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104.事後処理の最中
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『うっぅっ……ウンディーネ……』
セイクレッド湖から出た途端、姿を現したシルフが突然泣き出した。精霊でも泣くことなんてあるだなと思っているとノームとサラマンダーも姿を現す。
「……別に死んだわけじゃねぇだろ」
『そうだけど! でも、でも、あんな弱ってる状態であれだけの力使ったら……!』
『……しばらく姿を現すことは叶わんだろうな。早くて数百年かどうか。それまでこの大地が残っていればの話だがな』
『縁起でもないことを言うな、ノーム。ウンディーネが眠った以上、俺たちで支えなければならないだぞ』
ただでさえ女神が姿を消してから精霊たちの負担が増えている中、セイクレッド湖の穢れを祓うためにウンディーネは湖の中へと姿を消した。すばらくの間眠ると言っていたから、こうして他の精霊たちのように俺たちの前に現れることはしばらくないんだろう。
それと同時にウンディーネが支えていた力も失われた。それを他の他の精霊で補わなきゃならない。まぁ、シルフがベソベソしているのは自分たちが大変だから、というわけでもないんだろうが。
『お前たちのおかげで俺もこうして姿を成すことができるが……それもいつまで持つか……』
『昔ならばこういう憂いを抱くこともなかったがな』
精霊の力が弱ったのは争いによって血で大地が穢れてしまったから。弱まったのは人間の精霊に対する信仰心が失われているから。ノームは遠回しでそう言いたいんだろう。
確かにそれは事実だし精霊がグチグチ言いたくなるのもわかる。だが神父の話しを聞く限りそれが一番酷かったのが百五十年前、俺たちが生まれる前のことを愚痴られたところで俺たちだってどうすることもできない。まるでこっちに八つ当たりのように恨み言を言うノームに対し、ずっと困り果てた顔をしていたティエラが口を開けようとした時だった。
「あっ……!」
「穢れが祓われている……⁈ 一体何があったんだ……!」
バタバタと走ってきたのはミストラル国の王の側近の一人である女と、あともう一人の男はその女の部下か何かだろう。二人の反応を見る限り、セイクレッド湖の異変に気付き様子を見に来たんだろう。
ふと、女のほうが俺に気付き軽く目を見張った。そういえばまだ元の姿のままだった。だが女は瞠目をしたのは一瞬ですぐにいつもの顔付きに戻る。
「何かあったのか話しを聞かせてもらおうか」
「ま、まさかシーナさん、この者たちを連れて行く気ですか⁈ 他の者たちはいいですが、この者のこの容姿は、明らかに……!」
「狼狽えるな。恐らく王はご存知だ」
「は、はぁっ⁈」
「見ての通り他の者だと狼狽えてしまう。私の知っている容姿に戻ってもらうことはできるか?」
神父の話しを聞いたあとだとこの髪と目の色は納得したが、そういえばこの容姿はお尋ね者みたいな状態だったなとふと思い出す。百五十年前に何があったにしろ、十年前のことがなかったことにはならない。
「そのほうがいいですね。なんせ貴方は今一番厄介な人物からその身を狙われているわけですから」
「……それもそうだな」
エルダの言葉に素直に相槌を打ち、自分の中にある魔力を封じ込める。今まではっきりとイグニート国の王から身を狙われることがなかったのは、脱走する際に魔力を封じ込めて探知ができない状態だったからだろう。今まで何度か元の姿に戻ってはいたが、そう長々とその状態のままいたわけじゃなかったから運良く探知から避けることができていただけだ。
魔力を封じ込めば目の端に映る髪の色が黒になっている。目も『茶』になっているだろう。その姿を見た瞬間女は無意識に小さく息を吐きだし、男のほうは目を丸めて口をパクパクと動かしている。そういえばこの男、城の中で何度か見たことがあった。
「お、おま、お前が、まさか」
「早速だが移動しよう。王もきっと待っておられる」
