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114.反撃の狼煙④
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幼少期の記憶で両親の顔など思い返そうとしても思い出せない。覚えているのは二人の背中。子どもに視線を合わせようと身体を屈める人間ではなかった。
与えられたテーブルの上に置いてある冷めた料理と一人の空間。部屋の中には望めばいくらでも渡された本の数々。親とはそういうものだと思い、特に気にすることもなければ子どもらしく「寂しい」という感情は自分にはなかった。
親が研究で家に戻ってこないのは当たり前、一緒に食事をするなんてこともないのも当たり前。本は親なりに子に対する一応の親心だったのだろう。衣食住とそして自分の興味のある本が手渡されるのであればそれでいいと子どもながらそう思っていた。
そもそもその島がそうだった。一歩家から外に足を踏み出せば至るところで討論し、地面や壁などあちこちにはあらゆる術式や数字が並べられている。そういう人間が集められたのか、そういう人間だけが集まったのか、始まりがどちらかなんか誰も知らない。誰もそのことに興味を示さない。その島の人間たちにとってそれは些細なもので研究の対象ですらなかった。
そんな研究ばかりをしている島の人間たちはどのように生活しているのかというと、自発的に農作業をしている者が少なかったため――いたとしてもある意味研究のためだった――自分たちの知恵を外に売り、その金で日常品を買っているといったものだった。自分たちの研究が金になることを島の人間はよく知っていた。
ある程度成長したあと、やはりその島で生きてきたからか研究漬けの日々を送っていた。だが知恵が増えれば増えるほど島で満足できなくなってくる。よりよい環境を望み、研究材料を望み、そして島から出てよく耳にしていた島へと研究場所を変えた。
彼の転移魔術はいつもながら見事だ。『赤』ではない者のとは違い雑味もない、一切無駄なものもない美しい方程式。彼らはこれを誰からかもしくは書物で学んだわけではなく、自然と『わかっている』。理解している。
未だに彼らの仕組みがわからない。身体の作りは『赤』ではない者たちと同じはずなのに、魔術に関しては彼らは異様だ。息をするのと同等に例え高難易度の魔術でも簡単に放つことができる。何度注意深く見ていてもそれは未だに解明できていない。
「おや? 誰か来るだろうとは思っていたけれど存外早かったね」
突然目の前に現れた私たちに彼女は驚くことなく、少しおどけてみせただけだった。術者の周辺には予想していた通り動く屍がウヨウヨといる。彼女が一つ指を動かせばそれは一斉に襲いかかってきた。
あれほどの量を一斉に動かすとなると相当の魔力が必要になる。けれど『赤』である彼女はそれも造作もないことなのだろう。『紫』ですら薄っすらと汗を掻くほどのことを彼女は平然とやってのける。
四方から剣を振り上げられ、普通ならばすぐに斬り捨てられる。けれどこちらは前線で戦う者がそれぞれの武器を構えた程度で大きく動こうとはしない。少しでも動けば邪魔になることを、彼らは経験上わかっている。
前に立っている男の指が淡く光っているのが見えると思えば、突如現れた炎の渦が瞬く間に目の前にいた動く屍をあっという間に灰へと変えていく。軽く瞠目したのは屍を操っている彼女だった。
「『赤』はいるとは思っていたけれど……君、前にも会ったよね? あの時は『赤』じゃなかったはずだ。もしかして色を変えていた? 魔力も感じなかったからそもそも魔力を消していた? 『赤』がわざわざそんなことをしていたなんて、私は理解ができないよ。自分が持っている力は自由に使えるのに、それを制限するなんて愚かなことだと思うけど」
「テメェと一緒にするんじゃねぇよ」
「……ああ、思い出した。君が不完全だった元『人間兵器』か。まさかこうしてお目にかかれるなんて。会えて嬉しいよ」
