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121.決戦②
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何度か激しい攻防をしていると息も上がってくる。汗が流れているのを感じつつ、目の前に迫ってくる剣を弾き返す。僕が戦っている間アミィたちやティエラが援護してくれているからこうして対等にやりあっているけれど、イグニート国王は一人だ。一人で剣術を操り、片手間で魔術を放つ。とんでもない相手だと息を呑む。
あらゆる人たちの魔力を奪い取った姿は王を全盛期の姿へと変えた。目の前にいるのは僕とそう歳の変わらない男。ルーファス神父の話ではな百五十年前の人間のはずなのに、今戦っている姿はまさに何度も死線を潜り抜けてきた剣士の戦い方だ。
「ふん、少しは骨があるかと思ったが」
「ぐっ……⁈」
剣が弾かれ隙ができたところで腹に蹴りが直撃してしまった。生身の人間のはずなのに衝撃が想像以上に重い。骨が軋んだのを感じつつ勢いを殺すことができず後方に飛んでしまった。このまま詰められるとまずい。下手したら後方にいるアミィたちと共に一気にやられてしまう。
そう思ったのは僕だけではなかった。後ろでティエラたちを守っていたフレイが咄嗟に僕の代わりに前に躍り出る。彼女も確かに力が強いが僕のように守りに特化しているわけではない。力だけで押すことができる相手でもないため、彼女には分が悪い。
フレイ自身もそれがわかっている。けれどこのまま押し切られるわけにもいかないと前に出てくれたんだろう。彼女の負担を増やすわけにもいかず、未だに痛む腹にグッと力を入れ再び前に駆け出す。
「目の前をうろちょろと。目障りな者共め」
「うっ⁈」
「フレイ! くそっ……!」
イグニート国王の動きを止めようと巻き付けようとしていた鎖が、逆に王の手に取られフレイは激しく地面に叩きつけられた。後ろで咄嗟にティエラがフレイに向かって回復しようとしている。それを邪魔されないようにと後ろから火球が別方向から同時に飛んできた。それをイグニート国王が手で払い除けている間にフレイの元に駆け寄り、その身体を抱えて若干後方に下がる。
「ごめっ……う……」
「無茶をするな」
「ここで、無茶しないで、どこで無茶しろって言うんだい?」
未だ痛みに堪えている表情で、それでもフレイは口角を上げていつものように勝ち気に笑ってみせた。彼女のこのメンタルの強さはいつもながら見事なものだ。しかしフレイの言う通り、今ここで僕たちは踏ん張らなければならない。向こうのほうで未だカイムはあの男相手に奮闘している。様子を眺めている暇はないため詳細はわからないが苦戦を強いられているようだ。
ならば彼が向こうを片付けてこっちに戻ってくるまで持ち堪えなければ。『赤』であるカイムに頼らなければならないという現実に、自分に対して不甲斐なさを感じる。けれど、あらゆる魔力を奪い取ったイグニート国王に僕たちだけで対処するのはかなり厳しい。
フレイが回復してもらっている間に再び前に踊り出る。ずっとイグニート国に引っ込んでいたけれど、全盛期のイグニート国王の実力は確かなものだ。威圧感を団長と対峙している以上に感じる。
「貴様も剣士か。だが我らに比べて随分と貧弱になったものだ」
「何……?」
「その程度で剣を握るなど笑わせる」
「……ああ。貴方にとって僕はその程度に見えるのだろう。けれど、誰かを守るためなら例え実力が上の相手でも引くことなどできない」
正直剣を防ぐ度に手に痺れが走る。それほどまでに一振りが強い衝撃だ。ティエラはフレイの手当てをしているから腹の痛みは自分で治療する。バプティスタ国では厳しい状況下でも生存率を上げるようにと、最低限の治療を自分自身でできるように習う。
新人の時に教えてくれた教官に感謝しつつ、もう一度しっかりと剣を構えて対峙する。するとイグニート国王の表情が僅かに歪んだ。
「弱い者が足掻いたところでたかが知れている」
「きゃあ!」
予想していなかったところから悲鳴が上がった。目の前の男はただ軽く手を小さく横に動かしただけだ。急いで後ろに視線を向けるとティエラが傷付いた姿で倒れている。
「ティエラ‼」
「こういうものは後方支援を真っ先に潰せばいい」
「う、ぐッ⁈」