こっちに指を差してわなわなと震えている男のことを無視し、女は言葉通り早速城に向かって歩き出す。男はそんな女に気付き急いでその背中を追いかけ、俺たちもそれに続いた。
ミストラル国に入ると、国の中の状況は思ったよりよくはなかった。まずすれ違う人間たちの顔色がよくない。あれだけ水で満たされていた都はどこか淀みを生んでいる。ウンディーネの力で穢れを祓うことはできたものの、だからといってすぐに状況がよくなるというわけでもなさそうだ。綺麗になった水がここに流れてくるのももう少し時間がかかるのかもしれない。
城の中に入るとやっぱり慌ただしい。そもそもイグニート国から強襲を受けたあとのセイクレッド湖から発生させられた大量の穢れだ、どこも対応に追われて当然だ。バタバタと行き交うヤツらを視界の端に入れつつ謁見の間に進んでいると、不意に前を歩いていた二人が動きを止め頭を下げた。
「おう、やっぱりお前らだったか」
謁見の間に行く前にミストラル国の王が丁度奥から歩いてきているところだった。二人は道を開けその間を王は真っ直ぐに歩いてくる。俺たちの前で立ち止まると近くにある部屋に向かって顎で示した。
女が急いで扉を開け、王は迷うことなく中に入っていく。俺たちもそれに続き、女は最後に入ってきて扉を閉め王の隣に立つ。ちなみに慌ただしかったほうの男は外に立ったまんまだ。自然と見張りの役を担ったのは伊達にこの女の部下じゃないってところか。
「何やら急に湖の方角が光ったもんだからな。急いでこいつらを向かわせたんだ。もしかしてお前らが浄化してくれたのか?」
「ああ」
「そもそも俺たちにとっては突然湖が穢れちまった、という状況だったわけなんだが。その辺りも説明してもらっていいか?」
そういえばあの気持ち悪ぃ馬鹿とイグニート国の王が湖に現れたのを目撃したのは、そこに転移魔術で移動した俺たちだけだ。つまりその時の状況を知っているのも俺たちだけということになる。
ミストラル国の王にあの時あの場で何が起こったのか大雑把に説明する。強襲されたのがそもそものブラフで、本当の目的は精霊の住処とされている場所を大量の穢れで穢すこと。精霊の力が弱まっている今だからこそ普段踏み入れることができない場所に侵入できると思ってのことだろう。そしてミストラル国の生命線とも言える場所はそのセイクレッド湖だった。
大量の死なない兵士を送り込みつつ、生命線も穢す。そうすれば流石のミストラル国も陥落する。イグニート国の王はそれが目的だったんだろう。尚且つ近くに俺の気配もあったもんだから一石二鳥だ。国も落とせて力も手に入る、向こうにとっては最大のチャンスだった。
一通り話せば流石のミストラル国の王も眉間に皺を寄せ腕を組んだ。イグニート国の王はそういう思惑だったんだろうが、防衛戦のほうはこっちが持ち堪えたし一度穢されてしまったセイクレッド湖もさっき浄化してきたばかり。まだ多少の混乱は続くだろうがこれで少しは立て直すことができた。よってそう簡単にまた攻め込もうとは思わないはずだ。
「わかった。お前たちには礼を言おう。防衛戦もかなり尽力してくれたようだしセイクレッド湖の穢れも祓ってくれた。感謝する」
「だが穢れを浄化するためにウンディーネの力が随分と弱まった」
一度頭を下げようとして王に隙かさずそう口にする。確かに一難去ったものの、この国の加護をしてくれる精霊の力が今はほぼないに等しい。今はまだいい、だがもう一度イグニート国に同じことをされると今度こそは堪えきれない。
それを王に伝えると王は更に表情を歪め、王の隣に控えている女の顔色は真っ青になった。防衛戦で義賊たちもかなり疲弊していて回復に時間がかかっているはず。それに追い打ちをかけられるようなことをされると厳しさを増すばかりだ。
「我が王に連絡をしてみてはどうでしょうか、ミストラル国の王。今は各国の連携が必至だと思います」
突破口を見出すように言葉にしたウィルに対し、ジッと視線を向けた王はしばらくして「そうだな」と口にし頷いた。今回はミストラル国が狙われたが、次はもしかしたらべーチェル国かもしれないし、バプティスタ国かもしれない。どこも危機に面しているのは違いない。