胸に手を当てて仰々しく頭を下げる彼女に、カイムは隠すことなく盛大な舌打ちをもらした。しかし聞こえていたであろう舌打ちに顔を上げた彼女は気にすることなく、寧ろどこか楽しげに弧を描いている口元を見せる。
「ずっと君が完成品になっているかどうか見てみたかったんだ。そうだね……見たところによると、魔術に関しては完成品のようだ」
「……やっぱりあたしはあいつのことは癇に障るよ。相変わらず、人を物みたいに……!」
この二人の相性がとてつもなくよくないことは流石に私でもすぐにわかる。明らかに苛ついているフレイに対し彼女はゆっくりとこちらの面々を眺めていた。
「ふーん? 他にも見たことのある顔ばかりだ。ふふ、君のことも覚えているよ。私と同じ髪の色だからね。親近感が湧いていたんだ」
「あたしはアンタにそんなもん一切! 湧かないけどね」
「おや残念、振られてしまった」
鎖鎌を握る手から軋む音が聞こえる。横目で確認していると薄っすらと米上に青筋が浮かんでいるのも見えた。フレイからしたら相手は因縁の相手、というものだろうから何から何まで腹が立って仕方がないのだろう。いつも私と喋っている時と同じように。
「ふむ、ここに来たということは、私を止めに来たのかな? 随分無駄なことを……と、言いたいところだけど。『赤』がいるのであれば、話も少し変わってくるというもの。さて、どうしようか」
「悩むぐらいなら術を止めてくれないか。君は一体なんのためにイグニート国に与している」
「研究のための資金援助。それに対する見返りがこれだった、それだけだよ」
「色んな人が傷付いているのに、何も思わないんですか……⁈」
会話で止められるものなら止めたい、という考えが如何にも真っ直ぐに生きてきた二人らしい。
しかし相手がそれに応えるはずがない。
二人の訴えを嘲笑う、という感情もそもそも彼女は持っていない。向けられた言葉に彼女はただ目を丸くし首を傾げるだけだ。
「なぜ他人の生き死にを気にする必要があるんだい?」
僅かに驚愕しているウィルとティエラには悪いが、そういう返しをしてくることもわかっていた。
「誰が何を感じようと私の研究には関係ない。私はただ自分のやりたい研究をやれればそれでいい。それが研究者というものだよ」
「でも! 人を傷付けることは悪いことだよ!」
「そう言っている人間も生きている中で誰かを傷付けたことはあるだろうね。私からしてみれば茶番でしかない」
呆れるように息を吐き出し彼女は軽く肩を竦めた。不意に彼らに向けられていた視線がこちらに向かう。
「君もそう思うだろう? クルエルダ・ハーシー。君の研究に付き合っている頃、私は君からそれを感じ取っていた」
彼らの視線がこちらに向いているのがわかる。同じスピリアル島の研究者、そして私は前に一度彼女に『赤』の研究対象として協力をしてもらったこともある。そういうこともあって彼らに人徳の何かしらを問われた時に、彼女は私に意見を求めてくる。
別に自分が悪い、自分が変わっているからこう言われるのだ。という思いを彼女は一切抱いていない。自分が変わっていることは自覚している、だから研究者としてやっている。彼女のそれは同意を求めるというよりも確認だ。
研究者に道徳を求めるなど無駄な話だ。そんなもの持っていると研究の妨げになる。そういうものを持っているものはそもそも研究者になっていない。奉仕活動でもしていればいい。そうやっていいことをしたと気持ちよくなっていればいい。けれど私たちの求めるものの中にそれは一切ない。
抑制しようのない未知のものに対する好奇心と探究心。私たちが持っているのはそれだけだ。感情で物を言われたところでそれが理屈に通っていなければ納得できないし、寧ろ喚くだけの感情など無駄な物だという考えを持っている。
「そうですね、何かに対して可哀想などという感情はそう湧きませんよ」
「ふふ、そうだよね」
眼鏡のブリッジに指をかけ正直に言葉にすると彼女は微笑み、隣からは盛大に睨みつけられる。視界の傍らで転移してきた屍が動き出そうとしているのを確認しつつ、彼女の世間話に付き合ってやる。