一瞬だけでも隙を見せたらいけない相手だというのに。ティエラに意識を向けた瞬間前にいたはずのイグニート国王が間合いに入り横から剣を振り払ってきた。咄嗟に剣で塞いだものの勢いを殺すことができず剣の腹が胴体にめり込む。そのまま横へと振り払われてしまった。身体が地面に叩きつけられたのがわかる。
「ウィル!」
遠くからアミィの声が聞こえてくる。けれど僕たちにばかりに気を取られるなと、意識が朦朧とする中で立ち上がろうと試みるものの身体に力が入らない。このままだとまずい。
広範囲が使えないだけで、直接身体を貫けることができれば魔力を奪うことはできる。アミィとクルエルダの魔力を奪われることだけは阻止しなければならない。それがわかっているのに、言うことを聞かない身体に奥歯を噛み締めた。
*
一番負担が大きいっていうのに、それでもウィルはずっと前で戦ってくれていた。他に戦う相手がいないけどそれでも目の前にいるイグニート国の王は強くて、アミィたちを守るためにフレイは中々前に出ることができなかった。ウィルが一度後ろに吹き飛ばされてから代わるように前に出たけど、強いフレイをイグニート国王は簡単に地面に叩きつける。
本当は怖い。こんな強い相手に今まで会ったことがない。怖い人は何人もいたけど、こんなに容赦のない人はいなかったしすぐ傍で守ってくれる人がいたから大丈夫だった。でも今は、カイムはアミィたちを守っている余裕がない。一度強い防御壁を張ってくれたけど、それも今は破られちゃった。だからってカイムみたいに強い防御壁をアミィは張れない。
怪我を負いながらも前で戦ってくれているウィルとフレイのためにって、ティエラはずっと回復の魔術を使っていた。自分だってすごくつらいのにそれでも二人の傷を治す手はやめなかった。
そのティエラが今ぐったりとして地面の上に倒れている。すぐに駆けつけようとしたけど、その瞬間ウィルも吹き飛ばされてしまった。こっちを見た王と、目が合う。
急いでクルエルダと一緒に魔術を放った。さっきからずっとアミィたちだって魔術で攻撃してるのに、ほとんど防がれてしまってる。どれか一つでも当たってって、どんどん焦ってきて。頑張って魔術を放つけどそれでも当たらない。アミィたちがさっき放った火球だって手で払い除けられた。
「まだマシなものが残っているようだな」
「っ! クルエルダ!」
アミィをジッと見てたからてっきりアミィのほうに来ると思っていたのに。イグニート国王が向かった先はクルエルダのほうだった。転移魔術を使ってあっという間にクルエルダの前に立った王はその手に剣を握っている。もしかしなくてもあれはさっきウィルと戦っていた物理的な剣じゃなくて、可視化の剣のほうだ。
それが勢いよくクルエルダのお腹を貫こうとしていた。
「っ……!」
クルエルダの目が大きく開いた。
「……!」
王の目も少しだけ大きくなる。さっきまでクルエルダが立っていた場所にはフレイがいて、剣はフレイのお腹を貫いていた。
「っ、あたしは元から魔力が少ないから、この剣で貫かれたところで痛くも痒くもないってね!」
可視化の剣のほうだったからフレイのお腹から血は出ていない。クルエルダが刺される前にフレイがクルエルダに体当たりして庇ってあげたから、クルエルダの魔力が奪われることはなかった。フレイは鎖を大きく振り上げてイグニート国王に当てると、クルエルダと一緒に距離を取る。
そしてすぐにフレイはまた王との距離を縮めた。フレイの鎌が王の首目掛けて容赦なく振り下ろそうとしてる。でもさっきのウィルとの戦いで見たけど、この王は魔術もだけど剣も本当に強い。間に合わないって思ったのに、それでもフレイのあとから振り下ろされようとしている剣はもう身体に届こうとしてる。
でも、さっき可視化の剣を使ってたし、フレイも自分で言ってたけどクルエルダほどの魔力はないから――
「避けてください! その剣は物理です!」
あんなに大きな声を出すクルエルダを初めて見た。でもそれだけ危険だってことがフレイにも伝わったみたい。フレイは鎌を振り下ろすのをやめて後ろに飛び退いた。ただ剣の先が少しだけ掠めてフレイのお腹に赤い線が入る。いつもならすぐに治してくれるティエラがいるけど、そのティエラはまだ倒れているしティエラに駆け寄ることもできない。
フレイが避けたはずなのに、またすぐに斬りかかろうとしている剣が届こうとしていた。フレイが避けたばっかりで体勢を立て直しきれてない。
「アミィ!」
「うん!」