「頭が固いのなんだの言ってらんねぇな。シーナ、すぐにバプティスタ国の王と連絡が取れるか確認を取ってくれ」
「はい!」
「一堂に会することができるのが一番いいんだけどな。今はどこも自分のとこで手一杯だ。それは追々だな……ところでカイム、お前はどうするんだ」
「こっちは女神の居場所の手掛かりを探しに行く。流石に精霊たちの限界が近いみてぇだ」
「なるほどな……つい先日べーチェル国じゃとんでもない突風に襲われたらしい。バプティスタ国もどうもヴァント山脈で土砂崩れが起きたらしい」
「なっ……!」
俺たちが休んでいる間にどうやらセイクレッド湖だけじゃなく、他の大陸でも異変が起きていたようだ。その二つはイグニート国が、というよりも精霊の力が弱まったことが原因だろう。
例のヴァント山脈だが、ウィルが言うにはイグニート国の進行を食い止めるためにそこの数十人のバプティスタ国の騎士たちが滞在しているらしい。土砂崩れに巻き込まれていないことを願うしかない。
「世界を司る女神様が見つかるのが一番いい。そっちは頼んだぜ、カイム」
そう言って王はすぐさま扉に手をかけて部屋から出ていった。その後ろ姿を見張りで立っていた男が慌ててついていく。どうやらあのおっさんもゆっくりしている時間がなさそうだ。
「そしたらあたしたちも早速行こうか。行き先はラピス教会、ってところでいいのかい?」
「はい、神父様はそこで待っていると思います」
「そしたら転移魔術で……」
すぐに行くか、と言おうとしたところその場にいた全員の視線を感じて言葉を止めた。転移魔術で移動したほうが一番早いわけだが、その代わりまた元の姿に戻る必要がある。ただその元の姿だとあのジジィに見つかる確率も高くなる。
ならこの中で転移魔術を使えるエルダが、と思ったがエルダだとあの距離にこの人数を運ぶのは無理だ。途中、バプティスタ国の近くまで行ければ上出来だろう。ただその手段を使うと数日エルダが寝込む羽目になる。
「ここは大人しくあたしの船で行くのが一番みたいだね」
若干呆れるように肩を上げたフレイに異論を言うヤツは一人もいなかった。
セイクレッド湖から出た途端、姿を現したシルフが突然泣き出した。精霊でも泣くことなんてあるだなと思っているとノームとサラマンダーも姿を現す。
「……別に死んだわけじゃねぇだろ」
『そうだけど! でも、でも、あんな弱ってる状態であれだけの力使ったら……!』
『……しばらく姿を現すことは叶わんだろうな。早くて数百年かどうか。それまでこの大地が残っていればの話だがな』
『縁起でもないことを言うな、ノーム。ウンディーネが眠った以上、俺たちで支えなければならないだぞ』
ただでさえ女神が姿を消してから精霊たちの負担が増えている中、セイクレッド湖の穢れを祓うためにウンディーネは湖の中へと姿を消した。すばらくの間眠ると言っていたから、こうして他の精霊たちのように俺たちの前に現れることはしばらくないんだろう。
それと同時にウンディーネが支えていた力も失われた。それを他の他の精霊で補わなきゃならない。まぁ、シルフがベソベソしているのは自分たちが大変だから、というわけでもないんだろうが。
『お前たちのおかげで俺もこうして姿を成すことができるが……それもいつまで持つか……』
『昔ならばこういう憂いを抱くこともなかったがな』
精霊の力が弱ったのは争いによって血で大地が穢れてしまったから。弱まったのは人間の精霊に対する信仰心が失われているから。ノームは遠回しでそう言いたいんだろう。
確かにそれは事実だし精霊がグチグチ言いたくなるのもわかる。だが神父の話しを聞く限りそれが一番酷かったのが百五十年前、俺たちが生まれる前のことを愚痴られたところで俺たちだってどうすることもできない。まるでこっちに八つ当たりのように恨み言を言うノームに対し、ずっと困り果てた顔をしていたティエラが口を開けようとした時だった。
「あっ……!」
「穢れが祓われている……⁈ 一体何があったんだ……!」
