし騎士団長であるカルディアは経験が豊富、しかも何度もイグニート国の兵士と戦っている。ライラも若いけれど狡猾な相手との戦いの経験を積んでいる。そして私は、あの時代に彼と共に戦った身だ。戦い方も熟知していた。
 アンビシオンにとってさっきよりも戦い難くはあるだろう。真っ先に治療を行う人間を狙うだろうけれど私たちの中にそれに当てはまる人間はいない。こう言ってはなんだけれど今の私たちはある意味超攻撃力特化型だ。
「腑抜けが俺の邪魔をするな‼」
「君は相変わらず気が短いな。まぁある意味その気の短さで戦果を上げていたけどね」
 どんどん前へ前へと攻め込む姿勢が他の兵士たちには心強く思ったに違いない。ただそれは団体で動く時に限ってだ。一人だとその長所も短所になる。
 容赦なく振り下ろされる剣を今度は避けることなく拳で軌道を変える。若干体勢が崩れたところで懐に入り込み容赦なく拳を腹に叩き込んだ。呻き声が聞こえたけれど崩れた体勢のまま、剣を振り下ろしながらも左手では魔術を放とうとしている。不格好だけれど進化はしている。これが彼の嫌らしいところだ。
 強くなるためならどんな手でも使う貪欲さを彼は誰よりも持っていた。
「邪魔だ退け‼」
「それ私に言うセリフ?」
 近くに気配が迫ってきたかと思えばそんなことを言われて、つい小言を返してしまった。とても味方に言うセリフじゃないよ、カルディア。
 けれど邪魔だと言われたのなら場を譲るしかない。剣が振り下ろされる前に転移魔術を使ってその場所から移動した。私と入れ替わるようにさっきまでいた場所に今度はカルディアが身体を潜らせる。剣のほうは弾くから大丈夫だろう、けれど放たれようとしてる魔術は止まらない。
「止まれ!」
 そう言ってライラの銃から放たれた魔力が込められている弾はアンビシオンの腕に命中する。けれど魔術はそのままカルディアに向かって放たれた。威力の高い魔術がそのままカルディアの身体に襲いかかった。
「弱者に俺が負けるわけがないだろう‼」
 爆発と共に土煙が舞う。少し離れたところでカルディアの身を案じる声が聞こえた。自分の上司に魔術が命中したとなると心中穏やかでいられないのは当然のことだ。例え私の魔術で強化されていたとしても、アンビシオンの魔術もまた強化されている。
 薄っすらとアンビシオンの口角が上がるのが見えた。土煙が静まった頃地面の上に横たわっているカルディアにトドメを刺すつもりだ。その瞬間を邪魔されないようにと私たちに魔術を放つことも忘れない。
「――何⁈」
 けれど、攻撃をされたのはアンビシオンのほうだった。土煙がなくなって全貌が明らかになる。
 魔術が直撃したカルディアは、地面の上に横たわってはいなかった。しっかりと地の足をつけて立っているカルディアは一歩踏み出し全身の力を使い、下段から上段に向かって剣を振り上げた。それが見事にアンビシオンの身体を斬り裂く。
 傷は他者から奪い取った魔力のおかげが、予想より早く塞がっていってはいるものの当人は未だ軽く瞠目している。あれほどの威力の魔術が直撃しても尚立っていたカルディアの仕組みがわかっていないんだろう。
「今の君に立ち向かうために、無策で来るわけがないだろ」
「ルーファス……貴様ッ……!」

「君たちに話があるんだけどちょっといいかな」
 そう言って直接二人との通信を繋げたのはほんの少し前だった。
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