クルエルダから受けた魔術を倍増して放つ。氷の刃はフレイに当たることなく丁度二人の間を通っていった。クルエルダの魔力も混じっているからかどうかわかんないけど、アミィだけだったらもしかしたらフレイに少し当たっていたかもしれない。
ちょっとホッとしたけど、でもまた次の攻撃が来る。ウィルもティエラも立ち上がれてない。アミィたちだけで少しでも時間稼ぎをしなくちゃ。
少し離れたところでカイムは一人で頑張ってる。あのヘンタイよりきっとイグニート国王のほうが強いんだろうけど、でもカイムが大変だってことには変わらないから。だから少しでもカイムがこっちを気にせずに、ヘンタイにだけ集中して戦うことができたら。
そう思ってるのに。気付いたら自分の身体が飛んでた。何が起こったのかわかんない。ただ地面に横たわってるし身体のあちこちが痛い。遠くで誰かがアミィのこと呼んでるような気がするけど、それもはっきりとわかんない。ただただ身体が痛い、あつい。
「あ、ぅ」
ちゃんと喋ることもできなくて、どうにかしたいのに指も動かせない。ただ首元にある媒体がものすごく光ってた。こんなに強く光ってるのは初めて見るし、その光がよくないものだっていうこともなんとなくわかった。このままだとアミィ、また魔術を暴走させちゃう。
ウィルだってティエラだって、フレイもクルエルダも傍にいるのに。そんなことになっちゃったら、みんな傷付けちゃう。
「や、だ……やだ、よ……」
みんなを傷付けるのなんて嫌。誰かを巻き込んじゃうのはもう嫌。やめて、暴走しないでって思うのに、身体の中にある魔力がぐちゃぐちゃになっていってるのがわかる。
口と目をぎゅっと閉じてなんとか暴走しないようにって、必死に願った。もしかしたら暴走するぐらいなら、誰かを傷付けるぐらいなら。無理やりこの首の媒体を引き剥がしてもいいのかもしれない。それで身体がどうなるかなんてわかんないけど、それでもって。そういう考えが頭の中に浮かぶ。
「……ほう。特殊な者がいるようだな。相当な量の魔力を抱えている」
近くで聞こえてきた声にびっくりして視線だけを上げた。なんで、フレイたちはどうなったの。なんでアミィの目の前に立ってるんだろう。靴の先が見えて、少し上を向くと剣先も見える。
「我の糧となることを光栄に思うがよい」
身体が動かない。アミィの周りには誰もいない。
たすけて、って言いたいけど。でももうカイムのお荷物になりたくない。だからアミィはギュッて目をつむった。
あらゆる人たちの魔力を奪い取った姿は王を全盛期の姿へと変えた。目の前にいるのは僕とそう歳の変わらない男。ルーファス神父の話ではな百五十年前の人間のはずなのに、今戦っている姿はまさに何度も死線を潜り抜けてきた剣士の戦い方だ。
「ふん、少しは骨があるかと思ったが」
「ぐっ……⁈」
剣が弾かれ隙ができたところで腹に蹴りが直撃してしまった。生身の人間のはずなのに衝撃が想像以上に重い。骨が軋んだのを感じつつ勢いを殺すことができず後方に飛んでしまった。このまま詰められるとまずい。下手したら後方にいるアミィたちと共に一気にやられてしまう。
そう思ったのは僕だけではなかった。後ろでティエラたちを守っていたフレイが咄嗟に僕の代わりに前に躍り出る。彼女も確かに力が強いが僕のように守りに特化しているわけではない。力だけで押すことができる相手でもないため、彼女には分が悪い。
フレイ自身もそれがわかっている。けれどこのまま押し切られるわけにもいかないと前に出てくれたんだろう。彼女の負担を増やすわけにもいかず、未だに痛む腹にグッと力を入れ再び前に駆け出す。
「目の前をうろちょろと。目障りな者共め」
「うっ⁈」
「フレイ! くそっ……!」
イグニート国王の動きを止めようと巻き付けようとしていた鎖が、逆に王の手に取られフレイは激しく地面に叩きつけられた。後ろで咄嗟にティエラがフレイに向かって回復しようとしている。それを邪魔されないようにと後ろから火球が別方向から同時に飛んできた。それをイグニート国王が手で払い除けている間にフレイの元に駆け寄り、その身体を抱えて若干後方に下がる。
「ごめっ……う……」
「無茶をするな」
「ここで、無茶しないで、どこで無茶しろって言うんだい?」
未だ痛みに堪えている表情で、それでもフレイは口角を上げていつものように勝ち気に笑ってみせた。彼女のこのメンタルの強さはいつもながら見事なものだ。しかしフレイの言う通り、今ここで僕たちは踏ん張らなければならない。向こうのほうで未だカイムはあの男相手に奮闘している。様子を眺めている暇はないため詳細はわからないが苦戦を強いられているようだ。