バタバタと走ってきたのはミストラル国の王の側近の一人である女と、あともう一人の男はその女の部下か何かだろう。二人の反応を見る限り、セイクレッド湖の異変に気付き様子を見に来たんだろう。
ふと、女のほうが俺に気付き軽く目を見張った。そういえばまだ元の姿のままだった。だが女は瞠目をしたのは一瞬ですぐにいつもの顔付きに戻る。
「何かあったのか話しを聞かせてもらおうか」
「ま、まさかシーナさん、この者たちを連れて行く気ですか⁈ 他の者たちはいいですが、この者のこの容姿は、明らかに……!」
「狼狽えるな。恐らく王はご存知だ」
「は、はぁっ⁈」
「見ての通り他の者だと狼狽えてしまう。私の知っている容姿に戻ってもらうことはできるか?」
神父の話しを聞いたあとだとこの髪と目の色は納得したが、そういえばこの容姿はお尋ね者みたいな状態だったなとふと思い出す。百五十年前に何があったにしろ、十年前のことがなかったことにはならない。
「そのほうがいいですね。なんせ貴方は今一番厄介な人物からその身を狙われているわけですから」
「……それもそうだな」
エルダの言葉に素直に相槌を打ち、自分の中にある魔力を封じ込める。今まではっきりとイグニート国の王から身を狙われることがなかったのは、脱走する際に魔力を封じ込めて探知ができない状態だったからだろう。今まで何度か元の姿に戻ってはいたが、そう長々とその状態のままいたわけじゃなかったから運良く探知から避けることができていただけだ。
魔力を封じ込めば目の端に映る髪の色が黒になっている。目も『茶』になっているだろう。その姿を見た瞬間女は無意識に小さく息を吐きだし、男のほうは目を丸めて口をパクパクと動かしている。そういえばこの男、城の中で何度か見たことがあった。
「お、おま、お前が、まさか」
「早速だが移動しよう。王もきっと待っておられる」
こっちに指を差してわなわなと震えている男のことを無視し、女は言葉通り早速城に向かって歩き出す。男はそんな女に気付き急いでその背中を追いかけ、俺たちもそれに続いた。
ミストラル国に入ると、国の中の状況は思ったよりよくはなかった。まずすれ違う人間たちの顔色がよくない。あれだけ水で満たされていた都はどこか淀みを生んでいる。ウンディーネの力で穢れを祓うことはできたものの、だからといってすぐに状況がよくなるというわけでもなさそうだ。綺麗になった水がここに流れてくるのももう少し時間がかかるのかもしれない。
城の中に入るとやっぱり慌ただしい。そもそもイグニート国から強襲を受けたあとのセイクレッド湖から発生させられた大量の穢れだ、どこも対応に追われて当然だ。バタバタと行き交うヤツらを視界の端に入れつつ謁見の間に進んでいると、不意に前を歩いていた二人が動きを止め頭を下げた。
「おう、やっぱりお前らだったか」
謁見の間に行く前にミストラル国の王が丁度奥から歩いてきているところだった。二人は道を開けその間を王は真っ直ぐに歩いてくる。俺たちの前で立ち止まると近くにある部屋に向かって顎で示した。
女が急いで扉を開け、王は迷うことなく中に入っていく。俺たちもそれに続き、女は最後に入ってきて扉を閉め王の隣に立つ。ちなみに慌ただしかったほうの男は外に立ったまんまだ。自然と見張りの役を担ったのは伊達にこの女の部下じゃないってところか。
「何やら急に湖の方角が光ったもんだからな。急いでこいつらを向かわせたんだ。もしかしてお前らが浄化してくれたのか?」
「ああ」
「そもそも俺たちにとっては突然湖が穢れちまった、という状況だったわけなんだが。その辺りも説明してもらっていいか?」
そういえばあの気持ち悪ぃ馬鹿とイグニート国の王が湖に現れたのを目撃したのは、そこに転移魔術で移動した俺たちだけだ。つまりその時の状況を知っているのも俺たちだけということになる。
ミストラル国の王にあの時あの場で何が起こったのか大雑把に説明する。強襲されたのがそもそものブラフで、本当の目的は精霊の住処とされている場所を大量の穢れで穢すこと。精霊の力が弱まっている今だからこそ普段踏み入れることができない場所に侵入できると思ってのことだろう。そしてミストラル国の生命線とも言える場所はそのセイクレッド湖だった。