「どうだろう、クルエルダ・ハーシー。私と一緒に研究しようという考えを持ってないかい? 人体と魔力の結びつきの研究はわりと面白いものなんだよ。人間は魔力なくても動けるというのになぜ精霊は自分たちの力を分け与える。そしてなぜ個人差がある。私を研究対象としていた君も好みそうな研究だと思うけれど?」
「確かに、興味深いですね」
「ならおいで? 使える予算と材料はたっぷりあるよ」
楽しそうな研究だ。未知なるものに心躍らせ彼女の元に足を一歩踏み出す。
「亡骸を抱えて、涙を流す心情などわかりませんし」
そんなことはせず、その場で立ち止まったまま言葉だけを向けた。
「研究対象が無事ならそれでいいんです」
スピリアル島で『人間兵器』が逃げ出したという騒動の時、動いたのはただの好奇心。研究内容は時折風の噂で聞いていた。まだ子どもだが、それでも『人間兵器』としての素質があった。実験室から逃げ出したということは、研究者が連れ戻す前に自分が見つけ出してそれを研究対象者として観察できるということ。そういう計略があり行動に移した。
だが実際は、それ以上のものを見つけ出してしまった。今後お目にかかることはないと思っていた本物の『人間兵器』。彼女とはまた何かが違う瞳の色。見ているだけで自分の好奇心が刺激され、より一層深く知りたいと欲が出た。それだけだった。
「ただ。心情はわかりませんが、別に悪いものとも思いませんでしたよ」
『紫』も『赤』ほどまでとは言わないが、できて当然の人間と見られることは多く、期待されることも多い。その期待に応えなければと思ったことは一度もないが、少々鬱陶しくもあった。
けれどなぜか彼らといると過度の期待を寄せられることはなく、寧ろ頼りにされている、とでも言えばいいのか。自然と輪の中に溶け込み自分の知恵を求められ、そして与えていた。亡骸などもう意味もないものと思っていたそれを、彼女が腕の中で抱き締め涙を流しているのを見て意味があるものなのかと思ってしまった。
「残念ながら、私と貴女とでは趣味が大きく違うようなので。共同で研究をしたところで行き詰まるだけですよ」
どこか妖艶な笑みを浮かべこちらに手を差し伸べていた彼女の顔が意外にも面白く強張り、視界の端で隠すことなくガッツポーズしている姿を見て思わず吹き出してしまうところだった。
与えられたテーブルの上に置いてある冷めた料理と一人の空間。部屋の中には望めばいくらでも渡された本の数々。親とはそういうものだと思い、特に気にすることもなければ子どもらしく「寂しい」という感情は自分にはなかった。
親が研究で家に戻ってこないのは当たり前、一緒に食事をするなんてこともないのも当たり前。本は親なりに子に対する一応の親心だったのだろう。衣食住とそして自分の興味のある本が手渡されるのであればそれでいいと子どもながらそう思っていた。
そもそもその島がそうだった。一歩家から外に足を踏み出せば至るところで討論し、地面や壁などあちこちにはあらゆる術式や数字が並べられている。そういう人間が集められたのか、そういう人間だけが集まったのか、始まりがどちらかなんか誰も知らない。誰もそのことに興味を示さない。その島の人間たちにとってそれは些細なもので研究の対象ですらなかった。
そんな研究ばかりをしている島の人間たちはどのように生活しているのかというと、自発的に農作業をしている者が少なかったため――いたとしてもある意味研究のためだった――自分たちの知恵を外に売り、その金で日常品を買っているといったものだった。自分たちの研究が金になることを島の人間はよく知っていた。
ある程度成長したあと、やはりその島で生きてきたからか研究漬けの日々を送っていた。だが知恵が増えれば増えるほど島で満足できなくなってくる。よりよい環境を望み、研究材料を望み、そして島から出てよく耳にしていた島へと研究場所を変えた。
彼の転移魔術はいつもながら見事だ。『赤』ではない者のとは違い雑味もない、一切無駄なものもない美しい方程式。彼らはこれを誰からかもしくは書物で学んだわけではなく、自然と『わかっている』。理解している。