ならば彼が向こうを片付けてこっちに戻ってくるまで持ち堪えなければ。『赤』であるカイムに頼らなければならないという現実に、自分に対して不甲斐なさを感じる。けれど、あらゆる魔力を奪い取ったイグニート国王に僕たちだけで対処するのはかなり厳しい。
フレイが回復してもらっている間に再び前に踊り出る。ずっとイグニート国に引っ込んでいたけれど、全盛期のイグニート国王の実力は確かなものだ。威圧感を団長と対峙している以上に感じる。
「貴様も剣士か。だが我らに比べて随分と貧弱になったものだ」
「何……?」
「その程度で剣を握るなど笑わせる」
「……ああ。貴方にとって僕はその程度に見えるのだろう。けれど、誰かを守るためなら例え実力が上の相手でも引くことなどできない」
正直剣を防ぐ度に手に痺れが走る。それほどまでに一振りが強い衝撃だ。ティエラはフレイの手当てをしているから腹の痛みは自分で治療する。バプティスタ国では厳しい状況下でも生存率を上げるようにと、最低限の治療を自分自身でできるように習う。
新人の時に教えてくれた教官に感謝しつつ、もう一度しっかりと剣を構えて対峙する。するとイグニート国王の表情が僅かに歪んだ。
「弱い者が足掻いたところでたかが知れている」
「きゃあ!」
予想していなかったところから悲鳴が上がった。目の前の男はただ軽く手を小さく横に動かしただけだ。急いで後ろに視線を向けるとティエラが傷付いた姿で倒れている。
「ティエラ‼」
「こういうものは後方支援を真っ先に潰せばいい」
「う、ぐッ⁈」
一瞬だけでも隙を見せたらいけない相手だというのに。ティエラに意識を向けた瞬間前にいたはずのイグニート国王が間合いに入り横から剣を振り払ってきた。咄嗟に剣で塞いだものの勢いを殺すことができず剣の腹が胴体にめり込む。そのまま横へと振り払われてしまった。身体が地面に叩きつけられたのがわかる。
「ウィル!」
遠くからアミィの声が聞こえてくる。けれど僕たちにばかりに気を取られるなと、意識が朦朧とする中で立ち上がろうと試みるものの身体に力が入らない。このままだとまずい。
広範囲が使えないだけで、直接身体を貫けることができれば魔力を奪うことはできる。アミィとクルエルダの魔力を奪われることだけは阻止しなければならない。それがわかっているのに、言うことを聞かない身体に奥歯を噛み締めた。
*
一番負担が大きいっていうのに、それでもウィルはずっと前で戦ってくれていた。他に戦う相手がいないけどそれでも目の前にいるイグニート国の王は強くて、アミィたちを守るためにフレイは中々前に出ることができなかった。ウィルが一度後ろに吹き飛ばされてから代わるように前に出たけど、強いフレイをイグニート国王は簡単に地面に叩きつける。
本当は怖い。こんな強い相手に今まで会ったことがない。怖い人は何人もいたけど、こんなに容赦のない人はいなかったしすぐ傍で守ってくれる人がいたから大丈夫だった。でも今は、カイムはアミィたちを守っている余裕がない。一度強い防御壁を張ってくれたけど、それも今は破られちゃった。だからってカイムみたいに強い防御壁をアミィは張れない。
怪我を負いながらも前で戦ってくれているウィルとフレイのためにって、ティエラはずっと回復の魔術を使っていた。自分だってすごくつらいのにそれでも二人の傷を治す手はやめなかった。
そのティエラが今ぐったりとして地面の上に倒れている。すぐに駆けつけようとしたけど、その瞬間ウィルも吹き飛ばされてしまった。こっちを見た王と、目が合う。
急いでクルエルダと一緒に魔術を放った。さっきからずっとアミィたちだって魔術で攻撃してるのに、ほとんど防がれてしまってる。どれか一つでも当たってって、どんどん焦ってきて。頑張って魔術を放つけどそれでも当たらない。アミィたちがさっき放った火球だって手で払い除けられた。
「まだマシなものが残っているようだな」
「っ! クルエルダ!」
アミィをジッと見てたからてっきりアミィのほうに来ると思っていたのに。イグニート国王が向かった先はクルエルダのほうだった。転移魔術を使ってあっという間にクルエルダの前に立った王はその手に剣を握っている。もしかしなくてもあれはさっきウィルと戦っていた物理的な剣じゃなくて、可視化の剣のほうだ。