大量の死なない兵士を送り込みつつ、生命線も穢す。そうすれば流石のミストラル国も陥落する。イグニート国の王はそれが目的だったんだろう。尚且つ近くに俺の気配もあったもんだから一石二鳥だ。国も落とせて力も手に入る、向こうにとっては最大のチャンスだった。
一通り話せば流石のミストラル国の王も眉間に皺を寄せ腕を組んだ。イグニート国の王はそういう思惑だったんだろうが、防衛戦のほうはこっちが持ち堪えたし一度穢されてしまったセイクレッド湖もさっき浄化してきたばかり。まだ多少の混乱は続くだろうがこれで少しは立て直すことができた。よってそう簡単にまた攻め込もうとは思わないはずだ。
「わかった。お前たちには礼を言おう。防衛戦もかなり尽力してくれたようだしセイクレッド湖の穢れも祓ってくれた。感謝する」
「だが穢れを浄化するためにウンディーネの力が随分と弱まった」
一度頭を下げようとして王に隙かさずそう口にする。確かに一難去ったものの、この国の加護をしてくれる精霊の力が今はほぼないに等しい。今はまだいい、だがもう一度イグニート国に同じことをされると今度こそは堪えきれない。
それを王に伝えると王は更に表情を歪め、王の隣に控えている女の顔色は真っ青になった。防衛戦で義賊たちもかなり疲弊していて回復に時間がかかっているはず。それに追い打ちをかけられるようなことをされると厳しさを増すばかりだ。
「我が王に連絡をしてみてはどうでしょうか、ミストラル国の王。今は各国の連携が必至だと思います」
突破口を見出すように言葉にしたウィルに対し、ジッと視線を向けた王はしばらくして「そうだな」と口にし頷いた。今回はミストラル国が狙われたが、次はもしかしたらべーチェル国かもしれないし、バプティスタ国かもしれない。どこも危機に面しているのは違いない。
「頭が固いのなんだの言ってらんねぇな。シーナ、すぐにバプティスタ国の王と連絡が取れるか確認を取ってくれ」
「はい!」
「一堂に会することができるのが一番いいんだけどな。今はどこも自分のとこで手一杯だ。それは追々だな……ところでカイム、お前はどうするんだ」
「こっちは女神の居場所の手掛かりを探しに行く。流石に精霊たちの限界が近いみてぇだ」
「なるほどな……つい先日べーチェル国じゃとんでもない突風に襲われたらしい。バプティスタ国もどうもヴァント山脈で土砂崩れが起きたらしい」
「なっ……!」
俺たちが休んでいる間にどうやらセイクレッド湖だけじゃなく、他の大陸でも異変が起きていたようだ。その二つはイグニート国が、というよりも精霊の力が弱まったことが原因だろう。
例のヴァント山脈だが、ウィルが言うにはイグニート国の進行を食い止めるためにそこの数十人のバプティスタ国の騎士たちが滞在しているらしい。土砂崩れに巻き込まれていないことを願うしかない。
「世界を司る女神様が見つかるのが一番いい。そっちは頼んだぜ、カイム」
そう言って王はすぐさま扉に手をかけて部屋から出ていった。その後ろ姿を見張りで立っていた男が慌ててついていく。どうやらあのおっさんもゆっくりしている時間がなさそうだ。
「そしたらあたしたちも早速行こうか。行き先はラピス教会、ってところでいいのかい?」
「はい、神父様はそこで待っていると思います」
「そしたら転移魔術で……」
すぐに行くか、と言おうとしたところその場にいた全員の視線を感じて言葉を止めた。転移魔術で移動したほうが一番早いわけだが、その代わりまた元の姿に戻る必要がある。ただその元の姿だとあのジジィに見つかる確率も高くなる。
ならこの中で転移魔術を使えるエルダが、と思ったがエルダだとあの距離にこの人数を運ぶのは無理だ。途中、バプティスタ国の近くまで行ければ上出来だろう。ただその手段を使うと数日エルダが寝込む羽目になる。
「ここは大人しくあたしの船で行くのが一番みたいだね」
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