未だに彼らの仕組みがわからない。身体の作りは『赤』ではない者たちと同じはずなのに、魔術に関しては彼らは異様だ。息をするのと同等に例え高難易度の魔術でも簡単に放つことができる。何度注意深く見ていてもそれは未だに解明できていない。
「おや? 誰か来るだろうとは思っていたけれど存外早かったね」
突然目の前に現れた私たちに彼女は驚くことなく、少しおどけてみせただけだった。術者の周辺には予想していた通り動く屍がウヨウヨといる。彼女が一つ指を動かせばそれは一斉に襲いかかってきた。
あれほどの量を一斉に動かすとなると相当の魔力が必要になる。けれど『赤』である彼女はそれも造作もないことなのだろう。『紫』ですら薄っすらと汗を掻くほどのことを彼女は平然とやってのける。
四方から剣を振り上げられ、普通ならばすぐに斬り捨てられる。けれどこちらは前線で戦う者がそれぞれの武器を構えた程度で大きく動こうとはしない。少しでも動けば邪魔になることを、彼らは経験上わかっている。
前に立っている男の指が淡く光っているのが見えると思えば、突如現れた炎の渦が瞬く間に目の前にいた動く屍をあっという間に灰へと変えていく。軽く瞠目したのは屍を操っている彼女だった。
「『赤』はいるとは思っていたけれど……君、前にも会ったよね? あの時は『赤』じゃなかったはずだ。もしかして色を変えていた? 魔力も感じなかったからそもそも魔力を消していた? 『赤』がわざわざそんなことをしていたなんて、私は理解ができないよ。自分が持っている力は自由に使えるのに、それを制限するなんて愚かなことだと思うけど」
「テメェと一緒にするんじゃねぇよ」
「……ああ、思い出した。君が不完全だった元『人間兵器』か。まさかこうしてお目にかかれるなんて。会えて嬉しいよ」
胸に手を当てて仰々しく頭を下げる彼女に、カイムは隠すことなく盛大な舌打ちをもらした。しかし聞こえていたであろう舌打ちに顔を上げた彼女は気にすることなく、寧ろどこか楽しげに弧を描いている口元を見せる。
「ずっと君が完成品になっているかどうか見てみたかったんだ。そうだね……見たところによると、魔術に関しては完成品のようだ」
「……やっぱりあたしはあいつのことは癇に障るよ。相変わらず、人を物みたいに……!」
この二人の相性がとてつもなくよくないことは流石に私でもすぐにわかる。明らかに苛ついているフレイに対し彼女はゆっくりとこちらの面々を眺めていた。
「ふーん? 他にも見たことのある顔ばかりだ。ふふ、君のことも覚えているよ。私と同じ髪の色だからね。親近感が湧いていたんだ」
「あたしはアンタにそんなもん一切! 湧かないけどね」
「おや残念、振られてしまった」
鎖鎌を握る手から軋む音が聞こえる。横目で確認していると薄っすらと米上に青筋が浮かんでいるのも見えた。フレイからしたら相手は因縁の相手、というものだろうから何から何まで腹が立って仕方がないのだろう。いつも私と喋っている時と同じように。
「ふむ、ここに来たということは、私を止めに来たのかな? 随分無駄なことを……と、言いたいところだけど。『赤』がいるのであれば、話も少し変わってくるというもの。さて、どうしようか」
「悩むぐらいなら術を止めてくれないか。君は一体なんのためにイグニート国に与している」
「研究のための資金援助。それに対する見返りがこれだった、それだけだよ」
「色んな人が傷付いているのに、何も思わないんですか……⁈」
会話で止められるものなら止めたい、という考えが如何にも真っ直ぐに生きてきた二人らしい。
しかし相手がそれに応えるはずがない。
二人の訴えを嘲笑う、という感情もそもそも彼女は持っていない。向けられた言葉に彼女はただ目を丸くし首を傾げるだけだ。
「なぜ他人の生き死にを気にする必要があるんだい?」
僅かに驚愕しているウィルとティエラには悪いが、そういう返しをしてくることもわかっていた。
「誰が何を感じようと私の研究には関係ない。私はただ自分のやりたい研究をやれればそれでいい。それが研究者というものだよ」
「でも! 人を傷付けることは悪いことだよ!」
「そう言っている人間も生きている中で誰かを傷付けたことはあるだろうね。私からしてみれば茶番でしかない」