それが勢いよくクルエルダのお腹を貫こうとしていた。
「っ……!」
クルエルダの目が大きく開いた。
「……!」
王の目も少しだけ大きくなる。さっきまでクルエルダが立っていた場所にはフレイがいて、剣はフレイのお腹を貫いていた。
「っ、あたしは元から魔力が少ないから、この剣で貫かれたところで痛くも痒くもないってね!」
可視化の剣のほうだったからフレイのお腹から血は出ていない。クルエルダが刺される前にフレイがクルエルダに体当たりして庇ってあげたから、クルエルダの魔力が奪われることはなかった。フレイは鎖を大きく振り上げてイグニート国王に当てると、クルエルダと一緒に距離を取る。
そしてすぐにフレイはまた王との距離を縮めた。フレイの鎌が王の首目掛けて容赦なく振り下ろそうとしてる。でもさっきのウィルとの戦いで見たけど、この王は魔術もだけど剣も本当に強い。間に合わないって思ったのに、それでもフレイのあとから振り下ろされようとしている剣はもう身体に届こうとしてる。
でも、さっき可視化の剣を使ってたし、フレイも自分で言ってたけどクルエルダほどの魔力はないから――
「避けてください! その剣は物理です!」
あんなに大きな声を出すクルエルダを初めて見た。でもそれだけ危険だってことがフレイにも伝わったみたい。フレイは鎌を振り下ろすのをやめて後ろに飛び退いた。ただ剣の先が少しだけ掠めてフレイのお腹に赤い線が入る。いつもならすぐに治してくれるティエラがいるけど、そのティエラはまだ倒れているしティエラに駆け寄ることもできない。
フレイが避けたはずなのに、またすぐに斬りかかろうとしている剣が届こうとしていた。フレイが避けたばっかりで体勢を立て直しきれてない。
「アミィ!」
「うん!」
クルエルダから受けた魔術を倍増して放つ。氷の刃はフレイに当たることなく丁度二人の間を通っていった。クルエルダの魔力も混じっているからかどうかわかんないけど、アミィだけだったらもしかしたらフレイに少し当たっていたかもしれない。
ちょっとホッとしたけど、でもまた次の攻撃が来る。ウィルもティエラも立ち上がれてない。アミィたちだけで少しでも時間稼ぎをしなくちゃ。
少し離れたところでカイムは一人で頑張ってる。あのヘンタイよりきっとイグニート国王のほうが強いんだろうけど、でもカイムが大変だってことには変わらないから。だから少しでもカイムがこっちを気にせずに、ヘンタイにだけ集中して戦うことができたら。
そう思ってるのに。気付いたら自分の身体が飛んでた。何が起こったのかわかんない。ただ地面に横たわってるし身体のあちこちが痛い。遠くで誰かがアミィのこと呼んでるような気がするけど、それもはっきりとわかんない。ただただ身体が痛い、あつい。
「あ、ぅ」
ちゃんと喋ることもできなくて、どうにかしたいのに指も動かせない。ただ首元にある媒体がものすごく光ってた。こんなに強く光ってるのは初めて見るし、その光がよくないものだっていうこともなんとなくわかった。このままだとアミィ、また魔術を暴走させちゃう。
ウィルだってティエラだって、フレイもクルエルダも傍にいるのに。そんなことになっちゃったら、みんな傷付けちゃう。
「や、だ……やだ、よ……」
みんなを傷付けるのなんて嫌。誰かを巻き込んじゃうのはもう嫌。やめて、暴走しないでって思うのに、身体の中にある魔力がぐちゃぐちゃになっていってるのがわかる。
口と目をぎゅっと閉じてなんとか暴走しないようにって、必死に願った。もしかしたら暴走するぐらいなら、誰かを傷付けるぐらいなら。無理やりこの首の媒体を引き剥がしてもいいのかもしれない。それで身体がどうなるかなんてわかんないけど、それでもって。そういう考えが頭の中に浮かぶ。
「……ほう。特殊な者がいるようだな。相当な量の魔力を抱えている」
近くで聞こえてきた声にびっくりして視線だけを上げた。なんで、フレイたちはどうなったの。なんでアミィの目の前に立ってるんだろう。靴の先が見えて、少し上を向くと剣先も見える。
「我の糧となることを光栄に思うがよい」
身体が動かない。アミィの周りには誰もいない。
たすけて、って言いたいけど。でももうカイムのお荷物になりたくない。だからアミィはギュッて目をつむった。
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