呆れるように息を吐き出し彼女は軽く肩を竦めた。不意に彼らに向けられていた視線がこちらに向かう。
「君もそう思うだろう? クルエルダ・ハーシー。君の研究に付き合っている頃、私は君からそれを感じ取っていた」
彼らの視線がこちらに向いているのがわかる。同じスピリアル島の研究者、そして私は前に一度彼女に『赤』の研究対象として協力をしてもらったこともある。そういうこともあって彼らに人徳の何かしらを問われた時に、彼女は私に意見を求めてくる。
別に自分が悪い、自分が変わっているからこう言われるのだ。という思いを彼女は一切抱いていない。自分が変わっていることは自覚している、だから研究者としてやっている。彼女のそれは同意を求めるというよりも確認だ。
研究者に道徳を求めるなど無駄な話だ。そんなもの持っていると研究の妨げになる。そういうものを持っているものはそもそも研究者になっていない。奉仕活動でもしていればいい。そうやっていいことをしたと気持ちよくなっていればいい。けれど私たちの求めるものの中にそれは一切ない。
抑制しようのない未知のものに対する好奇心と探究心。私たちが持っているのはそれだけだ。感情で物を言われたところでそれが理屈に通っていなければ納得できないし、寧ろ喚くだけの感情など無駄な物だという考えを持っている。
「そうですね、何かに対して可哀想などという感情はそう湧きませんよ」
「ふふ、そうだよね」
眼鏡のブリッジに指をかけ正直に言葉にすると彼女は微笑み、隣からは盛大に睨みつけられる。視界の傍らで転移してきた屍が動き出そうとしているのを確認しつつ、彼女の世間話に付き合ってやる。
「どうだろう、クルエルダ・ハーシー。私と一緒に研究しようという考えを持ってないかい? 人体と魔力の結びつきの研究はわりと面白いものなんだよ。人間は魔力なくても動けるというのになぜ精霊は自分たちの力を分け与える。そしてなぜ個人差がある。私を研究対象としていた君も好みそうな研究だと思うけれど?」
「確かに、興味深いですね」
「ならおいで? 使える予算と材料はたっぷりあるよ」
楽しそうな研究だ。未知なるものに心躍らせ彼女の元に足を一歩踏み出す。
「亡骸を抱えて、涙を流す心情などわかりませんし」
そんなことはせず、その場で立ち止まったまま言葉だけを向けた。
「研究対象が無事ならそれでいいんです」
スピリアル島で『人間兵器』が逃げ出したという騒動の時、動いたのはただの好奇心。研究内容は時折風の噂で聞いていた。まだ子どもだが、それでも『人間兵器』としての素質があった。実験室から逃げ出したということは、研究者が連れ戻す前に自分が見つけ出してそれを研究対象者として観察できるということ。そういう計略があり行動に移した。
だが実際は、それ以上のものを見つけ出してしまった。今後お目にかかることはないと思っていた本物の『人間兵器』。彼女とはまた何かが違う瞳の色。見ているだけで自分の好奇心が刺激され、より一層深く知りたいと欲が出た。それだけだった。
「ただ。心情はわかりませんが、別に悪いものとも思いませんでしたよ」
『紫』も『赤』ほどまでとは言わないが、できて当然の人間と見られることは多く、期待されることも多い。その期待に応えなければと思ったことは一度もないが、少々鬱陶しくもあった。
けれどなぜか彼らといると過度の期待を寄せられることはなく、寧ろ頼りにされている、とでも言えばいいのか。自然と輪の中に溶け込み自分の知恵を求められ、そして与えていた。亡骸などもう意味もないものと思っていたそれを、彼女が腕の中で抱き締め涙を流しているのを見て意味があるものなのかと思ってしまった。
「残念ながら、私と貴女とでは趣味が大きく違うようなので。共同で研究をしたところで行き詰まるだけですよ」
どこか妖艶な笑みを浮かべこちらに手を差し伸べていた彼女の顔が意外にも面白く強張り、視界の端で隠すことなくガッツポーズしている姿を見て思わず吹き出してしまうところだった。
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